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IS 〈インフィニット・ストラトス〉~可能性の翼~

作者:龍使い
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第一章『セシリア・オルコット』
  第十三話『輝く世界へ』

 
前書き
本日のIBGM

○穏やかな朝
Alone(ペルソナ4)
ttp://www.nicovideo.jp/watch/sm18076820

○日常
Like a dream come true(ペルソナ4)
ttp://www.nicovideo.jp/watch/sm18053378

○朝の光の中で待つ少女
New Days(ペルソナ4)
ttp://www.youtube.com/watch?v=H0xdddtsWFg

○新たな日常への一歩
SMILE(ペルソナ4)
ttp://www.youtube.com/watch?v=SuwQjZ3ZAxE 

 

――次の日の朝

「……う~、眠いよぉ~……」
眠気眼(ねむけまなこ)で呆けながら、布仏本音は自分のベットから起き上がってきた。
「あのあと、遅くまでゲームしているからだろ。ほら、そろそろ飯にしないと間に合わないぞ」
目を擦りながらふらふらとしている本音に対して、俺は呆れたながら注意した。
とりあえず、こりゃ今日も俺の朝飯当番は決定だな……。
「しゅうや~ん、おんぶ~……」
そう思ってキッチンスペースに向かおうとする俺に、小さい子供のようなことを言いだす本音。
「自分の足で歩け……って、言ってる最中に寄りかかるな、本音!?」
これにも呆れて注意しようとした矢先、本音が俺の背後に寄り掛かるようにして乗っかってくる。
……ってか首に抱き付くな、胸も背中にあたってるからな!?
仕方なくリビングスペースのクローゼットの前まで本音を引っ張っていき、すぐに身支度を整えるように彼女に言った。
彼女が支度を済ませているであろう内に、俺は昨日の晩に仕込んだ朝飯を完成させに向かった。
今日のメニューは、白菜と油揚げの味噌汁と冷凍しておいたジャーの白飯、そして厚焼き玉子にキュウリの浅漬けだ。
時間にして20分ほど、のそのそと眠たげに歩きながら身支度を終えた本音が、リビングスペースの共用テーブルに着いた。
「いただきます」
「いただ…き…まぁ……」
本音と向い合せに座りがら、俺は少し時間を気にしつつ朝飯を口に運んでいく。
本音はと言うと、まだしゃっきりしないのか、俺がときどき声をかけないと、箸を持ったまま寝そうで心臓に悪い……。
それでも飯粒どころか、味噌汁の一滴すら残さず平らげてくれるのは、作っている人間としては気分が良い。
「ごちそ…さま……」
彼女が寝言のようなごちそうさまを聞き、俺は素早く食器を下げてキッチンの流しの水に浸け、登校の準備にかかる。
本音と同室になって一週間、ほぼこの調子である。
俺は朝から基礎修練をするから、最低でも5時半までには目を覚まして活動を始める。
そこから寮の玄関が開く時間を見計らって走り込みに出かけ、そのまま素振りを終え、シャワーで汗を流してから本音を起こす。
起こすといっても、やっているのは完全に力技だ。まず声をかけ、次に肩をゆすり、三つ目に身体全体を揺らし、最後に掛け布団をひきはがしてハリセンを見舞う。これで1セット。三日前はこれを3セット繰り返し、それでも起きなかったことがあった。
本音曰く、これでも中学時代より全然朝が早くなったというのだから、以前はどれだけだったのやら……。
次の部屋割り変更で、コイツと一緒になるルームメイトの苦労を思い、俺は心の中で手を合わせてそいつのことを憐れみたくなった。

――コンコン

そんな余計なことを考えていると、隣人からのノックが部屋にこだまする。
「おはよう、修夜。そろそろいけるか?」
いつもの明るい一夏の声が、ドア越しに聞こえてきた。
「あぁ、ちょっと待っててくれ。すぐに行くよ」

