| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

もしもこんなチート能力を手に入れたら・・・多分後悔するんじゃね?

作者:海戦型
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

エタルドイレブン

 
前書き
12/21 誤字修正 本文を少し追記 

 
神話の枝の名を冠した機械仕掛けの剣が真正面から襲いくるのを出番の少なかった神剣エタルドで弾き、そのまま正面に切り込む。鞘で受け止められるが構わず弾き飛ばし、そのまま一直線に踏み込む。が、こちらの動きを読んでいたのかバク宙で鮮やかに躱された。それでもかまわず更に連続で踏み込んでの一振りが再び片刃の剣と激突し、互いに距離を取る。

「いいな、実にいいぞ。テスタロッサもなかなかだったが純粋な剣士ではなかったからな」
「貴方は、いつか道場で試合をした・・・」
「『烈火の将』シグナム。故有って此度の戦いに魂を燃やす一人の剣士だ」
「・・・高町クロエ。今は唯の剣士クロエです」

今この一瞬にだけ感じられる極限の緊張感を楽しむように不敵に笑うシグナムさん。対する僕は正直状況が掴めずに戸惑っている。心が戸惑っていても体の動きに影響が出ないのはオジサンからもらった最強の騎士の力の恩恵だろうか。

前によその道場で出会ったシグナムさんがいきなり戦いを仕掛けてきたのは何故だろうか。なのはも赤い髪の女の子とデッドヒートを来る広げている中、それが気になった。
気になったら聞けばいい。そこから分かることもあるだろう。

「貴方の剣は、誰のためにありますか?何を斬りますか?」
「我が剣は主の為のもの・・・しかし、今日この時はそうではない。主からお暇をもらった私は、私がここにいた証を立てるために剣を振るう。そのために・・・お前を斬る!」
「・・・!!」

シグナムの握る剣―――レヴァンティンの背の根元にある金属パーツがスライドし、一つの薬莢が放り出された。

「さあ、タカマチクロエ!お前も剣士ならば、この一瞬に死力を尽くせ!!」
「・・・かなり、やる」

剣を覆う炎の様な魔力の奔流に、次の一撃が多くの敵を屠った必殺剣の類であることを悟り、こちらもそれに応える。カートリッジシステムは無くともエタルドは神の加護を受けた剣、クロエ自身の魔力と戦意を汲み取り青白い炎の様な魔力を刃に纏った。この世界に適合した結果エタルドが得た魔力増幅効果だ。

彼女の剣には必死さが無い。その剣から感じられるのはただ剣士としての喜びだけ。ここで僕と戦うことが彼女の幸せ。僕とぶつけ合う刃が彼女の幸運。その全てに目的や狙いが感じられず、ただただこのやり取りを心の底から楽しんでいる。

「ならば、受けるがよい・・・!」
「紫電の刃、お前に見切れるか!」

強い相手と戦うときは不思議と胸が躍る。今は、そんな気分だ。だから、次の一撃に今の僕の限界を注ぐ。

「 紫 電 一 閃 !!」

「ならばこちらは・・・ 飛斬、一閃!!」



烈火の剣と蒼炎の刃。二人の刃は正面から激突した。あまりの衝撃に周囲の建物へ余波が伝わり、窓ガラスが次々に砕け散り、明かりを乱反射しながら雪の様に道路に降り注ぐ。

ギリギリと歯を食いしばり剣を押すシグナムとクロエ。どちらが上か、どちらの奥義がより高みへ至っているのか。そんなくだらない勝敗が、今この瞬間だけは気になってしょうがなかった。

初めて戦った時は剣が耐えられず決着はつかなかった。では、2度目は?

