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沈む太陽

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第三章

「沈むだろう」
「この戦争に勝ててもですか」
「それでもですか」
「そうだ、そして若しかすると」
 仮定である、だが彼はあえて言った。
「日本は勝敗に関わらずだ」
「勝とうと負けようともですか」
「その如何に関わらず」
「昇るかも知れない」
 こう行ったのである。
「あの国はな」
「イギリスが沈み日本が昇る」
「そうなりますか」
「あの国が我が国の戦艦を航空機で沈めたのだ」
 それならばというのだ。
「それも有り得る」
「あの極東の小国が昇りますか」
「我が国に代わって」
「そうなるかもな」
 こう言ったのである、ごく一部の者達に。
 そしてこの戦争が終わり数年の歳月が経った頃だった、終戦間際に選挙に敗れ首相の座を去ったチャーチルは再び首相になっていた、丁度新しい国家元首の即位の時だった。
 新しい女王はあの処女王の名を受け継いでいる。
 その即位式に日本から一人の青年が来られた、その方は。
 とある殿下であられた。チャーチルはその品性の見事な方と握手をしてからこう言った。
「私の目は間違いではなかった」
「あの方は日本の殿下ですね」
「次のですか」
「そうだ、そうしただ」
 そこまでのだというのだ。
「紛れもなくだ、まだ若いが素晴らしい方だな」
「流石歴史ある国の殿下ですか」
「それだけの方ですか」
「そして日本もだ」
 この国自体の話もする。
「あの国もだ。戦争であれだけの傷を受けたがな」
「急激にその力を取り戻していますね」
「むしろ遥か上になろうとしています」
「我が国は今まさに落ちようとしている」
 これもまたチャーチルの予想通りだった、彼は沈んだ顔で言う。
「インドも東南アジアも失い」
「アフリカもですね」
「何時どうなるかわかりません」
「日は沈み別の日が昇ろうとしている」
 今がまさにその時だというのだ。
「それはあの戦争で既にはっきりしていたのかもな」
「プリンスオブウェールズが沈んだ時に」
「あの時に」
「実際に戦艦の時代は終わった」
 戦争中にだ、その日本とアメリカの派手な航空戦等でもう戦艦の時代ではなくなっていた。空母が戦艦にとって代わっていた。
 そしてだ、ロイヤルネービーも。
「誇り高きロイヤルネービーも世界を覆えなくなった」
「間も無くイギリス本土を囲む位しかないですね」
「このグレートブリテンを守る程度ですか」
「日本は近いうちに我が国なぞ足元にも及ばないだけの国になる」
 これもまたチャーチルの予想だ、そこまでの国になるというのだ。
「そして欧州も衰退しその日本やアメリカがさらに幅を利かせていく」
「全ては沈むのですね」
「そして別の太陽が昇りますか」
「そうなっていく、何もかもな」
 チャーチルは殿下を見送った後で呟いた、彼には全てわかっていた。そのわかっていることを誰よりも沈んだ顔で受け入れていた。


沈む太陽   完


                    2013・3・20 
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