――――

本音を引きずりながら部屋のドアを開けると、いつものように一夏と箒が並んで立っていた。
「朝から大変だな、修夜」
そんな俺と本音の様子を、箒と一夏は苦笑を浮かべながら眺めている。もはや、これさえ日課となりつつある。
「おはよう、二人とも。見て分かるなら、代わってくれてもいいんだぞ」
軽口を叩きつつ挨拶すると、そこは遠慮しておくと一夏がいつもの調子で返してきた。
「うにゅ~……」
話題の中心である本音は、いまだに水面を漂ううたかたの様相で、夢と現実のあいだを彷徨っている感じだ。
「おはよう、布仏」
箒が本音に近づきながら、彼女に声をかける。
「…………。あ~、おりむーにほうきん、おはよ~」
するとさっきまでのうたかたモードがうそのように、本音はいつもの状態に復帰する。
……なぜそれをもっと早く起動してくれない。
「すっかり、のほほんさんのお世話役だな」
『のほほんさん』。それが一夏が本音に付けたあだ名である。
名付け親曰く「雰囲気が“のほほん”としているから」とのこと。実に分かりやすいネーミングである。
笑いながら飛んでくる一夏の言葉にムッとしたが、今日までを振り返ってみて俺はちょっとしたショックを受けた。
彼女と一緒いる時間のうち、大半は彼女に世話を焼いていることが多いことに、今更ながらに気が付いた。
……あれ、これが俗に言う『主夫』ってヤツなのか…?
自分の妙な順応性の高さが、少し悲しくなった……。
「それにしても珍しいな、お前らがこんな時間に出るなんて」
時刻は7時50分を少し過ぎたところ。別に遅いと言うわけではないが、何時も俺より後に来る二人にしては、少し珍しい時間だ。
「昨日の試合について、修夜ともう少し話したかったからさ。箒から、修夜が向かう時間を聞いて合わせたんだよ」
「そう言うことだ」
一夏の言葉に、箒も頷いてそう言う。まぁ、確かに昨日の事は俺も後で話そうと思っていたから、都合が良いと言えば都合が良い。
「なるほどな……ってか、いい加減離れろ本音。歩き難い」
「にゃふふ~、やだよ~♪」
そう言って俺の背中から離れようとしない本音を引きずり、結局は寮の玄関まで引っ張っていく羽目になった。
じゃれついてくる仔猫か、コイツは……。
「ほら、玄関についたんだから、離れて靴を履く」
「む~……」
玄関についた以上靴を履かねばならないので、渋々と俺から離れる本音。
むくれっ面をしている様子は、さながらダダをこねる小さな子供だ。
「なぁ、のほほんさん。どうしてそう、修夜に懐いてるんだ?」
「ん~? しゅうやんと一緒だと楽しいから~♪」
一夏の質問に、笑いながらゆったりとした口調でそう答える本音。
「そ、それだけなのか?」
「それだけだよ~。じゃあしゅうやん、もういっか……へぷっ!?」
笑顔を崩さないまま本音は俺に乗っかり……そうになったところを、俺が手で彼女の頭を押さえて止める。
「頼む本音……。流石にここから教室までお前を引きずるのは俺が耐えられない……」
情けない話だが、自分は周囲の視線を一身に集めて登校できるほど、羞恥心に勝てる自信が無い。
ほんと、ルームメイトになってから一週間しか経っていないのに、何でここまで懐いてくるんだろう……。思い返してみれば、補講やISの練習をしてたときも、途中からいたような……。
まぁ、色々とお節介焼いちまっている分が、こういうかたちで出てきているんだろう。
そういえば、日課の修練を一度だけ見せたことがあったけど、あの辺りから余計にじゃれ付いてきているような……。気のせいか?
「む~、しゅうやんの意地悪ー……」
本気で残念そうに言う本音。
「なんて言うか、微笑ましいな……」
「うむ、甘えん坊の妹を相手にしている苦労性の兄と言う感じだな」
そんな俺達の様子を、何故か微笑ましく見ている幼馴染み二人。ってか、マジですか……。
確かに本音の相手をしていると、妹ってこんな感じなのかなって思う時があったけどさ……。
「むぅ~……しゅうやんがお兄ちゃんだったら楽しいかもだけど、それじゃちょっとなー……」
「……? なんか言ったか、本音?」
「なんでもないよ~」
小さく何か言ってた本音にそう問いかけると、彼女はすぐに笑いながら答える。
なんか一瞬、少しだけ不機嫌そうな表情をしてた気がしたんだが……気のせいだったのか?
「……? まぁとりあえず、そろそろ行くか。今日のSHRは織班先生だったはずだから、万一にも遅れたらまずいし」
「うげっ、それは確かに避けたいな……」
俺の言葉に露骨に嫌そうな表情をする一夏。まぁ、あの人の容赦の無さはこいつでなくても嫌なのは事実だな。下手すりゃ、死を意味しそうだし……。
「まぁ、この位の時間だったら早々遅刻する事なんて無いだろうしな」
苦笑を浮かべながら玄関の扉を潜り抜け……その先に、見覚えのある人物が目に入った。
「……うん?」
「どうした、修夜?」
思わず足を止めて、その方向を見る俺に箒が問いかけてくる。
「いや、アレって……セシリア、か?」
寮を出て、少し離れた所に植えられている樹を見ながら、そう答える。
春の暖かな陽光を浴びて、煌めく金色の髪を風に揺らしながら、誰かを待つように彼女――セシリア・オルコットが、確かにそこに立っていた。

