真・恋姫無双 矛盾の真実 最強の矛と無敵の盾
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反董卓の章
第2話 「全部、俺のせいか! くそっ……!」
前書き
PCの調子が悪いです。
近いうちに、PC修理するか、交換することになりそうです。
その場合、更新が一週間ぐらい止まるかもしれません。
といっていたら、本当に壊れました。
次回更新は11月9日を予定しています
―― 張勲 side ――
「何進大将軍が……暗殺された?」
「はい……確かなようです。いかがされますか、張勲様」
「うぅ~ん…………そうですねぇ。私としては、美羽様さえいれば、あとはどうでもいいんですけどぉ……」
「実は、袁紹から袁公路様宛に協力要請が届いております」
「袁紹さんからですか~……多分、仇討ちしたいから手を貸せ~ですかねぇ?」
「そのようです……いかがいたしますか?」
「そうですねぇ……美羽様の今後を考えるとぉ~まあ、手を貸しておいたほうが有利な気がしますから。手勢をお貸ししておきましょう」
「袁公路様には……」
「内緒にしておきましょう。美羽様には、刺激が強すぎますから。貴方たちも黙っててくださいねぇ? 言ったら、殺しちゃいますよ?」
「は……」
「宦官さんには、散々手を焼きましたしぃ~美羽様の為にもならないから、この際すっきりお掃除しちゃいましょう。あ、できたら殺しの首謀者は、袁紹さんに全部おっかぶせましょうか~」
「分かりました。あくまで我々は裏方、というわけですな?」
「当然ですよ~宦官大虐殺なんて、そんな汚名を美羽様に被せるわけにはいかないですからねぇ」
「もし、我らの関与がバレた場合は……」
「ん~……ああ、それなら鄴の袁紹さんの近くにいる……曹操さんの仕業ってことで。手勢には『曹操軍』と言わせるようにしておいてくださいね」
「確かに曹操でしたら、同じ西園八校尉でもあるので、そうと思わせやすいですな……わかりました」
「それじゃあ、そういうことで~……私は、美羽様にはちみつ水を持っていかないといけませんから。後はおねがいしますね~」
「了解しました……クックック」
―― 盾二 side 漢中城内 宰相執務室 ――
劉虞について、詳細な情報を集めるように指示をしてから、早くも二月近くの時間が流れた。
その間、北平の白蓮にも書状を送り、それとなく手を貸すことを書状に認めておいた。
まあ、桃香あたりは『劉虞さんに話をしに行きたい』等と書いて送ったらしいのだが……
さすがに白蓮、そのあたりは心得たもの。
桃香宛に『く・ん・な』と怒りの文面で送り返してきた。
まあ、そうだよな……話してわかるなら、白蓮がそこまで苦労はしないだろう。
俺宛の書状には、劉虞の非道とそれによる民の離反の対応に、日々追われていること。
そして、自分がほとんど劉虞の直臣のように扱われて、北平の統治にまで口出しされていること。
それでも、漢の重臣であり、皇族の劉虞を支えるのが自分の役目だと、悲壮な意思を持っていること。
だからこそ、俺達の手助けは無用だと……断りの文面を送ってきた。
その心遣いだけはありがたく受け取る、との感謝と共に。
その書状を読んだ後、俺は深い悔恨を覚えた。
(すまない、白蓮……たぶん、それは俺のせいだ)
劉虞という人物は知っているが、その性格がどうだったのかは、俺はよく覚えていない。
だが、本来の歴史の公孫瓚という人物ならば、それなりに知っている。
本来の公孫瓚は、若いころは野心があり、北方の雄、白馬長史と勇名がありつつも……その晩年の本質は、嫉妬深く、強欲だった。
異民族に対しても苛烈で、確か劉虞が懐柔策として与えた恩賞を略奪すらしていた。
それゆえに劉虞と不仲になって、最終的に劉虞を殺したはず。
この世界の公孫賛……白蓮とはえらい違いだ。
だからこそなのだろう。
歴史を修正するために……おそらくは、劉虞を悪人に仕立てたはず。
その元凶こそ……于吉、あの仙人の仕掛けだろう。
(俺があんなことを言わなければ………………すまん、白蓮)
初めて于吉と会った、あの巴郡での会話。
あれが全ての……俺の罪。
俺は、俺が起こした歴史改変の対価を……白蓮に押し付けたのだ。
(俺はただ……彼女に、名声を得られるようにしたかっただけなのに)
その結果が……これだ。
本来、劉備……桃香が背負うはずだった流浪の日々の代償を、白蓮に味わわせることになるかもしれない。
