| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

IS 〈インフィニット・ストラトス〉~可能性の翼~

作者:龍使い
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第一章『セシリア・オルコット』
  第十二話『宿りし絆(こころ)』

 
前書き
本日のIBGM

○セシリアの過去
神無月の人魚(Xenogears)
ttp://www.nicovideo.jp/watch/nm3138894

○悲しみを癒す風
夜空一杯の星を集めて(Xenogears)
ttp://www.nicovideo.jp/watch/nm3138116

○宿りし絆(こころ)
盗めない宝石(Xenogears)
ttp://www.nicovideo.jp/watch/nm3137825 

 
以下は、俺がオルコットから聞いたことだ。

オルコット家は、彼女の祖国イギリスはおろか、近在の西ヨーロッパ諸国でも知られる名門だという。
特に彼女の母親は、オルコット家でも初めてといわれる女性当主の地位を勝ち取り、一門をさらなる発展へと導いた敏腕実業家として活躍したそうだ。
一方で彼女の夫、つまりオルコットの父親は、入り婿で肩身の狭い身分だったらしい。
そもそも彼女の父親は優しいが気弱で、親類どころか使用人にまで舐められていたのだという。それを語る彼女の態度を見るに、扱いのひどさは見ていていたたまれないものだったに違いない。
パワフルな母と弱小な父を見て育ったオルコットは、いつしか力強い母親に羨望の眼差しを向けるようになり、将来は母親のような立派な女性になろうと決めたのだという。
そんなオルコット家に転機が降りかかる。
ISの登場だ。
これにより女尊男卑の風潮が世の中を席巻し、母親はより力を伸ばし、父親はさらに居場所を狭めていったとか。
そんな父親を、オルコットは徐々に避けていくようになった。
同時にオルコットから見て、夫婦の関係も徐々に冷え込んでいったようにも見えたらしい。
それが数年前のある日、二人は突然のようにイギリスの北部・スコットランド地方への小旅行を決定した。
オルコットも、このときは心から驚いたらしい。
二人がどんな顔をして出て行ったかは、はっきり覚えていないらしいが、父親がお土産を約束してくれたことはおぼろげに覚えているというのだ。
しかしながら、オルコットにとって両親を見送ったそのときが、家族三人での最後の時間となった。

スコットランド鉄道特急列車横転事故。
俺もその事故のことは、わずかにだが覚えていた。
スコットランドの南部と北部を結ぶ路線の途中で、走行中の特急列車が横転し、死傷者100名を越す大惨事となった事故だ。
当時この事故は、邦人の被害者も出たとあって日本でも大々的に報道され、最終的にはその年における最大の交通事故として記録されることになった。
事故の原因はいまだ解明されておらず、専門家のあいだでも列車の整備不良説から、レールの異常説、カラスのいたずら説、果ては政府要人や経済界の重役を多く載せた車両が最大の被害を受けたことからテロ説まで、様々な論争を今でも呼んでいる。
オルコットの両親も、この一番被害のひどい車両に乗り合わせていたのだという。

突然の両親の死。
オルコットの胸中がどんなものだったか、想像するのもいたたまれない。
自分の知る人が何も言わなくなる寂しさは、自分にとって身近な人ほど“痛み”を伴ってくる。
俺自身、それは嫌というほど知っている。

だがオルコット曰く、ここからが本当の『戦い』だったのだという。
名門の当主の急死が招くもの、それは身内での醜い『遺産争い』である。
オルコット“本家”そのものは、彼女の母親の手腕で隆盛を保っていた。しかし親類一同の生活は、ISが世界に及ぼした影響の“余波の余波”で会社経営が傾き、人によっては倒産にまで追い込まれていったという。
さらにトドメとばかりに、オルコットの母親は万一に備えて自分専属の法律家に遺書を託していたらしく、その内容は『次期当主の決定権をセシリアに委ねる』という文面だったらしい。
こうなると、生きるのに必死な親類はろくな事をしなくなった。
誰もが皆、オルコットすり寄って機嫌を取り、自分こそが次期当主にと見え見えのゴマスリを仕掛けてきたというのだ。
そして他の親類を見ると、言葉は美しくとも互いに罵りあう、見苦しい意地の張り合いを展開していった。
中には彼女を自分の家に軟禁し、自分を認めろと迫ってきたロクデナシもいたという。
十歳を過ぎた子供にでも分かるような泥仕合を見せる大人……、想像したくもないな。
最初は母親の遺言を恨みさえしたという。
だが、醜い親類たちの泥仕合を見続けるうちに、オルコットの中で徐々にある思いが起こりはじめる。
――こんな醜い人たちに、両親の遺したオルコット家を譲りたくはない。
そう語った彼女からは、失意と怒りが滲んでいるようにも感じられた。

