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リリカルなのは~優しき狂王~

作者:レスト
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第四十九話~傷跡と交渉~

 
前書き

なんとか、書き上げたのでアップします。
以前のように週一ペースを取り戻せるのは、十一月の二週目ぐらいになると思います。

今回、書いてて楽しかったです。
ではどうぞ。
 

 



 公開意見陳述会襲撃。
 少なくとも、管理局内では大きく名を残すであろうその事件の引き金が引かれてから数日が経った。
 事件当初は後手後手に回っていた管理局ではあったが、事件が一区切りを迎えてからの活動は巨大組織としての利便性を最大限活用することになった。
 管理局という組織はその活動範囲の広大さ故に様々な場所にその部署が存在する。今回の襲撃で管理局のトップの大半が襲撃の被害を受けていると言っても、その部下や下部組織は未だ健在なのだ。その為、被害を受けた街の復興作業、市民に対する限定的な情報開示など、その事件後の対応は迅速に行われた。
 その今出来うる限り、最善の対応を行っている管理局ではあったが、その実組織の内側はボロボロであった。
 今回の襲撃に使われたガジェットとナイトメアフレームという驚異の対処方法。襲撃犯たちの明確な目的。犯人の現在の居場所。挙げ始めるとキリのない懸案事項は山のようにある。
 だが、それらの捜索についての陣頭指揮をとることができ、且つ、陸海空問わず多くの人間を動かすことができるだけのカリスマを持った人材が今の管理局にはいなかった。こんな時でも、組織内での軋轢が彼らの行動の一部を阻害していたのだ。一丸となるべき時にそれができないのは、組織ゆえの弊害と言えた。なので、今できるのは現場レベルで判断のできる活動のみである。



機動六課・隊舎


 新品同様であったその建物は、今は所々が焼け落ちて大半が瓦礫に変わっていた。無事に残っている部分も火災の時に舞い上がった煤で黒ずんでいる。おおよそ人が活動できる機能の大半が失われたその場所に、それでも人は大勢いた。
 今現在、六課の隊舎のあった場所には二種類の職員がいた。一方は瓦礫などを撤去する職員、もう片方は現場検証を行う職員である。だが、その比率はかなり偏っており、現場検証を行っている職員の方が明らかに少なかった。

「ティアナ、ここはもういい。一旦休め」

 撤去作業を行っていた職員と検証内容の確認を行い、一段落着いたティアナはシグナムに声をかけられた。

「ですが――」

「襲撃から今日まで休んでいないだろう。倒れられてはかなわん」

 厳しい言葉を投げつけてくるシグナムの不器用ながらの優しさを感じているティアナはそれでもこの場を離れることを渋っていた。その理由を知っていたシグナムは先ほどとは違い厳しさを感じない声で話し出す。

「高町が抜けたことを気にしすぎだ。あいつはお前の師であり目標だろう。ならば、信じることはお前の義務だ」

「……はい」

 ティアナが現場に残ろうとしていた理由。それはつい先程まで現場検証を共に行っていたなのはにあった。
 検証が始まった当初、彼女はいつもよりも気丈に振る舞い、黙々と職務を全うしていた。だが、作業が進み瓦礫の撤去を行い始めた時に“それ”を見つけてしまったのだ。
 “それ”は少し高級なお菓子の缶箱。それは奇跡的に表面が焦げて凹むぐらいの損傷しかなく、中身はほぼ無傷であった。
 そしてその箱になのはは見覚えがあったのだ。ヴィヴィオがいつも大切そうにしまっていた箱。なのはにも見せてくれなかったその中には、桜の折り紙となのはが買って上げたうさぎのぬいぐるみ、そして一枚の白い画用紙が畳まれて入っていた。
 桜の折り紙はライがヴィヴィオにあげていたのをなのはは知っていた。だから、ここにそれが入っていたことに驚きはなかったのだが、もう一枚の画用紙の方にはなのはにも見覚えがなかった。
 恐る恐るその画用紙を開くとそこには絵と言葉が綴ってあった。絵はなのはと思われる女性とライと思われる男性が描かれており、その絵の横にまだ覚えたての拙い文字でこう書かれていた。

