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とある碧空の暴風族(ストームライダー)

作者:七の名
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ニシオリ信乃過去編
  Trick-05_神裂、移動術式を展開しなさい




始めは、戦場からの話になるかな。

飛行機が墜落したのは、内戦が続くアフリカ大陸の一国。
その内戦が一因で、俺は行方不明ではなく死亡と言う扱いになってしまった。

実際は墜落後に俺は飛行機から離れて行った。
そして生きるために内戦に参加するしかなかった。

でもいきなりで悪いが、詳細はカットさせてくれ。

正直グロすぎる。
生きるためとはいえ、ここで俺は3桁の人間を殺した。
殺される前に殺した。

それが精一杯の言い訳だ。
といっても殺した人間の全てに当てはまるわけでもない。

もちろん自分の意思で殺した奴もいる。
例を上げれば、政府の権力を乱用している馬鹿政治家とかかな。

国民に渡される国際協力団体とかからの寄付金を、仲介役の名を語って
ほとんど全額勝手に使う。

殺した方が世界が平和になると、当時は本気で思った。


それにな、権力を持たない人だって殺した。
殺す事が生き甲斐な奴がいた。殺意が俺自身に向けられなくても
こんな人は生きてはいけないと思った。だから殺した。

女性を性欲の吐け口としか考えない男がいた。女性は手足を縛られて
常時裸で、中には両手足に死なない程度だけど動けなくなるような怪我を
負わせていた。本当に道具としか見ていなかった。だから殺した。

犯されて続けて精神が壊れた女性がいた。いや、精神だけじゃない、
体も壊していた。性感染症、乱暴にされたから体中には怪我、陰部の変色。
体がこんなでは精神が普通なわけがない。助けだしても自殺をする人もいる。
壊れすぎて体を動かせず、いつも「殺して」を呟き続けた人がいた。
だから・・・・殺した。


殺して殺して殺して殺した。
本当に多くの人を殺した。

そんな“戦場”(いきじごく)から抜け出せたのは、本当に奇跡だったと思う。



戦場にいた最後の日、俺は反乱軍(レジスタンス)として動いていた。

別に『戦争を終わらせたいから』なんて大義名分はない。

戦争を商売として食い物にしている政府が嫌いだったからだ。
その手段として参加していた。


その日は王宮への最終攻撃をした。

初めて王宮を見た時は呆れてしまったよ。

距離を1kmも離れれば、日本のテレビで見るような戦場の光景があるってのに
王宮は綺麗で豪華な装飾がふんだんに使われていた。

真新しい印象があるから、古くから豪華だったってわけでも無い。

本当に国民と戦争を食い物にしてたんだ、って確信したよ。


反乱軍の攻撃は成功し、王族は全て捕獲。
そして俺の運命が変わったのは攻撃後の残党狩りの時だ。

俺が追っていたのは王の参謀役の1人。
戦闘能力は無いが、逃げ脚とその準備はさすがとしか言えなかった。
すぐに王族を見捨てて自分が作った、自分だけが知っている隠し通路に逃げ込んだんだからな。

偶然見つけた俺は追う役目を任された。

隠し通路はゴンドラが通っていて、出口は首都から意外と離れた場所になっていた。

その場所は古代遺跡だと思う。王都とは違う、古き良き装飾の壁や柱がが崩れかけて残っていた。

状況が状況でなければ楽しめたかもしれないが、はやりそうはいかない。

罠が仕掛けられていないか警戒しながらだが、確実に参謀との距離を詰めて行った。

王族がしてきた事を白状させるために殺さずに捕まえる必要があった。

ただし殺さなければ、どのような状況でも構わない。例え両腕が弾丸の雨でボロボロになろうとも、出血多量で死ななければ何の問題は無いと思っていた。

相手も甘い汁を吸う頭は持っていても、戦う力は無い貧弱な男。銃を持っていたとしても自分が持っているマシンガンの方が上だ。

今にしてみれば、その気持ちは油断以外の何ものでもなかった。


「動くな!」

 パァン!

「ぐぁ!!?」

俺は警告と同時に奴の左肩を撃ち抜いた。

容赦の必要はない。死ななければいい。

「さぁ、王宮へ戻るぞ。安心しろ、罪が全て分かるまでは命は保障してやる。
 王宮に戻るまでは頭と胴体、足に攻撃しないことを保証してやる。

 ただし、それ以外は全く保証しない。お前の態度次第で変わるぞ?」

「糞!」

出血した肩を抑え、濁った眼でこちらを見てくる。

「どうした、早くこっちにこい」

「・・・・」

何か策を考えているのか返事は無い。

だが、それを待つ必要は俺には無い。

 パァン!

