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流星のロックマン STARDUST BEGINS

作者:Arcadia
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星屑の覚醒
  3 謎のメール

 
前書き
徐々に物語が始まります!
 

 
彩斗はコンソールを起動しメールの解析を始めた。

shark@ws-hpe:~# ./virus_scan /home/shark/Desktop/Message_3.eml
Selected email.
Scanning...

Result:
2 files existed.
BEGINS.exe safe.
Memory safe.

Scan conpleted.


送信者はメールアドレスから携帯端末に送っていることを理解していたはずだ。
つまりトランサーやPET、ないしはスマートフォン向けのウイルスであると予想した。
だが結果としてPCの自作ツールでスキャンでしてもウイルスは見つからなかった。

「ウイルスは無いみたい。でもファイルが2つ添付されてる。...開いてみる」

彩斗はデスクトップにコピーされたメールを深呼吸してから開いた。
すると意味不明の内容のメールが飛び出した。


From:
Subject:
Message:
貴方は遠くないうちに命を落とす
危機が迫ったら、プログラムを起動


「...いたずらメール?」
「何でしょう?凄く意味深で意味不明です」


この内容に彩斗は尋常ならざる違和感を覚えた。
翻訳ソフトで無理やり翻訳したような微妙な文脈もそうだが、何より自分の運命を言い当てようとしている。
確かにこのままの生活をしていたら長生きはできないだろう。
間違いメールならそれでいい。
偶然、自分のことを見抜いたような内容になっていただけで事は片付けられる。
しかし、彩斗だと知って送っているならば、送り主に見透かされている。
そんな気がした。
彩斗は添付ファイルのリストを開いた。
そこにはメールの本文にも存在した『BEGINS.exe』と『Memory』と名付けられたファイルがあった。

「ビギンズって何かを始めることだったはず...何を始めるのかな?」
「まるで新手のワンクリック詐欺みたいですね。案外、開いたら請求書とかが飛び出してきたり...」
「じゃあアプリケーションのBEGINS.exeは取り敢えず置いておいて...こっちのMemoryはタダのメモリーファイルみたいだから、こっちから調べる」

彩斗はキーボードを叩き、『Memory』の解析を始めた。
ログファイルやメモリーファイルならば、何かの情報が含まれている。
もしかしたら送り主に関わる情報かもしれない。
本来ならば放って置くところだが、少し気になった。
だがどうあがいても『Memory』は暗号化されていて開くことが出来なかった。

「AES-128bitを超える暗号だって?」
「じゃあ軍の秘密情報を扱うよりも高度な暗号化がされてるってことですよね?何で開けもしないファイルを送ってきたんでしょう?」
「それは送信者本人に聞くしか無いよ。今から僕がこのPCにプラグインしてこのファイルを直接触ってみる」
「あ!私もお伴します!」

そう言ってメリーはその場でPCにプラグインした。
現実空間から電脳空間にてレポートしたのだ。
だが彩斗にはそれが出来ない。
しかし意識だけを電脳世界に転送することは可能だった。

『ダイレクトリンク』

そう呟き、PCに触れた。
シンクロで意識をPCにプラグインする。
『パルストランスミッション』という人間の意識を電脳世界に転送できる機器と同じ能力だった。
彩斗の体は椅子にぐったりと背中を預けた。
だが彩斗の意識はPC内部の大量の文字列が飛び交う世界にいた。
メリーもすぐ隣りにいる。
そしてウィンドウ上で開きっぱなしだった『Memory』は目の前でタダの白紙ファイルでは無く、確かな形を持っていた。

「これは....」
「凄く綺麗ですね....」

甘音色に輝くそれは宝石のようだった。
楕円形で中には蝶が閉じ込められているような美しい造形のメモリーファイル。
ちょうど琥珀と似ている。
樹液なんかで生物が固められているものだ。
ここではこの緑色の蝶がそれだ。
そのあまりの美しさに思わず手を伸ばす。

「冷たい...!?」

手にはヒヤリとする感覚が走ってきた。
だがそれと同時に不思議な現象が頭を過る。

「サイトさん!?」

その場にひっくり返った彩斗にメリーは駆け寄った。
だが彩斗の目には明らかな同様の色が伺えた。

「女の子の声が...姿が...見えた...」
「え?私じゃないんですか?」
「違う...長い甘音色の髪で...ピンクのドレスを着てた...それに蝶の髪飾り...」

彩斗は琥珀に触れた瞬間、頭の中に声とイメージが浮かんだ。
振り返りながら手を伸ばす、人形のように可愛らしい少女の姿。
何かの助けを求めているのか、それとも何かに救いを施そうとしているのか。

まだ死なせない......