『いつも守ってくれてありがとう』

 それを見た瞬間、なのははその場で泣き崩れた。恥も外聞もなく、ただ胸の内にあふれる感情を吐き出すように、声と涙を出し続けた。そして彼女にこれ以上の仕事を任せることができないと判断したティアナが、他の職員に頼み、なのはを六課の隊舎の近くに建てられた休憩スペースに運ばせるのであった。
 なのはを抜けさせた事が自分の一存であると自覚していたティアナは、これまで休憩も入れずになのはの分の仕事も行っていたのである。

「先ほど教会からの連絡でスバル達の意識も戻ったそうだ。見舞いに行ってやれ」

「……はい」

 シグナムの言葉に頷き、今度こそティアナはその場を後にした。
 そのティアナを視線だけで見送り、改めて焼けた隊舎を見たシグナムは目を細め静かに、だがしっかりとその言葉を口にした。

「このままでは済まさん」



聖王教会・病院棟


 普段とは違い、騒がしくなっている教会の病院の一室。そこにエリオ、キャロ、スバル、ギンガそしてフリードがそれぞれ身体のどこらかに包帯が巻かれた状態で休憩させられていた。『させられている』と言うのは、強制的に休憩を取らせないと彼らは勝手に現場に行こうとしてしまうからである。
 因みに、怪我が酷いギンガはベッドに横たわり、スバル、エリオ、キャロは部屋に備え付けのソファに腰掛け、フリードはキャロの膝の上で寝息を立てていた。

「「「「……」」」」

 そこにいる全員が先の襲撃で一度気絶し、そしてつい先ほど意識を取り戻していたが、皆沈痛な表情を浮かべて沈黙していた。
 エリオとキャロは襲撃の際にヴィヴィオが敵に連れ去られる場面に遭遇したのだが、彼女を取り返すことが出来なかった事に対する無力感から。そして、スバルとギンガは未だ見つからない、ライの行方不明の原因を作ったと言う罪悪感から言葉を発せないでいた。
 ライの予測していた通り、今回の襲撃で狙われたのは管理局のトップだけではなかった。レリックとヴィヴィオという研究素材の捕獲。そして今回のレリック事件において最大の障害になり得る機動六課の排除。それが今回の襲撃目的に含まれていた。
 管理局の崩壊を防ぐために設立された組織が、敵の目的の一つになるとはなんとも皮肉な話である。
 そして襲撃の結果、隊舎は短期間での復旧は難しい程の損傷を負い、フォワード以外のスタッフが重軽傷を負うという手痛い被害を受けることとなった。
 いつまでも続くと思われた、その部屋の沈黙は来訪者のノックにより破られた。偶々一番近くに座っていたエリオが扉を開けると、軽食が入った袋を持ったティアナが入ってくる。

「ティアナさん」

「目が覚めたって聞いたから、お見舞いと差し入れ」

 手に持っていた袋をエリオに渡し、ティアナは未だに反応を見せないスバルの近くに立つ。

「怪我が軽いようで安心した」

「……」

「それで、いつまでそうしているつもり?」

「……」

「まさかとは思うけど、ライさんが行方不明になった原因は自分にあるとでも考えてるの?」

 そのティアナの言葉に一瞬スバルの肩が震えた。それを目にしたティアナは一度ため息をつく。そして――

「自惚れんじゃない!」

 力限りの言葉で怒鳴りつけた。
 その声に今まで沈んでいた全員がティアナに視線を向ける。そんな視線を気にも止めずティアナは言葉を続けた。

「あんた1人がいなかったところで今回の事件にそんなに大きな変化なんてない!
 ライさんが行方不明になったのはあの人の判断が招いた結果だった!
 まずはそれを受け入れなさい!」

 ティアナが言い終えると同時にスバルは立ち上がり、同じように叫び返した。

「それでも!何か出来ることはあったんだよ!その為に毎日訓練してたのに!
 大事な時にそれができなかったんだよ!それにライ兄は何も悪くない!」

 既に感情に任せた言葉であるせいか、スバルの言葉は滅茶苦茶である。

「あの人の非を周りが認めてあげないでどうするのよ!
 ライさんもその親友のルルーシュさんも周りが祭り上げていったのが原因でああなったんでしょうが!」

 スバルに応えるように怒鳴るティアナの言葉も論点がズレてきている。

「ライさんが出来ないことを私たちがしなきゃならないんでしょーが!」

「ライ兄ができないことなんてない!」

 もう完璧に話の論点が外れている。
 これまでポカーンと事の成り行きを見ているしかできていなかった、エリオ、キャロ、ギンガの3人が2人を止めるまで2人の怒鳴り合いは続いたのであった。