――――

「それからわたくしは、必死にあらゆる事を学びましたわ。
 その一環で受けたISの適性検査で高い適正がある事を知り、政府から国籍保持のために様々な好条件出された時も即断しました。
 毎日のように訓練も倒れるくらい積み重ねましたし、時々両親を思い出して、淋しさから膝を抱えもしましたわね」
眼を細めながら、かつての日々を思い起こすオルコット。
「……それでも、わたくしはお母様のオルコット家を守りたかった。
 代表候補生になって、王国の御旗を背負えるようになれば、代表候補生としての権威で親類を牽制できる。
 だからこそ、誰にも負けるわけにはいきませんでしたわ」
一言一言、一語一語ごとに、オルコットの込める気持ちは強くなっているように思えた。
今の彼女の顔は、俺が試合の中で見た『戦乙女』としてのオルコットだった。
しかしそこまで言って、オルコットは顔を伏せてしまう。同時に、顔もさっきまでのオルコットに戻る。
「……でもそうしていくうちに、何時しかわたくしは、自分の実力に慢心していきました」
声が徐々に震え、何かを堪えるように言葉を紡いでいく。
「信じられるのは自分の実力だけ。その実力も、候補生への道に近づくにつれ強くなっていきました。
 ……ですが、同時に“オルコットの家を守りたい”という思いも、自分が『名門であること』への意識に、すり替わっていました」
すっかり俯きになり、その顔も前髪で目元が見えなくなった。
「本当に最初は、ただ“オルコット家を守りたい”だけでした。
 でも……、候補生への階段を上がっていく中で、それの理由から“負けられない”という意地が生まれて、その意地が……、自分の“自負”に変わっていって……、最後には……!」
言葉はここで切られた。
掛け布団に置かれた手が、きつく握られていく。
自分の守りたいものを守るために、貪欲なぐらいに力を得ていったオルコット。
だがときに、人は他人とのかかわり方ひとつで、力と自我のバランスを崩壊させてしまうことがある。
オルコットの場合、歪んだ親類関係から他人を信用する意味を見失っていった。
見失った意味を、今度は自分の“力”で補い、ただ自分の強さだけを信じるほかなかった。
そうして得た力と実績は、やがて彼女の中で“名家を背負って戦うという自負”に変化し、その自負もやがて“自信”に変容する。
この一連の変貌が最後に行き着いた先――、それが“名家の娘たる自分こそ強者である”という『傲慢』だった。
「わたくしは……、わたくしの一番嫌いだったはずの……、親族と同じ『上辺だけの人間』に成り下がっていました……。
 こんなわたくしなんて、オルコット家の娘……失格ですわ」
そう言うオルコットの瞳から、雫が流れ落ちていく。僅かに肩を震わせ、声を押し殺して、泣いている。
「わたくしは……わたくしは……!」
そしてまた、顔を手で覆った。
まただ。また、ただの『か弱い女の子』になっている。
……いやちがう、多分これが“最初のオルコット”だ。
セシリア・オルコットという少女が、今に至るまでの最初にある、両親を亡くして家を守る決意をした頃の彼女だ。
自分の居場所を守るために、必死に何かをはじめようとした、はじまりの日の彼女なのだ。
か弱く見えるのは、彼女の“時間”がそこで“止まっている”が故。
ここに来て、俺はオルコットの正体に、ようやくたどり着いた気がした。

