リリカルなのは~優しき狂王~
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第五十一話~暗躍と契約~
前書き
更新遅れてスイマセン
色々とやっていたらいつの間にか時間が過ぎていました(-.-;)
では本編どうぞ
管理局本局・一室
その日、管理局所属のフェリオ・ラドクリフ少将は焦っていた。
彼がその違和感を持ったのは、いつもの定時報告が行われなかったところからである。執務室で書類仕事を行っていた彼は、いつも1人の部下が報告書を持って来る時間になっても来ない事にはじめは疑問を持つことはなかった。
何故なら、先の襲撃により管理局の内部は混乱している。その為、いつもの仕事のサイクルを組むことができていないから少々遅れているのであろうと彼は思う。そして、その部下がどれだけ遅れてもキチンと自分の元に報告しに来るというのも理解していたからこそ、その事に疑問を抱かずにいた。
そしてそれから数時間が経過する。いくらなんでも遅すぎると思った彼は、部屋に備え付けの内線を使い、連絡を取ろうと試みる。しかし、いつもなら数秒と待たずに通じる内線が繋がらない。
事ここに至って、やっと彼は異常を察した。とにかく誰かと連絡を取り、今自分がどのような状況に陥っているのかを知ろうと、彼は執務室の扉に向かう。
そして扉を開けようと手を伸ばした瞬間、彼が扉を開けるよりも早く、外から扉が開けられる。
開かれた扉の先には1人の青年が立っていた。
「貴様は――」
「誰だ?」と言う、誰何の言葉が彼の口から紡がれきる前に、その青年は彼を床に組み伏せていた。
「?!?!?!」
自分に何が起こったのか理解できずに、彼は混乱する。そんな中、彼を組み伏せた青年は淡々とした声で彼に要件を告げた。
「フェリオ・ラドクリフ少将。貴方の所有する権限と物資を貰う」
「私の……権限…だと?!なぜ貴様などに!」
自身に生じている痛みに意識を奪われないように、彼は怒声を張り上げる。だが、それすら受け流すようにその青年は言葉を紡ぐ。
「貴方にはもう必要のないものだ」
感情を感じさせないセリフに彼は一瞬呆けるが、すぐに喚くようにがなり立てる。
「今の社会状況を貴様は理解しているのか?!私のように高い階級を持った管理局員がいなくなれば、更に混乱が深まる!貴様はこの世界の平和を乱すつもりか!!」
「目的と手段を履き違えている人間が平和などと口にするな」
青年から紡がれた断罪の言葉に彼は顔を青くさせた。だが、彼も心が折れる前に口を開く。
「それは……だが、市民と秩序の為に――」
「……」
まだ何かを言おうとする彼を、青年は細い紐で拘束し、彼の眼前にとあるデータを投影型ディスプレイで表示した。そのデータを見た彼は青かった顔を白く染めた。
「これが貴様の言う平和とやらの犠牲か?」
そこに映し出されたのは、彼が主導として行われた汚職のデータであった。
彼、フェリオ・ラドクリフ少将は人事面で大きな権限を持つ高官である。彼が行った汚職というのは、主に管理局員の間引きであった。
一部の上層部にとって使えない、若しくは使いにくい局員を過酷な仕事で合法的に使い潰す。そして仮にその過酷な仕事をやり遂げたとしても、闇討や理不尽な告発等で物理的にも社会的にも葬り去る。そんな汚職のデータ、大凡数万件が彼の目の前に流れているのだ。
自らが築いた罪の歴史をまざまざと見せつけられている彼を放置し、青年は彼の所有する情報端末を操作し始める。
数分間、その部屋には端末操作の音が響く。そして青年は目的のデータを抜き出し、再び地に伏した罪人の前に立つ。
そして虚ろな表情しか浮かべることができなくなった彼に対して、青年は裁定の言葉を投げつけた。
「目的は達した。貴様は今回の事件の後、自らが築いた平和の世界で裁かれろ」
それから数日間、管理局員の高官が立て続けに襲撃を受ける。だが、この情報自体は今回の公開意見陳述会襲撃事件が終息を迎えた後に発覚する。
そして後に『静かな襲撃』と言われる事件の犯人を管理局が捕まえることはなかった。
ミッドチルダ郊外の森
夜になり虫たちが囀り始める頃、森の中で1人の男が木にもたれ掛かり、休息を取ろうとしていた。
その男、ゼスト・グランガイツは消耗していた。彼は先の公開意見陳述会襲撃の際にある目的の為、烈火の剣聖アギトと共に地上本部へ向かっていた。だが、地上本部に向かう途中、機動六課所属のヴィータとリィンフォース・ツヴァイと遭遇、交戦になる。
