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宇宙を駆ける一角獣 無限航路二次小説

作者:hebi
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第二章 三話 後ろに向かって前進 後編

 
前書き
長らくお待たせしました!
 

 
空母グランティノ 艦橋

ネージリンスの新型空母、グランティノの艦橋ではワレンプス大佐が部下に指示を出しつつ惑星シャンプールに立て篭もるスカーバレル海賊団への奇襲作戦の第一段階として陽動攻撃の準備を進めつつあった。

「レーダーに今のところ反応はありません。アステロイドの近くなので油断はできませんが……」

「うむ。目視の警戒も怠るな。こうなれば目でも何でも頼る他ない。」

有視界戦においては二つの目ん玉、いわゆる【アイボールセンサー】が何より重要になる。
全てを機械化出来るだけの技術がありながら、未だに艦船の運用を人間が直接やっているのにはそういった理由もあるのだ。

「先行した前衛艦から通信。……異常なし、とのことです。」

「うむ、ではこれより……」

陽動を開始する。そう言いかけたワレンプス大佐の言葉を、グランティノの艦橋にはしった激震が邪魔をした。

「何事だ!」

「て、敵襲!」

「なんだと!?くそ、このアステロイドではレーダーが効かないから……!」

事ここに至りようやくグランティノのレーダーがスカーバレル海賊団の巡洋艦、【オル・ドーネ級】を捉える。
巡洋艦はちょうどグランティノと前衛艦の真上から砲撃を加えてきた。
恐らく、オル・ドーネの方も意図して待ち伏せしていたわけではないだろう。近くを巡回していたりした時に偶然グランティノを先に確認した。それだけのはずである。

「て、敵艦砲門に高エネルギー反応!攻撃きます!」

そして、オル・ドーネの両舷に取り付けられた特徴的な二門の砲門が火を吹き、応戦しようと上方に方向転換し始めた前衛艦の艦首を撃ち抜いた。

ユニコーン ブリッジ

ユニコーンのブリッジでは白野が先行したギリアスのバックアップのために周辺確認を余念なく行うように指示していた。
いくら奇襲のためにアステロイドを通っているとはいえ、不意の遭遇がないとも限らない。
見つかってしまえばせっかくの奇襲作戦が無駄になる。なので、ギリアスと他の艦の新米達に本来なら先行させる事はなかったのだが、白野は「何事も経験。いざとなったらユニコーンのスペックでゴリ押す」と結構無理矢理ワレンプス大佐に彼らの先行を認めさせたのである。

「先行したバウンゼィのレーダーデータ受信完了。こちらのレーダーデータと擦り合わせを開始。」

レーダーデータの共有を行って各々の艦の死角を埋め合うのは艦船運用の基本である。問題は艦船をどの位置に配置してどう死角を埋めるかにあるのだが、ユニコーンはその巨体ゆえに適当に近くにいるだけでも小型艦のレーダー範囲を軽く上回るのでそうした事は今まで意味がなかったが、幸いにもギリアスの乗艦、【バウンゼィ】にはユニコーンのレーダーよりも性能が底上げしてある特殊なレーダーが搭載されてあったので喜んでデータ共有を行っているのだ。

「ほお!バウンゼィのレーダーは一体どうなっている?どうかしたら大マゼラン製の物よりも上質だな」

配置柄レーダーをよく扱うゲイケットもバウンゼィのレーダーの質には感嘆の声を上げる。
恐らくはヤッハバッハ製の物であろうと白野は考えている。

その時、先行しているバウンゼィからギリアスの通信が入る。
白野がそれに応答すると、画面に写されたギリアスの顔は切迫していた。

「なんだ、どうしたギリアス?」

「やばべぇぞ!ワレンプスのおっさんの艦隊が奇襲を受けた!いま通信で救援を求めてきたところだ!」

「なに!?」

まさかこれに気がつかれていた?その考えを白野は否定する。アレはワレンプス大佐がすぐに考えつて実行に移した作戦。当然知らせられた人物も限られている。
……とすれば、裏切りがあったか本当に運悪く遭遇戦になったのかどちらかだ。

