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とある碧空の暴風族(ストームライダー)

作者:七の名
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常盤台中学襲撃事件
  Trick38_君は女性に乱暴をするんだね。だから殺す




常盤台中学校。

突如現れたトラックから降りた駆動鎧(パワードスーツ)の男たちは
各学年を制圧するために動き出した。

だが、1年は白井黒子に、2年は御坂美琴に阻まれて制圧できていない。

その中で1番早く制圧されたのは3年生だった。

抵抗する人間がいなかったこともあるが、一番攻撃力があるグループを
3年生の強襲に向かわせたことも理由の一つだ。

飛び出た実力の御坂は例外に考えれば、能力開発を一番長く受けている3年生の
能力が高い。つまり、一番戦力があると予想されるのが3年生なのだ。

襲撃者はこれを考慮し、駆動鎧と強化人間(ブーステッドマン)を10名ずつで強襲。

戦闘開始から1分で制圧が完了した。




そして制圧して15分後、悠々と3年生の階に足を運ぶ
特殊駆動鎧(ハイパワードスーツ)と和服に似た格好の男がいた。

2人を見ると制圧部隊は廊下の両端に立ち、全員が敬礼して道を空ける。

「完了したのかな?」

「は! 抵抗者は誰もおらず、銃弾を1発も使用しておりません!」

通常の駆動鎧を装着した男が一歩前に出て答えた。

「御苦労。さて、僕の姫君に会いに行くと・・・

 おや? 3年2組の教室には誰もいないようだが?」

「は! 先程確認を取ったところ、授業が体育のために教室を空けているようです!」

「フム。外には誰もいなかったね、車で突入した時に見なかったし。

 それじゃ、体育館かな?」

「は! 只今確認します!」

言うとすぐに隣の教室に入り、1人の女生徒を紙を掴んで廊下に引きずり出した。

「い、痛い! ごめんなさい!
 抵抗しないから「黙れ! キュモール様の御前だぞ!」 ヒッ!」

特殊駆動鎧の男、キュモールの前で叫ぶ女性の髪を更に強く引っ張り上げた。

「ま、いいじゃない。女の子は大切に楽しまなきゃ。
 それでキミ、隣のクラスは体育館にいるのかな?」

「は、はい・・・」

「フム。なんだ、ここまで階段を上ってきたのが無駄になってしまったな」

「申し訳ございません! 確認を怠ったために御足労かけてしまいました!」

「確かに少し疲れちゃったな。でも、今は気分が良いし許しちゃうよ」

「寛大な御心、ありがとうございます! キュモール様!!」

「僕の可愛い可愛い姫君は焦らしてくれるじゃないか。
 いいね、萌えるよ燃えるよ! ジュルリ。ムラムラしてきちゃった!!
 早速お楽しみに行こうじゃないか!」

顔は特殊駆動鎧で見えないが、スピーカーからは気持ちの悪い舌舐めずりが聞こえた。

「駆動鎧隊はそのまま監視してろ! 女共はアイツに渡すから怪我は出来るだけ避けろ!

 強化人間の部隊は僕に続け! 球鬘(たまかずら)、お前も来い」

特殊駆動鎧は階段へと進んでいく。和服の男、球鬘も同じく続く。

さらに廊下で敬礼していた、駆動鎧を装備していない10人の人間が後に続く。

「あ、そうだ! 僕の姫君を教えてくれたキミ、お礼にご褒美をあげよう」

急に立ち止まり、未だ髪の毛を掴まれたままの女生徒を見る。

「キミの捕まえている、その男はね、“上手”なんだってよ!
 指使いとか腰使いとか! 根も太くて長いことが隊内でも有名だ!

 相手してもらって、“大人”の女性になってきなよ」

見えない顔は、気持ちの悪い背筋の凍る笑い顔をしていた。

遠回しに言ったが、その意味は聞いている全員が簡単に理解できた。

「へ!? いや・・・・いやーーーーー!!!!」

「ハハハハハ! そんなに喜ばなくてもいいじゃないか!!
 ほんの少しのお礼だよ!

 おい、お前! 激しくヤってあげな!
 なに、血が出るのは強すぎるからじゃなくて、初めてだからだ。

 嬉しいのに泣き叫んで嫌がる、これってツンデレって言うのかな? ハハハ!

 遠慮せずにヤれ。ヤりまくれ、ヤりつくせ。
 どんなに泣き叫んでも、それは快楽表現の裏返しにすぎないから止めるな」

「は!」

「いや!! いやーーー!! やめて! 離してーー!!」

女生徒の悲鳴を聞きながら、特殊駆動鎧はいなくなった。





「さて、俺はこいつの相手をしなければならない。
 なんと言ったって命令だからな!」

持っている武器を放り投げ、女生徒を掴んだまま階段の反対側廊下へと連れていく。
依然として叫び声を上げ続ける女生徒。

他の生徒たちは全員、下手なことを言って巻き込まれたくないのか、
恐怖のせいで身動きができないのかは、連れていかれる女生徒を見ているだけだった。

唯一人だけ、彼女の教室にいた女教師が、ついに耐えきれずに立ち上がる以外は。

「あ、あなた達! こんなことが許さ」パパパパパパン!

