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インフィニット・ストラトスの世界にうまれて

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ルームメイトは緑髪の眼鏡っ娘 その一

インフィニット・ストラトス、通称『IS』。
日本で開発されたマルチフォームスーツ。
マルチフォームスーツと言っても想像しにくいか……そうだな、パワードスーツと言ったほうが解りやすいかもしれない。
十年前に開発された当初『IS』は、宇宙空間での活動を目的としていたが、宇宙での利用はほとんど進んでおらず、今現在『IS』はもっぱらスポーツとして利用されている。
兵器としてもかなり優秀で、他の現用兵器と比べても、攻撃力、防御力、機動力の全てに優れた究極の機動兵器だ。
そんな『IS』の運用協定、アラスカ条約では軍事目的の利用を禁止している。
その究極の機動兵器である『IS』はとんでもない欠陥を持っていた。
それは女性しか動かすことができないといってことだ。
これには世の男たちも悔しがり血の涙を流したことだろう。
ロボを自分の手足のように思い通りに動かすのは男のロマンだからな。
この世界に転生して十五年、『IS』を動かせると解った時の気持ちは言葉では言い表せないだろう。
あまりにもはしゃぎ過ぎた俺は、お巡りさんのお世話になるという失態を犯した。
留置場の檻の中に入れられ、自分の愚かさを反省しつつ一晩を過ごし、次の日の朝には何とか解放された。
迎えに来ていた両親に引き渡された俺は、深々と頭を下げ「お世話になりました」と言うと、お巡りさんは「もう他人に迷惑をかけるんじゃないぞ」と言い俺の肩をぽんぽんと優しく叩いた。
家に帰ってきてもゆっくりなど出来なかった。
父親に連れられた俺は、あちこちに頭を下げて回ることになったからな。
迷惑をかけたんだから当然だろう。
ああ、あれはいい思い出だったなあ……って、そんなわけあるかーっ! どこからみても黒歴史だろ。
すまん、少し興奮してしまった。
俺の話を語っている場合じゃないな。
話を戻そう。
アラスカ条約にある『IS』操縦者の育成を目的とした教育機関、IS学園というのが日本にあり、そのIS学園には世界中から人が集まっている。
『IS』ってのは女性しか動かせないってさっき話したがのを覚えているだろう。
だから当然、IS学園の関係者である教職員と生徒のほぼすべてが女性だ。
というか例外を除いてだな。
唯一の例外、それが織斑一夏だ。
世界で初めて『IS』を動かした男である。
ああ、IS学園の用務員さんも男か。
えっと、エレクトリカル・オーシャンで調べた情報によると、用務員というのは仮の姿で、実はIS学園のドンらしい。
用務員さんの話はこれくらいでいだろう。
織斑一夏のニュースは驚きとともに世界中を駆け巡った。
そのおかげで俺も『IS』の適性検査を受けることが出来たんだから感謝している。
世界の男たちの織斑一夏に対する評価は、『素晴らしい』『奇跡の人』『英雄』『男の中の男』『羨ましい』『リア充爆発しろ!』『ハーレム野郎』『夜の帝王』『俺と代われ』『ユニバース』ほか多数あったが、そのほとんどがやっかみに近いだろう。
そんな世界の男たちの思いを背負い、俺はIS学園に転入することになった。

この世界がインフィニット・ストラトスの世界だと知ったのは、産まれて何年か経った頃だ。
最初はこの世界を、舞台袖というかかぶりつきで観れればいいやと考えていた。
簡単に言えば、観光気分だったと言うべきだろう。
いわばこの世界、インフィニット・ストラトスという演目を間近で観賞し、体験出来るというのは『IS』ファン、いや俺にとって涎を流し喜ぶべき状況だろう。
しかし俺は、誰かの手で背中でも押されたのか、いつの間にか舞台に上がるハメになっていた。
はあ、と俺の口からため息がもれる。
俺は観るのは好きなんだが、舞台の上で役者を出来るとは思えんがな。
はっきり言えば役者が不足しているだろう。
まあでも、織斑一夏とその周りにいる女子たちの青春群像劇をすぐそばで見られるのは幸運かもしれない。

