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銀河英雄伝説~生まれ変わりのアレス~

作者:鳥永隆史
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昔話



 その日の訓練も五時を過ぎるころには終わっていた。
 平均のチームで七時――チームによっては八時まで訓練をしているので、明らかに速い。
 フォークチームは今日もコンピュータを相手にほぼ完勝とも呼べる成績を取っていた。

 完勝だからこそ反省会などあるはずもない。
 フォークが満足げに帰れば、他の者たちは黙々と片付けを開始する。
 筺体を清掃していたテイスティアに、ライナはゆっくりと近づいた。

「テイスティア先輩、よろしいですか?」
「ん。なに、どうしたの?」
「……我々も対人戦の経験を積んだ方がいいかと思慮いたします」
 唐突な提案に、テイスティアが驚いたように振り返った。

 勢いつけすぎて、開いた筺体カバーに頭をぶつける。
 良い音がした。
「っつ……いたぁ」
「失礼しました。端的に申し上げて、痛そうです」
「凄くね」

 涙目になりながら、頭を押さえて、テイスティアは筺体から這い出た。
 見上げれば申し訳なさの一切ないライナが立っている。
 まだ痛む頭を押さえながら、手くらい貸してくれればいいのにと思いながら、立ち上がった。
一瞬痛みのために忘れていた言葉を思い出し、反芻する。
「突然どうしたの?」

「それは私の言葉のような気がいたします」
「いや、ぶつけたのはいきなり声がかかったからだよ!」
「冗談です」
 そう無表情で告げられれば、どこまで冗談であるのか理解が出来ない。
 表情で確認することが出来ず、テイスティアは小さく息を吐いた。

「実際のところ今のままでは、マクワイルド先輩に勝つのは不可能かと思慮いたします」
「それこそ唐突だね」
「先輩もそう思われたのではないですか?」
「そうだね」

 痛み頭を押さえながら、テイスティアは考える。
 訓練自体はスムーズになっている。
 学生殺しとまで呼ばれた高難易度の戦いですら、あっさりと切り抜ける。
 大会前の予想はフォークチームが他を抜いて優勝候補になっていた。
 けれど。

「フェアラートさんは知らないだろうけど、昔はいろいろ凄い先輩がいてね?」
「それはテイスティア先輩よりもですか?」
「僕なんて全然さ。ワイドボーン先輩、コーネリア先輩、ローバイク先輩に、アッテンボロー先輩――それにヤン先輩」
「あのエルファシルの英雄ですか?」

「うん。ヤン先輩は少し有名になったから、フェアラートさんも知っているよね」
「少しではないと思慮いたしますが」
「確かに。ま、僕はそんな凄い先輩を見てきたし、実際に戦ってきた。コンピュータの難易度がどうとか、そんなレベルの方たちではなかったと思う」
「そのような方々が?」
「うん、例えば今日のシミュレータ訓練。もし、ワイドボーン先輩なら相手に一撃も与えずに完勝できたかもしれないし、コーネリア先輩ならコンピュータの機動すら上回って艦隊を動かしたと思う。アッテンボロー先輩だったら、いつの間にか勝っていた気もするし、ヤン先輩はどうだろうな。僕にはその勝ち方すら想像できないや」

「随分と褒めるのですね」
「ずっと見てきたからね……そうずっと」
 静かに目を伏せたテイスティアが何を思ったのか。
 ゆっくりと黙る先輩に、かける言葉もなく、ライナは言葉を待った。
「追いつきたくて、でも追い越せなくて。今まで僕はずっと見てきた」

 思いを言葉にして、テイスティアはゆっくりと首を振った。
「そして、そんな先輩方にアレス先輩は一度も負けたことがない」
「目標なのですか」
「目標とはちょっと違うな。そう――これは僕の宿題……」