なんとか2人を退けることは出来たゼストとアギトであったが、時間がかかり過ぎてしまった為に撤退を余儀なくされていた。
そして逃亡した2人は、表向き協力体制を取っているスカリエッティとも連絡を取らずに独断で行動をしていた。
「ぐっ!……むぅ…」
突然、身体に痛みが走った為にゼストは呻き声を洩らす。
(もう、時間がない)
彼が自分の死に体の身体を酷使してまで果たそうとする目的とは、彼のかつての上司であり、また友人であったレジアス・ゲイズと会うことにあった。
彼はかつて管理局地上部隊の隊長を務めていた。彼は自身の高い能力と優秀な部下を使い、局内でも一目を置かれる存在であった。
だが、ある事件に関わることになってから、彼の人生も狂い始める。
『戦闘機人計画』。当時、違法になったばかりであった戦闘機人の研究を続けていると言う情報を掴んだ彼は、自らの部隊を動かそうとする。だが、それに待ったをかける人物がいた。
その待ったをかけた人物とは、ゼストと同期であり、お互いの理解者であったレジアスであったのだ。
レジアスが待ったをかけたことに疑問を感じたゼストであったが、正式な辞令が下る前に違法研究所の拿捕の為に部隊を動かす。だがそれは、部隊の壊滅という彼にとっては最悪の結果を招くことになった。
ゼストの部隊が向かった違法研究所は当時活動していたスカリエッティ一味のものであった。そしてその作戦で重傷を負ったゼストは利用価値を見出され、身体の治療と引き換えにスカリエッティと協力関係を組むことになる。
ゼストが自分と自分の部下の敵とも言える存在と協力関係を組んだ目的はただ1つ。戦闘機人計画に関係を持っていたと思われる、自らの友の真意を聞き出すことである。
だが、それにも刻限が存在した。本来助かる事ができない程の重傷を負った彼の肉体は、治療を受けたとは言え、既に限界を迎えている。その為、魔法の使用はもちろんの事、日常生活を送ることすら今の彼には負担となり、残り少ない寿命を削ることになっていた。
「旦那~!ほら、頼まれた薬湯作ってきたぞ!」
ゼストが苦しみに耐えている途中、少し離れた場所から湯気の立つカップをその小さな体で支えながら、アギトがやってくる。
彼女は、ゼストが裏で動いていた頃に違法研究所でモルモットにされていたところを彼に助けられ、その事に恩義を感じた彼女はそのままゼストとルーテシアと共に行動していた。
彼女はゼストの身体の事も知っており、何かと彼の心配をし、少しでも助けになれることは進んで行っていた。
ゼストはアギトから薬湯の入ったカップを受け取る。今はもう全盛期の頃の力強さが感じられない手にカップ越しに伝わってくる温もりがゼストには心地よく感じた。
受け取った薬湯を飲み干し、少しだけ眠りにつこうとしたその時、未だに鋭敏さを保っている彼の戦士としての感覚が、その気配を察知した。
「……」
無言で自らのデバイスである槍に手を置くゼスト。アギトも彼のその行動から警戒心を上げ、目つきを鋭くしていた。
そして気配がした方向にある茂みが揺れ、そこから二人にとっては意外な人物が顔を見せた。
「お久しぶりです、ゼストさん。それにアギト」
特徴的な銀髪を夜風で少し揺らしながら、ライ・ランペルージが二人の前に歩を進めてきた。
「お前!あたしらを追ってきたのか?!」
ライが管理局に協力しているのを知っていたアギトは声を荒げる。知り合いに罵声を浴びせられることに、少しだけ悲しみを感じるライであったが、その感情を表に出すことはせずに会話を続けようとした。
「今の僕は管理局に繋がりを持っていません。貴方たちには個人的に会いに来ました」
ライの真意が掴みきれないのか、困惑した表情のアギトはゼストの方に視線を向ける。視線を向けられたゼスト自身もライが自分たちに接触してきた理由が分からずにいた。だが、沈黙を続けることに意味がないことも理解していたために口を開く。
「……なんのようだ?」
「頼みがあってきました」
そう言うとライはデバイスである蒼月を取り出す。デバイスを取り出したことで臨戦態勢を取ろうとするアギトであったが、ゼストに手で制され大人しく引き下がった。
ライは蒼月に頼み、ある計画書をゼストの前に映し出す。
