『もしも門が1941年の大日本帝国に開いたら……』
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第三十六話
――大本営――
「ふむ、炎龍を仕留めたか」
炎龍を討伐してから二日後、炎龍を討伐した事は大本営でも情報が入っていた。
「従軍記者が写真を大量に撮っていますので号外に出す予定です」
東條の言葉に辻中佐はそう答えた。
「エルベ藩王国に向かった攻略隊も若干の被害を出しつつもエルベ藩王国軍の主力を殲滅し、ヘルマン皇帝を捕虜にしたそうです」
「うむ、良い報せではあるな。では悪い報せとは何かね?」
「……特地にて発見された拉致被害者の事です」
「……うむ、それで?」
「アメリカとドイツには連絡しました。流石に両国の大使も顔を青ざめていましたが」
「そして両国は当然の如く被害者の帰還を促してきましたが、今のところ拒否しています」
「うむ、理由は勿論言ってあるだろうな?」
「勿論です」
日本側としては拉致被害者は直ぐにでも母国の元へ送還したいのだが、伝染病を恐れていた。
今のところは拉致被害者を含めて、特地へ派遣されている部隊に伝染病が発生してはいないが発生する可能性はあった。
何しろ見知らぬ場所であり、生態系も分からないのだ。
外務大臣の東郷は両国に加えてイギリス、ソ連の大使も集めて拉致被害者の事も報告して当面は日本が厳重に衛生面は徹底するとし、各国に協力と理解を求めた。
勿論、他国の大使は不満な表情をしていたが東郷は此処で切り札を切った。
「伝染病の事は特地の住民を通して聞き取りをして情報を集めています。その中で、黒死病のような症例もありました」
東郷の報告に欧州の大使は顔を青ざめた。黒死病――ペストは欧州の人間にはトラウマ並みのレベルである。
これは真実であり、レレイがもたらした情報だ。実際に数百年前に黒死病が発生して数十万のヒト種が死亡していた。(他の種族は不明)
東郷はこれを切り札としていたのだ。門の利益が欲しい欧州各国(ドイツ、イギリス、ソ連)は自国の研究者等を日本に派遣する事を決定した。
また、アメリカも同様であり日本側に必要であれば更なる支援や防護服の提供を申し出たのだ。
勿論、日本側も用心するのは当たり前であり、特地の鼠を一匹五銭で買い取り、欧州各国にも鼠を提供して黒死病をもたらすかどうかを調べてもらった。
「今後は戦いより衛生面を第一にしなければならんな」
それは特地派遣軍の第一期の作戦はほぼ終了したと見えた。次に日本が目指すのは帝国及び周辺国との関係を築く事であった。
いくら特地が魅力だからといって周辺国との関係を保たなければ、満州国の二の舞となると踏んでいたのだ。
幸いにしろ、帝国の一部とエルベ藩王国とは窓口があったので和平交渉も進むのではと期待が持たれたが、後にそれは覆されるのであった。
「それにしてもアメリカが支援するとは思いませんでしたな」
海軍大臣の嶋田大将はそう言った。アメリカは日本に対して特地への支援を表明しており、支援の表れとして石油や屑鉄の輸出を再開したのだ。
そして軍事支援として史実でも日本軍に捕獲されて運用されていたM3軽戦車二十両を無償で提供した。
M3軽戦車を提供された陸軍は驚愕した。何せ軽戦車なのに装甲はチハより上(チハ二五ミリ、M3軽戦車五一ミリ)で速度も上、登板力もチハより上だったのだ。
陸軍関係者はM3軽戦車の性能に驚き、ある関係者は「ノモンハンの再来だ」と言葉を漏らしたらしい。
そして陸軍は改めて戦車の性能を認識した。40年から始められていた新型中戦車の試作は急ピッチで進められる事になり、八月に最大装甲五十ミリの試作車、九月に最大装甲七五ミリの試作車が完成するのであった。
史実のまま突き進めば、兵器生産は主に航空機や艦艇、次いで各種火砲に重点が置かれ資材・工場・予算をそちらにまわされていた。そのために新鋭戦車の開発・生産は遅々として進まず、試作チヘ車(一式中戦車)の完成は1942年(昭和十七年)九月、各種試験の末開発が完了したのは1943年(昭和十八年)六月である。
しかし、門が現れた日本は大きく変化をしていた。今のところ、戦争は特地の帝国だけであり艦艇の建造は増加される事はなかった。
これにより新型中戦車の試作及び開発は史実より遥かに進んでいるのだ。
なお、貧乏クジを引いたのは海軍である。海軍がやる事は海軍航空隊と陸戦隊を派遣するのみである。
艦艇の建造計画も見直され、翔鶴型の竣工は十一月になり大和は何とか史実通りの十二月ではあるがお粗末な物である。
取り合えず、第一航空艦隊は設立されたが空母は五隻のみだ。他にある空母改装は出雲丸に橿原丸(後の隼鷹型)や祥鳳型くらいである。
そのため、海軍は当分は新規の艦艇は中々建造されないと判断して、長門型や伊勢型の速度向上のための改装計画が作られ、しまいには扶桑型戦艦の空母改装計画もある。
「門のせいで海軍は廃れてしまう」と嘆いた佐官もいたりする。
しかし、GF艦隊司令長官の山本五十六は嘆いてはいなかった。
「新規の艦艇が無いなら改装すればいい。時代は航空機の時代に着実になっていくのだから航空兵装を充実させねばならない」
山本はこのように主張し、旧式軽巡の天龍型、球磨型は防空巡洋艦に改装されるのであった。
「向こうは恩を売っておきたいのだろう。兎に角、新型中戦車の開発はやらねばならない」
門の出現により日本は史実より大きく異なっていた。
後書き
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