そのことに……もっと早く気づくべきだった。
(違う……俺は利用したんだ。そこに……その場にいる白蓮の状況を。彼女に……恩を返すだなんてことを免罪符にして)
考えが……足りなかったんだ。
仙人である于吉は……ちゃんと言っていたはずだ。
『歴史の流れが求めるのは、『大本』という本流です。その事象が起これば、演じる役者は誰でもいいのですよ』
「全部、俺のせいか! くそっ……!」
俺は自分の拳を、机に叩きつける。
ぎしっ、と固い樫の机が、軋む音と共に、周囲にいた朱里と雛里が、体を震わせて俺を見た。
「!? ど、どうしたんですか?」
「じゅ、盾二……様?」
あ、いかん……
ここは宰相の執務室だった。
事情の分からない二人と、その周囲にいた簡雍たち文官も、驚いた目で俺を見ている。
「………………なんでもない。すまん」
言えるわけがない。
俺が言った言葉が……白蓮を苦境に立たせているなんて。
その理由が……歴史の修正のためだと。
―― 孔明 side ――
盾二様が苦悶の表情で、手に持つ書状を睨みつけています。
あれは確か……北平にいる、公孫賛という方からの書状のはず。
公孫賛さんは、私達の支援物資や資金の提供も丁重に断ってきました。
いわく――
『これは劉虞様と私……そして幽州の問題なんだ。桃香や盾二の気持ちはありがたいけど、私がなんとかするよ』
返信の書状にはそう書かれており、その内容が逆に公孫賛さんの立場の危うさを物語っていました。
だからこそ、他領……しかも最近、州牧になったばかりの桃香様を巻き込めない、そう言っているのです。
公孫賛という方に、私や雛里ちゃんはお会いしたことはないのですけど……話しに聞く限りでは、かなり人の良い方のようです。
それだけに、色々抱え込んでしまいそうな印象もあるのですが……
それに……酷な言い方ですが、私としては公孫賛さんが物資の支援を断ってくれたことに、実は安堵しているのです。
なにしろこの梁州……漢中から北平までの距離を考えれば、物資の移送には大変な危険が伴います。
どんなに早い馬を使ったとしても、片道半月はかかる距離。
人より遅い、物資を運んでの移送ともなれば、二ヶ月以上はかかろうというものです。
その間に、賊や各領地の通行手段や、道中の経費など、送る量の十倍近くの経費がかかるでしょう。
そもそも、北平の前に劉虞のいる平原がある以上、その物資を奪われかねないという懸念もあるのですから……
盾二様や桃香様には悪いのですが……そもそもの前提が無理なのです。
距離が……遠すぎます。
「じゅ、盾二様…………あの、よろしいでしょうか?」
?
隣の机にいる雛里ちゃんが声を上げる。
雛里ちゃんの言葉に、苦悶の表情のままで、盾二様も顔を上げた。
「……なんだい?」
「公孫賛さんの件……物資は無理でしょうが、人的支援とか中央への圧力とかの方法はできないでしょうか? もしくは周辺の異民族への依頼とか……」
え?
ひ、雛里ちゃん、正気っ!?
「…………………………」
盾二様も唖然として雛里ちゃんを見ています。
そんなことをすればどうなるか……それがわからない雛里ちゃんでもないはず。
「……どういう意図だ」
「ええと……人的支援は、旅人ということで少しずつ派遣が可能です。中央への圧力は、劉虞の非道の証拠を董卓さんに知らせてはいかがでしょうか?」
「………………」
「北には烏桓族がいます。資金や物資の提供の代わりに、劉虞への攻撃もできるのではないかと……」
雛里ちゃんの提案。
それは、可能性が薄いながらも、現状できる可能性の中では一番高い部類のもの。
でも、その効果は………………残念ながら薄いと思う。
「……ダメだな」
盾二様も首を振る。
当然です……
「まず烏桓は論外。ツテがない。次に、人的支援だ。商人を使っての資金提供、物資支援はできないことじゃない。だが、人となると……捕らえられたら、俺達の関与が明るみに出る。それは桃香にとって致命傷だ」
「………………」
「中央への圧力……これも無理だ。董卓は前将軍……いや、今は少府だったか。中央に実権は残っているが……并州牧にする動きもある。むしろ、後ろ盾だった霊帝を失ったために、排斥されようとしているんだ。そんな折に皇室の劉虞に対して影響力があるとは……」
「…………そうですか」
雛里ちゃんが項垂れます。
でも……雛里ちゃんならこれぐらいわかっていたはずです。
それでも……それでもご主人様の様子に、少しでも可能性を示してあげたかったのでしょうか?