~二十分後~


 自分の中に溜め込んだものを吐き出せた事に満足したのか、そこにはすっきりとした顔のスバルとティアナがいた。

「ライさんは絶対に無事!」

「それで、ライ兄は私たちが見つける!」

 よくわからない結束の形を見せた2人に周りの3人はため息をついていた。



スカリエッティアジト


 襲撃を行った張本人である戦闘機人たちは束の間の休息を取っていた。
 その内の大半はリラックスした表情をしているのだが、その内の2人は不機嫌な顔をしていた。

「いい加減にしろ、ウェンディ、ノーヴェ」

 いつまでもそんな表情をされているのも迷惑ということで、戦闘機人の中でも姉的な位置にいるトーレがそう声をかけた。

「う、すいませんっす」

「……」

 空気を悪くしている自覚はあったのか、ウェンディは素直に謝り、ノーヴェは顔ごと視線を逸しす。

「事情は聞いている。チンクの事や兄のことで気に止むのをやめろとは言わないが……」

 2人の態度にやれやれといった風な姿勢を取るトーレの後ろから、どこか楽しそうに空中投影ディスプレイとコンソールを弄っているクアットロが言葉をかけてきた。

「まぁ~、死にそうになった原因がお兄様であり、そして助かった原因もお兄様なんですから無理もありませんわよ?トーレ姉さま」

「「……」」

 クアットロの言葉で再び2人は黙り込んだ。
 彼女の言葉通り、彼女たちをあの地下の崩落から救ったのはライであった。しかも、ライは気絶したノーヴェとウェンディだけでなく、自らの攻撃で深手を負ったチンクも助け出していた。

「何にしろ、チンクも兄も無事なんだ。今はそれで納得しろ」

 締めくくるようにトーレが最後に言葉を残す。
 実は、ライはチンクの最後の抵抗で相応の深手を負った状態で、彼女たちを助けたのだ。だが、それはほぼ自分の身を盾にした救出であった為に、ライは崩落から抜け出した4人の中で最も深い傷を負ってしまう。そして、地下からの脱出には成功したのだが、血を大量に失ったライは地上に出ると同時に意識が落ちていたのである。そして4人の位置を正確に把握していたスカリエッティ側は彼らを回収し、手当を施していた。
 今この時も、チンクは戦闘機人用の医療ポッドで、そしてライは部屋の一室のベッドの上で眠り続けていた。
 トーレの言葉を最後に、その部屋にいた戦闘機人である彼女たちは各々自分がしたいことをし始める。そんな中、コンソールを弄っていたクアットロの呟きは誰の耳にも入らなかった。

「あら、お目覚めかしら?」



一室


 沈んでいた身体の感覚が浮き上がる感覚を感じ、ライは自分の意識が覚醒する実感を得る。どこか胡乱な思考で、まずは目を開けた時に視界に映った天井を見る。

(どこか、見覚えがある)

 そんなことを考えながら、ライは自分がベッドに寝ていることを自覚すると身を起こした。そしてまず初めに自分の状況を確認していく。服装は襲撃の時に着ていたアッシュフォード学園の制服を着ていた。
 服装を確認すると、ベッドから降りて体を軽く動かす。そして『違和感を覚えないこと』に違和感を覚える。

(怪我が)

 ライの中の最後の記憶では、自分の体がそれなりの深手を負っていたことを思い出しライは首を傾げた。だが、そのライの疑問は割と簡単に溶けることになる。
 制服のポケットと胸元を探り、ライは目的のものを取り出す。

(蒼月、パラディン。認証コード――)

 念話で自らの相棒たちのロックを解いていく。

((コード認証、確認……マスター、身体は大丈夫ですか?))

(僕は大丈夫。それよりもここまでの経緯の説明を)

 ライが引き続き念話を使い情報を揃えていく。そしてライは今の自分の置かれた状況を把握する。

(君たちへのハッキングは?)

