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流星のロックマン STARDUST BEGINS

作者:Arcadia
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星屑の覚醒
  2 安息の場所

 
前書き
徐々に物語が動き出します!
他サイトに投稿していた時よりも、だらだらした部分を削り、新しい要素を加えています! 

 
彩斗とミヤは学校を出た。
足取りが少し軽くなり、体の動きもいい。
今までちゃんとした治療というものをしたことがなかった。
メリーに頼んで背中の傷を、自分は手の届く所の消毒程度しかしていなかった。
だがミヤの手で湿布や塗り薬、包帯などでここ数日で一番調子が良かった。
バッグを肩に下げ、校門を後にする。
だがミヤもついてきていた。

「生徒会長なのに学校をサボるのかい?」
「うん。先生には断ってあるから」
「サボるのを断るのか?」
「君の体調が優れないから付き添いで家まで送るって言ってあるよ。あと...先生たちに今まであったことを話した」
「...そうかい」

彩斗は今まで何度か教師たちに相談したことくらいはあった。
だが全て首を縦に振り「分かった、後は任せろ」とだけ言って、結局は無視をする。
当然ながら自分の勤務先の学校でいじめがあるなどということが発覚すれば、自分たちの株が下がるからだ。
最初から自分たちの保身しか考えていない。
これも街の腐敗の一種だった。

「でも正直、期待はしない。先生はあてにならない。小学生の頃からそうだった...」

彩斗とミヤは気づけば公園にやってきていた。
草原が広がり、ブランコと街灯と大きな木があるというだけのシンプルな公園だ。
彩斗はゆっくりとブランコに座り、ミヤもその隣りに座る。

「でも驚いたよ。まさか4人を相手に倒しちゃうなんて...」
「今日は...ちょっと頭にきちゃってね。僕を殴るならいい。でも...この子に...メリーに手を出すのだけは許せなかった」
「メリー?」
「うん、メリー!挨拶を」

バッグからトランサーを取り出す彩斗を見ながらミヤは不思議に思った。
現代では最新のトランサーなどという携帯端末を持っていることではない。
まるで人に対して話し掛けるようにトランサーに話し掛けた。
恐らくはウィザードかネットナビであることは想像がついていた。
だが次の瞬間、想像も出来ない現象が起こった。

「!?え...」
「初めまして、メリーです。兄がお世話になってます」

目の前が緑色のプログラムの断片のようなものが発生したかと思えば、一瞬にして少女が現れた。
緑色のポニーテールで何処か彩斗に似ている。
可愛らしい上に礼儀正しいどこかの会社のご令嬢のような雰囲気を放っていた。

「この子は僕の妹だ。普段は人間だけどネットナビとしても活動できる。でもこれは口外しないで欲しい」
「もちろん!こんな凄いこと言いふらしたら...誰にも言わない!約束するよ!でもどうして私に教えてくれたの?」

確かにこの事が公にれば、現代のネットナビと人間の関係性は崩壊する。
人間とネットナビの壁が無くなれば、地球上の生態系に置いて何らかの変化が起こりかねない。
そしてメリーは科学者たちに実験動物として切り刻まれることとなる。
中学生でもそれくらいの想像はついた。

「謝りたいから」
「どうして?」
「僕はさっき君を疑った。君が僕を助けるふりをして何か企んでいるんじゃないかって。でもそれは間違いだった。ゴメン」

彩斗は自分の秘密を明らかにすることで謝罪の気持ちを表そうとしていた。
当然、ミヤには別に彩斗を怒っていたりすることはなかった。
彩斗はミヤにそう言ってメリーの頭を撫でる。
するとメリーは子猫のように彩斗に上目づかいで微笑みかけるのだった。
そして彩斗は足元に逞しく生えているタンポポに話し掛けていた。
ブランコで遊ぶ子供たちに何度踏まれても負けないタンポポだった。

「もしかしてタンポポと話せるの?」
「まぁね。考えてることは分かる。こっちの話が伝わってるかどうかはともかく」

嘘では無かった。
彩斗のシンクロは植物の思考すらも読み取れる。
会話は一方通行かもしれないが、コミュニケーションはとれているのだ。
ミヤは笑った。
彩斗とは学校で話したことなど無い。
流れてくる取るに足らない噂を聞く限り、彩斗=沢城アキという人間は「根暗」、「クズ」、「間抜け」、「変態」などそれは噂を流している方だろうと疑いたくなるような人間だった。
だがミヤにはそうは思えなかった。
いつも直向きに努力し、学年でも20位以内には常にいる。
そして植物に水をやったりと自分に与えられた仕事はちゃんとこなせる優しい人間だと。
だがミヤは彩斗の事を小学生の頃から知っていた。
それはとある理由からだった。