「ゲイケット!」

「今やってる……ああ、間違いない。こちらにも救援信号が来ている。」

「チッ!仕方ない、ギリアス!お前が救援に向かえ。ここで一番足が早い艦はバウンゼィだ」

「オーライ!」

ギリアスは通信をきると、ユニコーンのモニターに写る前方のバウンゼィが船体に取り付けた軌道修正用のブースターでターンするとワレンプス大佐の艦隊の反応がある宙域に向かって行った。

「さて、これで奇襲はできなくなった。こっちにもいずれスカーバレルの艦船が来るだろう。それは面白くない……ならばこちらから一気に攻めるのが吉、か。」

「賛成。手をこまねくよりも余程いい」

「ようし、方針は決まりだ。後続の二隻、【サウザーン】と【バクゥ】の艦長!」

「は、はいっ!」

「はい」

「作戦は奇襲から強襲に変更だ。派手に行こう」

新米達の返事を待たずに白野はユニコーンのエンジンを全開にするように鋭く指示を飛ばす。
それに呼応し、彼の愛艦は後背部のブースターをふかせて凄まじい加速を見せる。
後続の二隻は戦艦であるユニコーンよりも機動力は上であるのに、ついていくのに精一杯であった。



惑星シャンプール付近

ワレンプス大佐は焦っていた。まさか、こんなところにまで敵が出て来ているとは想像していなかったのである。
アステロイドが近い事も災いした。
敵艦はワレンプス大佐の艦隊をレーダーてま捉えたが、大佐の方は捉えられておらず、それが戦局を決した。

「くそっ!前衛艦がやられたのか……」

大佐の乗艦は空母グランティノ。元々艦船同士で撃ち合うための物では無い。それも災いした。
護衛のための前衛艦がやられた空母など、撃沈されるのを待つしか無い哀れな的なのだ。

「大佐!このままでは……!」

「わかっている!艦を後退させつつ艦載機を発進させる!時間稼ぎでもなんでもいい、とにかく撃つのだ!」

グランティノには申し訳程度の対艦兵装が用意されている。しかしわ気休め程度でしかないのだから牽制に使えればいい方なのである。
事実、スカーバレルの巡洋艦【オル・ドーネ級】はそんな物意に介するわけでもなくグランティノを沈めるためにレーザーを撒き散らしながら突撃して来る。
艦載機部隊の発進にはあと少しかかる。
万事休す、そう思われたその時、突撃して来たオル・ドーネ級が後背から砲撃を受けてブースターに直撃をくらい抵抗する間もなく爆炎の中に沈んで行った。

「!?どこの物だ?」

「ば、バウンゼィです!」

「おお、助けが来てくれたか!」

グランティノのブリッジに一瞬希望が見える。しかし、それはすぐにレーダー監視手の報告で打ち砕かれる。

「惑星シャンプール方向からさらに敵艦確認!数……12!?」

「おうおう、なかなか歯ごたえのありそうな奴らじゃねぇか!」

しかし、通信をいれてきたギリアスの表情にはいささかの不安も怯懦もない。これが、若さである。そう大佐は思った。

「ギリアス君、すまない。我々のミスだ」

「なさけねぇなぁおっさん!まあ、安心しな!俺が蹴散らしてやるからよ!」

これは無責任な放言ではない。
ギリアスは確かにあれだけの数の敵を倒せる実力を身につけつつあるのだ……

「すまない。こちらも艦載機で支援する。うまくやってくれ」

「おうよ!」



バウンゼィ ブリッジ

ギリアスは眼前に迫りつつある敵艦隊を認めるとすぐに戦闘体制を完了させ先手を打つべく加速して行った。

「ふん!お前らなんか……あいつに比べりゃ!」

主砲の二連射でたちどころに一隻撃沈しながらもギリアスの脳裏には自分をボコボコにした黒いファンクス級の事が浮かんでいた。アレに対するリベンジこそ今のギリアスの宿願であった。

