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とある碧空の暴風族(ストームライダー)

作者:七の名
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ニシオリ信乃過去編
  Trick-08_ASEに入らないか?





「どうした! 貴様の根性はこんなものか!?」

「っ・・」

「まだ5セット残っているのに時間が無いぞ!
 今日も全セットを終わらずに時間切れか!
 これで何日目だ!? いい加減にしろ!!」

「y yes sir!」

「返事だけは威勢が良いな! さぁ! 早く立て!!」

クソッたれ! と心の中では毒づきながら何とか立ち上がり、そして再び走り出した。

俺が今いるのはSWATの訓練場。

リチャードさんの申し出を受けて、俺は特殊で火器を扱う戦術部隊に出入りしていた。

目的はSWATの訓練を受けるため、否。自分自身を鍛え直し見つめ直すためだ。

ローラ様の元にいた半年で体の傷は癒えた。
だが、心の傷は癒えたとは言えない。さらに言えばその傷から目を背けていたので癒える傾向も無かった。

俺には3つのトラウマがある。嘔吐するほどの強いトラウマだ。

1つ目は、銃を握る事。

戦場で俺が幾人もの命を奪ってきた方法だ。
銃口を向けられるのは良い。弾丸を込めたショットガンの銃口を額に付けられても大丈夫だ。

しかし自分が銃を握るのはダメだ。
引き金を引いた後の反動、響く銃声、汚れた空気、飛び散る血飛沫。
五感すべてが人殺しの記憶を鮮明に呼び起こしてしまう。
人に殺されそうになった事よりも、殺した事の方が俺にとっては嫌な記憶だ。

2つ目は、飛行機だ。

両親が死に、自分自身も体験した飛行機事故。

今でも飛行機を見ると嫌悪感に溢れる。
当初、アメリカに来るのは飛行機を使うつもりだったが、
空港で並ぶ多くの飛行機を見て気分が悪くなりトイレに行った。

それでも我慢して搭乗案内に従い、飛行機に足を向けたが・・・・・トイレにダッシュでリバースだ。
結局は1週間以上を掛けて船で大西洋を渡ったのだ。

3つ目は、・・・これはやめておこう。かなり特殊だ。


閑話休題


SWATに入ったのはスパルタによる、トラウマから目を背ける事を止めるためだ。
具体的にいえば銃と飛行機に関してだ。

SWATのほとんどが陸の仕事とはいえ、軍隊だ。
ならば軍用飛行機を乗る事は無くとも近くで見る事はある。

そして銃。警察や軍隊で必ず扱う武器。
そして銃社会アメリカでは民間人も持っているがゆえに、より警察の扱いが重要になってくる。

SWATでの訓練は嫌でも(トラウマ)と向き合う事になるのだ。
運命の巡り合わせと考えて訓練に受けていた。


「午前はここまで! 1時間後に講義室Bだ! 今日はトカレフ構造理解の後、の分解・組立をするぞ!」

「はっ・・ぃ!」

「返事はハッキリしろ!」

「っ・・はい!」

リチャードさんは厳しい目で野外訓練場から立ち去った。
結局、時間切れで3セットを残した状態で終了した。

当然ながら本物の軍隊の訓練は甘くない。
少々戦場の経験がある俺程度が充分についていけるはずもなく
体力切れで地面に突っ伏していた。

とはいえ、突っ伏す時間も惜しい。
過労で食事をするのも時間が掛かる。
食事を取らなければ次の訓練が持たない。

体に鞭打って食堂へ足を運んだ。

「おいおい、シノ! また隊長にコッテリ絞られているな!」

「ゲッソリと楽しそうだなオイ!」

「これのどこが楽しそうなんですか・・・」

声を掛けてくれたのは本物の部隊の方々。
俺が倒れた基本訓練を、すでに終わらせた上で、フォーメーション等の応用訓練を
終えたはずなのに、全員がケロリとしている。さすが本物は違う。

「ごはん・・・」

「はいよ! お残しは許しまへんで!」

「は~い」

ああ、めしがうまい。空腹は最高のスパイスっていうけど、
労働の疲労もいいよね・・・空腹と違って進んでやりたくないけど。
というか、これは労働に入るのか? ま、いいや。