「君は僕と同じ意見をもってるみたいだ。この街はおかしい」
「うん。きっとここ数年で色々と大きな犯罪が起こったからね」
「...白状すると、どうして僕が学校を転校もしないし、不登校にもならないんだと思う?」
「?」
「僕は戸籍に書かれている家には住んでない。街外れで海沿いの養護施設にこの子と一緒に住んでる」
「え?あのキング財団の?」
「そうです。私たちはあの施設で生活してます。他にも多くの孤児たちがいてみんな可愛いんですよ」

彩斗は久々の会話というものを楽しんでいた。
メリーとしか腹を割って話すことはない。
もちろんメリーとの会話がつまらないのではないが、話せる相手が1人だけだと、いざ話せない時になって不安になる。
だからこそ、こうしてメリー以外の人間とも会話が出来ているというだけで不思議な安心感があった。
思わずメリーの存在や自分の秘密を話してしまう。

「普通、あの施設にいる子供はあの施設の教育を受けるんだ。一応、教育機関としても認定されているからね。でも全てあの施設の中だけで過ごすことになるんだ。体育館も教室も映画館も公園も全部揃ってる。でもそれはあくまで財団が作った世界だ」
「....」
「だから僕は外はどんなところか知りたくてこの学校に無理を言って通ってる。本当はきっとこの街なんて嫌いなんだ。学校にも愛想を尽かしてる。でも外に出る口実が欲しくて、必死に好きなふりをしてるんだ」

ミヤは次から次へと明かされる秘密に驚きを隠せなかった。

「じゃあ今までいじめられてることを大きく騒ぎ立てなかったのは、口実が無くなるから?」
「いや...きっとこの街の人たちにも愛想が尽きているんだ。相手にするだけ無駄だと。反撃するだけ無意味だって。そう思ってる」
「でもさっき、4人を一気に倒しちゃったじゃない?本当は運動もできてあんなに強いんだから...一発かましてやれば、もうイジメられることもないんじゃ...」

彩斗は自分でもおかしいことに気づいていた。
必死に表面を作っていても、本当はこの街、そして街の人間たちに対する怒りで心がいっぱいだった。
本当なら自分に直接的でなくとも辱めを受けさせた人間はその場で殴り倒してやりたい。
でも背筋が凍るほどに怖かった。

「僕は人を殴ることが怖い....自分の手で誰かを傷つけることが...まるで自分で自分を殴っているような気分になる」

彩斗はそう言いながら拳を握りながら震えた。
原因はこの公園でのある出来事にあった。

「何年か前にこの公園で僕のようにいじめられてる子がいた。石を投げられて大人数に囲まれてた...。僕にはあの子の痛みが痛いほど分かった。気づけば、体が動いていた」
「...そう。で、どうしたの?」
「全員尻尾を巻いて逃げ出したよ!でもね、その後、僕は震えが止まらなかった...。こんな痩せっぽちの虚弱体質で弱っちい奴でも殴ったら人を傷つけてしまう。その気になれば、殺せる。嫌な感じだった...もう二度と味わいたくないくらいに...」

ミヤは何となく分かった。
彩斗は優しすぎる上に、感受性が高いのだと。
自分が殴っているのに、殴られている相手の痛みまで感じてしまうほどに優しい。
だから暴力は振るわない。
たとえ自分が一方的に殴られても、今日のようにメリーにまで危害が加えられるようなことがなければ動くこともないのだ。

「それに...自分への罰のようにも思ってる。今まで僕は何人もの人を不幸にしてきた」
「え?」
「『シャーク』って知ってるかい?」

ミヤには心当たりがった。
ミヤでなかろうと知っている噂だ。
ネット世界では高名なクラッカーだ。
いじめや汚職に関わるようなサイトを告発したりする『正義の味方気取り』と散々叩かれている。
だがその腕は確かで、その噂を流した人間を特定し、自分の信者に粛清させるなどという報復まで加えている。