「烏桓、か……いや、白蓮の手助けをするとも思えないな。元々北方を護る白蓮にとって、烏桓は敵だ。それは向こうにとても同じだろう。どちらかと言えば、劉虞が烏桓と手を結ぶほうが自然……くっ、そうか、そっちの懸念もあるか」
盾二様がさらに頭を抱えました。
そうです……劉虞が公孫賛さんを排斥しようとするなら、烏桓と手を結ぶ方が劉虞にとっても、烏桓にとっても都合がいいのです。
その場合、公孫賛さんは……
「……白蓮に密書を出す。烏桓に気をつけるようにな。あとは…………………………いや、無理か」
何かを考えついたけど、諦めた。
そんな盾二様の様子に、私と雛里ちゃんは顔を見合わせました。
「……朱里、雛里。俺は桃香に話にいく。後は頼んだ……」
そう言って悲壮な表情で立ち上がる盾二様。
本当に……本当に打つ手はないのでしょうか?
―― 劉備 side 王座の間 ――
「……そっか。白蓮ちゃんは断ってきたんだ……」
私が顔を伏せると、ご主人様は神妙に頷いた。
「桃香……援助を断ってきた以上、白蓮に俺達ができることは……」
「………………」
ご主人様の言葉が詰まる。
私は、私宛に来た白蓮ちゃんの書状を見ながら俯く。
「『くんな』って……ひどいよね。まさかこんなにおっきな字で書くこと無いと思うよ……」
「…………白蓮は、桃香が心配なんだよ。桃香なら、無茶をしてでも……全てを投げ打ってでも自分のもとに来ようとしそうだ、ってわかってるんだろうな」
「…………白蓮ちゃん」
白蓮ちゃんが、私のことを考えて無理をしているのは痛いほどわかる。
そんな白蓮ちゃんに、私は……何もしてあげられない。
…………私は、州牧になったとしても、なんて無力なんだろう。
「ご主人様……本当に、本当にもうなにもできないの?」
「………………」
「ご主人様……」
私の言葉に、唇を噛み、目を伏せるご主人様。
その表情を見て……それが叶わないことだと、私にも分かった。
「そっか……」
「…………今は、打つ手が無い。白蓮が援助を断っている、今の段階では……」
「……うん、そうだね」
きっと、白蓮ちゃんなら断ると思っていた。
ここ梁州から、幽州は遠い。
だから、その援助の輸送にかかる代償を考えれば、それがいかに無理か、私でもわかる。
それでもご主人様は……白蓮ちゃんが援助を請えば、絶対に物資を送ったと思う。
それがわかるからこそ……白蓮ちゃんは断った。
……本当に、私は無力だ。
その方法すら、ご主人様に頼っている。
これじゃあ、あの時と……
全てを放棄して、ご主人様に任せていた時と変わらない。
「……わかりました。ご主人様、白蓮ちゃんへの援助はもういいよ」
「!? 桃香……?」
うん……だから。
だから私ができることは……
「白蓮ちゃんは、自分でなんとかするって言ってる。だったら……白蓮ちゃんを信じようよ」
「………………」
……決断すること。
それが例え、非情の選択でも……
私の責任で、それを選ぶこと。
「白蓮ちゃんに負い目があるのは……みんな一緒だからね?」
「!?」
ご主人様が目を見開いて、私を見る。
まるで、自分の心中を鷲掴みにされたような……そんな顔。
「ご主人様一人で……気負わないで」
「と、うか……」
「ご主人様……優しすぎるもん」
そう言って、私は笑う。
もしかしたら……うまく笑えてないかもしれないけど。
それでも私は……笑う。
「……これで、白蓮ちゃんの話はおしまい。ありがと、ご主人様……」
「桃香、君はそれでぃ…………………………………………っ…………わかった」
驚愕したような顔で……そして、次第にそれを抑えこむように、ご主人様は顔を伏せる。
そのまま一礼すると、王座の間から退室した。
そして、王座の間には……私一人になる。
ポタッ…………ポタッ………………
「……めんなさい………ご………さい………………ぱい、れんちゃ……………………」
顔を伏せた私の声が………………広い王座の間に反響して、私の耳に響いた。
―― 関羽 side ――
月明かりが煌々と照らす夜。
私は一人、外壁の上へと足を運んでいた。
漢中の外壁は、現在の拡張計画により、その遥か先には新しい外壁が建造中になっている。