俺は今、一年一組の教室の前にいる。
今日からIS学園での生活が始まることになる。
せいぜい楽しむとしよう。

「今日は転校生を紹介します」

山田先生に促された俺は、一年一組の教室のドアをくぐった。

一年一組の教室。
教室内は、まるで音など存在しないかのように静まり返っていた。
黒板という表現はちょっと古いかもしれないな、なんと表現すればいいか……そうだ! 黒板サイズのパソコンモニタと言ったほうがいだろう、それの前に俺は立ち、傍にいる背丈が生徒とさほどかわらない感じで、身体のサイズと合っていない大きめの服を着た小柄な眼鏡っ娘、このクラスの副担任山田真耶先生の瞳をじっと見つめていた。
山田先生との距離は一メートル。
男子の保護欲を刺激しそうな上目遣いで俺に問いかけてくる。

「あのぅ……どうしました? ベインズくん」

眼鏡の奥に見える瞳には不安の色が浮かんでいた。

「山田先生……」

「はい、何でしょう」

俺は一度深呼吸すると、少し間をおいてから話し出す。

「山田先生の事が……好きです」

俺の言葉は先生の心に届いたのだろうか。
先生は小首をかしげる。

「もう一度言ってくれますか? 先生、よく聞こえなかったみたい」

言葉が聞き取れなかったのか? もしかしたら、反射的に聞き返したのかもしれない。
この状況下で俺の言葉。
言葉だとは認識できても理解出来なかった可能性がある。。
だからもう一度……。

「好きなんです……貴女のことが」

ようやく理解したのだろう山田先生は、最初は驚いた表情を見せ、やがて困惑した表情になる。
気がつけば先生との距離はお互いの吐息を感じるまでに近づいていた。
俺の顔を見上げていた山田先生の瞳は潤み、何かを言いたげに小さな唇を開くがすぐに閉じてしまう。
俺の胸に軽く添えられていた山田先生の両手に力が入り、その反動で山田先生は俺から一歩後に下がった。
そして俯くと、

「そういうのは……ちょっと困ります。わたしたちは教師と生徒となんです……」

山田先生は両手を胸のあたりで合わせると、身体をくねくねとし始めた。

「でも……、それはそれで良いような、気が……」

今まで静寂を保っていたはずの教室がざわめきだし、やがてあちこちから黄色い声が沸き上がる。

きゃあああああーっ!

「ねえ、ねえ、今の何?」

「告白だよね?」

「でも、転校生だから初めて会ったんじやないの?」

「それってもしかして、一目惚れってやつじゃないですか?」

「なるほど」

「山田先生、おめでとう。お幸せに!」

「結婚式には呼んでくださいね」

クラスメイトたちのそんな会話が俺の耳に届く。
異様な盛り上がりを見せる教室の中で、一人だけ睨みつけるように俺を見ている人間がいた。
このクラスの中で、俺の唯一の知り合い、窓際後方近くに陣取っている、セシリアである。
イギリス代表候補生セシリア・オルコット。
イギリスの名家、オルコット家のお嬢様。
碧眼の瞳、長い金髪はくるくるとロールがかかっている。
短い時間だったが、IS操縦についての俺の師匠でもある。
教えてくれるのはいいが、理路整然とし過ぎていてかえって解りずらかった。
俺はどっちかというと感覚派だからな、相性が悪かったようだ。
それでもセシリアは根気よく教えてくれたのだから感謝している。

スパンッ!

突然、俺の頭に衝撃と激痛が走る。

「いっ!」

うめき声が俺の口から漏れた。
これを毎度のごとくくらって平気な織斑一夏は化け物か? 俺には到底無理だろう。
そう思いながら、自分の頭を手でさすり頭頂部の無事なことを確かめる。
まったく、暴力教師のおかげで頭蓋骨が陥没したかと思ったぜ。
あの軽そうにしか見えない出席簿であの衝撃、一体どんな素材で製造されてるんだよ。
「ベインズ、誰が山田先生に告白しろといったか。私がしろと言ったのは自己紹介だ馬鹿者! それからお前らも、いい加減静かにしないか」
騒ぎの収まらない教室内でに織斑先生の怒りの声が教室内に響き渡る。
今日から俺がお世話になる一年一組の担任教師、織斑千冬先生。
織斑一夏の実の姉。 すらりとした長身。
よく鍛え上げられているが過肉厚ではないボディライン――というくだりが原作にはあったと思うが、弟の織斑一夏ならいざ知らず、俺じゃ織斑先生の身体なんて確認出来ないからな、そうなんだろうと思うことにする。
今日はというか今日もというか、黒いスーツにタイトスカートといういでたちだ。
一方その頃山田先生はというと、どうやら現実と隔絶された世界に旅立ったようで、身体をくねらせながら俺には聞こえない声でぶつぶつと何かを呟いていた。
どうやら妄想の渦に身を委ねているらしい。