(スキャンはされました。しかしハッキングされそうになった際には逆ハックをかけた所で回線を遮断されました)

(そうか……念の為に自己診断プログラムのチェックとファイヤーウォールの設定変更をよろしく)

 そこまで指示を出したところで、その部屋のドアが開かれる。扉の開閉音がした方にライが首を向けると、そこには初対面ではあるが知っている人物がいた。

「ジェイル……スッカリエッティ」

「ふむ、自己紹介は不要のようだね、ライ・ランペルージ君」

 紫の髪に金の瞳。そしてどこか狂気の色を見せる雰囲気を纏った研究者が立っていた。
 彼は部屋に入ってくるなり、備え付けの対面式のテーブルに腰を降ろす。

「こうして会うのは初めてだが……いやはや奇妙なものだね。画面越しでは何度も君を見ているというのに」

 敵意ではなく好奇心を、その金の瞳に宿らせながらジェイルはどこか楽しそうにそう語る。その彼にどこか違和感を覚えながらもライは招待に応えるように彼の対面に座った。

「僕に何のようだ?」

「性急だね。科学者向けの思考だよ」

「生憎、人としての道徳感を捨てる気はない」

「どういうことだね?」

「科学者の行き着く先には壁がある。その壁に当たった時に、当人には2つの選択肢がある」

 ライは2本の指を立てながら言葉を紡ぐ。

「人としての感情を壊し科学者の道を取るか、若しくは科学者としての道を選ばずに人が当たり前に持つ倫理観を守るか、だ」

「なかなか興味深い選択だね」

「僕には前者を選ぶ気はさらさらない」

 暗に『あなたと同類になる気はない』という意思表示を見せるライであったが、それすらも楽しむようにジェイルは言葉を続けていく。

「くっくっ……話を戻そう。なぜ僕が君をここに連れてきたかだったね。言ってしまえば簡単なことだけどね、君と話すためだよ」

「……」

 ジェイルの冗談のようでいて本気なその言葉にライは数瞬黙り込む。そして自分の考えを纏めながら口を開いた。

「貴方は人か?」

 そのライの言葉に初めてジェイルは驚いた表情を見せる。だが、それは質問の内容が以外で驚いたというよりも、ライが使った言葉の意味を理解できたからこそ驚いたというような風であった。

「何故その質問を?」

「貴方には勝つ気がない」

 ジェイルの質問に間髪いれずに答えるライ。それは確信を持っているが故の断定口調。

「目的が云々以前に貴方の持つメリット、デメリットが破綻している」

「……」

「最初は武器関係の密売人だと思った。だが、貴方が襲撃により管理局の力の大半を削ぐことで、管理局に対する敵対組織は新兵器がなくても管理局に拮抗できる状況になる。ならば、無駄に資金で高価な新兵器を使わずにこれまで使っていた信頼できる武器を揃える方が理にかなっている」

「……ふむ」

「次に思い浮かんだのは科学者としての犯罪。最初の予想が外れた時点でこれが最も有力な予想になった。しかしこれにも穴がある」

「ほう、何かね?」

「科学者としての成果を評価するのなら自分のオリジナルでなければならない。そしてそれに拮抗しうる比較対象が必須だ。ガジェットはともかく、ナイトメアフレームを使用したことでこの予想が外れた」

「なるほど」

「最後に浮かんだのは管理局が用意した必要悪としての存在」

 その予想を口にした瞬間、ジェイルの眉がピクリと動いた。そのことにライはもちろん気づいていたが、気にせず言葉を続けた。

「ガジェット、戦闘機人、ナイトメアフレーム。前者2つは知らないが、最後の1つは運用に少しでは効かない程の資金と資材が動く。この世界のセキュリティがどれほどのものかは知らないが、ヴィヴィオが輸送車から脱走しただけで手掛かりが見つかるようなものでは余程大きな後ろ盾がなければ活動できない」

 ライの言った通り、元の世界でもブラックリベリオン後の疲弊した黒の騎士団は中華連邦とインド軍区と言う国の後ろ盾があったからこそ活動を続けられていた。

「そして長期の指名手配にも関わらず活発的な活動ができ、捕まることもないと聞けば出来レースを考えるのは当然のことだ」

 ここでライは一旦言葉を切る。それはジェイルの反応を伺おうとしたが故の間であったが、彼を見てライは一瞬息を飲んだ。

「どうしたんだい、早く続きを聞かせてもらいたいな」

 ジェイルの瞳はどこまでも純粋で、どこまでも濁っていた。ここまでの瞳をライは一度も見たことがなかったのだ。
 その瞳に飲まれそうになる自分を押さえつけ、ライは続きを口にした。