「確かハッカーでしょ?『電脳の鮫』って恐れられてる...」

「その正体が僕だ」

「...ホントに?」

彩斗は頷く。
ミヤは信じられなかった。
ネット上では一部の人間から注目を集めているある種のカリスマだ。
それが自分の横に座っている。

「僕は自分のような人間を増やしたくなくて、街を良くしたくて、いじめや汚職に発展するようなデータを潰してきた。でもそれで死んだ奴もいる」
「サイバー攻撃を受けただけで?」
「それでこの街は救えないって思ったよ。その掲示板で特定の誰かを中傷して面白がることを生きがいにしていたような人間や、そのサーバーを管理していた人間で生きる気力を失って自殺した人間もいた。人を嘲笑うことでしか生きられない人間が多い。でもどんな人間でも殺せば殺人。僕は人殺しだ...」
「でもそれは自業自得だよ...アキちゃんは何も悪いことをしてない!!正しいことをしたの!!いじめられて自分が苦しむことが贖罪だって思ってるの?」
「そうだね...どんなに辛くても...いつかはきっとデンサンシティもいい街に戻ってくれる!そんな希望があるから耐えてきたんだと思う...」

彩斗が必死に微笑んでいるのが、ミヤとメリーには分かった。
正直言って価値観が常人とはズレている。
今までのいじめで恐らく心に深い傷を負っているのだろう。
体のケアの前に心のケアが必要だとミヤは思った。
自分をかつて救った"ヒーロ"に恩返しするために。

「ねぇ?やっぱりアキちゃんは心が傷ついてるんだよ。今まで1人で耐えてきたんだもんね...」
「本当はぶち殺してやりたいとも思ったこともある。でもやっぱり怖くて何も出来ない...連中は恐怖を食い物にしてる」

「大丈夫。明日からは絶対にアキちゃんに手を出させない。絶対に私が守ってみせる...」

ミヤはそう言ってバッグから何かを取り出した。
チョコレートだ。
板のミルクチョコレート。
それを割って彩斗に渡した。

「甘いもの好きでしょ?たまに隠れて食べてた」
「知ってたんだ」
「ごめんね...何度も声を掛けようと思ったんだけど...」

彩斗の好物を知っていた。
そしてミヤはメリーにもチョコレートを渡す。

「ありがとうございます!」
「いいの!一緒に食べた方が美味しいし!」

彩斗は糖分を体に吸収しながら、ミヤが何かを始めたことに気づいた。
膝の上に分厚い日記帳のようなものを開き、鼻歌交じりに何かを書いている。
バインダー式でルーズリーフなどを増やしていけるタイプで、紙の枚数から恐らく何年も書き続けてるものだろうと察しがついた。
そして書き終えると彩斗の方を向いた。

「私は今から学校に戻るよ。アキちゃんは今日は早退した方がいい。体の傷もあるし...」
「そうするよ。またメリーに手を出されたくない。それに今日は授業に集中どころじゃないから」

彩斗はそう言ってトランサーにメリーを戻す。
するとメリーはいつもの様に笑顔で微笑みながらトランサーへと帰った。
本当は一緒に歩きたいし、一緒にいたいが、メリーは髪と瞳の色が緑で目立つ。
あまり施設の外では一緒にいることは少ない。
少し残念な顔をする彩斗にミヤは話し掛けた。

「ねぇ?明日もここで話そうよ!きっと誰かに悩みとか辛いこととか話すと気が楽になるから」
「...そうだね。でもいいの?放課後とか生徒会の仕事とか...」
「大丈夫!生徒のケアも生徒会長の仕事だよ!それに私、子供のカウンセリングとかの仕事とかになりたいって思って、色々と勉強してるから少しは役に立てるかも」
「まるで友達みたいだね」
「...じゃあ友達になろうよ!」

彩斗は笑った。
今まで友達と言えたのはメリーだけだった。
だがこんなにも簡単に友達は増やせるのだ。
腹を割って話すだけでここまでも楽になれる。
今思えば、ミヤと話していると思わず悩みや辛いことを全て話してしまっていた。
ミヤの目指す道はある意味、天職に思えた。

