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流星のロックマン STARDUST BEGINS

作者:Arcadia
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星屑の覚醒
  5 紺碧の闇

 
前書き
ここから前サイトに投稿していた時に比べ新要素が入ってきます。
能力の成長とヒーローの独自の価値観の確立という要素が前は若干少なく、戦っているうちに身についていくという事があったので、もう少し詳しくしたかったので、一度はボツにしたアイディアを復活させました。 

 
「あ~さっぱりした」

ジャックがシャワーを浴び、施設のミーティングルームに姿を現した。
時刻は午後11時過ぎ。
こんな時間に呼び出されるのは稀なことだった。
既にクインティアやハートレスなど他のディーラーの人間は集まっていた。
これから何の話が始まるかは何となく想像はついていた。
ハートレスがMacbookAirのキーボードを叩き、スクリーンに映し出す。

「数日前、デンサンシティに大量の空輸、海運などあらゆる方法で密輸された。それを行ったのはValkyrieなるPMCでアメロッパではディーラーの商売敵ともなる企業である」

ジャックは相変わらず無表情に説明を聞くクインティア、同じく機械のように説明を続けるハートレスを見ながらあくびをした。
大体話しをまとめるとこういうことだ。
その商売敵のPMCがデンサンシティに入ってきてディーラー管轄の企業や施設の乗っ取りを行い始めた。
そして街中に武器をばらまき、子供達などを犯罪に駆り立てている。
つまりがディーラーの縄張りのデンサンシティに突っ込んできたために、一騒動ありそうだということだった。
ジャックにとっては専売特許な話だった。
徹底的に潰すのが個人的に好きだった。
だからこそ詳しい話を聞かずとも、最終的にはどこかを攻めるという命令が出るに決まっている。
しかし思わず居眠りしそうになった時に事が起こった。

「大変です!!シンクロナイザーが病院を抜け出しました!!!」

ミーティングルームに飛び込んできた知らせは、誰もが想像しなかったことだった。

「!?何ですって!!?」
「何処へ!?」

クインティアにハートレスは立ち上がり、他の人間たちもざわめく。
そしてそれはジャックにも驚きの出来事だった。
シンクロナイザー=彩斗は正直、何かに歯向かったことなどない。
病院で大人しくしていろと言われれば動くわけがない。
だとすれば連れ去られたという結論にすぐに達した。

「Valkyrieによる誘拐の可能性は?」
「今のところ無さそうです。ですが、病室にはメリーが残されていました。詳しい事情を聞きます」

そこで疑問が起こる。
どうして彩斗が連れ去られ、メリーが残されたのか。
どちらもディーラーの関係者なのだから2人共誘拐されてもおかしくない。
だとすると彩斗が自分の意思で抜けだしたのではないかという方向へと考えが進んでいった。

「あの野郎...何があったってんだ?」


















彩斗は夜の街を歩きながら、手紙に記された場所へと歩いていた。
もはや目的意識もなく、ただ歩き続ける。
もうどうでも良くなっていた。
空を見上げれば街のビル群が発する禍々までの光に汚染され、星など見えない。
近年、鳥が大量にビルに激突して死亡するということが環境問題として取り上げられている。
この街はその先導者と言っても過言ではない。
深夜でも人の溢れる交差点を通り、暴走族がCRF250MやCBR125Rなど学生でも手に入れられるマシンで爆音を立てながら通り過ぎて行く。
そして裏路地を覗けば、大人数に殴られ、金品を奪われるのなど珍しくもなく、ひったくりなども病院を抜け出して、まだ1時間程度でありながら2件も目撃した。
だが捕まえる気もない。
思い知らされた。
この街ではどんなに正しいことを主張しても、弱者に手を差し伸べることも無力に他ならない。
街を支配する議会など公務員たちも腐っている以上、そんな大人を見ている子供も腐っていくのは当然だった。
終わらない連鎖だ。
だからこそミヤが傷つけられ、今まで受けてきた暴力への怒りが爆発しても正々堂々と公の場で恨みを晴らすことなど出来ない。
暴力と言っても一概に定義することは出来ない。
拳による肉体的暴力、陰口、暴言による心的暴力。
自らもその腐らなければ、対等に戦うことは出来ないと理解した。
だが最終的に立ち塞がるのは恐怖心だ。
腐るためには平気で人を傷つけられる心と、殺しても罪悪感を抱かないだけの強い心が要る。
人を蔑み、恐怖を逆に利用することに抵抗を無くす。
それは自分自身では不可能だった。