その外壁が完成すれば、この外壁は内壁と呼ばれるようになるだろう。
あとしばらくもすれば、この内壁の上から新しい街並みが見えるようになるのだろう。
「おや?」
不意に、階段を登りきった私の横で声がする。
その階段の先にいたのは……星だった。
「星……なにをしておるのだ?」
「ふっ……なにをとは、また無粋な。決まっておるではないか?」
そう言って、星が自身の持つ盃を傾ける。
……そうか、お主もか。
「そういう愛紗も……珍しく酒を持っておるのだな」
「私とて飲みたい時もある…………隣はよいか?」
私の言葉に、星は黙ってその場から横にずれた。
私は、星の隣に座り……酒を自分の持ってきた盃にいれて、一気に煽る。
「ふう……」
「ふっ……乱暴な飲み方だ。愛紗らしくもない」
「私らしい……か。所詮、私は武骨者だ」
思わず自嘲しつつ、再度盃に酒を注ぐ。
その酒も、すぐさま飲み干した。
「……それでは酒がまずくなる。愛紗よ……何事も『風流』を考えることだ」
「…………そんなもの、考えたこともない」
「やれやれ……これではご主人様も苦労するというものだな」
「ご、ご主人様は関係なかろう!?」
思わず声を荒げる。
私の様子に、きょとんとした星が、すぐに笑い出した。
「くっくっく……武骨者とはいえ、乙女心は別物ということか。いやいや、愛紗……先程の言葉は訂正する。十分、愛紗らしい」
「~~~~~~っ!」
ぐいっと盃を傾け、その中身を臓腑へと落としこむ。
駆けつけに三杯空けてしまった為か、私の顔がかぁっと紅くなっているのがわかる。
「いやいや……それは誤魔化しだろう」
「う、うるさい! 私は………………その」
「はっはっは………………ああ、すまんすまん。お互い、今日は……静かに飲みたいものな」
「……星」
星が自嘲気味に苦笑して、自身の盃を煽る。
その言葉の意味に気づいて……私は、静かに座り直した。
「……桃香様が、白蓮殿への援助をしないことに決めた」
「……………………そうか」
私の言葉に、星は静かに目を閉じた。
「…………星はいいのか?」
「はっ……私が何を言えようか。私は伯珪殿を裏切って、桃香様の元に来た身……今更、伯珪殿の処遇に何が言えようか」
「星、お前…………まさか、真名を返上したのか?」
そう言えば……星がこの梁州に来て以来、白蓮殿の真名を口にしていない。
以前から時折、字と真名を交互に言っていたことはあったが……
「ふっ……裏切った私が、真名を戴いたままでいられると?」
「……白蓮殿は、そんな器量の狭い方ではなかろう。元々、客将としていたのだ。客将とは、一時身を置くだけのもの……例え、途中で離れたとしても、それは双方同意の上。何ら卑下するものではないだろうに」
「いや……私は、劉虞の所業に許せなかったのではない。伯珪殿に……許せなかったのだ」
「星……?」
星が渋面の顔になる。
あの白蓮殿が、許せなかった……?
「伯珪殿は……あれだけ伯珪殿自身にも失礼なことを続ける劉虞に対して、全く反抗を示さなかった。劉虞が宗正であること、幽州州牧であること、そして……自分の上司であることを理由に、だ。私はあの時……それが許せなかった」
「………………」
「伯珪殿は漢王朝に忠誠を誓っている。それはわかる。わかるが……私にはその姿を『覇気がない』と断じていたのだ」
「星……」
「今ならわかる。伯珪殿は、民衆を……北平の民、幽州の民を想って、その苦渋を耐えているのが。だが、当時の私には……それがわからなかった」
そう言って、自分の盃を煽る星。
飲み干したその顔は……まるでとても苦い酒を飲み込んだようだった。
「この梁州に来るまで……恥ずかしながら私には、弱い者が見えていなかった。いや……『民』というものが見えていなかったのだ。己の槍一つでこの乱世を乗り切る……それに足るだけの主に巡りあう。それしか考えがなかった……」
「………………」
「この梁州に来て、初めて分かった。国の全ては……民によって支えられていると。それを本当の意味で分からせてくれたのが……桃香様と主だ」
「本当の意味……?」
本当の意味とは……なんだ?