「宿題……?」
「今から批判的な話をしていると、またフォーク先輩の怒りを買いますよ。テイスティア先輩」
 テイスティアの頭の上からの言葉に、二人が声の方を向いた。
 長身の男性――ケビン・ウィリアムが覗き込むようにして、片目をつぶる。
 頭を押さえていたテイスティアを押しのけて、ケビンがライナとの間に割り込んだ。

 ライナが眉をひそめたことも気づいていない様子。
「確かにコンピュータが相手だというのはつまらないのはわかるよ。どうかな、一戦お付き合いいただけませんか、お嬢さん?」
 仰々しい様子で頭を下げる様子に、ライナはテイスティアを見る。

 タイミングを失ったテイスティアは苦笑を浮かべており、再び話をするつもりはないようだ。
 ライナは小さくため息。
「それではよろしくお願いいたします、先輩」

 苛立った心を沈めるために、ライナはウィリアムの言葉に髪をかきあげて答えた。

 + + +

『……星系の戦闘結果。青軍、ケビン・ウィリアム。赤軍、ライナ・フェアラート。損耗率、青軍58.1%、赤軍21.0%。ウィリアム旗艦の撃沈により、ライナ・フェアラートの勝利です』
 三十分とかからずに終わった戦いに、ライナは筺体から姿を現した。
 そこにアレスとの一戦で見せたような高揚や悔しさは微塵もない。
 機械と戦った後の様な表情に、外で見ていたテイスティアは表情に呆れを見せる。

 それでも一応とばかりに、近づいてライナに声をかけた。
「御苦労さま」
「上手くいかないものですね」
 そんな労いの言葉に、ライナは浮かない返事をした。
 テイスティアが疑問を浮かべる前に、ライナは一人首を振った。

「先日にマクワイルド先輩と戦った時よりも、私の方が時間もかかっていますし、損傷艦艇も多い。あの方と私の実力差は、マクワイルド先輩と私よりも離れていないということなのでしょうか」

 そんな独り言に、テイスティアは頭をかいた。
 それはアレスがやり過ぎだと考えたのか、あるいは後輩の自信の大きさにか。
 かける言葉も思いつかず、テイスティアはもう一人の方に視線をやった。
 後輩から――それも女性からの大敗にさぞ落ち込んでいることだろうと思えば、本人は小さく肩をすくめて、笑う。

「いや、さすがに違うね。ここまで完敗したのは、今までで初めてだよ」
「それはお相手に恵まれたと思慮いたします」
 笑いながらかける言葉に、ライナは冷静な言葉で切り裂いた。
 あまりに正直な後輩に、ウィリアムは一瞬呻いた。

 だが、すぐに笑みを浮かべれば、落ち着いて答えた。
「いや、そうだね。まさにそうだ――井の中の蛙が、いま大海を知ったわけだね。だから、どうだろう。一緒に食事をしながら、その大海の広さを教えてもらえるかい?」
「お断りします。食事くらいは一人で食べれますので」
 一言で切って捨て、ライナは踵を返した。

「あのね」
 誘いに乗れというわけではないが、あまりの態度に思わずテイスティアは声をかけた。
「なぜ笑えるのでしょう」
「ん……?」
「私は初めて負けた時、笑う事ができませんでした。悔しいと思いました」

 小さいが、初めての感情の発露に、テイスティアはそれ以上言葉をかけられない。
 ただ黙って見れば、ライナは息を吐いた。
「なぜあの方は笑えるのか。そんな時間があれば、訓練をすべきでは?」
「……まあね」