「...」

彩斗の脳には次から次へとすれ違った人間の心の声が聞こえていた。
無意識に脳波を操作し、あらゆる人間の脳にシンクロを繰り返す。
そして読み取れるのは案の定、予想していた感情ばかりだった。

恐怖 孤独 暗闇

どれも恐れる感情だった。
結局は1人なるのが怖いというだけの話だ。
無視され孤立するのが怖いから、たとえ人を大人数で無視して笑いものにして屈辱を与えようとも罪悪感を抱かない。
保身しか頭にない。
それによって苦しんでいる者がいようとも。
彩斗は街に絶望しきり、残ったのは激しい怒りだけ。
自分でもおかしいことくらいは分かっていた。
今の自分の顔はメリーには見せられない。
なぜか笑っている。
口が裂けそうなくらいに口を広げ、不気味な笑みを浮かべている。
何かしら笑っていないと自分が保てなくなっているのだ。
パーカーのフードを被り、極力顔を隠すようにし、黒い封筒を握りしめながら目的地を目指した。
息苦しい街を脱し、ようやく本来の世の中を見ている気分だった。
断崖絶壁で海と月が視界に広がっている。
もはや建物など見えない。
デンサンシティは基本的に自然に囲まれた都市だ。
中央部だけは発展していても少し街を出れば、田舎どころか人など住んでいない。
これが本当の世界だった。

「この辺りのはずだ...」

彩斗は森に入った。
添えられた地図を見ながら真っ暗な森を歩いていた。
まるで抜け殻のような状態でありながら足がすくんだ。
暗闇が怖かった。
木々が風で靡くだけで思わず飛び上がりそうになった。
もう既に30分以上も歩き続けている。
GPSも使わずにただ真っ直ぐに歩き続けてた。
もはや月明かりだけが頼りだった。

「...ここか....」

森を抜けた。
というよりは森の中で唯一、木々が無く、人工的な建造物があった。
教会のような建物だ。
白塗りの壁に天辺には十字架。
彩斗はそのまま教会のドアを叩いた。
迷える子羊が救いを求めるように、藁にもすがる思いで力の篭っていない拳で木製のドアをノックする。
するとドアは自然に開いた。

「.....」

彩斗は教会に入った。
中は明かりはなく、天窓の月明かり以外の光源はない。
赤いカーペットが広がり、オルガンが設置されている。
人の気配はない。
だが引き返そうと思った矢先に、人の気配を感じた。

「!?」

教会のカーテンやオルガンの裏から黒いマントに身を包んだ者たちが合計で4名現れた。
徐々に彩斗に近づいてくる。
2人が彩斗の入ってきた扉を閉じると、奥の扉からもう1人現れた。

「...君たちが僕を呼んだのか?この手紙を...」

彩斗は手紙を出した。
彩斗の心中を察して、この集団は誘いをかけてきた。
この謎の集団が、自分に何らかの救いを施そうとしているのだった。

『よく来た。我らが同志』

黒マントで一番、特徴的な青いバイザーをつけた男が話しかけてきた。
声はボイスチェンジャーのようなもので変えられている。
不気味な声で思わず震えが襲ってきた。
だが動揺を顔に出さず、返事した。

「僕が...君たちの同志?」
『その通りだ。君のことは調べた。この腐りきった街で数々の屈辱を受け、正しい行いが認められずに友人を失いかけている。そして...この街に正しい正義の行使が行われることのないこの街に絶望している』
「...じゃあ、僕のことを全て知っているのか?」
『然り。君はディーラーに育てられ、人あらざる能力を身につけている。その力があれば、正義を行使できるにも関わらず、恐怖に囚われている。さぁ、話すがいい。ここに来た目的を、望みを自分の言葉で語るのだ』

彩斗は自分のことを知っていることからディーラーの関係者の筋を疑った。
だがすぐにそれは消えた。
ディーラーの人間でも自分の心中までは見通すことは出来ない。
彩斗は深呼吸してから口を開いた。