「……最初にこの梁州に入った時、まず驚いたのは民の笑顔だった。このような場所は、大陸のどの場所にもないものだ」
「……うむ」
「そして桃香様とお会いして、その内情を知った。覚えているだろう? 最初のじゃがいもの収穫前後、この国の中枢である場所が……どんな生活をしていたか」
「……ああ。あの時はきつかったな。一日一食、着ているものは何度も着てほつれた服。城内にあった売れるものは全て売り払って、その資金で市場の設置費用を捻出して……借財にしても、商人に頭を下げねばならなかった」
「そうだ……桃香様にも言われた。『しばらくは俸給も出せない、それでも私の仲間になってくれるのか』……あの時の、桃香様の申し訳なさそうな顔は、一生忘れんだろう」
「……ああ。私も鈴々も……そして朱里や雛里にも頭を下げていた。『皆のために、もう少しだけ我慢して欲しい』と……」
そう……今はご主人様のお陰で、資金は豊富。
借財も返して、その膨大な資金力を背景に、新たな事業でさらに資金を増やしている。
糧食も初期の先行投資により、大増員した約四万の兵を養ってなお、余裕がある。
だが、それに至る道は……つらかった。
「私を含め、俸給が全くない状態の官職の者達。だが、それを救ってくれたのは、ほかならぬ民からの献上品だった。覚えているか、愛紗? 腹を減らした我々のためにと、街の皆が食事を運んでくれたことを」
「……忘れるものか。あの時の食事の暖かさ。例え粟や稗のごった煮であろうとも、あの旨さは生涯忘れん」
腹をすかした鈴々の為に、と持ってきた一人の女性。
その女性から次第に街の住民全てが、入れ替わり立ち代りで我々へ食事を届けてくれた。
ようやく穀物の収獲になり、俸給が出たことで皆に感謝しつつ辞退するようになったが……今でも時折、鈴々にだけは手作りの食事が届けられている。
「その中でわかったのだ。武人として守るべき者としていた民。その民にこそ、我々は護られているのだと。私達武人と民。それはどちらかが護るのではなく、互いが依って立つ者なのだと」
「……そうだな。その通りだ」
民とは守るだけにあらず。
互いに護りあうモノ――
そうだ。確かにそうだ。
私達は民を守り――私達は民に護られている。
「だからこそ、一方的に……民を守る反面、その対価をもらうのは当然と思っていたあの頃の私は……それがわかっていなかった」
「星……」
「だからあの時……伯珪殿が辛酸を嘗めてでも護ろうとしたその姿を。『覇気がない』と評して、その元を去った私に……何が言えるというのだ!」
星が持つ盃を握りしめ、その手の中で盃が割れる。
そして尖った破片は、星の握りしめる手を傷つけ、中に満たされていた酒に混じった血とともに、その手から溢れだした。
「……私には、主が援助をするために四苦八苦する姿にも! 桃香様がそれを苦渋の決断として断念する姿にも! 何も口を出すことなど、できはしないのだ……」
「星…………」
その時、星の顔は月明かりに煌々と照らされており、はっきりとその顔がみてとれた。
その苦渋の顔には涙一つ見えなくても……私には見えたのだ。
血の涙を流しながら、自分の過去を悔い、そして友人の境遇と自身の無力に嘆く――
そんな一人の武人の慟哭が。
―― 董卓 side 涼州長安 ――
「月、まずいことになったわ……洛陽の宦官たちが、殺されたそうよ」
「え!? どういうこと?」
「袁紹よ……何進大将軍の仇として、その右腕だった袁紹とその仲間に殺されたわ」
「そんな……」
詠ちゃんの言葉に、私は顔を伏せます。
殺して殺されて……そんなことが宮中で罷り通るなんて。
それじゃあ、族の人たちと変わらないじゃないですか……
「それだけじゃないの……落ち着いて聞いてちょうだい。袁紹の手から逃れた宦官がいて……その人物は、月を頼ってきているの」
「え? 私に……? 誰?」
「…………段珪、いえ、正確には張譲よ」
……え?
張譲さんが、私を頼って……?
