皇太子殿下はご機嫌ななめ
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第25話 「いま、そこにある危機」
前書き
嘆く皇太子殿下と作者、三度。
もう何も言うまい。
第25話 「設計主義? それがなにか?」
マルガレータ・フォン・ヴァルテンブルグでーす。
皇太子殿下がおかしくなってしまいました。
何がおかしいかって?
まず宰相府に帝国の映画監督を、何人か呼び出したんです。
大体ですね、帝国産の映画ってあんまり面白くないんですよ。妙に堅苦しいっていうの? 政治的、教育的メッセージ性が強いっていうのか……。
「さてっと、卿らを呼んだのは他でもない。映画を撮って貰う。それもカラッと明るい奴だ。コメディーでも恋愛でも、なんなら俺をコケにしたようなのでも良い」
「宜しいのでしょうか?」
「問題ない。戦争続きで暗い世の中だ。せめて映画や娯楽ぐらいは明るくないとは」
「しかし内務省からは規制が……」
「構わん、やれ。内務省には俺から言っておく。冒険活劇というのも良いな。見てて楽しいやつ。ぐだぐだと暗い奴はダメだ。多少のエロも許可する。しかし知恵を絞れよ」
「本当に宜しいのですか?」
「問題ないと言ってるだろう。今後、帝国は変わっていく。いずれ規制も撤廃させる。映画だの娯楽を作る側が、その空気を読めなくてどうする。ただし……」
皇太子殿下がそう口にしたとき、彼らの表情にやはりという色が浮かびました。
「ただし……。俺でも大貴族でも、映画の中でコケにするのは構わん。だがコケにするのは立場が上の者、強いほうを標的にしろ。下のほうへ弱いほうへと行くんじゃねえぞ。あの手の奴は見てて、イラッとくる」
「はあ……」
とまあこんな感じでした。
他にも小説を書いている人たちとか、音楽家の人とか、とにかく、娯楽系の人たちを呼んでは、規制緩和するからとにかく楽しい奴を作れと命じていました。
後は技術系の人たちでしょうか?
「フェザーンを通じて、同盟の工作機械を手に入れてやる。軍事のみならず、民生関係も品質を高めろ」
などと言っています。
それらは多岐にわたっていました。
赤ん坊のミルクから、女性の下着に至るまで、なんて言うのか……。
手当たり次第といった感じです。
カール・ブラッケさんが驚いて、皇太子殿下に詰め寄ったぐらいです。
「閣下はいったい何をなさろうとしているのですか?」
「今から十年を目処に、民生品、工業系の品質で同盟を上回る事を目指す」
「十年ですか?」
「それだけありゃ何とかなるだろう? 今まで軍事関係ばかりに力を入れすぎてきた。技術力そのものは帝国も同盟も大差ない。そこで今後は民生品にも力を入れる」
「それは設計主義というものです」
「そうだ。その通り、計画経済だ。だからなんだ?」
「うまく行くわけが」
「お前はあほか、方向性を変化させただけだ。この程度でガタガタ抜かすな。お前といい、他の連中といい。どうも理念が先走りすぎて、現実を見てないよな。シュターデンを笑えんぞ」
「計画経済でうまくいく訳がない。」
「だから十年と期限切ってんだろうがっ!! はい、そうですか、では自由主義経済でやっていきますって言ってられる状況かっ」
「それは……。」
「十年後の帝国を想像してみろ? 話はそれからだ。行ってよし」
カール・ブラッケさんが皇太子殿下に、部屋から追い出されてしまいました。
最近の皇太子殿下は、経済関係に口出しし始めています。
イゼルローンの事もあるのに……。
「イゼルローンの事は心配してない。ミュッケンベルガーもいるし、他の連中もいる。ただなあ~経済関係はちょっとな」
■フェザーン自治領主 ブルーノ・フォン・シルヴァーベルヒ■
「それで宰相閣下は十年後の帝国を考えろ、と言われたのだな」
「そうだ」
画面の向こうでカール・ブラッケが憤っている。
まったく、宰相閣下もご苦労な事だ。
オーディンにはこいつらしかいない。頭が痛い事だろう。
「では、答えを言ってやろう。宰相閣下はすでに戦後を考えておいでなのだ」
「戦後?」
「そうだ。同盟との戦争が終わった後でくるもの。それは旧同盟とでもいうべき、属国の誕生だろう。彼らの持つ民生品の品質に今の段階で勝てるか?」
「さ、さあ~それは?」
「卿らは、オーディンで何しているんだっ!! 宰相閣下のご苦労を支えようという気がないのかっ。夢のような改革を語っているだけで、何かを為しているかのような気になっているのか」
あ、ダメだ。こいつ、改革論をぶちまける事はできても、実行力がない。
人を集め、衆知を集め、実現させるような企画力もない。
それ以前に人を惹きつける魅力が足りない。
言われた事しかできない。
命じられなければ何も作り出せない。
良くも悪くも、宰相閣下のように強引に状況を引き寄せる力と、一歩踏み込む強さがないんだ。
今なら分かる。なぜ宰相府に事務局などという部署を作ったのか。
俺なら経済関係だ。
オーベルシュタインなら、内務関係を一任できる。