ご飯を食べながら今後の事を考える。

最近、テッサちゃんのベビーシッターをする前の時間帯は
ここで訓練をしている。

午前中は基礎訓練。午後は銃や爆弾などの構造理解講座。
アフターファイブはベビーシッター。9時に帰宅。

こんなライフサイクルを繰り返している。
自由時間と言えば寝る前の1~2時間ぐらいだ。

幸いなのは睡眠時間を削られない事だ。
一応は成長期の身なので、ここで体格の成長が止まったらいやだし。

「ごちそうさまでした」

「パンのかけら一つ残さずに綺麗に食べるね、あんた。
 メシを作るこちらとしては嬉しい限りだよ」

「食べられるだけで幸せですからね。米粒一つ、パン屑一欠けらも残さないですよ」

「若いくせにいいこと言うじゃないか」

食堂のおばちゃんが笑いながら食器を片づけていけた。

大人の中にジュニアスクール(小学生)の小僧が一人いるのは居心地が悪いと思ったが、
みんな優しくしてくれる。いいところだ。やっぱりリチャードさんの部隊だからかな?

午後は講義室Bだったな。疲労から少し回復した体で移動した。


そんなSWAT生活に慣れ始めた頃、またまた俺は事件に巻き込まれた。


****************************************

今日は土曜日、英語でSaturday。今日は訓練もお休みダー!

いかんいかん。久しぶりの完全休暇でテンションがおかしくなった。

さてさて、今日はお休みと言う事でストレス解消も含めて買い物に出ている。
訓練で服が傷みやすいから新しい運動着を買おうかと思って
百貨店に来ている。

えーと動きやすい服装だからスポーツ服が売っているところは2階か。

とまぁ、こんな風に買い物をしてぶらぶらしていて、3階への階段を下りているときに
嫌な感じがした。

本当に、ただの勘だった。根拠なんて一切ない。だけど、本当に嫌な予感がした。

階段の隅に置いてある1つの箱。周りには何もない。この箱だけが置かれている。
箱は段ボールでできた、40cm四方の小さな箱。蓋は閉じられておらず若干空いている。

その空いている蓋の隙間から覗くと・・・・見覚えのある配線とデジタル時計。
簡潔に言う。タイマー式爆弾だった。

普通であれば動揺する場面かもしれないが、俺の場合は逆だ。
戦場にいた経験で、怒ったときや驚いた時は勝手に冷静になる。

今もデジタル時計を見た瞬間に、冷たくなるのを感じた。

慌てず騒がず、携帯電話の操作をした。

『もしもし、どうした信乃? 折角の休みに訓練でも付けてほしいのか?』

「リチャードさん、申し訳ないですがふざけている暇は無いです。
 単刀直入に言いますと、爆弾を見つけました」

『どこだ?』

「5番通りに隣接している百貨店です。偶然見つけました」

『分かった、SWAT(うち)から爆弾の方は連絡を入れる。
   おい! 緊急出動の準備しろ!
   あと5番通りの百貨店の警備室に連絡だ!』

さすがリチャードさん、話が早い。
俺がリチャードさんに電話した理由を汲み取ってくれた。

子供である俺が警備員に連絡したところで、悪戯として片付けられる可能性が高い。
それにリチャードさんからある程度の信頼を得ている。
だから俺が悪戯ではない事として対応してくれた。

『爆弾のタイプは?』

「丁度2日前に講習で受けたものと同じです。
 火薬の量は多いですが、それほど難しくはないです。
 ただ、制限時間が・・・・」

『あとどれくらい残っている?』

「10分を切っています。ちなみに箱は動かしたら爆発の可能性があります」

『!? それじゃあ、うちは間に合いそうにないな・・・・
 信乃・・・お前に頼むのは酷と思うが「大丈夫です」』

「幸いにも講習を受けたのは2日前で記憶もまだ新しい。
 それに俺以外、誰がやるんですか?」

『・・・・頼む。責任は俺が取る』

「お願いします」

携帯電話は繋いだまま、爆弾の箱へと近づく。

ピンポンパンポン

『お客様へお知らせいたします。ただいま、当建物の消火設備に不備が見つかりました。
 緊急に対応する必要があります。申し訳ありませんが、緊急時に備えて
 当建物から避難をお願い致します。警備員の指示に従い早急にお願いいたします。
 