「敵艦隊さらに接近!」

「構うな!このまま突っ込め!」

「了解!エンジン全開!」

一隻沈めたとはいえ、まだ十一隻残っているのだ。敵の実力を把握しつつそれでも油断しない。
そんな戦士としての能力をギリアスは次第に身につけつつあった。

「よし、今だ!回避機動!」

「うおおお!」

操舵手に指示を飛ばし、バウンゼィは急カーブを描いて敵艦隊の射線上から飛び退く。
直後、今までバウンゼィがいた空間には無数のレーザーやミサイルが飛んで来る。

「へっ!当たんねぇよ!」

「艦長、第二派来ます!」

「させるな!こっちから撃ちこめ!」

バウンゼィの砲門から連装レーザーが放たれ、敵艦隊の先頭にいた水雷艦を容赦無く打ちのめし叩き潰す。

「撃沈確認!」

「ぼやぼやすんな!すぐ離脱だ!」

艦隊戦の基本。撃ったらすぐ離脱。反撃を待ってやることなどない。ギリアスは白野にそれを徹底的に叩き込まれ、それを実践能力もあった。
一度ならず反撃を受けるも、その時にすでに射程範囲外に逃げていたからレーダーの索敵補助がない砲撃など当たろうはずもない。
追い、追われのシーソーゲーム。そして、遂に決着はついた。

「しずめぇぇぇぇぇ!」

ギリアスの気合と共に放たれた全砲斉射が四隻まとめて撃破し、残存の七隻は這々の体で逃げ出す。
ギリアスはそれを追わない。
追撃の際には罠に注意するべしとのことを、白野に言われていたからであるが、彼の性格なら追撃を仕掛けたいであろう。
しかし、彼は抑えた。有り余る若さを抑える精神力を備えつつあるのだ。

「ふぅ……よし、あのおっさんは生きてるか?」

「確認しました。空母グランティノ、健在です。」

「うっし。なら、とっととおっさん捕まえて合流するぜ。通信繋いでくれ」

「了解。グランティノ、聞こえるか?こちらバウンゼィ。艦長に通信を繋ぐ」

モニターに映ったワレンプス大佐は若干凹んでいるようだった。無理もない。部下を失ったのだ。凹まない方がおかしい。

「どうしたおっさん?元気ねえぜ?生き残ったんだからもっとシャンとしろよ」

「……ああ。そうだな……ではギリアス君、ユニコーンに合流するとしよう。ことここに至っては既に奇襲作戦の優位性は失われた。ならば、現有の戦力をすべて集中させて敵をまとめて討つ他ない」

「あ〜、いや。もうおっぱじめてると思うが……」

「む……」

「とにかく急いで合流するぜ。着く頃には倒す敵がいなくなってるかもしれねえが……」



惑星シャンプール上空

はたして、ギリアスの懸念は現実になりつつあった。
ギリアスがワレンプス大佐の救援に向かった直後、ユニコーンと随伴艦二隻は惑星シャンプールに到達した。
この時点で既に奇襲作戦の優位性が失われていることは白野も重々承知している。
なので、面倒ごとは抜きにしてユニコーンの持つ圧倒的性能でスカーバレル海賊団を壊滅させる挙に打って出た。

「敵艦隊補足。やはり警戒しています。」

「この後に及んで楽ができるとは思っていないさ。さぁ、やってしまおうか。宇宙の大掃除だ。」

「了解!ルートン、聞こえたな?構わんから本気でやれ」

「ああ。さぁて……腕が鳴るな!」

熟練砲撃手フー・ルートンによって導かれたユニコーンの圧倒的な火力。そして随伴艦もそこそこの速力を誇り、ユニコーンの撃ち漏らしを的確に処理していく。

「副砲、連射三連。手を緩めるな。このまま殲滅する。」

戦況はユニコーンに圧倒的に有利である。無理もない。小マゼランで絶対にお目にかかれない二千メートルクラスの超大型艦が自分たちに攻め入ってきているのだ。
精神的にも多大なダメージであることは明白である。
実際逃げ出そうとしたスカーバレル艦はいた。
しかし、愚かにも戦闘中に反転しようとしたその艦は動きが止まった瞬間ユニコーンのプラズマ砲の餌食となった。

「馬鹿め……戦闘中に動きを止めるやつがどこにいる?」

「実際いたな」

「ふん。だから死ぬのだ。死にたくなかったら動きすぎない程度にいつも動き続けた方がいいというのに。」

動かなければ的になり、動き過ぎればその先の機動を予測されて狙われる。そこ中間で先が予測しづらいように細かく動くのが一番いいのだ。

その時、ユニコーンのレーダーが新たな艦影を捉える。モニターに写されたそれらは、ある艦は砲塔が欠け、ある艦は装甲が凹み、またある艦はほぼスクラップも同然なまでにボロボロであった。