「山田君」

織斑先生は落ちついた声で呼ぶが、まだ妄想の世界から戻って来ないようだ。
織斑先生はもう一度声をかける。

「山田君」

今度はさっきより少し強めの声。
その声にようやく妄想の世界から現実の世界へと戻ってきた山田先生。

「あ、あっ、はい。何でしょう、織斑先生。授業ですか?」

「いや、山田君。転校生の自己紹介がまだ終わっていない。ベインズ、とっとと自己紹介を始めろ」

「了解。イギリスから来ました。アーサー・ベインズです、よろしく」

俺の自己紹介が終わると、織斑先生は次の転校生にも促す。
「シャルル・デュノアです――」

フランスから来た転校生。
本当の名前はシャルロット・デュノア。
フランスのIS開発メーカーのであるデュノア社のお嬢様。
華奢な身体に中性的な顔立ち。
背中まである金色の髪は首のあたりでまとめている。
今は男子の制服を着て、礼儀正しく、折り目正しく、物腰柔らかな金髪男子。
笑った顔も爽やかだ。
つまり、今の彼女は男装の麗人というやつだ。
何でこんなことをしているのかと言えば、表向きの理由は織斑一夏と専用ISの情報を集めるって事じゃなかったか? 確か。
流石にさっき怒られたのでクラスの女子たちは騒ぐ事はなかったがそれでも「男子が、このクラスに三人も」とか「地球に産まれて良かった」なんてことを言っている。
三人のうち一人は女子だけどな、と俺は心の中でツッコミを入れていた。

「皆さん。まだ自己紹介は終わってませんから~」

と山田先生の声。
最後は織斑先生がドイツにいた頃の教え子。
ドイツから来た転校生、これが三人目だ。
銀髪を腰のあたりまでのばし、背丈はシャルル・デュノアとさほどかわらない女子。
右目は赤色、左目は金色のオッドアイ。
本物の軍人でIS配備特殊部隊、黒うさぎ隊隊長、階級は少佐。
特徴的なのは女子なのにスカートじゃなく軍服を思わせる太ももの部分がだぼっとし下が窄まったズボンをはいていることと、金色の瞳を隠すために左目に眼帯をつけていることだ。
眼帯は医療用じゃないマジもんの黒眼帯だ。

「……挨拶しろ!、ラウラ」

織斑先生に促されてようやく話しだす。

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」

俺が言うのもなんだが、なんとも簡潔な挨拶だな。

「あ、あの、以上……ですか?」

山田先生はラウラ・ボーデヴィッヒに尋ねたが、

「以上だ」

と簡潔に答えた。
彼女の醸し出す雰囲気がそうさせるのか、教室内は静まり返り空気は重苦しい。
そんな空気をぶち破るような怒気を含み押し殺したような声が聞こえる。

「貴様が――」

どうやらその声はラウラ・ボーデヴィッヒが発したようだ。
最前列、中央という憐れとしか言えないような席に座る織斑一夏につかつかと近寄っていく。
当然、クラスメイトたちはラウラ・ボーデヴィッヒの動きにロックオン。
視線はラウラ・ボーデヴィッヒを自動追尾していた。

パシンッ!