「...望みは...恐怖を克服する手段。街の司法がまともに働かない上、働いても腐った連中が図に乗る繰り返し...それを断ち切り、自らの手で復讐する手段」

彩斗はまるで目の前の黒マントの男が尊い者に思えた。
この男はどう考えても普通の人間ではなかった。
ネットナビ、もしくは電波人間。
だが自分のビジライザーアイに映るものを信じるならば、ネットナビでも無く電波人間でもない。
恐らくは人間とネットナビの融合体が電波を操る術を身につけた理屈では片付かない存在だ。
もはや半神半人のような存在だと思った。

『良かろう。君の望み、確かに受けた。では早速始めよう』
「!?今すぐ?」

男は黒マントを脱ぎ捨てた。
マントの下は黒いスーツに紺色のアーマー、特徴的な黒いツノが生えている青のヘルメットバイザーだった。
何処かコウモリを思わせるが意見だった。
コウモリは驚く彩斗に蹴りを加えてきた。

「!?うっ!!ハァ!!!」

反射的に肘で防ぐ。
そしてすぐさま、ターンして顔面に向かって肘を打ち込もうとした。
だが途中で止まる。
再び暴力への恐怖が彩斗を止めた。
しかしそれに構わず、コウモリは彩斗の腹部に激しい蹴りを打ち込んだ。

「ガァァァ!!!」

彩斗は扉に背中を打ち付け、その場に倒れた。
ハッキリ言ってクインティアをも上回るような存在だった。
確かにネットナビとの融合体だとしても、この素早さ、接近戦での強さは異常だった。

『技に関しては下地があるようだが、恐怖が君をダメにしている。その反射神経、動きを読むセンス、優れているが、体全体の力が足りていない。まずは恐怖を取り去ることだ』

彩斗はゆっくりと立ち上がる。
だが彩斗はその言葉を飲み込むしか無かった。

「分かってる。暴力を振るうことが...人を傷つけることが怖い。復讐以前の問題だってことくらい。でも憎めば憎むほど、体が自然に動く...。だから手紙を見た瞬間、自然とここまで足が運んだ」
『ならば私を憎め。君を苦しめてきた者たち、君の友人を殺そうとした者たちだと思え』

彩斗は拳を激しく握った。
このコウモリを睨みつけながら、必死に連中とコウモリを重ねていく。
人を傷つけ、嘲笑うあの憎ったらしい顔たちと重ねた。
すると恐怖が自然と失せていった。

「アァァァ!!!!」

思いっきり体重を掛けて殴りつけた。
当然の如く防がれる。
そして反射的に目の前に何か鋭い刃が走るのをかわした。

『なるほど。君は怒りによって恐怖を克服することが出来る』
「それよりその剣で僕を殺すつもりだったのか?」
『恐怖が君の都合など考えるものか!!ただ命を奪いに来る!!』
「!?っ!」

コウモリの両手には鋭利な刀が握られていた。
漆黒で刃先は比較的短く、いわゆるクナイやトンファーの特徴を持った武器。
コウモリは次から次へと彩斗に向かって振りかざしてくるのだった。
彩斗は次から次へとかわし続けるも、反撃することが出来ない。

『どうした!!その程度か』
「!?」

彩斗にはムーの力が備わっている。
ここでそれを使えば、この剣にも対抗することができると察した。

『マテリアライズ!!』

彩斗は実を守るためのバリアを創りだした。
オーロラが発生し、一瞬にして形作られる。
空気中の分子や電子の構造を作り変えて、一撃だけだが防ぐことができた。

「ウゥゥ!!アァァ!!」
『...僅か数分でここまで成長するとはな。だが穴だらけだ。いちいち怒りを覚えなければ、動けないようでは役に立たん』
「僕が挑もうとしているのは怒りを抱いているものだけだ...それで十分じゃないか!?」
『十分ではない。君が挑むのは直接的な怒りの対象だけではない。それに君は友人が殺されそうになったのを自分のせいだと思っているのではないか?だとすれば自分にも怒りがあると?』
「そうさ...僕と出会わなければ、ミヤは傷つかなかった」