「敵の増援?……それにしては損傷が激しいな。」

「おおかたギリアスにやられて逃げてきたのだろう。ここからはギリアスも合流する。つまりは競争だ。どちらがより多く撃沈するかの……な。」

ユニコーンにおける冷静沈着の代名詞とされる白野はこの時に限って駆け出しの頃の熱血を取り戻していた。
血が滾ったのだ。若者に触発されて。

ユニコーンがあり得ない加速を見せる。そして、逃げる敵向かって来る敵全てを粉々に粉砕し始めた。



バウンゼィ ブリッジ

モニターには圧倒的火力で敵艦隊を殲滅していくユニコーンが映し出されていた。
さながら暴れ馬のようでもあるが、その狂暴な砲撃は全て完璧な理論と経験に裏打ちされた堅実極まる物なのでつけいる隙がない。ギリアスは内心で感動していた。自分が目指すのはあそこである、と。

「……負けてらんねぇな。」

「艦長、指示をお願いします。」

「ああ。突っ込む!」

「了解!」

そして、ギリアスもその砲撃の嵐の中に身を投じる。更なる苛烈な砲撃により、ユニコーンの嵐に揉まれるスカーバレル海賊団に引導を渡すために。

「目標確認!照準固定!」

「全砲斉射!ぶちかませ!」

プラズマの赤。レーザーの青。それぞれが色とりどりの殺戮の光である。
本来は奪う側であるはずの海賊が、今は他人に生殺与奪の権を握られていた。

そして、しばらくするとそこにはもう単なるスクラップとかつて人だった有機物が漂うだけの黒い宇宙が広がっていた。



ユニコーン ブリッジ

狂乱を終えたユニコーンはシャンプールを正面に捉えて静かに佇んでいた。

「惑星シャンプールの海賊団アジトから全周波通信。降伏を申し出ています。大人しくするから公平な裁判を受けさせろ、とのことです。」

「勝手な奴らだ……ま、公平な裁判を受けたところで死刑は変わらんだろうがな。とにかく、この件はワレンプス大佐に決定権があるだろう。通信を中継してグランティノに回してくれ。」

「了解」

ユニコーンは通信機能も強化されている。ここから離れた場所で待機していたグランティノにも十分明瞭な通信ができるのだ。
モニターには通信中継中という文字が踊る。
しばらくしてワレンプス大佐は海賊団の全面降伏を受け入れたようだ。今度はユニコーン側にグランティノより通信がきた。

「白野艦長、感謝する。連中のほぼ全てを捕縛することができそうだ。」

「それはいいが……レーダーに写っているあんたの艦隊の前衛艦、救助に回った方がいいか?まだ生きているのがいるかもしれんぞ?」

「ああ、それなら問題ない。戦闘には参加できなかったが、その時間で前衛艦の生き残りは救助しておいた。現在も続けているが当たりどころが良かったのだろう。ほとんど全員生きていたよ。」

「それはよかった。では、我々は一足先にシャンプールに向かう。海賊連中はどういうてはずで武装解除するつもりだ?」

「彼らの現有戦力はほぼ全て君達が撃破した。宇宙戦力は全滅のようだ。グランティノで空中から威圧しつつこちらの陸戦要員が降りて行って連中を捕縛する。」

「なるほど。では先にシャンプールで待っているぞ。……生き残りの回収は【念入りに】行うことだ。」

「わかっているさ…」

痛苦に歪むワレンプス大佐の顔を見送りながら白野は既にユニコーンを反転させると惑星シャンプールへと向かって行った。
随伴艦二隻は残念な事にこの戦闘でエネルギーを使い果たしたのかフラフラとした危なっかしい挙動をしながらユニコーンの後を追って行った。
さらにその後ろから意気揚々といった表現が相応しいギリアスのバウンゼィがついて行った。



スカーバレル海賊団オル・ドーネ級巡洋艦【デスペラード】

あれほどの殺戮の嵐を生き延びたスカーバレル海賊団なといない。誰もがそう思った。しかし、物事には必ず例外が存在するのである。
例えば略奪活動のために一時的にアジトから遠く離れており置いてけぼりの仕打ちを受けたオル・ドーネ級の艦長【ドミニコ・ルース】とその副官……というより腰巾着の【キト】がそうである。