「名前が売れるほどの犯罪者をかばうことができるのは少なくとも管理局のトップ。それも佐官程度の権力では足りない。将官クラスの権限がいる。だが、今回の襲撃はその将官以上が被害を多く被っている。これは大きな矛盾だ。ここから考えられるのはこの襲撃自体がシナリオの一部か、若しくは貴方が裏切ったのかどちらかだ」

「…………くっくっくっ、そこまでは正解だよ。それで、どうして最初の質問をしたのかな?裏切りを行うのは人間としてごく当たり前の行為だよ」

 出来のいい生徒の更なる答えを聞き出すようにジェイルは言うが、ライは詰まらなそうにそれに答えた。

「その芝居じみた言葉を信じるほうが難しい。貴方は人間を知識として知っているだけで、人になることが出来なかった人間。僕にはそう見えたから最初の質問をしたんだ」

「…………ははははははは!最初はただのイレギュラーだと思っていたが、ここまでとはね!」

 そこからジェイルは自分を語った。自分という存在がアルハザードという失われた伝説の世界の技術を使い、造られた『無限の欲望/アンリミテッドディザイア』と言う存在であるということを。それにより自分は知識欲が貪欲な存在になっていることに。
 そして話の途中で管理局のトップである、最高評議会が自分を生み出したこともジェイルは語った。
 大凡、自分のことを語った彼は満足げに頷きライの方に視線を戻す。

「理解できたかな?私という存在が」

 その問いに頷き返し、ライは再び考え込む。考え込むライを見たジェイルはライが口を開くのを待った。今度はどんなことを彼はしでかしてくれるのかと、期待を込めて。
 だが、ライの口から出てきたのはジェイルにとって面白くもなんともない事であった為いささかがっかりしていた。

「取引だ。今回の件で貴方を支援……いや、貴方が把握している汚職をしている管理局員のリストを引き渡して欲しい」

「そんなつまらないことを君は求めるのかい?管理局の老害どもと同じく正義を唱えて?」

「自分にとって邪魔になるから排除する。ただそれだけだ」

 その答えはお気に召したのか、ジェイルは口角を少しだけ上げた。

「それと、ルーテシア・アルピーノ、ゼスト・グランガイツ、烈火の剣精アギトの3名を貴方の目的に利用するのはやめろ」

「ふむ、その内の2名は行方知れずなのだがね。それよりもこちらに対するメリットを上げてもらえないのかな?」

 ライはあの3人が目の前の人物と好意的な関係を築けているとは考えることができなかった為に、カマをかけたのだが、案の定であった。
 元々そんなものを求めていないくせに、と思うがそれを表情に出さずにライは言葉を引き出す。

「……貴方の作品に対する比較対象として、僕がこれから貴方の計画に全力で抗う」

 先ほど、言った科学者としてのジェイルの欲を刺激する言葉。その言葉に喜色を浮かばせた表情のジェイルはライの言葉に答える。

「私の最高傑作が何か知って……いや、予想しているのかね」

「ヴィヴィオ」

 その言葉を聞き、ジェイルは満足そうに頷いた。

「取引条件の続きだ。こちらがそちらの情報を知った事と自分の要求を飲んでもらう対価として、先に言った比較対象になることが1つ」

 ライは右手の指を1本ずつ伸ばしながら述べる。

「そしてもう1つ」

 ライはもう1本、指を伸ばして自分にとっても、そしてジェイル・スカリエッティにとってもワイルドカード足り得る条件を述べた。

「僕が元の世界でどのような存在であったのかと言う情報。そして貴方が知りえない、知り得ることのない僕と僕がこの世界に来たときにいた施設との関係。それを知りたくはないか?<無限の欲望/アンリミテッドディザイア>」








 
 

 
後書き

ある程度キリがいいので今回はここまでです。
要所々々、省いていますが次回でその辺りの詳細も書きます。

あと、中盤のティアナとスバルのやりとりですが、自分としては高1ぐらいの少女がそんなに難しいことばっかり考えているのは嘘くさいと感じて、あんな感じになりました。
ちょっとやりすぎた感はありますが、年相応と思って頂ければと思います。



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