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とある碧空の暴風族(ストームライダー)

作者:七の名
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ニシオリ信乃過去編
  Trick-12-2_その人はきっと、A・Tの為に本気で涙を流してくれる人さ




宗像の相手をしている間に意外と時間が過ぎてしまった。
本当であれば、手早く調査して立ち去るつもりだったのだが・・・
急がないと氏神さんが手配した調査が来てしまう。

そんな見えないタイムリミットが迫る中、俺は施設の奥へと進んでいった。


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その後、ゆっくりと階を下りて行った。

地下1階フロア  巨大迷路
地下2階フロア  日本庭園型ビオトープ
地下3階フロア  実験動物園
地下4階フロア  実験工房
地下5階フロア  駐車場
地下6階フロア  図書館
地下7階フロア  温泉
地下8階フロア  大舞台
地下9階フロア  墓場
地下10階フロア 美容院
地下11階フロア 球技場
地下12階フロア ゲームセンター


嘘です、ごめんなさい。
あまりにも何も見つからなかったからネタに走りました。

宗像と対決した階から地下12階までは、途中で諦めたくなるぐらいに
ほとんど手懸りが残っていなかった。

分かったのが、この施設は地下13階まであること。
そしてこの階段を下りれば、その地下13階となる。

途中の階でコンピュータを調べて簡単なデータこそ取れたが、そこには強化人間に関する
基本的な行動しか残っていなかった。重要なデータはある程度消されているようだ。

最後だから気を抜く事なんてSWATやASEでは教えられていない。
一層気を引き締めるべきなのは最後なのだ。

そして気を引き締めたのは無駄にはならなかった。

13階は実験、実戦に基づく実験を行われている。
だから他よりは広い作りになっている。

赤い池が広がり、その中心に鎮座していたのは駆動鎧(パワードスーツ)

灯りがついていない部屋の中で、駆動鎧の一部が点灯していた。
つまりは電源が残っている駆動鎧があるのだ。

無人式か、有人式か・・・・

無人式であれば躊躇なく攻撃できるが、宗像のように実験に残って人が乗っているかもしれない。

部屋に入る前に魂感知を行った。

この魂感知の能力は、植物や小さな生物には対応できない。
信乃の劣化模倣ではそれが限界であった。

だが今回はその劣化模倣で充分であった。

魂が感知できた。人間が乗っている。有人式だ。

周りの状況を確認して、その駆動鎧がある部屋へと入って行った。

『やあ! 次の実験体はキミかい?
 初めまして! 僕はキリト! 黒の剣士キリトだよ!』

駆動鎧から聞こえたのはかなりフレンドリーな声だった。

「・・・・初めまして」

『君の名前はなんて言うんだい?
 ちなみにそこで壊れているのがアインス、アハトだよ!』

「・・・・でしたら、私はツヴァイと名乗りましょうか」

本名を名乗る必要は無い。それで俺はは(アインス)の次と言う意味で
(ツヴァイ)と名乗った。
偶然にも二とは弐栞と同じ数字に当たり、言った後の気付いて嫌な気分になったが、とりあえず自分の中に押し込む事にした。

『あは! それじゃあ、実験を始めようか!』

「実験・・・ね。その実験とやらは、お前の周りで腐っている肉片に関係あるのか?」

宗像と同じく、血の海の上に立っている。だが大きく違うところがある。

目で見て確認するまでもない。死体だ。死臭がするのだ。
駆動鎧の周りには、確認するまでもなく死んでいると解るほど体がバラバラになった者たちがいた。

『当然でしょ! (じっけん)したりするのが僕の存在意義だからね!』

「ようするに、てめぇは再起不能にする必要があるらしいな」

宗像は気持ち(ソフト)を改造されていたが、こいつは(ハード)の改造がされているみたいだ。

しかも強化と言うよりも狂化、機械化している。

本当に、こいつを作った人間は何がしたいんだ? 人型兵器を作りたいのか?

『それじゃ、僕の存在意義に従って・・』

ッ!? 今は答えを出す時じゃない! こいつを止めないと!