――――

「……少し、早すぎたのかしら…」
手首に巻いた腕時計で時間を確認しながら、セシリアはポツリと呟く。
時刻はもうすぐ八時を過ぎる。予鈴の時刻はまだまだ先ではあるが、自分が探している待ち人がこない。
彼女がある理由から、ここで待ち人を待ってから既に20分は経過している。その間に何人ものクラスメイトを見かけ、時には挨拶を返したが、目的の人物が来た様子はない。
(……もしかしたら、既に教室の方に……)
自分の行動は肩透かしに終わったのか、言いようのない不安に駆られかけた。その瞬間――
「よぉ。なにやってんだ、セシリア?」
「ひぁっ!?」
少しだけ意識を思考に向けた瞬間に声をかけられ、思わずセシリアは変な悲鳴を上げてしまった。
「わ、悪い。驚かせたか……?」
声をかけた人物は、彼女の様子に少しだけ戸惑いながらそう言葉を紡ぐ。
「し、真行寺さん……!?」
彼女はといえば、目の前の人物の登場に少しだけあたふたとしている。
それもその筈、彼女が待っていた待ち人は、目の前にいる少年――修夜だったのだから。
「あ~、セッシーだ~。おはよう~♪」
「お、おはようございます。織班さん、篠ノ之さん、布仏さん」
その後ろから、一夏、箒、本音と彼女のクラスメイトが近づいてくる。
「おはよう、オルコットさん」
「ああ、おはよう」
彼女の挨拶に、一夏と箒もそう返す。
何気ない朝のやり取りで固まりかけた思考をほぐし、セシリアは徐々に平静を取り戻していった。
「もう、体調は大丈夫なのか?」
修夜はどことなく身を案じるように、セシリアの調子を訊いてみる。
「ええ、一晩ゆっくりと眠りましたから」
「そっか……」
セシリアの答えに修夜は安堵し、自然と笑顔を見せるのだった。
「それより、オルコットさんは何してたんだ?」
二人のやり取りに対し、すこし強引に一夏が質問を挟んできた。
無論、一夏に悪気はないが、ときにこの男は妙に雰囲気を察することが下手なときが多い。
しかし一夏の質問自体は、修夜も得てして気にかかったことだった。
「もしかして、誰か待っていたとか……?」
あり得そうなことを、とりあえず修夜は口に出してみた。
「はい、あなた達を待っていたんですわ。正確には、真行寺さんと織班さんのお二人なんですけど……」
一夏の答えに、彼女は少しだけ真剣な表情で答える。
「俺達を……?」
名前を呼ばれ、互いに顔を見合わせる二人。
そんな二人に対して、セシリアは襟を正して向かい合い、少し呼吸を置いて二人を真っ直ぐに見据えた。
そして――
「真行寺さん、織班さん……先週の暴言、まことに申し訳ありませんでした」
そう言って、セシリアは深々と頭を下げてた。
その様子に、修夜を除く三人は少しだけ驚いた。
昨日までの、プライドの塊のようなセシリアしか知らない者からすれば、彼女が素直に謝罪をしてくることが意外だった。