結果は―――残念ながら、一度目と似た結末となった。

びしり、という金属の割れる異音と共に、レヴァンティンが砕け散った。剣士にとって武器が折れることは、敗北と同意義だった。エタルドの耐久力が無限である以上は分かりきった結末でもあったが、それを二者は知らない。
ばらばらと手元から崩れ落ちる破片を、シグナムは友人の死を悼むように見送る。

「・・・レヴァンティン。今まで、よく持った方か・・・」
「・・・・・・シグナムさん」
「何も言うな。剣士にとって剣は魂。剣が砕けたなら、それは私の魂がお前に及ばなかったと―――」

そう言いかけ、口を噤む。目の前に鈍い黄金色の光沢を放つ剣を掲げる様に突きつけたクロエが待っていたからだ。その目は「まさか、それで終わりなんて言わないだろうな」とでも言うかのように未だ闘志が漲っている。

「エタルドと対を成す剣、ラグネル・・・この剣を使われよ」
《良いのか、少年?ラグネルは女神の祝福を受けた剣・・・バリアジャケットに残る加護を打ち消すぞ》
「そのほうが、いい。戦いは常に・・・勝つか負けるか」

シグナムは一瞬迷ったが、その剣を受け取った。

自分はもうすぐ消える。いや、消えなければならない。この世界のこの時代には既に自分の役目を承ったシグナムがいる。そして主は幸せに過ごしている。ならば自分は―――主を救うために奔走した自分はこの世界にいる必要が無い。
役割が無い事に不満は無い。自分に役目が無いのならばそれは平和の証なのだから。だが、一つだけ心残りがあった。―――矜持だ。

自分はシグナムという一人の剣士として、現在を生きるシグナムとは別に意志を持って存在していた。例えなかったことにされたとしても、確かに自分は此処にいたのだ。その証を残したかった。ヴィータはその証を心に刻み込む運命の相手に高町なのはを求めた。シグナムはフェイトを相手にしようかとも思っていたが、この見知らぬ剣豪に強敵(とも)として心に刻まれるならばそれも良しと思っている。だからこそ、最期は騎士としてではなくシグナムとして戦いたかった。

烈火の将シグナムとしてレヴァンティンを握るのではなく、シグナムとしてこの剣を握る。砕けた自分の剣の事を思うとなかなか皮肉が効いているが―――それもまた良し。



 = = =



管理局の船が襲撃された。そう離れたところからクロノさん達に連絡を取っていたユーノ君から聞いた。その所為で動ける魔導師が分散していて、救援に来れるかどうかが微妙らしい。

「ディバインシューター・・・シュート!」
「しゃらくせぇ!」

赤髪の女の子―――ヴィータがハンマー型デバイス「グラーフアイゼン」で牽制の魔法を弾いた。あれが話に聞いていた「ベルカ式魔法」使いなのだろうとなのはは推測する。
既にクロエとポニーテールの女性は幾度となく剣を交えている。自分が為す術もなく瞬殺された相手と打ち合っている以上、接近戦の実力はかなりのものだろう。

「・・・うーん、まぁあの頃のなのははこんなもんか・・・」
「私の事知ってるの?」
「さて、どーだろう・・・なっ!」

自然な動きで過ぎあのように表れた鉄球を数個まとめて力強いスイングで飛ばす。追尾性を持って方向変換しながら襲いくる鉄球をディバインシューターで丁寧に弾き、その間に接近してきていたヴィータのラケーテンハンマーを身を翻して躱す。
正直クロエの鬼インファイトを見てしまった後ではその程度の攻撃止まって見える。

「へえ、身のこなしはあの時以上だな。こりゃ闘い甲斐がある!」
「・・・あの!貴方はどうして急に私達を襲ってきたのかな!?」
「あん?」
「どうして戦うの!?その理由って、お話して解決できないのかな!?」

なのはは自身の心の内にある最大の疑問をヴィータにぶつけた。戦いなんて普通は起きない方がいいに決まっている。彼女は何故わざわざこちらに襲撃を仕掛けてきたのか?もしも事情があるならば、話し合いで解決できないか。そのわずかな希望を乗せた言葉に、ヴィータは懐かしそうに目を細めた。