(じっけん)してもいいよね? 答えは聞いてない!』

「別に答えを聞かなくてもいいよ。俺も殺す」

あいつのダッシュに合わせて、俺も走り相手に向かう。A・Tの前回を使う。

相手の脚には車輪が着いており、駆動鎧の大きな体でも俺と同等の速度で突っ込んできた。

まずいな。

俺が自信があるのは、A・Tを使った高速移動だ。
攻撃力は人間が武器を振るう程度しかない。当然引き金恐怖症の俺が銃を持つはずもない。
防御力なんて皆無に等しい。防弾チョッキすら着ていないのだ。

唯一、勝てる要素があるとすれば高速移動だけだったが、それも圧倒できるほどの差はない。

自分の得意分野で戦い、同時に相手の苦手な分野に持ち込む。これは戦いの鉄則だ。
力も才能もない俺は高速移動の分野に持ち込んで勝率を上げてきた。

今回はそれは難しいようだ。

『あは!』

「くっ!?」

振るわれる機械の腕を、横に移動して避ける。
駆動鎧のパワーだ。喰らうどころかカスっただけでアウトだ。

数度の攻撃を同じく避け続ける。学園都市内や外国に輸出している駆動鎧を見た事があるけど、ここまで人間の動きを模倣している物は初めてみた。

関節の動きがかなり滑らかだ。見た目に反して人間と同じ動きをする。

俺はバックステップで距離を取り、相手が振り向く前に後方の壁に昇る。


  Trick - Back Spin Wallride 720°-


振り向く前に昇ったから、俺は奴の視線から外れる。

そう、高速移動は同等でも、機動力は圧倒出来るはずだ!


その俺の策をあざ笑うようにあいつは言った。

『上かい? なんか僕と同じような事が出来るんだね、君』


  Trick - Back Spin Wallride 360° Power Hand -


「!?」

俺と比べて、駆動鎧のパワーに任せた動きだ。
それでも、間違いない。これはA・Tの動きだ。

俺の動きを見て覚えた? 違う!
奴は言った。≪僕と同じような事が出来るんだね≫と。

つまりは元々から奴は知っていたのだ、この(トリック)を!

その信じられない事に、俺は動きを止めてしまった。

『死んじゃえ!』

「しまっ!?」

奴の裏拳が腹部に直撃した。

「かはっ!!」

肺の中の空気が全て出る。同時に血も吐き出し、内臓をやられた。

そのまま俺は地面へと落ちた。

「痛っ!」

『あはははは!』

奴も同じように地面へと落ちてくる。その足は俺を目がけて振り降ろされた。

ギリギリで俺は体を横回転して回避する。

が、振り降ろされた逆の脚で横に蹴り飛ばされた。

「はぁはぁはぁはぁ・・・」

『あは! いい感じだね! 一番ウマイよ!』

「はぁはぁ・・ウマイって、戦闘技術がか?」

何とか会話を繋いで、回復しないと! こんな時の為の戯言だ。

『え? なにいってるの? エア・トレックだよ!』

「・・・・・・今、何て言った?」

自分でも分かっている。何て言ったかは分かっている。自分が冷たくなっていくのも分かっている。

『一番ウマ「違う、その後だ」 エア・トレック?』

「そうだ。それ、どこで聞いた?」

『聞いたって、この実験施設はエア・トレックの為にあるんじゃないか!』

嘘、だろ?

だってA・Tは、何十年も前に、失われた技術だろ?

『ほら、君も僕も(トリック)を使ったでしょ?
 何を驚いているんだい?』

今、“トリック”って言ったか? (わざ)ではなく?

『でも僕の方がウマイみたいだね!
 ハカセが言っていたよ! 僕が最高傑作だって!

 でもヒドイよね? 僕が実験で一番だったのに役立たずだってハカセ言うんだよ!』

「それは、他の場所でも、実験が続けられているって、ことか?」

『そうだね。次は学園都市に行くって言ってたね!

 でも、君を倒せばハカセは僕が一番だって分かってくれるよ!』

ふざけるな。

まだ続いているってのか? 狂った実験が? A・Tの研究が?

『あ、そっか! まだ壊したりないんだね!
 そうだ! 外に出よう! いろんな人を壊せればハカセは戻ってくるよきっと!