 繰り返しお伝えします。ただいま ――』

館内放送が流れる。爆弾と言うとパニックになる可能性がある。
それを防ぐために嘘を放送しているようだ。

この階段はあまり使われていないと思う。運よく周りに気にせずに作業を進められる。

パチ、パチと配線を一つずつ切っていく。

残り3本になった時、俺の手は止まった。止めざる負えなかった。

「は、リチャードさんには自信があるように言ったけど、やっぱり上手くいかないな」

残りの配線、この3本が厄介だった。今までの配線はマニュアル通りだったが、
ここに来てダミーの配線が混ぜられている。
構造を考えると3本中に2本がダミー。切れば爆発する。
残念ながらダミーの対処や見抜き方はまだ習っていない。

「すみません、リチャードさん。今の状況ですけど・・・――――」

――――――

『ふむ、なるほど。ダミーか』

「ええ、私の実力では手を付けられません。最悪の場合、一か八か・・」

『馬鹿を言うな! 命を大切にすると言う事を考えろと講習で教えただろ!!』

「ですが・・」

『それにこちらでも手を打った。偶然、教え子がうちに来ていてな。
 お前の所に向かわせた。ほら、バイクの音が聞こえてきただろ?』

リチャードさんの言うとおり、バイクのエンジン音が聞こえてきた。
だんだんと音が大きくなってくる。
ついに音だけでなく、バイクも見えてきた。

青にカラーリングされたトライアルバイク。
2人乗りで階段を駆け上り、そして俺の側で止まった。

「リチャード隊長が言っていた≪信乃≫ってのはお前でええんか!?」

後ろの席から降り、ヘルメットを外しながら聞かれた。え? 日本語、しかも関西弁?

「あ、はい! あなたたちは?」

「お前の先輩になるかの」

と答えながら目線は爆弾に注がれていた。

しまった・・解体している途中の爆弾を引き継ぐことは難しい。
切った大量の配線があり、元々はどのように繋がっていたか考えるのに
余計に時間が掛かってしまう。

少しでも時間省略するため、解体前の状況を教えないと。

「先輩さん・・・配線ですけど」

「よし、これや」

パチン

え? まだ10秒も見ていないのに、わかったの?

「これで大丈夫や。悟、後は犯人を捕まえるだけええんやったよな?」

「はい、波戸さん」

本当に爆弾のタイマーが止まっている。すごい。すごすぎる。

「あの、波戸さん・・・で、お名前は合ってますよね?。犯人ってどういうことですか?」

「おう少年、この爆弾って単純な作りやと思わなかったか? ダミー抜きで」

「そう、ですね。同じタイマー構造でも、もっと複雑な作りのものはありますし、
 初心者の私でも解体寸前まで出来ましたし・・・」

「面白い事言うの。初心者やったら作業速度がもっと遅いと思うんやけどな。

 簡単にいえば、この程度の構造やったらネット探せば作り方をなんぼでも見つけられる。
 ダミーも同じ。教科書の通りに作った爆弾ってことや。
 だから犯人は手慣れた奴やない。

 もう一個付け加えると、火薬の量もダミーや。
 本当の量やと、この階段の一部を壊すことしかできへん」

「爆薬が、ダミー?」

「大方、自分のしでかした事を近くで見て喜びたいだけの愉快犯。
 せやけど大事を起こす根性ない、作るのもネット見ただけの素人や。

 そして愉快犯やったら近くにおるはず」

すごい。たった一つの爆弾を見ただけでプロファイルに近い犯人像を作った。
これがプロの実力なのか。

「悟、犯人はさっきまで7階の階段の所にいたようやで。
 俺は他の階段の所で待ち伏せしとくさかい、はよ行きや!」

「わかりました!」

おそらく仲間のだれかが監視カメラから様子を見ていたのだろう。
耳に着けていたインカムの指示に従い、2人は行動を始めた。

確か関西弁を話す20代前半の人が、波戸さんと呼ばれていた。
そしてヘルメットをかぶって良くわからなかったが、中学生ほどの小柄な人が悟さん。
悟さんはトライアルバイクで階段を駆け上って行った。
バイクってあんなことできるのか? すごい!