弾丸が奴の頬をかすめ、血が弾け飛ぶ。

「言ったはずだよな。頭と胴体、足は攻撃しない。
 だから顔は保障の範囲外だ。

 わかったら、早くし≪ガラ≫ !?」

俺の後ろの方から瓦礫が落ちた音がした。

敵の伏兵!? 一瞬にして銃口を背後に向ける。

だがそこにいたのは兵士でも民間人でも無い。
場違いに綺麗な服装をした、綺麗な金髪の18歳程の女性がいた。

一言で説明すれば、英国貴族の少女。一言だが、これ以上に女性を形容する言葉は無いほどに当てはまっていた。

王族・・・ではない。権力争いを避けるため、自分たち以外の血族は全て殺したと聞いている。

それに目の前の女性は、中東の王族の服とはデザインが違う。西洋のデザインだ。

なぜここに? 何のために?

混乱のあまりに関係ない事を考えすぎた。それは決定的な隙となった。

「な、なんだ! 女、お前も死ね!!」

「え!?」

俺が作った隙は大きかった。

右手を傷を負った左肩から離し、懐の銃を抜き、女性に向ける。
それを程の時間を与えてしまった。

そんな、なぜ俺に向けない? あの人はお前に関係ないだろ? この場に関係ないだろ?


これ以上、弱い人が死ぬを目の前でミタクナイ


気が付けば、俺は奴の銃口と女性の間に移動していた。
直後、内蔵がかき乱されるような熱さ。

両手足にも切られたり、殴られた時とは違う痛みが走る。
奴が使ったのは小型のハンドガン。

体を貫通して後ろの女性には当る威力は無いはずだ。
初めて体に弾丸が当たったが、比較的精神は穏やかだった。
いや、穏やかなのは弾丸や怪我は関係ないかもしれない。

後ろの女性を守れた。その達成感からだと思う。

でも、このままでは終わらない。俺が倒れた後に何をされるか分からない。
そう考えた時には俺は引き金を、そして男の両手足から大量の血を噴き出した。

意識を僅かに残しているが、目を開ける力も残っておらずに
俺はそのまま倒れた。


「アークビショップ! 今の音は!?」

「遅いのよ、神裂。護衛が何をやっていたのかしら?」

「申し訳ありません。今は王都で反乱軍と王族軍の戦いがありますから
 どうしても外の警戒を考えてしまいました。

 お怪我は?」

「大丈夫よ」

「お怪我が無くて何よりです。

 しかし私の言った通り危険ではありませんか!!
 いくら可能性があったとはいえ、神器を探しに戦場にまでアークビショップが
 足を運ぶ必要はなかったではありませんか!」

「でも、神器が本物かどうかが分かるのは私だけ。
 私が直接行くしか確かめる方法が無いわ。

 この会話、出発前にもした記憶があるわよ?」

「・・・そうでしたね。申し訳ありません。

 しかし、この2人は?」

「おそらくはあなたが言っていた王族軍と反乱軍でしょうね。

 男の服には王族軍の紋章があるわ。それを考えると少年は反乱軍でしょうね」

「2人ともかなりの怪我をしていますが・・・同志打ちのようですね」

「・・・違うわ。少年が追い詰めていたけど、私が足音を聞いて物陰から出てきたのよ。

 それで少年が隙を見せて、男がなぜか私を狙って。

 私は術で身を守ることも出来たけど、この少年が私を庇ったのよ。

「庇った、ですか? 戦場にいる少年が赤の他人であるあなたを庇ったのですか?」

「ええ。その後、倒れる前に少年が撃ち返したのよ。
 それで見た目で言えば、同志撃ちのようになったのよ」

「どうしますか?

 今の私達は内密で来ています。放っておくのが得策かと」

「そうね、それが妥当な選択だわ。

 けれどね、無意味だったとはいえ命の恩人を放っておくのはアークビショップの
 名折れよ。男は出血が出ているけど致命傷ではないみたいだけど、少年は
 体に4発も当っているわ。それも貫通していない。間違いなく危険よ。

 神裂、移動術式を展開しなさい。少年を連れてイギリスに戻るわ」

「・・・・わかりました」


この会話を聞いた時、ギリギリで保っていた意識が途切れた。



つづく
 
 

 
後書き
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