 まずはキミからだ!」

「がぁ!」

時間かせぎの会話の間に回復したかったが、まったく痛みはひかなかった。
奴の機械の腕が再び腹に入った。
今度は正拳を真正面から受けてしまった。

『あれ? まだ壊れないの? しょうがない! 壊れるまで続けよう!」

奴は一歩下がり、もう一度大きく振りかぶる。

足の車輪で勢いを付けて、威力を上げるつもりらしい。

あれを喰らったら絶対にお終いだな・・・

こんな使い方、まるでA・Tが兵器みたいじゃないか。

・・・・あー、そうか。それは俺も一緒か。

ははは、あれだけA・Tが好きだった俺が、いつの間にか兵器としてA・Tを使ってたんだな。


俺は死を覚悟した。もう駄目だと思った。
だってほら。今だって死ぬ直前にあるスローモーションに見えるって状態にある。

そして走馬灯のように自分の記憶を、前世の記録が流れ始めた。



-----------------------------



それは降りしきる雨の中だった。

通行人がいない路地裏。降りしきる雨の中に倒れているのは一人の青年。

・・・・これは俺の記憶にはない。

ならば、前世の記録なのか?

いや、前世である≪しの≫の経験ではない。

・・・・・あぁ、わかった。この感じ。
今、俺はスカイリンクの映像を見ているんだ。
これは≪しの≫が死ぬ前に閲覧したスカイリンクに残っている記録だ。

俺の走馬灯は、どうやら根が深いらしい。
色々と記録を見てきたけど、この人は見た事がない。
スカイリンクに残っている記憶は膨大だ。本気で見れば一生かけても
見終わる事は無いだろう。
走馬灯で見た事のない記録すら読みだすなんて、世界でも俺しかいないかもな。

そんな自傷のため息をついているときに、青年に駆け寄る一人の少年がいた。

青年は誰だか知らないが、少年は誰だか知っている。

炎の王、スピットファイアだ。
正確に言えば、≪眠りの森≫時代より幼い。
だから炎の王と名乗る前の時期だろう。

「にーさん! イングにーさん! しっかりして!」

「やぁ、ケン。どうしたんだい、こんな所まで来て」

「にーさんが襲われるって情報を掴んだから助けに来たんだよ!
 待ってて! 今救急車を!」

「だめだよ、ケン。私はもう助からないよ。傷が酷過ぎる
 今はケンじゃなくて、スピットファイアだったね」

「そんなこと、今はどうでもいい!」

スピットファイアを、ケンと呼ぶ青年。
そして青年はイングと呼ばれている。

そうか、この人は重力子(グラビティチルドレン)
武内(たけうち) (そら)武内(たけうち) (そら)が襲った
第一世界の重力子の一人なんだ。

不明だった青年の正体がわかった所で、改めて青年の体を見る。

青年が言うとおり、これは致命傷だ。戦場でもこれほど血を流した人は助からなかった。
それに傷も酷い。腹が抉られたように、一部が無くなっている。

「・・・・これをやったのは(そら)だね・・・・」

「・・あいつを恨まないでやってくれ」

「なんで! イングにーさんをこんな目に合わせているのに! どうしてそんなことが言えるの!!」

「それほど難しい理由じゃないよ。単に恨むとか憎むとかが苦手なだけだ」

「・・・・」

「スピ、お願いがあるんだ。
 これを受け継いで、次の世代に渡してくれ・・」

「それは!」

青年が取りだしたのはマイクロチップだった。

「・・・・にーさん、それに入っているのは・・・」

「良く聞くんだ、スピ・・・。

 これはとてつもなく大きな力を秘めている。
 悪く使えば、世界中のライダーや一般人が不幸になる。

 しかし正しく使えば、きっとみんなを幸せにする力がある。
 だからお前がこれを受け継いで、次の世代に渡してくれ」

「・・・ダメだよ、イングにーさん。
 みんなA・Tを兵器のように使う!

