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久遠の神話

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第四十九話 スペンサーの剣その十五

 今は戦いを見守るのだった。息を無効化された竜は戸惑いを隠せない様子でスペンサーに対して言った。
「何をした」
「私は剣士だ」
 スペンサーは驚愕している竜に落ち着いた声で述べる。
「それでわかると思うが」
「そう言うのか」
「私もまた力を使える」
 スペンサーは言う。
「だからこそだ」
「私の息にも力を使ったか」
「そうだ。そしてだ」
 スペンサーは言葉を続ける。
「私の力はまだある」
「今度は何をするつもりだ」
「こうする」
 こう言って両手に持っている剣を今度は上から下に大きく振った。丁度唐竹割の要領だった。
 巨大な剣が雷の様に振るわれる。するとだった。
 竜は急に動きを止めた。まるで身体全体を上から押さえつけられる様になった。巨大な身体がそのまま封じられていた。
 竜は上から来る何かに戸惑いながらスペンサーに問うた。
『何だこれは」
「何だと思うか」
「わからない」
 竜は戸惑いを隠せないまま言う。
「私の身体が何かに押さえつけられているが」
「さて、動けないな」
 スペンサーはその動けなくなった竜に近寄りながら言う。
「後はだ」
「私を倒すか」
「貴様の毒は確かに強い」
 それこそ全てを溶かすまでだ。
「だが、だ」
「それでもだというのか」
「それも当たらなければいいだけのことだ」
 当たるから溶ける、だからだというのだ。
「それだけだ。そしてだ」
「そしてだというのか」
「貴様はこのまま消えてもらう」
 倒れてもらう、そうなるというのだ。
「私の力によってな」
「その剣で止めを刺さないのか」
「これ以上近寄ればその毒にやられる」
 実際に竜はスペンサーに貌を向けている。まだその毒を吐いてそれで彼を溶かすつもりでいるのだ。
 だがそれはスペンサーもわかっていた。それでだったのだ。
「ならば近寄らないだけだ」
「そう言うのか」
「では消えてもらう」
 スペンサーはまた剣を上から下に一閃させた。すると。
 竜の身体全体がさらに押さえつけられる、怪物はその中で苦悶の声をあげる。
 そして身体全体がみしみしと嫌な音を立てる中でこう言った。
「わかったぞ、遂に」
「私の力がか」
「そうだ。それは・・・・・・いや」
 竜は言おうとしたところで言葉を止めた。
「それは言わないでおこう」
「そうするのか」
「言っても仕方のないことだ」 
 だからだというのだ。
「私はここで死ぬのだからな」
「また復活すると思うが」
「今の私はここで死ぬ」
 復活はしてもそうなるというのだ。
「ならこれでいい」
「そう言うのか」
「そうだ、ではこのまま私を倒すがいい」
「言われなくともそうする。そしてだ」
「そしてか」
「私は相手を苦しませる趣味はない」
 竜にこのことも言うのだった。 
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