レンズ越しのセイレーン
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
Mission
Mission10 ヘカトンベ
(3) マクスバード/リーゼ港 路地裏
前書き
その言葉はわたしを頑なにするだけ
一番にミラがクロノスに斬りつけた。クロノスは旋回するビットの一つを盾にして防いだ。それでもミラは剣圧を緩めない。鋭く速いだけだったミラの剣閃に、今は大きな重みがある。
「術を解きなさい、クロノス!」
「ふん。一度人に堕ちた身では、人として生きるので精一杯というわけか。分史世界の元マクスウェルよ」
「そうよ、悪い? 今の私は何の力もない人間。エルやルドガーとこの世界で生きてくって決めた、ただのミラよ!」
鍔迫り合いが解け、ミラは後退した。交替でミュゼが前に出て、ウィッチクラフトをクロノスに向けて放つ。クロノスがピットを全て防御に回した。チャンスだ!
「ルドガー!」「ガイアス!」
姉妹が作ってくれた隙を逃さない。ルドガーはガイアスと呼吸を合わせ、全身全霊の力を集めて斬りかかった。
出し惜しみなし。序盤からフルスロットルだ。
「「閃剣斬雨・駕王閃裂交!!」」
――クロノスとルドガーらが埠頭で激戦をくり広げる頃。ユリウスはユティに連れ込まれた路地裏で手当てを受けていた。
「さっきからペトペト貼ってるそれは、君の分史世界の物か?」
「アタリ。医療ジンテクスの第一人者、Dr.マティスの改良版テープタイプ。貼ったら患部が15秒で消えるスグレモノ。小さな傷にしか効かないけど」
説明を聞いてから、ユリウスはため息をつく。
(本当に別世界の住人なんだな。聞いた限りじゃディストピアみたいな世界観なのに。この子の親の『俺』は何を思ってこの子を産んだんだろう)
全ての傷にテープを終えたところで、ユティがユリウスにエルボーを食らわせた。
もとい、抱きついた。
「生きてる…生きてる、生きてる…」
ユリウスからすれば脆きに過ぎる体は震えていた。押しつけられた肩に染みる熱い液体。
あのユースティア・レイシィが、泣いている。
「……泣くな、って言っておいただろう」
「だっ、て」
ユリウスは自分に縋ってしゃくり上げる娘を緩く抱き、髪を梳いた。
(俺のために泣く人間なんて、ルドガーだけだと思ってたのに。特にこの子は。死んでもルドガーを守れも同然なことを言ったから怒ってるかと思ったのに。命を左右する命令をされても父親への愛情は揺るがないのか。それどころか、厳密には父親本人じゃない俺を案じて泣くのか)
ああ、それは確かに、この子の父親にとっては最強の兵器だ。
そして、こんないたいけな少女をそう育て上げられた父親は、確かにユリウスでしかありえない。
(この子は確かに俺の娘なんだ)
「……ユースティア。父親の『言いつけ』は絶対か?」
「うん」
「じゃあ父親が『もういい』と言ったら、君は戦いをやめてくれるか?」
利用し、されるだけの他人だったのに、娘と知って、自分のために泣いた少女に、ユリウスはすっかり絆されていた。
やがてユティは、無言で、ユリウスの胸板を押し返して立ち上がった。――それが拒絶のサイン。
「この後、エル姉はおじいちゃまに協力してカナンの地に先に行く。ルドガーはエル姉を助けざるをえない。今、二人の関係には不純物がない。好意、ただそれだけの強く絡み合った糸で結ばれてる」
「ユースティア……? お前、一体何を」
ユティはするりとユリウスの胸ポケットから銀時計を抜き去った。
彼女は夜光蝶の時計と合わせて、マリンブルーのスリークオーター骸殻に変身する。
逆光が、彼女の表情を隠す。
「行く前に一つだけ、聞かせて。ユリウス・ウィル・クルスニク。弟のために自分を殺す覚悟はある?」
後書き
PC用グラスを通販で買って料金払込みに行ったコンビニでPC用グラスをうっかり見つけてしまいorzな木崎です。
クロノス戦②です。ほぼ原作通りですね。ミラ様んとこがミラさんになっただけで。……今度は正史ミラファンからの投石を覚悟すべきかもしれません。
ミラさんが吹っ切れたのはアレです。ルドガーと二人きりでこれからの事を色々話し合って落とし所ができたからです。なのであえてミラ様と同じようなセリフの流れにしましたし、ミュゼとのコンビネーションも描きました。
皆さん分史ミラというと「ミラが人間だった場合」として見がちだと思うのですが、
思い出せ、ミラさんだって マクスウェル(季語なし)
マクスウェルに造られたオトリでも、彼女の使命感が本物だったのはX1で散々描写されましたよね。元々「ミラ」だから、違うとこよりも似てるとこを底流に彼女を書きたいと思ったのです。
ページ上へ戻る