 確かに元々は重力子用の兵器だったかもしれない。
 でもそれ以外の使い方だってたくさんある! なのに・・・」

そうだ。俺もそうだ。
A・Tで空を跳びたいと始めは思っていた。
けれども、力を手に入れるためにA・Tを使っていた。

そんな俺がA・Tを使う資格なんてあるのか?
俺のA・Tに対する気持ちは(よこしま)なものなのか?

そう考えていると涙が頬を伝った。自分のA・Tに対する不甲斐なさに。
そして気付いた。なんで先程の戦いで動揺していたのかを。
A・Tの開発がされていたからではない。A・Tを兵器として使っている事に
体験した事のない怒りを感じていたのだ。

嫌だ、A・Tは兵器じゃない! 人を誘う『自由への道具(エア・ギア)』だ!

そう認識すると、さらに涙が増えた。

「確かにA・Tは兵器だったかもしれない。
 でもスピの言うとおり、使い方で変わるものだよ。

 だからこれを受け継ぎ、渡してほしい。
 A・Tを愛する者に!」

「・・・本当に・・・
 本当にA・Tを愛する人かどうかなんて、分からないじゃないか!」

「そんなの、簡単さ」

青年は穏やかな顔で言った。



「その人はきっと、A・Tの為に本気で涙を流してくれる人さ」



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駆動鎧の勢いをつけた拳を、俺は上に跳ぶことで避けた。

フェオ

『何だい? まだ避ける元気があったの?』

ウル

壁に埋まった拳を引っ張り出し、頭上にいる俺を見る。

ソーン

『でも壁に逃げた所で、僕も壁に昇るだけだよ!』

ラグズ

奴はすぐに俺と同じ高さまで上がってきた。

ギューフ

同じように俺に拳を振る。

ウィネ

だが、いくら駆動鎧の速度とはいえ、同じ攻撃を何度も喰らう気は無い。

ハガラズ

それに冷静に見れば、避ける事に苦労する一撃ではない。

ケン

相手がA・Tを装備していると知ってからの動揺が、目と動きを鈍らせていた。

ナウシズ

落ち付いた、堕ち着いた俺が見切れない筈がない。

イス

簡単なサイドステップで奴の腕は空を切った。

ジュラ

『あは! 避けるなんて中々じゃないか』

エイワズ

奴は楽しそうに言うが、俺にしてみればどうということはない。

ペオーズ

何度も左右の手を振るが、最小限の動きだけで十分。

エオロー

この攻撃と言っていいのか分からない手の振りを避け続ける。

ソウェル

すると、奴は重力に従って落ちて行った。

テイワズ

『あれ!? なんで僕だけが落ちるの!?』

ベルカナ

あんな力任せな(トリック)で長い間も壁を走り続けるのは不可能だ。当然の結果だ。

エフワズ

『なんで君は落ちないの!? 僕の方が強いのに!!』

マンナズ

下に落ちた奴を見下す。なぜ早く落ちてしまったのか全く理解できていないようだ。

ラグズ

あっちは何をサンプルにして技を再現しているかは知らないが、俺は違う。本物を視てる。

イング

「何故落ちないかって? 俺とお前が違うからだよ」

オセル

『違うって何がさ!? ハラザキハカセは僕を誉めてくれたよ!!』

ダエグ

「好きかどうかだよ。お前が好きなのは殺す事だろ?」

オーク

『そうだよ! それがどうしたっていうの!?』

アンスール

「俺が好きなのは戦闘でも殺し合いでもない。空とA・Tだ」

アース

「だから、俺はお前を許さない。兵器としてA・Tを見ないお前を許さない。お前達を許さない」

サーペント

「お前を見て、分かったよ。俺なんかが出来るのは、兵器としてのA・Tを止める事だ」

ストーン

「ここに誓う。俺は絶対に止めてみせる。A・Tを悪用するお前達を全員だ!!」



量子暗号(クォンタムクイターゴリー) 全発動(フルコンプリート)

接続先は俺の魂の中にあるSkyLink

脳基接続(ブレインコンタクト)

頭がより冷静に、クリアになってくる。同時にSkyLinkからの情報が流れ込んでくる。
情報の中から取りだすのは、かつて戦艦を全体的に破壊した(トリック)

「蹴散れろ」


Infinity Atmosphere

St. Elmo's Cross Fire




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つづく
 
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