皇太子殿下はご機嫌ななめ
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第36話 「イゼルローンへ」
前書き
今週も忙しかったです。
泣いていいですか?
第36話 「青い流星?」
ぼくの名はド・ヴィリエ。
地球は狙われている。
「狙ってねー。サイオキシン麻薬製造をやめろと言っている」
皆様。お久しぶりでございます。
ガイアがわたしにもっと輝けと囁いている。
アンネローゼ・フォン・ミューゼルです。
だからといって、地球は我が故郷とか、地球を我が手にとかは言いませんよ。
まあそれはともかく。にっくき、あの女。
アレクシア・フォン・ブランケンハイムはいま、通院しています。
といっても、ノイエ・サンスーシ内ですけどねー。
でも懐妊。
むかっとしますね。
最近ではラインハルトまで妙に、皇太子殿下に近づいていますし、どうしたものでしょうか?
……安全パイはジークだけ。
貴方だけは信じていますよ。ね、ジーク。
しかし、大丈夫。
必ず最後に愛は勝つ。
これを合言葉に、よりいっそうの努力を致したい所存です。
具体的には、皇太子殿下の寝室への突撃をより激しく。
ですよねー。
■宰相府 リヒテンラーデ候クラウス■
「ジークに会いたいのじゃ」
マルガレータ・フォン・ヘルクスハイマーが駄々を捏ねておる。
最近、ジークは宰相府に顔を出しておらんからな。
寂しいのじゃろう。
寵姫とはいえ、まだ六つじゃ。
皇太子殿下も好きにさせてやれと、仰っておられる。
しかしながら後宮の外に出してやるわけにもいかぬ。
この辺りはマルガレータ・フォン・ヘルクスハイマーだけの話では無いからのう。それに外に出すとかえって危ない。
皇太子殿下を狙う者は多い。
地球教、同盟、バカな貴族。どこに敵が潜んでいるかもしれぬのじゃ。
その連中が寵姫を攫わぬともかぎらん。
宰相府内に保護している方がよい。
エリザベートとかマルガレータなどは、それが分かっておるために、ノイエ・サンスーシの外に出ようとはせぬ。
帝国が始まって以来、初めてと言ってよいほど、各勢力が一つにまとまっておる。
纏めておられるのは皇太子殿下。
誰もが認める正統な銀河帝国皇太子じゃ。
それだけに狙う者も多いじゃろう。皇太子殿下さえ、いなければ、と。
歴代皇帝陛下の中で、フリードリヒ四世陛下ほど、安心して後継者に任せていられる皇帝陛下も、おられない。
運の良いお方だ。
そして皇太子殿下がイゼルローン要塞に向かって、出発なされようとしている。
捕虜を迎えに行かれるのだ。
皇太子殿下自ら、出迎える。
いまこの帝都で、反乱など起こそうものなら、貴族平民問わず、反乱者を敵と見做すであろう。
「帝国を任せられるのは、ルードヴィヒ皇太子殿下しかいない」
平民達の噂だ。
誰もが望む太陽。
巨大な恒星が、帝国を照らしている。
老い先短い身とはいえ、未来は明るい。
そう思えるのは幸せな事なのだろう。こどもらが羨ましいわ。
のう、マルガレータ。
「おじいちゃんのお話は、長いからきらい」
「何ということを言うのじゃー」
これだからガキはっ。
わしもジークに会いたくなったぞ。
■ノイエ・サンスーシ フリードリヒ四世■
ルードヴィヒがオーディンからイゼルローンへと向う。
宇宙港には帝都の臣民が貴族平民を問わず、埋め尽くさんばかりに集まっておる。
文字通り歓呼の声じゃのう。
それほどルードヴィヒを見られるのが、嬉しいのか。
そうか、そうなのか……。
あれはわしの息子じゃ。羨ましいじゃろう。
そう言いたい気分だ。
父親として誇らしいわ。
■アレックス・キャゼルヌ■
帝国の兵士達を乗せた輸送船に同乗している。
兵士達は不安と期待を綯い交ぜにしたような表情を浮かべているが、それでも故郷に帰れるのは嬉しいのだろう。
どことなく雰囲気が明るい。
同盟の兵士達も同じような気分なのだろうか?