彩斗の手に篭る力が大きくなっていく。
偶然目についた、日本刀を手にして斬りかかる。
歯を食いしばるほどに自分への怒りから鍔迫り合いで押し込んでいく。

『それは間違いだ。彼女が君を救ったのは、あくまで彼女が勝手にやったことだ。君に何の責任がある?』
「僕が哀れな姿を晒さなければ...」
『...君は彼女と出会ってどのくらいだ?』
「...1週間...ヤァ!!!」

彩斗は鍔迫り合いから一気に押し込み、距離を置いた。
呼吸が荒い。
今までここまでの運動をしたことなど無かった。
暴力を受けても連中に殺意などない。
ダメージがあっても死ぬことはないと心から理解していた。
だが今は違う。
このコウモリは間違いなく、自分を殺すつもりだった。
だが反面、それで死ぬことはないと理解している。

『よろしい。ならば1週間だ。1週間を君を完成させる。恐怖を克服し、君の願いを叶える方法を教える』
「...君の名前は?」
『我が名は『ダークネス』』
「君たちは何だ?どうして僕を...」

初めて名を名乗ったダークネスは辺りにいる黒マントを従え、彩斗に向かって言った。

『我々は『紺碧の闇』。君のように正しい心で悪に立ち向かおうとするものを探している』

その宣言を聞いて彩斗の心の迷いは無くなった。
元から自分の思う復讐、殺人はイコール犯罪、つまり悪だ。
だが彼らの手にかかれば、正義か悪かでは無く、正しいか間違っているかのどちらかだ。
たとえ悪でも正しいことを成すことは出来る。
それを信じたからこそ、彩斗は彼らのもとで自分の恐怖と向き合うことを決意した。

『本格的な鍛錬を始める前に、君のことを教えてくれ。私たちが知らない君のことを。我々は君の身辺を調べた。だが分からないことも幾つか出てきた。まず、君がハッカーになった理由だ。ネット上では悪を担いながらも善を成す。そのわけを』

ダークネスはその場に仰向けで倒れた彩斗に近寄り、彩斗という人間を詳しく知ることから始めた。
彩斗は呼吸を正しながら、思考を回し、口を開く。

「...これは初めて僕が街に不信感を持った原因でもある。子供なら誰でも1回くらいはやったことがあるはずだ。インターネットブラウザを開いて、検索エンジンで自分の名前を検索する。大概は姓名判断サイトが出てくるだけだ。でも僕は違った」
『大量の自分を攻撃する掲示板やサイトが飛び出した。それによって自分が学校という1つの独立した空間で受けていた扱いに気づいた』
「...そう、みんなのストレスの捌け口だ。誰か溜まった鬱憤をまるでサンドバッグのように受ける人間。人権なんて無い。僕の顔も見たこともないような人間もいたはずだ。だが会ったこともない僕を面白半分に攻めることで、楽しんでいた連中が信じられないくらいにいた」
『それによって君はこの街の人間の悪性に気づいた。誰かを傷つけ続けなければ生きられないような...もはや人の営みとは言うまい』
「でも...僕だけで十分だとも思った...他にも僕のような人間はいっぱいいた。僕のような人間はもういらない。その一心でそんな掲示板やサイトを潰し続け、気づけば、汚職や多くの社会悪の証拠をネット上に晒すようになっていった」
『我々が君を呼んだのも1つの理由だ。経緯はともかく、君は正しいことを法に背いてもでも行う勇気を持っている。それは決して法に裁かれるべきではない」

ダークネスはこの後も幾つかの質問をした。
「恐怖を抱いた理由」、「ディーラーを裏切らない理由」、「メリーとの関係」など多岐にわたる。
そして全て聞き終わると、ダークネスはその青みの混じった漆黒の翼を広げ、宣言した。

『今から君に催眠をかける。君は自分の精神と向き合い、その怒りで今話した恐怖を抱いた時の記憶を封じ込めろ。『フラッシュバック・パルス』...』

彩斗はその翼から放たれた超音波で一気に精神の底へと落下した。



 
 

 
後書き
このダークネスは仮面ライダー龍騎に登場した仮面ライダーナイトのデザインをイメージしています。
どちらかと言えば、海外版仮面ライダー龍騎ことドラゴンナイトのウイングナイトの方が近い感じです。
 
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