「わかってる。張譲がなぜ月を頼るのか……でしょ。どうやら一緒に洛陽から逃れてきた方の推挙らしいの」
「逃れてきた方……?」
「……少帝陛下と、陳留王様よ」
「!?」
新しく皇帝陛下になられた小帝陛下と、その弟君が……?
「お二人は、亡き霊帝陛下より、いざとなれば月を頼れと言われていた……そう使者は言っているわ。多分、嘘でしょうけど」
「詠ちゃん……」
「あの張譲のことだもの……人のいい月につけこんで、自分の手を汚さずに洛陽を取り戻す気よ。月、私はあの使者を殺して追い返そうと思う」
「!? 詠ちゃん、ダメ!」
殺す!?
使者の人を殺すの!?
「なんでよ、月! 張譲のことだから、仮に私達が洛陽を奪還できたとしても、難癖つけて月は排斥される! ううん、下手すると殺されるのよ!?」
「そ、そんなこと……でも、小帝陛下が私を頼ってきたんでしょ? だったら……私は小帝陛下のために、できることをした方がいいと思う」
「月っ!?」
詠ちゃんが悲鳴に似た声を上げる。
わかってる……あの張譲さんが、そんなに甘くないってことは。
でも……でも……
「霊帝陛下には、私なんかをお傍においてくださったご恩があるの……そのお子である小帝陛下を助けるのは、私達にとって恩返しだと思うの……」
「ゆえぇ……」
「ごめんね、詠ちゃん……でも、私は、私を頼ってくれた人を裏切りたくはないの。例え、裏切られたとしても……」
まだ幼い小帝陛下……そして、その弟君であらせられる陳留王様。
その方を守ることが……亡き霊帝陛下への、恩義を果たすことだもの。
「……………………………………わかった。なら、月はこのまま長安にいて。洛陽へは……私が名代として、霞と華雄を連れていくわ」
「詠ちゃん……それは無理だよ。仮にも皇帝の勅命だもの。私が行く必要があるの」
「でも、それじゃあ……っ!」
「大丈夫だよ。私には、詠ちゃんも、霞さんもいるんだもん。それに洛陽には丁原おばさまがいるし」
「確かに、丁原様が并州刺史の頃によくお世話にはなったけど……執金吾になった後、連絡はとれていないのよ?」
「大丈夫だよ、詠ちゃん……丁原様は、きっと味方になってくれるよ」
あの方は、純粋な方だったもの。
その配下にいた呂布さんも……
「……わかった。何があっても、月だけは守るから。絶対、ボクが守るから……」
「詠ちゃん……ありがとう」
詠ちゃんの決意した言葉に、私はお礼を言います。
よかった……
小帝陛下……陳留王様……
貴方のお父君から受けた御恩は、この董仲穎が必ずお返しいたします。
例え、私がどうなろうとも……
―― 左慈 side ??? ――
さて……これで董卓が洛陽に入ったわけだ。
あとはいつもどおり十常侍の残りを始末して、その罪を董卓になすりつけるように袁紹を誘導して……
ふむ。
ついでだ……公孫賛が参加しやすいように、劉虞の蛮行を抑えるように、于吉に言っておくか。
改心した振りをさせれば……公孫賛ならば、すぐに信用するだろう。
袁紹が北を攻めるまでは、公孫賛には北の英雄でいてもらわなければならないしな。
あとは……馬騰の病だな。
多少の延命はするとして……だが、身体は動かない程度にしておかねば。
征西将軍の馬騰ならば……董卓の悪名を聞けば、必ず動くはず。
例え馬超が拒否しても……その周囲の圧力から、自ら董卓軍に参加することは出来ないだろう。
あとは、本人次第だがな……まあ、董卓軍にこようとしても、董卓自身の書状でも出してこさせないようにするか。
本来なら、ここまでのことはしないでもいいのだが……北郷との縁もある。
馬超は、あいつのところに来るようにさせておきたい。
ふっ……俺も何をしているのだか。
あいつはただの道具なのにな……
まあいい。
道具がしっかりと目的を果たすためにも、今は有利になるように力を貸してやる。
北郷一刀が目覚める、その日まではな……
後書き
丁原……原作に出ない人です。この人は女性にしました。なんとなくですが。
呂布は、彼女の配下であり、現時点では官軍ではあっても、董卓軍の配下ではありません。
まあ、すぐに董卓軍に入るんですが……
それにしても、いつになったら連合での集合になるんでしょうか?
それは作者にもわかりません(苦笑)
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