そこに書かれていることが先ほど言った『頼み』であると察したゼストはそれに目を通していく。終始無表情でそれを読み終えたゼストは視線をデータからライに戻し、再び問いかけた。
「俺を利用するつもりか?」
「な?!」
「率直に言えば、その通りです」
「ええ?!」
二人の言葉に驚きの声をあげるアギトであったが、二人はそのまま会話を継続する。
「俺には目的がある」
「知っています」
「君の計画に乗った時点で俺の目的は果たすことはできなくなる」
「解っています」
「……知っていて何故、俺にこの話を持ってきた」
「貴方の行動に意味がないからです」
最後に帰ってきた言葉をゼストは一瞬理解出来なかった、いやしたくなかった。
「貴方は平和を願いながら、今やっているのは自己満足の行動のみ。そこに何の価値があるのですか?」
「事情を知っただけの部外者が何を!」
ここで初めてゼストは自らの感情を表に出した。その事に驚いたのか、アギトは何も喋れなくなる。
「少なくとも貴方にはできることがあったはずだ。平和を望みながら、自分からは行動を起こさない。やろうとしているのは今の平和を維持しようとしている人を混乱させるものだ」
「俺は既に死人だ!今を生きるアイツに託そうとすることが無意味というのか!!」
ゼストのその言葉を聞いた瞬間、ライの雰囲気が変わる。
「甘えるな」
その一言で、その場が静粛に包まれた錯覚をゼストは感じる。先程まで耳に届いていた虫や鳥の泣き声が急に聞こえなくなり、それと同時にライの声がハッキリと聞こえる。
「死人であるならば、今ここにいる貴様は誰だ?」
「俺は――」
「託すと言うのは、場を引っ掻き回すことか?」
「……」
「貴様は今、確かにここに存在し、ゼスト・グランガイツとして“生きて”行動している。その行動が貴様の言う平和を乱すことであると理解していながら」
「罪を犯している自覚はある。そしてそれは、誰かが被らなければならない罪であると知っているからこそ俺は!」
「自称死人が罪をかぶるだと?笑わせるな。貴様はただ自分が思い描いた平和という妄想にしがみつく亡霊だ」
「その妄想言葉を口にすることにどれだけの覚悟が必要か知っているのか!小僧!!」
「貴様こそ、その言葉を実現するのに本当に自分だけの犠牲で事足りると思っているのか?」
ライの言葉でゼストの脳裏にかつての部下の顔が脳裏に浮かぶ。そして血を吐くようにゼストは言葉を吐き出す。
「犠牲なら――払った!」
「それは結果的に犠牲になっただけだ。本当にその言葉を実現させたいのであれば、他人を犠牲にすることを受け入れろ。その覚悟を持て。それが最低条件だ」
ライの言葉にゼストは歯噛みし、膝をつく。手に持っていた筈の槍もいつの間にか地面に落ちていた。
彼は俯き、少しの間沈黙が訪れる。再び、顔を上げた彼は掠れるような声でライに尋ねる。
「君は俺を犠牲にするのか?」
「はい」
先程までの雰囲気が嘘のように、ライは真摯にゼストの問いに返事を返す。
「君は自分を犠牲にするのか?」
「はい」
「君は何を望んでいる?」
「ただ、自分が望んだ世界を」
「それは平和な世界なのか?」
「そこまでできる程の力は僕にはない」
その返答に眉を顰めるゼスト。だが、次の言葉でゼストの顔から迷いが消えた。
「だが、少なくとも誰かが誰かの為に優しくなれる。そんな世界を僕は望みます。そしてそれを維持するためにも僕は生き続けます。たとえ苦しくても、死にたくなっても死なない。それが自分にとっての犠牲です」
それはライにとっては、ゼロレクイエムよりも過酷な決断であった。世界の悪意を全て背負い、死ぬことによって作った平和。それをせずとも自らが生き続ける上で、その世界を作り続けるとライは自分に誓ったのだから。
「……そうか――そうか」
ゼストは静かに口を開き、納得の意を示す言葉を吐く。一度目を瞑り何かを想うようにした後、ゼストは静かにライとの契約の言葉を口にした。
後書き
自分でもいい加減懲りればいいのにと思うのですが、また伏線をはってしまいました。(^_^;)
今回は最終決戦前の話でした。あと今回は本当に批判覚悟で書いている部分があります。なので、色々と叩かれるかもしれませんが、真摯に受け止めようと思います。
ご意見・ご感想をお待ちしておりますm(_ _)m
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