「おおおおお親ビン!?どうなってるんでゲス!?」

「知らねえよ!帰ってきたら訳のわからんデカブツとネージリンスのポリ公がアジト潰したなんて知らねえよ!」

「わかってるじゃないでゲスか!」

「やかましい!とにかく、こんなところにいられるか!とっとと……」

「どうするのでゲスか?戦うのでゲスか?」

「馬鹿野郎!俺たちスカーバレル海賊団に後退の二文字はない!あるのは前進のみ!」

「戦うのでゲスね!」

「馬鹿野郎!んなことやったら死んじまう!……う、後ろに向かって前進だ!」

「はいでゲス!」

こうして、ネージリンスで活動していたスカーバレル海賊団の生き残りは僅か一隻ながらも逃走に成功したのである。



惑星シャンプール スカーバレル海賊団の宇宙港

「お、俺が悪かった、だから命だけは……」

「やかましい」

命乞いをする情けないスカーバレル海賊団の一味をタラップから降りた白野は冷厳に切り捨てた。
といっても全面降伏を受け入れた手前、殺すわけにもいかずスークリフブレードの剣の腹で後頭部を瞬時に殴打しただけに済ませたのは白野の0Gドッグとしての誇りのおかげである。
気絶し、白目を剥いて倒れる海賊を蹴って退かすと白野は通信端末を取り出して整備士のハル・バークに連絡した。

「バーク、資材と場所、手に入ったぞ。すぐ始めてくれ。」

「了解」

白野が目をつけていたのはスカーバレル海賊団が使っていた宇宙港の資材倉庫に保管されていた連中の宇宙船の製造材料であった。
本来の持ち主……といっても全て非合法に手にいれた物だろうが……はこの通り降伏したので今は持ち主なしのフリーな状態。
ならば、貰ってしまおう。どうせ誰も気づきやしない。ばれなきゃ犯罪じゃないし、この場合ばれても犯罪じゃない。
出発前にバークと話したユニコーンの大規模改造プラン。
空母としての機能を取り入れつつ戦闘能力をそこなわないようにバランスを取るという極めて難しい難題である。
当然、試作一号、二号、三号と試行錯誤を繰り返す必要があるが、それだけの資材を揃える財力はユニコーンには無い。
これ以上台所事情を悪化させると、経理のバロウ・バウトが過労で吐血するだろう。
なので、他人の……もとい持ち主のいない可哀想な資材を有効利用するのだ。
勿論、余ればその分は売却する。
一石二鳥のお得すぎる成果であった。

「さてと……貴様らはグランティノの倉庫で楽しい船旅を」

「ひっ!?」

去り際に一人の海賊に消えないトラウマを残すほどの鋭い眼光を見せた白野はスークリフブレードを鞘に仕舞いながら宇宙港の奥へと入って行った。
スカーバレル海賊団の支配から離れたこの宇宙港の設備を最大限利用するために宇宙港のシステムを掌握する必要があるのだ。



宇宙港 中央制御室

中央制御室では白野が既に来ていたバークの手伝いを受けてシステムの完全掌握に成功していた。
本来ならイタチの最後っ屁とばかりにスカーバレルがウイルスでも仕掛けたと思っていたが、ユニコーンとバウンゼィの猛攻撃はそんな暇すら与えなかったようだ

「あー、テステス。聞こえるか、ゲイケット?」

「良好だ。宇宙港のシステムは完全に掌握したようだな。」

「ああ。これで好き勝手できる。」

「……艦長、悪い顔してるな。」

「ふん。気にするな。これでユニコーンはさらに強くなる。目標は……そうだな、ヴァランタインを越えるか?」

「あんたならできそうで逆に怖い。」

「ひどい言われようだ。……ああ、それとギリアスにも余った資材を回してやってくれ。改造に使うなり売るなり好きにしろと言っておいてくれ。」

「了解だ。それにしてもあの若いのがここまで強くなるとは……」

「ギリアスの本質はその成長速度だ。育てれば何処までも強くなる……そういうタイプさ。」

「ほぅ?では艦長は?」

「俺は良くも悪くも早熟型だろうな。これより先に行くには苦労するかもしれん。」

「おいおい、さっきの威勢はどうしたんだ?あんたはヴァランタインを超えるつもりなんだろう?」

「ふん、違いない。ここで止まるわけにはいかんな。そうとも。俺はまだ若い。伸び代はあるはずだ……そのはずだ」

最後は若干自分に言い聞かせるような口調であった。

「でだ。捕虜のことだが、ワレンプス大佐がグランティノの倉庫にぶち込んで連れていくそうだ。随伴艦の二人も足りない分を自艦の倉庫で賄うためにワレンプス大佐とこの星を離れる。」