「お前は入口にある≪ASE≫のトラックの所にその箱を持って行きや。
 ワイらの仲間がおるさかい、事情を説明してくれ」

「は、はい!」


***********************


ASE

Almighty Support Enterprise、略して『ASE』(エース)。「軍人からベビーシッターまで常に一流を派遣する」をキャッチコピーとし、世界中から様々な分野のスペシャリストを集めた国際的人材派遣会社である。依頼料金は高額だが、任務遂行は正確かつ迅速。

Wikipediaより参照。


マジですか? 波戸さんが言っていたASEって、あのASE!?

指示通り、外に止めてあったASEのトラックを見つけたが、
有名な会社のロゴマークを見た時はかなり驚いた。

「ん、君か? 波戸が言っていた解体してくれてた少年とは?」

「は、はい! 私で間違いないと思います」

眼鏡をかけた40代程の男性が、俺に近付いてきた。
服装はスーツだが、その体躯はしっかりとしている。

「私は百舌鳥という。普段はASE日本支部長をしているが、今日はリチャードに
 用事があってな。たまたま近くにいたのさ」

「は、初めまして。西折信乃といいます。同じ日本人ですが、
 私はイギリス系の2世になります。

 リチャードさんには普段からお世話になっています」

一応、日本生まれじゃない今の戸籍を言う。対して意味は無いと思うけど。

「ああ、俺も話に聞いている。なかなか面白そうな子供がいるってな」

「え?」

「信乃! 無事だったか?!」

丁度、SWATの車両で来たリチャードさんが叫んで俺を呼んだ。
ぞくぞくと集まってくるSWATの車両、そして降りてくる隊員のみんな。
そして百舌鳥さん。全員が俺を中心に集まってきた。ってか暑苦しいよ。

「リチャードさん、私は無事ですよ」

「そうか、よかった・・・波戸を向かわせて正解だったな。
 おかげで信乃が助かった」

「リチャードさんが言っていた教え子っていうのは、波戸さんの事だったんですね」

「ああ。奴もSWAT出身で俺の部下だった」

「本当に助かりました。ダミーも一瞬で見抜いてくれました」

「その腕を買って、ASEは波戸をスカウトした」

「なるほど。超一流を提供することがキャッチコピーのASEは
 人材も当然超一流ってことですか」

「そのとおり」

百舌鳥さんは感心したように笑った。
まあ、自分は一応12歳だし、本当ならそこまで知っているもんじゃないからね。

だけど精神年齢は年相応ではないと自覚している。
前世の記録があるし、戦場での死にかけた経験、人を殺した経験があるから
実年齢より成熟、または老成していると思う。
ちなみに学園都市にいた時に大学の博士号を取っているから知識も大人並みだ。

閉話休題

しばらくすると、デパートからバイクを手で押しながら出てきた悟さんと、
気弱そうな眼鏡の男、その男に肩を回して笑いながら波戸さんが出てきた。

「百舌鳥さん、任務完了や」

「残念だが波戸、これは任務じゃないぞ。金は出ない」

「分かってますって百舌鳥さん。今回のはリチャード隊長のお手伝いってことやろ?」

「すまんな、波戸。SWATという組織的にはASEに依頼する事が出来ない。
 その代わりと言っては何だが、俺のおごりで飯を食いに行こう。
 
 もちろん、SWATのメンバーも、斑鳩悟くんも、百舌鳥、信乃もな」

『ヨッシャー!!』

「(ヒソ)あの、リチャードさん・・・申し訳ないんですが・・」

「どうした?」

「今日、というかこれからテッサちゃんのベビーシッターがあるんですよ。
 ビバリーさんは休みですから、私しかいなくて・・・」

「なるほどな・・・折角の機会だったんだが・・・」

「それなら、お前の家でパーティをしたらどうだ?
 嫁さんが生きて居た頃はよくやっていただろ」

「それだ! 良い事言うじゃないか百舌鳥!

 妻が死ぬ前には月に1度は家でパーティをしていたんだ!
 テッサは初めてになるな! これは面白くなってきたぞ!」

「り、リチャードさん?」

急にテンションが高くなったから、びっくりするよ。
いつも冷静で穏やかな、訓練の時には厳しいリチャードさんが
大きな声を上げて喜ぶのは初めて見た。

「おい野郎共! 今日はウチでパーティだ!
 1番隊、2丁目で肉を仕入れてこい! いや買い占めてこい!
 2番隊、酒だ! 町中の酒を種類選ばず買ってこい!
 3番隊、庭でBBQだ! 道具を用意しろ!
 4番隊、適当に野菜だ!

