問題児たちが異世界から来るそうですよ? ~無形物を統べるもの~
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スレイブ
「で、話したいこと、あるんでしょ?」
着くなり、マスターにそう切り出されます。
どう始めるか悩んでいたので、助かります。
「はい。マスターは私のことを、どう認識しているのですか?」
これが、私が確認したいこと、昨日推測していたことだ。
「どうって?」
「そのままの意味です。あと、ここからは割りと本音で話すので、口調が荒くなってしまうかもしれませんが、お許しください。」
「べつにいいよ。で、どう認識してるかだけど・・・仲間。友達。あとは、家族、かな。」
「あなたの剣、ではなく?」
「それもあるけど、さっき上げたのの方が大きい。」
やはり、そうでした。
「つまり、私のことを人間として認識していると?」
「当たり前だろ?」
「当たり前では有りません!」
でも、それは違います。
「私は剣!あなたが振るう、あなたの剣!決して人ではない!」
「人だよ。」
「だから違うと」
「違わない。そんなことを言うな。」
マスターはいつもよりも低い声で、私の言葉を遮る。
「スレイブはしっかりと自我を持ってる。自分というものを認識してる。そういうやつらは、人だよ。」
「違います!私は、」
そこで、私は一度剣の姿になり、また人の姿を取る。
「今のような姿に成れる!そして、今の姿が私の本性です!」
「だからなんだ?それにお前も言ってたじゃないか。“私も一応、女ですよ?”って。」
「それは・・・確かにそうです。ですがっ、私は剣で」
「それは関係ないってさっき言ったよな?」
マスターは、どうして私をそう見るのですか。
「俺は、お前の本質が何であろうと、人としてみる。認識する。」
どうしてそんなに、優しいのですか。
「どんな姿になれるかだって、何も関係ない。俺も人ならざるものの姿をとれる。妖怪、魔物、そういったものにな。」
それでは、ダメなんです。
私は、剣なのだから。
「・・・私はっ、魔剣、ダインスレイブでしたっ。」
なぜでしょう?嗚咽が出てきてとてもしゃべりづらいです。
「ですが・・・私は呪いを失い・・・剣と、なった。」
マスターを見ますが、視界もぼんやりとしています。
それに・・・頬が、何かで濡れているようです。
「それでも、私は、剣、です。ただ、振るわれるもの・・・。」
これでは、マスターの顔がよく見えないじゃないですか。
「なのに・・・私はっ、感情を持った。憎悪の類ではなく・・・喜びを。楽しみを。持ってしまった。」
そして、マスターに情けないところを見せてしまいます。
「それは、剣に、あるまじきこと、です。でも、マスターは、」
両手を使い、涙を拭いますが・・・止まってくれません。
「なぜ、マスターは優しくするのですか!それがなければ・・・感情を持たずに、いれたのに・・・」
これでは、情けない姿は一向に直りません。
「これでは、マスターの、お役にたてない。恩を、返せません!」
それに、マスターのお顔が、見えません。
「お願いですから・・・私に、恩を返させてください・・・」
こんなにも見たいのに、見ることが出来ません。
「お願いしますから、私を・・・」
でも、何でこんなことを思うのでしょう?私は、剣なのに。
「私を、あなたの剣でいさせてください・・・」
ああ、それでも、こう思わずにはいられない。
「あなたと共に、いさせてください・・・」
きっと、マスターは微笑んでくれている。
私のことを、やさしく見てくれている。
それを見たい。
でも・・・見ることが出来ない。
力が抜けて、私はその場に腰を下ろしてしまいます。
崩れる様に、下ろしてしまいます。
「そっか。ありがとう、スレイブ。」
なぜ、ここでお礼を言うのでしょう?
「でも、それは間違いだよ。」
マスターは、言いながらゆっくりと、私に近づいてきます。
「そんなに悩ませちゃったのは、あんな言い方を、俺の剣になってくれって言った、俺のせいだ。本当に、ごめんな。」
マスターは私に謝りながら、近づいてくる。
そんなことはありません。私は、あの言葉に助けられたのですから。
謝るのは、私のほうなんです・・・
「だから、ハッキリと言っておくよ。」
マスターは、私の目の前まで歩いてきました。
そして、私の頭に手を置いて、
「俺は、そんなスレイブのほうがいい。」
撫でながら、そう言ってくれました。
それは、反則です。涙が、余計に止まらないじゃないですか。
「嘘、です。そんなの、」
「嘘じゃないよ。俺は、今のスレイブに一緒に居て欲しい。」
私は、声を上げないよう、必死になきます。
そこまで情けない姿は、見せたくありません。
「だから頼むよ、そんなこと言わないでくれ。」
「でもっ、私は剣なのに、」
「確かに、お前は剣だよ。でも、感情はあっていいと思うんだ。」
さっきより、嗚咽がひどくなってきました。
「むしろ、そうであって欲しい。剣として一緒に居るなら、それだけの時間を過ごすなら、家族みたいなもんだろ?」
「家族・・・?」
ああ、ダメです。
もう、感情を抑えるのが辛いです。
「ああ。家族。そして、家族には笑顔でいて欲しい。」
「私は、家族になっても、いいのですか?」
「いいよ。」
「私は、剣なのに。」
「いいんだよ。それに、俺は人としてみてるんだ。」
「迷惑に、感じるかも、」
「家族ってのは、そういうもんだ。妹が兄に迷惑をかけて何が悪い。」
もうダメです。
聞かずには、いられません。
「では、箱庭にいる間、あなたと共に居て、いいのですか?こんな、剣として中途半端な、私が?」
「もちろんだよ。ってか、箱庭を出てからもだ。」
マスターは、私の望み以上のことを許してくれた。
感情を持っていても、関係ないといってくれた。
マスターの剣で、いさせてくれた。
「だからさ、もうそのことで悩むな。
感情を持ってていいんだ。むしろ、喜ぶべきことなんだ。」
そうか、私は・・・それを、受け入れることが、出来なかったのか。
「スレイブが望むなら、一緒にいて欲しい。
剣として、仲間として、友達として、家族として、妹として、一緒にいて欲しい。」
そういって、マスターは、私を抱きしめてくれた。
ああ、なんて暖かいのだろう。
もう、我慢できないじゃないか。
「うあ、マスター、私、私、」
「もう我慢するな。泣きたいときには、泣いていいんだ。声を上げて、泣いていいんだ。」
「でも、私・・・」
「いいんだよ。一回泣いて、すっきりしろ。泣き止むまで、一緒にいるから。
感情は全部、受け止めてやるから。」
私は、そこでもう我慢が出来なくなり、声を上げて、泣いた。
生まれて始めて、感情をさらけ出した。
マスターは、そんな私を、優しく、抱きしめてくれた。
私が泣き止むまで、ずっと。
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