「無駄なことを言いました。失礼させていただきます、では」
 そういって、ライナは振り返る。
 無表情な――それこそ人形を思わせる中で、微笑を浮かべる。

 それは、この現状を良く知っているテイスティアでも思わず、惚れそうになる笑顔で――手にしたいと考える――だが、それは叶わない事が理解できる、綺麗で、冷徹な笑みだ。

「御機嫌よう」

 + + +  

 元より歴史を変えるつもりは、アレスには毛頭ない。
 フレデリカがヤンに惚れているというのは、原作でも良く知っていたし、何よりも奪いたいとも思ったことはなかった。
 しかし、男としての感情は、それとは別のベクトルを向いているらしい。
 フレデリカに夕食を誘われ――士官学校のフレデリカ何て原作に出てなかったから仲良くなっても問題ないと言い訳まで考えた数時間前の自分を、今なら殺せるだろう。

「それで?」
 目の前で、淡い茶色の瞳を興奮させながら、身を乗り出す少女がいる。
 まだ十五になる少女は幼く、非常に可愛らしい。
 表情がころころと変わり、それでいて知的な印象を持っていた。

 あの朴念仁が惚れるわけだと、ある意味納得しながら、アレスは夕食のローストビーフをフォークに刺した。
 ソースをからめて口に含む、二度ほど咀嚼して、アレスは少し考えた。
 フレデリカの興味は、今考えれば当然のことながら、ヤン・ウェンリーの学生時代だ。

 エルファシルでの出来事を懐かしそうに話していた。
 こちらも一学年の時に対戦しているため、彼女はヤンの学生時代のことが聞きたいようだ。
 そんな話題について、別にアレスは嫉妬で話さないわけではない。
 話せない。
 そもそもヤン・ウェンリーは学生時代に特に目立っていたわけではない。

 有名なのはワイドボーンとの一戦ではあるが、他は寮から出ていく時に三トントラックが寮とゴミ捨て場を三往復したらしいとか、興味のない教科が悪すぎて、優等生がそろう戦略研究課程で初めて退校候補に名前を連ねたとか――良い話題は少ない。
 さすがにそれを話すのはどうだろう。

 正直に話してもいいが、それでヤンを陥れようとしたとか勘違いされたら、悲しすぎる。
 食事という時間稼ぎをしているわけであるが、フレデリカは食事の手まで止めてアレスを凝視している。
 薄いローストビーフはすぐに口でなくなり、アイスティーを口に含んだ。

「そうだな。他には紅茶が大好きだった――好きすぎて、戦術シミュレーター前の自動販売機の一列を全部紅茶に変えてたな」
「ヤン少佐は紅茶が好きですもの。私も文句を言われましたことがありますわ。でも、そんな事が出来るのですか?」

「うまく納入業者が言いくるめられたみたいだね。すぐに業者に元に戻させたけれど」
 渋い顔をするアレスに、フレデリカは笑い声を立てた。
 そんな笑顔を見ながら、アレスも柔らかく息を吐く。

 あとは。
「今まで対戦した相手で一番強かった――無敗の英雄は、やはり無敗の英雄だった」
 それは独り言のように、そっと呟かれた。
 
 + + +  

 手にしたトマトパスタを持って、ライナは席を探した。
 対戦によって訓練時間が延びた今では、混雑時間から外れたようで席に座るものはまばらだ。
 これなら静かに食べられそうだ。
 これからはこの時間に食事にしようかと考えた。

 入浴時間が決まっていなければ、それでも良かったかもしれない。
 だが、定められた入浴時間は、一学年はもっとも遅い。
 あまく遅く食べれば、今度はそれだけ入浴の時間が減ることになる。
 悩ましいところだと手頃な席を探して、ライナの視線が止まった。

 窓際の席――そこに先客が二名いる。
 一人はライナの同級生であり、もう一人は。
 呼吸を整え、ライナはその席を目指す。

「お隣よろしいですか?」
「え?」
 対面の席に座ったアレスに対して、質問をかけようとして、フレデリカはライナを見る。
 その様子に驚いた様子であったが、すぐに頷いた。

「もちろん、どうぞ」
「ありがとうございます。先輩も……よろしいですか」
「どうぞ」
 差し出されたアレスの手に、静かに礼をいって、フレデリカの隣に腰を下ろす。
 ライナは緊張とともに小さく息を吐きだした。
 そんな様子に、アレスはアイスティーを飲み干す。