 すぐに行動を開始しろノロマ共!」

『Yes Sir!!』

無駄に統率力が良かった。




「マンデラさん! この串を向こうのテーブルにお願いします!
 ジュンギュさん! 冷蔵庫にある肉を取ってきて下さい! もう少しで品切れます!
 スペックさん! それ焼き過ぎで炭になってます! 危ないから別の食べて!
 ジャックさん! 網焼き用の具材ですよ! こっちのコンロで焼くから持ってきて!
 ソースケさん! こんな所にまで来てトマトと干し肉食べないでBBQ食べて!
 クルツさん! テッサちゃんを口説くんじゃない! 相手は小学生でしょ!
 ロジャーさん! そこ焦げているから串をひっくり返して!
 キャステロさん! 肉がまだ生焼けだからもうちょっと待って!
 マオ姉さん! 飲んでばかりいないで食べて!
 クルーゾーさん! 野菜も食べて下さい! はいこれ野菜だけの串!
 カリーニンさん! ココアパウダーと味噌をつけないで! 素材の味を楽しんで!!
 テッサちゃんはこれね。熱いから気をつけて」

「なるほど、これが日本人のスキル、ナベブギョーか」

「日本人が全員出来るとは思うなよ、リチャード。
 それに、これに鍋奉行というよりは網奉行だな」

一言でまとめるならカオスだ。

どこのコンロも次の肉を待つ人が集っている。
どこのテーブルも酒で乾杯をしている。
まともに談笑と食事をしているのは1テーブル
リチャードさんとテッサちゃん、百舌鳥さんがいるテーブルだ。

ちなみにASEの2人、波戸さんと悟さんは別のコンロに向かって食事中。
さっきまでのシリアスな2人はいない。ただの食いしん坊万歳になっていた。

ところで今、俺は3つのコンロを操って串を焼いている。
そして全体のコンロ係の人に指示を出していた。

仮入隊とはいえ、SWATの一番下っぱは俺。
それが指示出しをしているのは訳がある。

今のメンバーでまともに料理を出来るのは俺だけしかいなかった(泣)。

俺が指示出しするまでは、生焼けだろうが炭化だろうが関係なく食べている。
みんな『大丈夫、大丈夫』とあまり聞かなかった。

な ん だ そ れ は!
 食 材 に 失 礼 だ ろ う が!

少しキレました。
大先輩たちに、ちょっと説教しちゃいました。
そのままの流れで網奉行になりました。

QED。以上、証明完了です。

・・・・ごめん。最後のは無し。戯言って言葉で誤魔化せない。
戯言もQEDも同じ講○社だけど。

とにかく、俺を中心に調理に関しては大丈夫になりました 以上

そんな俺の姿を見ながら、リチャードさんと百舌鳥さんが雑談をしていた。

「ふむ。ふつうのBBQの道具と普通の食材で、ここまでおいしいものが作れるとは驚きだ。
 彼は料理人を目指しているのか?

「仕事で世界中に行っている百舌鳥がいうってことは、かなりの腕前なんだろうな。
 私は普段から食べているおかげで、おいしさの感覚がわからなくなっているからの。

 信乃くんは料理人を目指しているわけじゃない。
 ましてやSWATのような組織に入るつもりもないと聞いている」

「では何を目指しているんだ?」

「わからない」

「わからない? 聞いていないのか?」

「聞いたよ。その答えが『わからない』だ。
 信乃くん自身がわからないのだ。

 今まさにそれを模索している。自分探しをしているんだよ」

「あの歳の子供なら、決まっていないのも不思議ではない。
 だが、あの子はしっかりとしている。それなのに『わからない』か」

「色々と事情があるみたいだが、詮索はしてやるな」

「・・・リチャード、彼について案があるんだが・・」

「奇遇だな、百舌鳥。実は彼についてお願いしたい事がある」

なにやら二人の間で通じあったようで、一緒に頷いていた。

「信乃くん、君に良い話があるんだが」

「良い話、ですか?」

「ASEに入らないか?」



つづく
 
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