「先輩」
一緒についてきたヤンが声を掛けてきた。
校長がこの輸送船にヤンを乗せた。皇太子を見てこいとの事らしい。
それに皇太子の指名もある。
俺とヤン、そしてアッテンボロー。こいつらも連れて来い、そう言ったそうだ。
ずいぶん校長は、政府の方から突き上げられたそうだが、皇太子がなにを目的で、俺たちを指名したのか分からない。
「いよいよですね」
「そうだな」
目の前にイゼルローン要塞がある。
これほど近くにまで近づいたのは初めてだ。恒星に照らされた流体金属の輝きが、眩しくさえ感じられる。
「ルードヴィヒ・フォン・ゴールデンバウム。あの皇太子に会えますね?」
「一応、会談の場を設けられるようになったそうだ」
要塞の方に目を向けたまま話す。
同盟帝国を問わず、戦艦の残骸が漂う空間。その中を進む。
「無視されるかと思っていましたが」
それは俺も考えていた。
政府の申し出だけだったら、無視していただろう。
「向こうには向こうの思惑があるんだろう」
「我々三人を、同席させる理由が分かりません」
離間を狙ったものではないはずだ。そうするには俺たちの階級は低すぎる。
政府も頭を捻っていたらしい。
そしてフェザーンの自治領主であるシルヴァーベルヒ氏に問い合わせた。
返ってきた返事は、
「後方補給の専門家である俺とエル・ファシルの英雄と、ジャーナリストのアッテンボロー氏の子息に、会ってみたいと言われたらしいぞ」
「そういえば、アッテンボローの父親が、皇太子の記事を書いたそうですが」
「ずいぶん面白い記事だったそうだ。帝国にもこれぐらい書くやつがいれば良いんだが、とも言っていたそうだ」
「皇太子は自分の事を貶されても平気なんでしょうか?」
「どうだろうな。それぐらい気にしないほど、余裕があるのかもしれん」
自分で言っていても、不思議だが余裕があるよな。あの皇太子。
鷹揚な男なのか?
それとも冷酷な男なのだろうか?
鷹揚さも寛容さも擬態という事もある。皇帝になったとき、仮面をかなぐり捨てて、冷酷さを露にするかもしれない。
昨夜見た映像を思い出した。
皇太子を盗撮したものだ。ゆっくりとこちらに振り向く場面。
母親の血だろう。短めの金髪が軽く揺れていた。琥珀色の瞳が鋭く睨みつける。
怖い。
そう思わせるものがあった。
傲然とふてぶてしく。自分の強さを疑っていない。
それは皇太子という立場から来るものなのか?
それとも、本質的なものなのか……。
「おそらく本質的に強さを持っているのでしょう。だからこそ……」
「……改革を断行できる、か」
あれぐらいの強さを持った政治家が同盟にいれば、とも思うが、そうなると同盟から第二のルドルフが生まれたかもしれない。
ルドルフ・フォン・ゴールデンバウム。
ルードヴィヒ・フォン・ゴールデンバウム。
もしこの二人が、同時期に存在していたならば、どうなっていただろうか?
意気投合しただろうか、それとも反発しあっていただろうか?