手の甲で頬を叩く乾いた音が教室内に響く。
叩かれた本人である織斑一夏は「えっ?」と声を出したが、何が起こったのか解らない様子で呆けていた。
クラスメイトたちもいま起こった出来事に唖然としながらも織斑一夏とラウラ・ボーデヴィヒ両名に視線は集中していた。

「私は認めん。貴様があの人の弟であるなど――」

織斑先生が出場したISの第二回世界大会、モンド・グロッソ。
前年度に続き二連覇のかかったの決勝戦で不戦敗になっている。
その原因となった出来事、決勝戦当日に織斑一夏が謎の組織に誘拐されたことにある。
織斑一夏を救出するために決勝戦を棄権、不戦敗になった。
織斑一夏の居場所を教えたのはドイツ軍で、その情報の見返りとして織斑先生は一年間ドイツのISの教官を務めたんだっけ。
その時出会ったのがラウラ・ボーデヴィッヒ。
織斑先生に心酔しているラウラ・ボーデヴィッヒが不戦敗になった原因が織斑一夏にあると知ってるからこんなことになったはずだが。

「いきなり何しやがる!」

織斑一夏が何かを叫んでいるな、思考の混乱から復帰したらしい。

「ふん……」

おい、ラウラ・ボーデヴィッヒ、少しは織斑一夏に何か言ってやれよ。
じゃなきゃ、痴情のもつれでそうなったのかと誤解を受けるぞ? たぶんこんな風にな。

織斑一夏に散々もて遊ばれ棄てられた女子の友人であるラウラ・ボーデヴィッヒが、ようやく会うことができた織斑一夏の前に立ち怒りに任せ「貴様――」といって叩いた。
それも自分の知り合いである織斑先生の弟であったがために余計に憤り「私は認めん、貴様が貴様があの人の弟であるなど――」と思わず口からでてしまう。
当然、見ず知らずの女子に叩かれた織斑一夏は、最初は訳が解らず「う?」となるだろう。
やがて織斑一夏は冷静さを取り戻し「いきなり何しやがる!」と怒る。
ラウラ・ボーデヴィッヒは織斑一夏と会話するのは御免だと「ふん……」と無視して去っていく。
ちょっと強引かもしれないが、俺が背後関係を知らなければ、こんな想像をしていたかもしれない。

しっかし、一年一組のにばかり転校生を編入させるのはどうなんだろうな。
学園側は、このクラスに面倒を押しつけてでもいるのか? でも、ちょっと前に転校して来たはずの中国代表候補生、織斑一夏のセカンド幼なじみこと凰鈴音は二組に編入されているはずだ。
どうせなら全員このクラスにまとめりゃよかったのに。
織斑一夏の席の周りに全員座らせれば、どんな女子も寄せつけない一夏ハーレムの鉄壁のディフェンスが出来上がったろうに。
どんな理由があるにせよ大好きな織斑一夏のいない二組に編入されるなんて運がなかったな凰鈴音。

俺たちの自己紹介が終わると授業が始まる。
教室の空気はさっきよりも重くなっていた。
織斑一夏は憮然とした表情をしているようにみえる。
訳も解らず女子に叩かれれば、俺でもそうなるだろう。
なかなか動き出さない生徒たちに織斑先生は咳払いをした後、パンパンと手を叩く。
早く授業の準備をしろということだろう。
今日の授業は二組と合同でISの戦闘訓練らしいが、男子は教室から第二アリーナの更衣室に移動することになる。
織斑先生がそう言っていたからな。
俺たちを案内するように言われた織斑一夏は、挨拶もそこそこに教室から急いで出ろと言い出した。
クラスの女子が教室で着替え始めるらしい。
女子はここで着替えず、アリーナの更衣室を使えばいいんじゃないかと考えていると、織斑一夏はシャルル・デュノアの手を取り教室を出ていった。
俺も二人についていくことにする。
シャルル・デュノアが女子だと知っている俺だからこそ違和感を感じないが、周りの人間は男子高校生が手に手を取って走る姿に異様さを感じないのだろうか。
俺が織斑一夏に手を握れたら、ごめんなさいと丁寧にお断りしただろう。
なんてことを考えながら廊下を走り、俺たちは階段を降りて一階へ。
階段を降り一階の廊下を走っていると、クラス以外の女子たちと鉢合わせになる。

「あ、転校生発見!」

「織斑くんも、一緒だ!」

人気者だな織斑一夏。
授業がなければいっそのこと捕まったほうがいいんじゃないか? と思ってしまう。
しばらくすれば見慣れて飽きもするだろう。
どのくらいの時間が必要になるかはしらんが。
おっと、こうしてはいられないな。
俺も逃げるとしよう。
授業に遅刻しようものなら織斑先生に教育的可愛がりを受けることになる。