 そして。
「友達も来たところだし、俺は先に失礼するよ。ごゆっくり」
「あ……」
 小さく出した声に、フレデリカがライナを見る。
 視線の先は正面……席を立とうとした、アレスの方だ。
 慌てて、フレデリカが咳払いをした。

「まだもう少し話しませんか?」
「いや。でも、邪魔だろ?」
「大丈夫です、ね?」
「ええ!」

「ああ。そう……?」
 頷いたライナに、アレスは浮かせかけていた腰を下ろす。
「さ、先ほどはどんな話をされていたのですか?」
「どんなと言われても、大した話でもないけど」
「そうですか。でも、お二人は楽しそうでした」

「そんな事ないよ」
 慌てて否定してから、フレデリカがしまったと表情を変えた。
 申し訳なさそうにアレスに頭を下げる。
「ご、ごめんなさい、先輩」
「いや、いい」

 謝罪をすれば、アレスは小さく苦笑している。
 本人は本命がいるのに、妙な噂が流されて困るのだろう。
 少なくともアレスと噂になって、良い事など何もないような気がする。
 そんな事を考えれば、飲み干したアイスティーの氷をストローで混ぜた。

 様子に、ライナが気づく。
「今日は紅茶なのですね」
「ん?」
「この前はコーヒーを飲んでらしたので」
「そう言えば、そうですね。というよりも、先輩は食事中は紅茶ですよね」

「ああ。別にコーヒーが好きなわけじゃないからな」
「では、どうしてです?」
「ゲン担ぎのようなものだ。勝った後に苦いものを口にすると生きてるって気がするから」
「よくわかりませんね」

「別にわかって欲しくてやっているわけではないさ」
「しかし、理解しました。マクワイルド先輩には、次の戦いではコーヒーを諦めていただきます」
「ほう、勝つ気なのか?」
「いえ。自動販売機からコーヒーを撤去しようかと」

「それ、ヤン先輩より酷いな!」
「冗談です」
 くすりと笑えば、ライナは湯気の立つトマトパスタにフォークを入れた。
 ゆっくりとして、しかし綺麗にフォークをパスタに巻き込めば、小さく口にした。

 もぐもぐと口を動かせば、集中する視線にライナが気づく。
 すでに食事を取り終えている二人だ。
 必然的に集中した視線に、ライナはトマトパスタを選択したことを後悔した。
 なぜ、シンプルなパスタではなかったのかと。
 口にトマトソースはついていないだろうか。

 心配すれば、顔を隠すように俯き、何とかトマトパスタを嚥下した。
 そこから顔をあげられない。
「そういえば、先輩は士官学校のころはどうだったのですか?」
「俺は随分と模範的な学生だったぞ。ヤン先輩たちとは違ってな」
「はいはい。自称自称――」

 こんっと頭におかれるアイスティーに、アレスが後ろを振り返った。
 優しい表情をした青年が立っている。
 アレスは頭におかれたアイスティーを手にして、苦笑した。
「ひどいな、スーン」

「酷いも何も、本当のことでしょう?」
 くすくすと笑えば、スーンと呼ばれた学生はアレスの隣に腰を下ろした。
「初めまして。そっちの子は二度目かな、僕はスーン。スーン・スールズカリッター。変な名前だけど、よろしくね」

「よろしくお願いします。私はフレデリカ・グリーンヒル」
「ライナ・フェアラートです」
 助かったと紙ナプキンで唇を押さえながら、ライナはそう言えばと対面に座るスーンに問いかけた。
「マクワイルド先輩の学生時代はどうだったのですか」
「だから、模範的な――」

「そうだね。まずとんでもない負けず嫌いかな――アレスの陸戦技能の成績表って知ってる?」
「お、おい!」
「お聞かせください」
「一年の成績は本当にジェットコースターみたいだよ」