「じゃあ、また明日」
「うん!」

彩斗は立ち上がり、荷物をまとまるとミヤに手を降った。
心も軽くなった。
誰にも言えずに1人で耐え続けた辛さが今ならよく分かった。
もしこのまま耐え続けていたら、身体と共に半年も持たなかっただろう。
軽い足取りで公園の階段を駆け下る。
だがその先には見覚えのある人物が立っていた。

「学校と飛び出したかと思えば、ここで女の子と喋って何してるの?」

銀色のランボルギーニ・ガヤルドに背中を預け、立っているピンクの髪の女性。
ハートレスだった。
自分のトランサーの画面から階段を下ってくる彩斗に視線を移した。

「どうしてここが?って顔してるけど、トランサーにケータイ、どちらかの電源が入ってれば、あなたの居場所なんか分かるわよ」
「そうだったね」
「今日は早退?何か理由でも?」
「...じゃあ頭痛と腹痛」

彩斗はガヤルドの助手席に乗った。
相変わらずシートに腰掛けただけで、凄まじいエンジンのパワーを感じた。
排気量5204ccに電動エンジンを加えたハイブリット仕様で、最高出力570馬力のバケモノだ。
それだけでキング財団の資金力の底知れなさを思い知る。
だがそれに構わず、ハートレスはアクセルを踏み込んだ。





















「ヤァァ!!!」

「!?アァァ!!!」

飛んでくる拳を肘で弾き、喉を狙う。
だがそのまま腕を捕まれ、足を払われると、その場に倒れた。
彩斗は施設に戻り、学校にいるはずの時間を眠って過ごした。
久々の安眠だった。
いつもは体の痛みで寝付きが悪く、おまけに時々起きる。
そのため毎朝、メリーが起こそうとも起きない。
だがこの5時間という時間は今までにない深い眠りに落ちていた。

「寝起きで体がうまく動かないってわけじゃないわよね?」
「...いや」

彩斗は立ち上がった。
今は施設のトレーニングルームで、『クインティア』に体術のレクチャーを受けていた。
この施設の子供にとっての体育の授業のようなものだ。
だがどう考えても普通の体術ではない。
相手を殺しに行こうとするような、普通の格闘技では許可されていない肘打ちや膝蹴りなど危険な技を含んでいた。
1週間に2度しかないが、彩斗にとっては一番キライなものだった。

「じゃあ今日はここまで」
「分かった」

クインティアはディーラーの中ではハートのクイーンの地位にいる女性だった。
紺色じみた長い髪に必要な事以外は殆ど口にしない冷徹さ。
そして凄まじい戦闘力。
彩斗は体が貧弱でも先程のように不良を御すだけの体術を持っていたのはクインティアが原因だった。
肘や膝などによる攻撃は貧弱な人間であっても、強者との差を少なくする。
体重を付加しやすく威力が高い上、弱点である顔面や腹部、首などに打ち込めば、更にその差を詰めることが出来る。
カポエイラに柔術、ジークンドーなどを盛り込んだ暗殺術。
だが彩斗はこの訓練すらも恐怖だった。
結局は暴力を振るうことに他ならない。
クインティアに言ったてはまさか彩斗の攻撃が当たるとは思えないが、結局、恐れているのは当たった時だ。
当たりもしないものを恐れているのだった。
自分の臆病さに失望しながら、部屋を出ていこうとする。
だが入り口のところには、少年が立っていた。

「君はやらないのか?ジャック」
「何であんなことやんなきゃなんねぇんだよ?」

クインティアの弟の『ジャック』だ。
睨みつけるような目つきに、140センチと彩斗に比べれば低身長、だが彩斗よりも圧倒的に筋肉質だ。

「オレはお前より強いからな。訓練なんざいらない」
「そうかい...。僕もお前みたいに人を殴れたら...どんなに楽か...」

彩斗は皮肉りながらトレーニングルームを後にしようと再び足を動かすが、ジャックはその腕を掴んだ。
そして着ていたジャージを無理矢理に脱がす。

「!?おい!」
「...お前、いじめられてるってホントだったんだな?だからあんなにノロマで息が上がってんのか?」

ジャックは彩斗の体の傷を見てそう言った。
あからさまに誰が見ても絶句する傷だった。

「...クソ...あのクソババア話したな?」
「何?」
「その話を知ってるってことは、ハートレスがチクったんだろ?どうする?キングに報告するのか?」
「何を勘違いしてるかは知らねぇが、それに気づいたのは姉ちゃんだ。お前と組むと違和感があるってな」