こいつらは事務処理担当だったんだ。
下手に経済関係とか、内務関係の部門を作れない。
「戦後に起こるのは、経済という名の争いだ。それに退役するだろう軍人達に、与える職はあるのか?」
「民間に移るはずだ」
「その民間に職があるのかと、聞いているんだ」
「あるだろう」
「あるだろうとか、あるはずだ。ではダメだと、宰相閣下はお考えなのだ。卿が市井の人間ならばそれでもいい。しかし帝国の中枢にいるならば、そんな考えではダメだ」
「それは……」
「そこで言葉に詰まるな。宰相閣下がただの趣味で、ザ○ファイトなどというものを、やろうとしていると思っていたのか? あれだって戦後を見越した策だぞ。貴族の私兵としての艦隊は廃止する。その代わり、帝国軍として各星系に駐在させるおつもりだ。領地内の治安は、艦隊ではなく。地上部隊で十分になる。領民の暴動など、ザ○で十分対処可能だ。治安の象徴してのMSになる。そしてザ○ファイトを行う事で、ザ○の力を知らしめる」
まったく。先に先に考えている宰相閣下が、目の前におられるというのに、何も学んでいない。
これではラインハルトやジークの方がよほど物を考えている。
あいつらは宰相閣下の片腕になる連中なんだ。
あーオーベルシュタインに会いたい。
あいつとなら、ぶつかる事も多かったが、まともに会話ができた。
「いいか、戦争を止めるだけなら、今すぐにでも交渉を開始すればいい。向こうが受けるか受けないかは分からんがね。ただ経済戦争で勝てると思っているほど、宰相閣下は楽観視されていない!!」
「それは市場に任せるべきことだ」
「任せた結果が、今の状況だろうがっ。無意味な自主規制。暗黙の了解。知ってたか? 帝国に娯楽や映画に関する規制はない。内務省もこの手の連中を捕らえた事もない」
「ばかな」
「なんとなく、そう思っていただけだろう。誰もがあると思い込んでいる。それを撤廃するのはどうすればいい? 強引に作らせるしかないだろう。ないものでもあると仮定し通達して、宣言するしかない。本来そういった事を、調べ、分析して宰相閣下に、進言するのが卿らの役割だろうが、仕事をサボってんじゃねー」
そのうちこいつらではなく、アンネローゼ様たちの方が改革の旗手と、呼ばれるようになるかもしれんな。後宮から改革を進めたとか言われるようになる。
実際、そうなりかけている。
宰相閣下が改革を進めるために、後宮に有能な女性を集めたと噂されているんだ。
そんな状況を恥ずかしいとは思わんのか。
公平な税制と、法整備。政治参加だけで話が終わるほど、単純ではあるまい。
このまま行けば、戦争は勝ったが、経済では負けたという事にもなりかねん。
そうなれば帝国の方が経済的植民地になってしまうのだ。
「宰相閣下の持つ、危機感が理解できていないのだな。困ったものだ」
俺とオーベルシュタインが抜けた後、こんな風になってしまっているのか……。
ブラウンシュヴァイク公やリッテンハイム候がいるだけ、まだマシかもしれんが。
負担は大きいだろうな……。
■宰相府 アレクシア・フォン・ブランケンハイム■
「ぱんぱかぱ~ん。わたくし、アレクシア・フォン・ブランケンハイムは懐妊しました」
「解任になるのですか? 良かったです」
「懐妊したと言っている」
「誰の子ですか?」
「皇太子殿下のこどもに決まっているでしょうがぁー!!」
「い、いたい……」
はっ、いけない。思わず書類でアンネローゼの頭を叩いてしまいました。
いけませんね、あまり感情を乱しては、お腹のこどもによくありませんね。
「はやく大きくなるのですよー」
お腹を撫でつつ、言い聞かせます。
「ぐぬぬ、ガッデム」
まあ、どうした事でしょう。
アンネローゼの目がぎらりと光ってしまいました。
まさか、お腹のこどもを……。
ああ、やめてぇ~。
「あ、どうしたんだ?」
「皇太子殿下ぁ~」
「うおっ、なんだ。いったい何があった。ラインハルト、説明しろ」
「実は……」
「でんかぁ~」
アンネローゼがまるで幽鬼のようです。
まさに魔女のように見える。
「ああ、皇太子が捕まってしまったぁー」
「ラインハルト様、その棒読み口調はなんですか?」
「もういいんだ、ジーク。もう色々と諦めた」
「アンネローゼ様が皇太子殿下を引きずって」
「なにがあったんだぁー」
「がんばれよぉー」
「ラインハルト、助けろー」
ああ、皇太子殿下がアンネローゼに連れ攫われていきますぅ~。
ラインハルト、貴方の姉でしょう。なんとかしなさい。
「ラインハルト様が……笑っています。まさに冷笑!!」
なんという姉弟。
あ、悪魔です。ミューゼル姉弟は悪魔ですー。
「姉上は、皇太子に押しつけてしまおう。それがいい。そうするべきだ。我々が被害を受けないうちにっ!!」
「ラインハルト様は変わってしまわれた……」
「たーすーけーろー」
後書き
恐るべきラインハルトの豹変。
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