「もういいんじゃないか……?」
俺の言葉に、オルコットのすすり泣く声が止まった。
「それ以上自分を責めたところで、あとはただ痛いだけで何もないぞ」
ホント、自分の知っている感覚がいろいろあると、変に説教臭くなって嫌になる。
「でも……、わたくしは……」
オルコットは覆っていた手をわずかに離し、涙にぬれた顔をこちらに覗かせる。
「……間違ったんなら、勘違いしていたって気付けたなら、そこからもう一度始めりゃいいんだ」
そう言った俺の顔を、オルコットは不思議そうな様子で覗いてきた。
「だって、まだ高校一年の4月だぜ。アンタだって、候補生として歩きだしたばかりだろ?」
まだ呆然としながらも、オルコットのヤツは口を開く。
「……でも、こんな……、こんな風になってしまったわたくしに…、そんな価値なんて……」
でも出てきたのは、まだ泣き言だけだった。
「じゃあ、お前の価値って何だ。家柄か、強さか、主席入学っていう名誉か?
 そんな価値なんて大層なもん、今の俺にもお前にも、大してありはしないさ」
俺は価値の話がしたいんじゃない。
「価値とか、資格とか、そんなことウダウダ嘆いているヒマに……」
いつだっけな、これを師匠に言われたのは――。
「死ぬ気で足掻いて、もう一回そこから這い上がって来れる。世の中、そう言うもんだぜ…?」
まぁ、師匠は完全に命令形だったけど……。
それを聞いていたオルコットからは、もう泣き声も泣き言も聞こえない。
ただ俺を、何やら不思議そうに見ているだけだった。
仕方ないかもしれない。
一度の敗北で自分人生が左右される、そんな綱渡りみたいな力の付け方をしてきたんだ。
やり直しなんて考え方が、今まで念頭になかったんだろう。
「大丈夫、多分『お前』だったらイケるさ」
根拠は無い、でも確かな根拠はある。
「ソニックでチートかましていた俺を、残り5ポイントにまで気迫で追い込んだ、あのときの“意地でも諦めない”セシリア・オルコットなら……」
あの時の彼女は、彼女自身が思っているような矮小で上辺だけの人間じゃなかった。
間違いなく、俺とよく似た【夢と誇りを抱えて羽ばたき続ける少女】の、本気の戦いだった気がする。
「あの時のお前、綺麗でカッコ良かったぜ……?」
それがあの戦いで出会った、俺の感じたセシリア・オルコットの生き様だ。
『学業施設内にいる生徒の皆さんに連絡します――。
 まもなく17時00分になります。本日の全日程が終了しましたので、スポーツクラブ以外の部活動や、 居残りをしている生徒は学生寮へ帰るよう心掛けてください。
 繰り返します……』
不意に、居残りへの注意喚起のための校内放送が流れてきた。
「……悪ぃ、なんか中途半端だけど、帰る時間みたいだな」
そう言ってオルコットの方を向くと、何故かぼーっとしたままの彼女がいた。
……なんだコレ?
「……お~~~い…」
少し不躾だが、少し顔を近づけてみる。
「きゃっ…?!」
驚いたのか、小さく悲鳴を上げるオルコット。
いやいや、いきなり呆けられた俺の方が驚いたっていうか……。
「いや、悪かった。……大丈夫か?」
熱でもあるのかと思ったが、窓から入る西日のせいでイマイチ顔色が分からない。
「え…、ぁあ…、だっ…大丈夫…です…、はいっ…!」
慌てて言い繕うように、たどたどしく返答するオルコット。
でも何故に、姿勢まで正す必要が……?
ってか、さっきとまた態度が違っていないか……?
「とりあえず、俺は今から帰るけど、何なら一緒に帰るか…?」
校舎がもうすぐ閉まるってことは、コイツも遅かれ早かれここから帰る必要がある。
さっきのさっきまで説教垂れていた身で言うことじゃないんだろうけど、やっぱり今コイツを一人にする気にはなれない。
「ぁ……、い…いいえ、大丈夫です、はい…!
 それに…、保健の先生にも一言お声掛けしてしておきませんと……!」
なんか様子がおかしい。
なんというか、急によそよそしくなったというか……。
……まぁ、さっきまで色々と自分の内面を引っぱりだしたり、それで色々と問答したりしたんだ。まだ混乱してるのかもしれない。
「変なこと言って悪かったな、ゴメン」
ここは素直に詫びておこう。
「い…いいえ、お気になさらないでください……。
 それより、お時間の方が――」
そういって、彼女は反対の壁にある時計に眼をやった。
その視線を追って振り返ると、時間はもう17時を過ぎていた。
「あぁ…、ありがとう……」
変な空気だが、この辺りで帰らないと後が怖そうだ……。
「それじゃ、今日はホント色々と悪かったな。
 人のこと言えた義理でもないのに、あれこれと言いたいだけ言うばかりだったし……」
まったく、これが師匠に知れたら、なんと言ってくるやら……。
「いいえ、こちらこそ……。
 なんか、ちょっとだけ……すっきりしました……」
そう呟くオルコットの顔は、どこか穏やかで明るかった。
……どうやら、あんな話でも気を紛らわすのにはよかったみたいだ。
オルコットの少し晴れた顔を見られたことに安心し、俺は椅子から立ってもう一度オルコットの……
……いい加減コレもめんどくさいな。
「なあ」
この際だ、了承はとってみよう。
「はい?」
少しためらいそうになったが、改めて俺は切り出してみる。
「“オルコット”って、他人行儀なのもなんか堅苦しいから、なんだ…、【セシリア】……って、名前で呼んでもいいか?」
正直、「オルコット」「オルコット」と連呼するのも、変な気がしていた。
「いや、お前が嫌ならいいんだ。
 でもさぁ、アレだけ派手にやりあって、ここで色々しゃべって、お互いに色々知ったわけだし……」
そう言っている俺に対し、返答をすべき本人は眼を丸くしたまま黙ってしまった。
やっぱり、昨日今日でこれは――
「い……、いいです…よ……」
……許可は下りたようだ。
「じゃあ……、とりあえず俺はここまでだ。
 今日は色々あったけど、お前と戦ったり話せたりしてよかったよ」
オルコット改め、セシリアに俺はそう言った。
「こちらこそ……、色々ご迷惑をおかけしました。
 わたくしもあなたと戦えたこと、とてもいい経験になった気がいたしますわ」
さりげなくオル……、じゃなくてセシリアの言葉づかいが戻っていたような気がした。
これなら、多分大丈夫だろ。
「それじゃあな、セシリア」
「えぇ、真行寺さんも」
そう挨拶を交わし合い、俺はセシリアと別れて帰宅の途に就いた。