彩斗は振り返り、クインティアを見た。
全て見抜かれていたのだ。

「オレも変だと思ってはいたがな。てか誰も気づいてないって思ってたんじゃねぇだろうな?みんな気づいてるぜ?」

彩斗はため息をつくと、今度こそ、トレーニングルームを後にした。
この後は自分の能力であるシンクロとマテリアライズの実験だ。
どうせ写真を目の前に出され、その写真に映っているのと同じものを電波を使って作らせる。
その程度だった。


















「ハァ...」

夕飯を食べ終えた後、メリーと代わる代わる入浴し、ベッドに倒れ込んだ。
時刻は9時過ぎ。
本来なら宿題でもやって復習でもするところだろうが、早退ゆえに宿題はもらっていない。
だから軽く国語の文法書を開き、助動詞と敬語の確認をする。
そしてついでに公民の倫理の本を寝そべり、音楽を聞きながら読んでいた。
耳に入ってくるのは、『響ミソラ』と『スズカ』のデュエットソングだ。
トランスにユーロビートの爽快なサウンドだった。
響ミソラといえば中学生でありながら、女優、歌手などの芸能活動で有名だ。
世間一般では彼女をテレビで見ない日はないらしい。
おまけにその歌唱力の高さから常にオリコン上位だ。
反面、スズカはミソラの影に隠れ、あまり目立っているわけではないが、高い演技力と透き通った声を持っていた。
職業は歌手というわけではないが、番組の企画などで時折CDを出している。
トータルで5枚にも満たない枚数だが、彩斗は全て持っている。
彩斗はスズカのファンだった。
彼女がまだデビューしたての頃に聞いたラジオで知り、徐々にファンレターを出していった。
そして気づけばここまで高名になっていた。
一度、作曲した曲をファンレターに同封したことがあったが、スズカはそれに作詞し、ミソラが編曲してカップリングとしてCDに収録されていた時の嬉しさは言葉で言い表せない。
4分ちょっとの曲が終わり、iPodを枕元に置いた。

「あの...サイトさん?あのミヤさんっていう人と友達になったんですか?」
「ああ。君についで2人目だ....不思議だけど誰かと話すって少し気が楽になる」
「そうですよ!だから1人で抱え込まないでください!今は私だけでなく、ミヤさんもいますから!」

メリーは隣のベッドで髪にクシを通しながら微笑んだ。
かなり幼い表情で人懐っこい。
彩斗とメリーは望まずして兄妹になったが、全くメリーは拒まなかった。
人前では「兄さん」、そして2人きりの時は「サイトさん」と呼び分けをする。
それは兄妹であっても、あまり気にしていないことを意味していた。

「そうだね...じゃあ頼りにしてるよ」
「ハイ!」

だがその時、聞きなれない音が聞こえた。
音の源は彩斗のトランサーだった。
「ピロリン!」という工場出荷時のままの着信音だ。

「...メール?」

トランサーを開いた。
メールなど久々どころか初めてだった。
海の壁紙のホーム画面から自己主張するメールアプリのアイコンをタップする。
すると一瞬にしてメールウィザードが展開された。
1通目は『I.P.C.株式会社』からの『お買い上げありがとうございます』という件名の最初から入っているもの。
2通目は『I.P.C.ブロードバンド』からの『メールアドレスの取得が完了しました』というメールが使えるようになったことを通知するもの。
そして問題の3件目は送り主の名がなかった。

「何でしょう?変なメールですね。匿名ツールでも使ったんでしょうか?」
「多分。一応、ウイルススキャンの結果は出てないけど、PCにコピーして調べる。君が入るトランサーがウイルス感染なんてしたら大変だ」

彩斗はベッドから起き上がり、HPEの電源を入れた。
中央の真っ赤なラインが発光し、接続されたメーカー純正の21.5型のモニターにログイン画面が現れる。
彩斗のカスタムによって起動速度がかなり高速化されていた。
ログインし、ケーブルでトランサーとPCを繋ぐ。
そしてメールをPCにコピーした。
 
 

 
後書き
ラストで何か始まりそうな伏線を出しました!
次回、この怪しいメールが絡んできます!

お楽しみに! 
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