「初めて会った時もそんなこと言われたっけ・・・」
「えっ?」
「何でもねぇ。アタシが何で戦うのかだったな。良いぜ、答えてやるよ」

グラーフアイゼンを一直線になのはに向けたヴィータは声高らかに宣言する。それはまるで中世の騎士が誓いを立てるような気高さを持っていた。

「アタシはな、お前と戦いたいんだよ!勝敗なんてどうでもいい。既に願いは果たされている。ならば、後は騎士として戦いに命を懸けた証を残すのみ!」
「ええっと、よく分かんないよ!!」
「簡単に言えばだな・・・アタシはお前と戦いたくなったから戦う!純粋に戦いを楽しむために!!」
「駄目だよ!そんな自分を捨てて戦うような・・・」

「ん?逃げるのか?勝てねーから怖くて逃げるのか?」

ぴくっ

なのはのツインテールが跳ねた。かかった!と思ったヴィータはさらに畳み掛ける様にニヤニヤなのはを見下ろす。

「そうだよな~!お前さっきから避けてばっかで攻撃に身が入ってねえしな~!」

ぴくぴくっ

「しっぽ巻いて逃げてもアタシは止めないぜ?あっちの黒い方に全部任せてひとり家に帰るってのも 弱 者 らしい賢い選択だよな~?」

ぴくぴくぴくっ!!


「・・・塵一つ残さず消滅させてあげるの」

顔をあげたなのはには既に先ほどの迷いはない。ついでに表情そのものが無くなっている。眼は奈落の底を見下ろすように深い影を落とし、その姿は小柄であるにもかかわらず巨人を目の前にしているような威圧感を放っていた。

(あれ?煽りすぎたかな・・・)

たらり、と冷や汗が流れたと思った時にはすでに遅く、手足は異常に大きなバインドで拘束されていた。これだけ大型のバインドは今まで見たことが無いが、なるほどバインドそのものが大きければ空間座標指定分の算出速度をある程度荒くしても正確に対象を捉えられる。実に理にかなっている・・・維持する魔力の量を除けば。

だが忘れてはいけない。これを使っているのは”あの”なのはなのだ。クロノを以てして「バカ魔力」と言わしめた(この世界ではマリアンがなのはと互角クラスなのだがそんなことをヴィータは知らない)なのはがこの程度の消耗で音をあげる訳がない。

「クルトさんから教わった”サークルバインド”って言うんだ・・・凄いでしょ?強度も大きさに比例するんだ」
「あー・・・その、さっきのはちょっとしたジョークってやつで・・・」
「大丈夫だよ」
「何が!?放送禁止レベルのヤベー顔して何が大丈夫なんだよ!?安心できる要素が那由多の彼方だぞ!?」

ハイライトの消えた瞳で、なのはは口元を歪に吊り上げながらありったけの魔力をレイジングハートに注ぎ込む。魔力収束によってシグナムとクロエが散らした魔力まで暴食したエネルギーの塊は、正に地獄の蓋。
ヤバイ。ギガどころかテラすら突破してペタヤバイ。ヴィータは知る由もないが今日のなのははクロエのKAWAIGARIでフルボッコにされたことを未だに気にしていた。そんな中でのヴィータの挑発が、魔王の心に闇を灯していた。

この自分と大して身長も変わらないちびっこは何を生意気な事を言っているのかな?逃げる?それは”逃げられる”相手にだけ使える言葉だよ?というか貴方は私が逃げなければいけないほどの相手なの?違うよね、そんなことないよね。だから・・・生意気を言う子には、「逃げられない恐怖」を・・・たっぷりと教えてあげる。

「生きた証、残すんでしょ?私が覚えててあげるから―――


 ―――夜が明けるまで死に続けよっか」

「今夕方なんだけど!?ちょ、待って!アタシの想定してた戦いと違う!ア゛ァァーーーーーーーーッ!?!」

漸くこの世界に「白い悪魔」「魔王」と呼ばれる魔導師、高町なのはが爆誕した瞬間だった。
 
 

 
後書き
でもお兄ちゃんに負ける。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