「と、いいますと?」
 身を乗り出すように問いかけたライナに、止めようとしたアレスを押さえて、スーンは話した。
 元々は陸戦技能は一切なかったこと。
 それでいて成績は良いため、他の学生からいじめに近い攻撃を受けたこと。

 休む間もなく、一時間近くも陸戦試合を挑まれたことなど、ライナとフレデリカですらも眉をひそめて、酷いと言った。
 そうなればアレスが止めようとしても、無駄だ。
 スーンが持ってきたアイスティをすする。
「でも。アレスはそこで止まらなかった。少しずつ実力をつけていって――最後には二度目の学年大会で、何と準優勝をしたんだよ」

 おおと驚きと尊敬の眼差しで見られても、アレスは憮然とした表情だった。
 疑問の表情に、息を吐く。
「ジェットコースターっていっただろ。決勝で上腕骨の複雑骨折でしばらく陸戦は見学になった」
 その言葉にフレデリカは顔をひきつらせた。
 驚くライナの視線に、スーンは苦笑した。

「決勝であたったのがあの、フェーガンでね。普通は適当にあしらって逃げるんだ。それがまともに戦いを挑んで――」
 ため息。
「なまじアレスも強いものだから、フェーガンも本気になってね。最後は全力の殴り合い。よく腕だけですんだね?」

「いや、足首も軽く靱帯が損傷してたが。それよりも腕がとんでもないことになってたから、誰も気づかなかった」
「……御愁傷さま」
 スーンの言葉に、同意するように二人も頷いた。
「でも、先輩もお強いんですね」
「うん。強くなってからは、フェーガンにくらいしか負けたことがないんじゃない?」

「いや、ワイドボーン先輩にも勝てなかったな」
「あの人は天才だからね」
「ワイドボーン先輩ですか」
「興味あるの?」
「ええ……」

 ライナは静かに頷いた。
 ライナが入学して、比較されるのはワイドボーンが同学年であった時の成績である。
 一部においてはライナが、そして他はワイドボーンが優れており、顔こそ知らないものの名前は良く聞かされていた。
 果たして二人が同じ時代であれば、どちらが主席であったかなどと直接言われたこともある。

 だから気にならないわけがない。
 そう答えて、ふとアレスを向いた。
「その興味があるというだけです」
「ワイドボーン先輩は有名だからね」

 苦笑をしながら、アレスはアイスティを飲みほした。
 ずずっとすする音とともに、お盆を手にする。
「そろそろ消灯も近いだろう。そろそろ失礼するよ」
 言葉にライナの顔に、一瞬叱られた子犬の様な表情が映る。

 止めようとした言葉は、しかし、消灯一時間前を告げる鐘に遮られた。
「明日も訓練だからな――ゆっくり休むと良い。フェアラートさんもな」
「ええ。先輩、ありがとうございました」
「随分と余裕なのですね」

 呟いた言葉に、アレスは笑みを浮かべ。
「御機嫌よう」
「――御機嫌よう」
 そんなアレスの言葉に小さく笑いながら、ライナが言葉を返した。

 軽くスーンを小突きながら、去っていく姿に、ライナが小さく息を吐く。
 再び食べたトマトパスタは、既に冷めていた。
 そんな様子を、隣でフレデリカが笑っている。
「何が面白いのですか?」

「ごめんなさい。でも、わかりやすいなぁって」
「何がです」
 驚いたライナに、フレデリカはただ楽しそうに微笑んでいた。


 少し離れたその席で、女性に囲まれながらウィリアムは笑っていた。
 一人に誘いを断れたところで、彼の誘いを断る人間は少ない。
 媚びるような言葉に、ウィリアムは楽しそうに微笑みながら、横目で見る。
 くそっ。
 それは言葉にも表情にも出ず、ただ彼の心の中で響いていった。


 
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