ややのんきな……否、若干一名がのんき過ぎるが、そんな三人でもなければこの光景を見て『明日は竜巻が襲来する』といわれれば、皆が本気になるだろう。
呆気にとられる三人を尻目に、修夜は笑いともため息とも知れない顔を見せる。
「セシリア、その件だったら俺も一夏ももう気にしていないから、そこまで気にしなくても……」
事実、修夜は勝負を通して彼女を知り、一夏は修夜から約束を守ろうとした事を聞いていた。
すると一夏も、あっさり“諾”と返したため、互いに彼女の無礼を不問にすることで一致したのだった。
だが修夜がすべて言い切る前に、セシリアは少し語気を強めて話しはじめた。
「いいえ、気にするとかそう言う小さな理由で、謝罪する訳ではありませんわ」
頭を上げて、修夜たちを見据えるセシリア。その青い瞳は、とても澄んだ意思を宿している。
「これは、わたくしなりのけじめです。
 わたくしの行為で、お二人だけではなく、篠ノ之さんや布仏さん、クラスメイトの方達にも不快な思いをさせました。
 その事に対する謝罪は、試合を終えて負けてしまった以上、果たさなければなりません」
真剣に言葉を紡ぐセシリア。その様子に、修夜達は黙って彼女の言葉を聞いている。恐らくではあるが、彼女はクラスでも今のように謝罪をする覚悟なのだろう。
「セシリア、お前……」
修夜は改めて、セシリア・オルコットという少女の、真っ直ぐな“覚悟”を見せられた気がした。
「それに、これからずっと付き合っていくクラスメイトの方たちとの間に、溝を作ったままにしてはおけないでしょう?」
そう言って、優しく笑みを浮かべるセシリア。その表情は、昨日までの彼女とは違う、本当に自然な表情だと修夜達は思った。
「……そっか。それなら、俺達からは何も言うことは無い。
 さっきも言ったように、俺も一夏も、もう気にしてないしな。だろ、一夏?」
修夜は一夏に顔を向け、互いの意思を確認する。
「ああ、確かにな」
お互いに笑みを浮かべながら、二人は再度この決断に納得した。箒と本音は、そんな二人を微笑みながら見ている。
「……よかった」
そんな四人の様子に、安堵の溜め息を吐くセシリア。
「それはそうと、真行寺さん」
「ん……?」
名を呼ばれ、振り向く修夜。
「あなたがわたくしの事を名前で呼んで、わたくしが苗字で呼ぶと言うのは、その……少し他人行儀な気がするんです。ですから……」
少しだけ戸惑いながら、セシリアは思い切ってその言葉を口にする。
「わ、わたくしもあなたの事を……な、名前で呼んでもよろしいでしょうか……!?」
少したどたどしく、しかしはっきりと、何か思い切りを付けるかのようにセシリアは言い放った。
その顔はそことなく赤くなっているようにも見える。
勢いまでは良かったものの、そのあとに訪れた僅かばかりの静寂に耐えられず、セシリアは思わず目をつぶって俯く。
その間、3秒に満たない。
だがその数秒が、セシリアにとって数分にも、一時間にも感じられた。
瞬く間の永劫の末、彼女が耳したのは――。