「者ども、出合え出合え!」

後方でそんな声が聞こえる。
俺たちは武家屋敷に押し入った不埒者か? と言いたくなる。
おい、織斑一夏。
とある女子が、お前たちが白昼堂々と二人で手を繋いで廊下を走っている様を見て、さっそく何かを言っているぞ。
まったく、恥ずかしくないのだろうか。
普通の男子高校生はそんなことしないと思うぞ。
たぶん、織斑一夏は気づいているんだろうな。
野性の勘なのか本能なのかは知らんが、シャルル・デュノアが女子であることを。

突然、目の前に現れた女子軍団。
その軍団の中央突破をはかる。
織斑一夏に「頼む」と言われ、なぜか先頭を受け持つことになった。
俺はラッセル車のごとく女子を掻き分け進んでいく。
ようやく俺たちは第二アリーナの更衣室へと辿り着いた。
ドアの前に立つと、圧縮空気の抜けるプシューという音がし、ドアが斜めにスライドして開いていく。
音とともに斜めにドアが開く光景はなかなかにしてSFっぽいな。
そんなことを思いながら俺はドアをくぐり更衣室の中に入る。

「しかし助かったよ。男一人だとつらいからな……」

しみじみと語る織斑一夏。

「女子だけしかいないIS学園の中に男子が一人だけなんて珍獣扱いだろうからな」

俺の言葉にシャルル・デュノアは織斑一夏を見て、

「そうなの?」

と言い意外そうな表情を見せる。

「……ああ」

ため息とも取れるような、そんな織斑一夏の声だった。
表情から察するに、そうとう大変な目に合っていたんだろうな。

「ま、何にしてもこれからよろしくな。俺のことは一夏って呼んでくれ」

「僕のこともシャルルでいいよ」

「俺のことはアーサーでいいから」

俺たちは笑顔で挨拶をかわしあった。

一夏が着替えをはじめ、上半身裸になったのを見たシャルルが「わっ!」とか叫んでいる。
シャルルに構わず俺もとっとと着替える始めると、

「二人とも、あっち向いてて……ね?」

なんてシャルルが言ってくる。

「別に着替えをじろじろ見る気はないが」

と一夏。

「わかった、向こう向いててやるから」

こっちは俺だ。
早く着替えをちまおう。
原作一夏の言うところの鬼教官が待っているからな。
シャルルのことは気にしないでおこう。
アニメ版じゃ数秒ほどで着替えをしていた気がする。
普通、数秒じゃ無理だろ? どんだけ着替えるの早いんだよ、シャルルは。
ていうか、最初からスーツを着込んでたのなら可能か。

着替え終わった一夏は、

「そのISスーツ、気やすそうだな」

なんてシャルルを見ながら言っている。

「あ、うん。デュノア社のオリジナルだよ」

「デュノア? ってどこかで聞いたことのあるような……アーサーは知ってるか?」

一夏は俺に問を投げかけてくる。

「ああ、デュノア社はシャルルの実家なんだろ?」

そう一夏に答えた。

「なるほどなあ、社長の息子なのか。気品があるからいいところの育ちって感じがしたから」

うんうんと頷きながら一夏は納得したような表情をしていた。

「いいところ……ね」

シャルルがそう呟き一夏から視線をそらす。
家庭の事情ってのはどの家にもある。
シャルルの場合はなんだったっけ? えっとだな、シャルルは社長と愛人さんとの間に産まれた子供で、社長とは別々に暮らしていたが、母親が亡くなるとデュノア家に引き取られた。
引き取られたと言っても、婚外子の子供なんだ厄介者扱いで家に居場所なんてなかったのかもしれない。
だが、たまたまIS適性が高いとわかると彼女の意思とは関係なくIS開発のための道具として扱われる。
デュノア社が第三世代のIS開発に難航し経営危機に陥ったため、世界で初めてISを動かした一夏のニュースを知ると、興味を持ったデュノア社が情報を得るために彼女を日本に送り込んだ。
こんな感じだったような……なんせ俺の脳ミソだからな、記憶なんてあまりあてにならないかもしれない。
近々こんな感じの話をシャルルから聞くことになるんだろう。 
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