「どうだと思う?」
「もしかするとルドルフの方が、負けていたかもしれませんね」
「どうして、そう思うんだ?」
「明るさです。あの皇太子、策略を巡らしていても、なぜか明るさを感じてしまう。ルドルフは雷鳴に例えられましたが、あの皇太子は太陽ですよ。イメージ的に、ね」
「雷鳴と太陽か……」
「この二人のどちらの下の方が生きやすいでしょうか?」
「間違いなく、皇太子の方だろうな」
「そう思われるだけでも、皇太子の方が有利でしょう」
それで和平を考えていてくれれば、ありがたいんだがな。
そう単純でもないか。
■総旗艦ヴィルヘルミナ ウルリッヒ・ケスラー■
宰相閣下が宇宙艦隊総旗艦に乗り込んでおられる。
普通、宰相閣下ともなれば、ご自分の船を持っていても不思議ではないのだが、宰相閣下はお持ちではない。
「そのうち専用の船を造るさ」
そう仰られるが、何時になることやら……。
あまり興味が無いらしい。
それはそうと、宰相閣下はお忙しい。
船旅の中にあっても、帝都から書類が送られてくる。その上、決裁を求められる。
頭の痛いことだ。
ヴィルヘルミナの会議室。その一角を陣取って、急遽作られた執務室内で決裁を行っている。
次々と送られてくる通信。送り返す通信。艦内の通信システムを一部専用として使用しているのだ。
普段見ることの無い宰相閣下の姿に、司令部の士官達が目を丸くしていた。
問題の多さ。
改革の困難さ。
目の当たりにした現実に、誰もが息を飲む。
めったに宰相府から出てこない宰相閣下に対する不満も、これで一気に解消されただろう。
外に出ている暇など無いのだ。
「笑えぬな」
補佐官として付いてきたメックリンガーも、そう言ってため息を吐く。
「なぜ、改革が先送りになっていたのかが、分かる」
「こうなる事が分かっていたからだろう」
「正直なところ、わたしも遠慮したい気分だ」
そう言うと二人で、顔を見合わせ乾いた笑いが漏れ出した。
ときおり訪れる司令部の士官、それも特に下級士官達が、宰相閣下をすがるような目で見ていた。
この困難さに諦めて、改革を断念しないでくれと願っているのかもしれん。戦場など知らなくてもいい。戦争は自分達が行うから……。
そう思っているのがはっきり分かる。
「イゼルローンまでの短い航路。その間ぐらいは書類から逃げられると、思っていたんだがな~。儚い夢だった……」
宰相閣下が落ち込んでいる。
儚い夢。
実感の篭る言葉だった。
「なにを仰っています。まだまだこれからです」
机を並べて書類を読んでいたリッテンハイム候が、宰相閣下に声を掛けた。
門閥貴族の雄が、宰相閣下と机を並べて改革を練っている。
その状況にみなが、驚きを隠せずにいた。
本気なのだ。
本気で帝国は改革を行っている。
門閥貴族でさえも、改革を支持している。この二人の姿は、それを端的に物語っていた。
「コーヒーをお持ちしましょうか?」
「ああ、そうしてくれ。砂糖はいらない。ブラックで」
従卒が、おずおずと心配そうに声を掛けた。
彼は従卒として付けられた幼年学校の生徒で、名をクラウス・ラヴェンデルというそうだ。ラインハルトと同い年らしいが。
「ブラックは……」
「苦味がおいしいんだ」
ストレスが溜まると苦味をおいしく感じるそうだが、よほどお疲れのご様子。
ふと漏らす言葉にも、考えれば意味を読み取れる。
しかしあの少年は、宰相閣下に対して恐々と接していたものだ。その様子に理由を問いかけると、一言。ラインハルトが……。と言っていた。
それで分かった。
ラインハルトのように自分も、女装させられてしまうのではないか、と心配していたのだろう。
「宰相閣下にそのようなご趣味は無いぞ。あれはあくまで、ラインハルトをからかっているだけだ」
「ですよね。ラインハルトが散々文句を言っていたから、心配していましたが、ごく普通の方だと思います」
「無論そうだ。ごく普通のお方だ」
ふう~疲れる。
なぜ私が、このようなフォローをしなくてはいけないのだろうか……。
■総旗艦ヴィルヘルミナ ルードヴィヒ・フォン・ゴールデンバウム■
ここ本当に、戦艦の中か?
やってる事、いつもと変わりゃしねえ。
どこを見ても、書類の山。
泣けるね。
書類は管理職の天敵だな……。
書類を見ていると、頭の中が現実逃避を始めた。
そしてふと思い出す。
昔々あるところで、屋根の上で日向ぼっこをしていたねこが、寝返りを打った瞬間。
屋根から転がり落ちたのを見た。
ありゃ笑った。
あの猫の慌てたような悲鳴。
そして見事にくるっと一回転して、地上に降りた姿。
そんで恥ずかしかったのか、走って逃げやがった。一回だけ、こちらを見て威嚇しやがったが。
ありゃ~照れ隠しだろう。
ツンデレなねこだったなー。
「もうすぐイゼルローンか」
窓の外に映る流体金属。
ヤンだのキャゼルヌだのアッテンボローに会える。
同盟側の原作組を見てこよう。楽しみだな。
後書き
今川焼きとか回転焼きとか呼ばれるお菓子を、
10個も作ったら姪たちに食べられてしまった。
一個だけは確保したけど。
お行儀が悪いから、両手に持って食べるのは止めなさいといっても聞かない。
姉の躾が悪いんだ。ちょっと甘やかしすぎ。
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