「ああ、別に構わないぜ?」

修夜の、承諾の声が聞こえた。
「ほ、本当ですか!?」
「ああ、俺達はクラスメイトで『仲間』……だからな。呼びやすい様に呼んでもらっても、かまわねぇよ」
穏やかな笑みを、修夜はセシリアに向けていた。
まず感じたのは、花畑に飛び込んだような柔らかく温かい感情。だが向けられた言葉を反芻し、その気持ちもすぐに治まってしまった。
とても嬉しいはずなのに、何故か釈然としない歯がゆさ。届いたはずなのに、掴み損ねたような感触。
その何とも言い難い感覚を、セシリアは身を振るわせて感じていた。
欲しい答えは、得たはずなのだが――。
気付けば、ぎこちなく微笑んでいる自分がいた。
「なら、俺も名前で呼んでもらってもいいかな? 織班さんって呼ばれると、少しこそばゆくてさ……」
ここに来て、一夏もこれ幸いにとセシリアに問いかけた。
よくよく場の雰囲気を察しない男である。
「確かに、お前に『織班さん』って言われる貫禄はないわな」
「ああ、確かにそうだな」
セシリアに対する一夏の頼みに、思わず噴出す修夜と箒。
同時に修夜の軽口に、思わずムッとする一夏。
「うるせー、お前だって『真行寺さん』って呼ばれるイメージじゃないだろ」
「あはは、確かにしゅうやんにもそう言うイメージって無いかもー」
そんな一夏の反論に、本音も笑い出す。
「……ふふ」
そんな風に自然と笑いあう四人に、セシリアはつられて笑ってしまう。
「わかりましたわ。そう言うことなら、一夏さんの事も名前で呼びまわすわね。
 篠ノ之さん達の事も、名前で呼んでも構いませんかしら?」
和やかな雰囲気に身を委ね、セシリアはこの際にと、箒と本音に尋ねてみる。
「私は別に構わない」
すんなり“諾”と返す箒。
「私もー」
本音も、セシリアの申し出に二つ返事で返した。
「ふふっ、ありがとうございます」
セシリアの心中に、少しばかりの達成感があった。
「それなら、一夏さん達も呼びやすい呼び方でお願いできませんか?」
「え、良いのか?」
三度驚く一夏と箒と本音。
「ええ。先程、修夜さんもおっしゃったではありませんか。わたくし達はクラスメイトで仲間……なのですから」
一夏の疑問にそう答え、セシリアは手を差し出す。これから共に過ごす仲間達への、信頼の証としての握手をするために。
「……そうだな」
その言葉に納得するように呟き、最初に手を取って握手をしたのは修夜だった。
「あぁ、これからよろしく、セシリア」
真っ直ぐに視線をセシリアに向け、彼女の手を優しくも力強く握った。
「今後ともよろしくな、セシリア」
次に握手をしたのは、一夏。
上下に軽く振るように、優しく彼女の手を握る。
「よろしく、セシリア」
箒が握手。
優しくその感触を確かめるように、きゅっと握った。
「よろしくー、セッシー♪」
最後に本音。
珍しくダボダボの袖から手を出し、両手で包むように握手をした。
「……っと、そんじゃそろそろ、教室に向かおうぜ。早くしないと、マジで織班先生に殴られそうだ」
ふと、時間を確認した修夜が、全員に警告を発した。
「げっ、もうそんな時間なのかよ!?」
「……みたいだな。少し急いだほうが良いな」
千冬の雷が物理的に落とされる怖さを知る二人は、この言葉に即座に反応した。
「いっそげー♪」
一方、本音はマイペースに、皆に先んじてトコトコと駆け出す。
「あ、のほほんさんずるいぞ! 箒、急ごう!」
「ああ、そうだな!」
その後を慌てて追いかける一夏達。そして……。
「……やれやれ、まだ少しは余裕があるってのに。元気な奴らだ」
《そう言うマスターはのんびりし過ぎだよ。まったく……》
歩きながら一夏たちを追う修夜と、何時の間に現れたのか、彼の肩に乗りながら何処か楽しそうに見ている小さな妖精(シルフィ)の姿を、セシリアは見つめていた。
(……本当に、不思議な人ですわ…)
互いに出会って、それほどの時が経っていないと言うのに、まるで友人として長く過ごしたかのような感覚が、彼女の胸の中にあった。
その感覚は、セシリアにはひどく懐かしく思えた。ずっと昔に封印していた感情だった。
オルコットの家を守るため……ただそれだけの為に、その感情を封印して今を生きてきたセシリアにとって、何時しか世界は狭まり、灰色のように見えていた。
だが、修夜と出会い、一夏達と和解して、彼女の世界は再び色を取り戻し、広がっていた。
何気なく感じ、見慣れたはずの景色が、今のセシリアにはまるで、自分を迎え入れてくれるかのように輝いて見えてた。
(……これが、修夜さんの生きている世界なんですね…)
春の陽光が優しく祝福し、吹く風が優しく自分を包み込む。そんな風に感じてさえいた。
「セシリアー、置いてくぞー?」
そんな風に考えている自分を呼ぶ声が、遠くから聞こえてきた。
「待ってください、今行きますわ!」
そう言って、セシリアは駆け出す。そして、胸の内で決意する。
新たに出来た友人達と共に、この輝く世界を生きていこうと。昨日までの自分と違うやり方で、オルコットの家を守っていこうと。
そして……。

――何時か、この世界に再び色を与えてくれた少年の隣を、共に歩いていこうと……そう、決意した。
 
 

 
後書き
……と言うわけで、本日の更新はここまで。
小説紹介にも書いた通り、この作品は自分なりにISを描く事を目的としたもので、原作との相違点はそれなりにあると思います。
また、長い付き合いである相方との共同作業が途中から入っているので、結構分厚くなってるんですよね、途中から(汗
とにもかくにも、初のマルチ投稿……どんな結果になる事やらっと。

とりあえず、現在更新中の鈴編は後日投稿しようと思います。
ではでは~ 
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