「そうか。で、ネージリンスが俺たちに払う報酬は?」

「聞いて驚け、クレジットの他にもこいつをデータ転送して来た。」

ゲイケットが中央制御室のモニターにアクセスしてあるデータを表示する。

「……ネージリンス、セグェングラスチ製内装モジュール一式か。なかなか豪華なラインナップだな。食堂に……主計局、シップショップまであるとは、痛みいる。」

ネージリンス政府はここでの流通をそれほど重視していたということだろう。なんにせよ、有難い。

「艦長……」

「ん、では始めよう。確かデータはあったな?」

「あります。とりあえず二パターン。外付けタイプで容量増加を狙った物と内装を大幅に見直して余ったスペースにカタパルトと格納庫を統合して設置するタイプ……」

整備のことになると普段よりもはるかに饒舌になるバークの説明はまだまだ続く。

「前者は容量、発艦速度ともに後者に勝りますが外付けなので機動力に問題が出ます。その分の装甲強化が必須となるでしょうが、そうすると重くなってさらに機動力の低下が深刻化します。機動力を重視する艦長には向かない改造かもしれません。」

「ふむ……そのプランのグラフィックデータはあるか?」

「これです。」

バークが中央制御室のコンソールパネルにデータプレートを挿入して記憶されていたデータをモニターに表示する。
外見上の変化が著しく、ユニコーンの後方にある二つのブースターが取り払われてそこにグランティノのようなレールカタパルトが搭載されていた。

「……確かに、隕石の間を縫っての奇襲は出来なくなるな。これは。……よし、もう一つのプランのデータも頼む」

バークがコンソールパネルを操作し、さらに別の画像データを表示する。

今度は目立った外見上の変化は見られないが、一部艦の底部に発艦用の出撃口なのだろう、艦載機二機分の穴が空いていた。

「こちらは機動力は保たれています。しかし、問題点だけなら前者よりも多いと言えます。まずは艦載機の搭載容量ですが、いくら見直しをしたとしても流石にスペースは限られているため小型の物でも最大二十機が限界でしょう。発艦速度も遅くなりますね。見ての通り発艦用の出撃口は一つでしかも大きさは二機分しかありません。全機出撃にはどんなに短く見積もっても三分はかかります。これはドックファイトにおいて絶望的な差になるでしょう。」

「……折衷案、考えるぞ。なんとか両方の利点を取りたい」

「了解。全力を尽くしましょう。」

「いや、バークお前には他に頼みたいことがある。」

「はい?」

「艦載機と言えば……人型兵器だ。つまりは……浪漫だ。後はわかるな?」

バークの目に曰く形容し難い光が広がった。
そして、白野の手をがっしりと握る。

「艦長……あなたに雇われて本当に良かった」

「ああ。共に浪漫道を極めようじゃないか。」

「艦長!」

浪漫を解した漢達に最早言葉は不要。二人の漢は共にそれぞれの求める浪漫のためにコンソールパネルに向き直ると凄まじい勢いでキータッチを始めた。
二人のキータッチはそれぞれが最早芸術と言えるほどの冴えをもってして誰もが子供の頃に一度は憧れたであろう【カッコイイロボット】と【凄い戦艦】を紡ぎ出していく。
そしに、それから約二時間後、漢達の浪漫の結晶はデータプレートという形をとってこの世に顕現することになるのであった。

続く
 
 

 
後書き
みなさん、艦載機のカテゴリーに人型機動兵器という物がありますが私が無限航路で最初に期待した人型機動兵器というのは
【ガンダム】でした。
しかし、ゲームに出て来た人型機動兵器はよく言ってマクロスの【ヴァルキリー】。
しかし、これは二次小説。作者の良心が痛まず、読者から不評を買わない程度ならその範囲で好きにやれます。

というわけで次回出てくるオリジナル艦載機にガンダムのモビルスーツをもってくることに決めました。
エース達の空中戦…飛び交うビーム…ワンオフの専用機…胸が熱くなります。
 
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