そう言う透き通った声が聞こえた。
そして修道女のような慈悲深い表情に大きめの緑色の瞳は初めて見た彩斗の心の何処かを掴んだ。


















彩斗はこの後、PC内部から意識をプラグアウトすると、そのまま眠りに落ちた。
触れるたびに少女のイメージが浮かび、全く解析どころではない。
ネットナビの視覚操作のデータという可能性も浮上したが、少女のイメージが浮かんだところで全く影響はない。
必要性の分からない謎の2つの添付データ。
それを考えているうちに気づけばベッドの中。
そこで懐かしい夢を見た。
ディーラーに引き取られたばかりの頃。

自分がネットの世界を自由に歩き回れることに浮かれ、現実に戻ること無く昏睡状態になったことがあった。
しかし現実の体が昏睡でも意識は電脳空間で遊びまわっている。
電脳空間では自分の思うがままだった。
現実では走れば息が上がり、体質ゆえに他の子供たちと同じことが出来ない。
鬼ごっこですら喘息のような症状を起こして開始3分でダウンする。
それによって同じ施設の子供たちとも距離があった。
自分から声を掛けに行くことも出来ず、声を掛けられることもない。
だが電脳空間ならば何処までも走れる。
飛び跳ねることも出来るし、バック宙も側転も出来る。
そんな世界に逃避していたのだった。
だが気づけば、禁断のエリアに入ってしまっていた。

「ここは...」

真っ暗な世界で周りには先程とは全く違うネットナビたちが彷徨いている。
ウラインターネットに迷い込んだのだった。
闇というのは人の心に恐怖を植え付ける。
そして必死に出口を探して走り回っているうちに取り返しの付かない事態を引き起こすこととなった。

「ウワァァァ!!!!」

パネルを踏み外し、ウラインターネットの更に底へと落下した。
ウラインターネットの底。
これ以上にないくらいの罪人やあらゆる廃棄データが彷徨うエリア。
一度入ってしまえば、苦しみ、自分の罪を悔いながらデータの劣化と共に消滅するのを待つのみ。
彩斗は落ちた瞬間、意識を失い、目を覚ますとそこには不思議な光景が広がっていた。

「!?うわぁ!!あぁ!!」

悲鳴を上げた。
自分の下半身が消えかかっており、左手がもう完全に断片化していた。
恐怖で痛みは消えた。
だが眩い光と共に徐々に修復されていった。
振り返るとそこには人が立っていた。

「君は...?一体...」

菩薩のように悟りを開いたような表情に、上半身は黒タイツに黄金色のヘルメット・肩・腕のアーマー、下半身は白いサルエルパンツという外見のネットナビ。
『セレナード』だ。
その光のような羽衣で彩斗を包み、体のダメージを修復してくれたのだ。

「貴方の体に私のデータの一部をインストールすることで、データを修復しました。強力な回復力を持つプログラムです。もう大丈夫」
「....」
「どうやらこの世界の住人では無いようですね?一体何処から来たんです?」
「...現実の世界から...」

セレナードはそれを聞くと全て納得しような表情で、彩斗の心を読み取った。

「貴方は現実の世界から逃げてきたのでしょう?でも貴方の居場所はこの世界ではない。オモテの電脳世界でもない。現実に帰りなさい」
「でも!...現実なんて...辛いだけだよ...。僕は体が弱くて...みんなにバカにされて、みんなのように走り回ることも出来なくて...」

「それがどうしました?なぜ人並みを求めるんです?私の親友に体が不自由でも胸を張って生きている少年がいます。何年も病床におり外の世界にも出られない少年です」

「...でも僕はその人とは違うよ。そんなに強くない」
「何を持って強いと言えますか?体が弱くても、必要なのは意志の強さです。それは心の持ちようでいくらでも強くなれる。向き合いなさい」

彩斗の頬にセレナードの手が触れた。
彩斗は不思議と心が軽くなった。
そしてセレナードに導かれる。

「きっと貴方の悩み多き人生を贈るでしょう。でもプログラムは貴方を助けてくれる。行きなさい。このタワーを登れば、ウラインターネットの外に出られます。今の貴方なら登れるはずです」

彩斗の目の前には巨大な塔が立っていた。
上空に僅かに覗く光に導かれ、死ぬ物狂いで抜け出した。

























彩斗は翌日から通常通りの生活を始めた。
朝はメリーとともに起き、いつも通りの食事を食べ、ハートレスのガヤルドで登校する。
だが確実に違うことがあった。

「?」

下駄箱の内履きの中には何も入っていなかった。
おまけに下駄箱の中にも罵る内容の手紙が入ってもいない。
念の為に靴の中が安全かどうかを確認すると恐る恐る履いた。
そして階段を登り、教室を目指す。
そこで更なる違和感を覚えた。
不良を含めた連中の大声が聞こえないのだった。
むしろ鉛筆の走る音や何気ない会話が聞こえてくる。
違和感を覚えながら教室に入った。