――――

修夜を見送ったセシリアは、保健医の帰還を待ちながら帰り支度を整えていた。
思い返せば、どこまでも不思議な存在に思える。
突然熱くなったと思えば、すぐさま水鏡のように穏やかになる。
不敵な態度で挑発をしてきたかと思えば、何の躊躇もなくこちらに賛辞を送ってくる。
まるで“風”そのものようだ。
そんな気まぐれで、妙に人情くさい少年が放ったいくつもの言葉の中で、セシリアの心に、ある言葉が強く残っていた。

――【あの時のお前、綺麗でカッコ良かったぜ……?】

(………………)
両親がこの世を去って以来、素直に人から褒められたのは何年振りだろうか。
しかも自分が売ったケンカがもとで決闘を繰り広げた相手に、である。
正直、少女は複雑だった。
今日、自分と矛を交えた相手は、間違いなく今まででも最強の敵だった。
そんな相手は、自分と同じように大切な誰かを喪い、その逆境をバネに夢へと突き進んでいる。
今日だけで、いったい彼といくつの言葉を思いを交わしただろう。
あまりに濃密な一日に、暫し支度の手を止めて振り返る。

――【あの時のお前、綺麗でカッコ良かったぜ……?】

「……!」
不意を突くように、無意識にあの言葉がよみがえる。
同時に、思わず胸が締め付けられる感覚と、脈拍の上昇に襲われる。
(またですわ……)
最初に修夜にこの言葉をかけられたときも、セシリアは同じ症状に見舞われていた。
二度目は、呆けている自分の顔を近くで覗いてきたとき。
そして三度目は、自分を名前(ファーストネーム)で呼びたいと申し出てきたとき。
それ以降はどうにか平静を装って見せたが、内心では修夜が次に何をしてくるか気が気ではなかった。
心臓への締め付けは、急なもので苦しくはある。
しかし、同時に身体の温度が上昇し、少し浮かれているような高揚感も押し寄せてくる。
なんとも、筆舌に尽くしがたい感覚であった。
これは何だろう――。
そう物思いに入りかけた一瞬、セシリアの中で『ある単語』が引っ掛かった。
それをきっかけに、セシリアはかつて読んだ戯曲や小説の言葉から、今の自分に見舞われている症状と同じ現象を思い出す。
(うそ……でしょ……)
確信は無い、だが知識を当てはめていくと、おのずと出る答えは“限られて”しまった。
(い……いいえ、け…決してこれは……?!)
だが、その“心の名前”を否定すべく、セシリアはとっさに自分に言い訳をしてみた。
あれは場の雰囲気にのまれただけだと。弱った自分の心が起こした気の迷いだと。
そもそも、あれだけ忌み嫌っていた“男”という存在に、自分がこれほど簡単に気を許してしまうのはおかしいと。
そして一度、深呼吸をして頭と心を落ち着かせてみる。
それでも、心臓が覚えてしまった“甘い痛み”と、身体が知覚した“熱っぽい高揚感”を、忘れ去ることは出来なかった。
(だめ……否定できませんわ……)
それでも、その心の名前だけは、とりあえず封印することとした。
(これは……じっくり確かめていくべき……ですわよね……?)
決して否定したい訳ではない。
単純に、自分の“この気持ち”が一時の気の迷いか否かを、しっかりと見定めたい。
もし気の迷いなら、そこから目を醒ませばいい。
でも、もしそうではなかったら――?
そのとき、自分はどうなってしまうのだろうか。
一抹の不安を覚えながらも、少女は真行寺修夜と言う人間に、確かな“絆”を感じていることを自覚した。

――それだけは、確かに自分に宿った心だった。
 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