「おはよ!アキちゃん!」

教室に入るなり、ミヤが手を振っていた。
トドメが不良が1人もいないという状況だった。

「...おはよう」

彩斗は返事しながら自分の机に教科書類を入れた。
もともとクラスの人数が奇数のため、1人だけ、隣の席が無いのはお決まりだったが、彩斗は既に入学から半年以上もこの席から動いていない。
ある種の愛着があった。
隣には観葉植物とじょうろが置いてある机がある。
不思議な気持ちでミヤに話し掛けた。

「昨日の分の宿題は?」
「無いよ!」
「何で?」
「先生たちも忙しかったみたい」

だが更なる違和感がホームルームで訪れた。
出席確認だ。
担任が1人一人の名前を呼ぶ。
だが珍しく彩斗の名前が呼ばれた。

「え~沢城!」
「!?...ハイ」

いつもならニヤニヤしながら嫌がらせと思えるほどに飛ばしたり、名前を間違えたりする。
だが今日は何かに恐れをなしているように、真面目に職務を行った。
普通のことなのに、彩斗も何かの前触れのような気がしてホームルームが終わった瞬間、彩斗はミヤに話し掛けた。

「一体何をしたんだい?」

これだけの事が一日で起こったというのも不思議だった。
だが原因があるとすれば、ミヤ以外に考えられない。

「フフフッ。私は魔法使いだから、魔法の呪文を唱えたんだよ」

ミヤはご機嫌だった。
そしてそれは辺りのクラスメイトたちも笑顔だった。

「どんな呪文?」
「『アキちゃんをいじめると文科省に訴える!!』って言ったの」
「...素敵な呪文だね」

ミヤは生徒会長として教師陣を相手取り、学校の不正を正そうとしていた。
この学校でいじめられているのは彩斗だけではなかった。
だが教師たちはそれを助けないばかりか、自らもそれに便乗し、宿題を多く出したり、授業中に分からないことを知っていながら難問を叩きつけ晒し者にする。
そんな教育体制を改正すべく打って出た。

「だってこの街の教育委員会も警察も頼れない。もう外の機関に頼るしか無いじゃない」
「...そうだね」
「昨日のアキちゃんが不良に向かって立ち上がったのを見てようやく勇気が出た。ありがとう」
「こちらこそ」
「それにアキちゃんにも分かって欲しくて。この学校の全員がアキちゃんの敵じゃない。アキちゃんがいい人だって分かってくれる人もいる」

彩斗はそれを聞いて振り返る。
するとそこには数人のクラスメイトがいた。

「ごめんね、沢城くん。今まで助けられなくて...」
「私も...今までアキくんの事を誤解してた」

彩斗はため息をつきながら席に戻り、授業を受けた。
幸せな時間だった。
普通の生活だ。
皆、まじめに授業を受け、助け合いながらの学校生活。
だがここまで尊いものだということを思い知った。
そして放課後はミヤとともに公園に行き、悩みや思い出を語り合った。
メリーも交じり、何気ないことを語り合う。
精神衛生を向上させるにはいい方法だという。
その効果を身を以て体験していた。
暴力もなく、ただ平和な日々だった。
その中でミヤについても知ることになった。

「君は自分の苗字が嫌いって言ったね?どうして?」
「それは...お母さんが...嫌いだから」

ミヤの話によれば、母親が仕事にのめり込み、ここ数年で人が変わってしまったらしい。
父親が海外出張という中、母親だけが頼りだった。
だがその母親が家に帰ってこようとも、無視するどころか暴力を振るうようになった。
父親に電話を掛けてもすぐには帰ってこれない、電話が繋がらないなどと全く取り合ってもらえない。
もし家族の縁が切れたらどんなに楽かと思い始めていた。
そして彩斗の体にも影響があった。
ムーの力が向上始めたのだった。

「...何でだろう?」

ディーラーからすれば、かなりなの進歩だと喜ぶところだった。
だが彩斗本人からすれば、考え方はまるで違う。
部屋のベッドに倒れ込み、先程の実験結果を思い出す。
視覚できるウェーブロードの帯域が一気に広がり、物体が発する僅かな電波までも見えるまでに能力が向上していた。
原因があるとすれば、暴力が止んだこと。
もしくはあの『Memory』に触れたことくらいだった。
彩斗はそれから1週間、この幸せな日々を送ることとなる。
暴力から解放され、体が徐々に回復していくのを肌で感じていた。
だが1週間後、その平和は崩れ去る。
 

 
 

 
後書き
次回、事が起きます!
 
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