言い終わることができなかった。唯一人の勇気のある人さえも暴力の前には無力。

別の男が持っている銃口から煙が上がっていた。

「そういや、今持っている銃ってゴム弾だったな。

 チッ! 本物だったら赤い花火で綺麗だったのによ」

胴体に10個ほどの黒い球体、ゴム弾を受けて教師はゆっくりと倒れた。

「「「きゃーーーー!!!」」」

「うるせぇ!!」

 パンパン!

銃口を上に向けて発砲、蛍光灯のガラスが降り落ちる。

「黙れ! てめぇらは殺されないだけだ!
 変なことしたらあのクソ女みたいにすっぞ! 

 それともなんだ! この女が死ぬとこ見たいのか!?
 生徒以外はどうしても良いんだよ! クソ女死ぬぐらい問題ないよな!?」

最後の一言は仲間へ向けて言っていた。

「問題ない。だが、パニックになられると面倒だ。
 銃で撃って気絶すると、連れていく時に苦労するから自分で歩けるよう
 起きててもらった方が良い」

「チッ!」

意識のない女教師の腹を蹴りつけて、持ち場の教室入り口に戻っていった。




「いや! やめて!!」

「うるさいな」

 ビリビリ!

「キャ! うぐッ! ん~~~~!!!」

廊下の奥、行き止まりまで連れて行かれた女生徒は、上着をやぶかれてその服を
口の中に入れられて猿轡にされた。

「さてと」

駆動鎧の中にある拘束道具で両腕を縛り、女生徒が抵抗ができないようにする。

そして腰の方にあるボタンを押し、プシュっとガスが抜ける音を立てて
駆動鎧の下半身部分が外れた。

服をやぶられた女生徒の上半身はブラジャーのみ。
成長途中の小さな胸が少ない布で隠されているだけだった。

「痛いのは始めだけだ。あとは気持ち良くなるよ」

「ん~~~~~~!!?」

上の駆動鎧も外し、武装はすべて外された。
その顔には気持ち悪い、鼻を伸ばした下品な表情が浮かんでいた。

そして自らのズボンに手をかけて



  両肩から血が吹き出た



「ガアアアアアアアァァァッ!?」

「君は女性に乱暴をするんだね。だから殺す」

気が付けば、男と女生徒の間には宗像形が立っていた。

3年生の教室は4階にも関わらず、開いていた窓から音もなく入ってきた。

その両手には血の付いた刀が1本ずつ握られている。

「だ、誰だお前は!!?」

「あなたの後輩だよ」

言い終わると同時に両太腿に刀を深々と突き刺して貫通させる。
間髪入れずに腹を蹴って5メートル以上を突き飛ばした。

男の絶叫を聞いて各教室にいた仲間たちが顔を出してきた。

「誰だ貴様!?」

「自己紹介かい? そんなのはどうでもいいだろ? その代わりにこれをあげよう」

放り投げたのは、いつの間にか握られていた手榴弾を5つ。

「な!? 逃げろ!!」

急いで教室に戻る駆動鎧。

週榴弾が5つもあれば、建物の1階分ぐらいは軽く吹き飛ばすことができる。

しかし、手榴弾から出たのは爆音と爆風ではなく、目くらましの煙幕だった。

「ゲホゲホ! なんだ!? 爆弾は!?」

「手榴弾はフェイクだ! 早く体勢を整えろ!! 侵入者だ!」

煙に埋もれている廊下、教室から声が聞こえた。

すぐに煙から出てくる者はおらず、言われた通りに全員が体勢を整えていた。

「失礼だな、侵入者はどっちなんだい。

 君、大丈夫?」

宗像は倒れている女生徒の近づき、口の中の布を取り出す。

「もう心配はいらない。そこでゆっくりしていてくれ」

優しい声で話しかけた。

「・・・・」

ショックのためか目に涙を溜めていたが、宗像の言葉に力強く頷いた。

宗像は頭を優しく一撫でし、手の拘束を解いて神理楽(かみりらく)高校の
制服を脱いで女生徒の露わになった上半身へかける。

『宗像。高貴なる私の完璧なる作戦を壊すとはどういう考えだ?』

突如、耳につけていた通信機から声が聞こえた。

『陽動と時間稼ぎが今の優先事項だ。1人倒してしまっては、そうはいかなくなる』

「問題ない、位置外」

本来であれば、時間稼ぎのために敵にわざと見つかり教室に立て籠る。
近付いてくる敵だけを攻撃する作戦だった。

だが校舎に入るときに見えた、辱められる生徒を黙って見過ごすことができず
宗像は勝手な救出に出た。

『験体名:“枯れた樹海”(ラストカーペット)と呼ばれた男が情を持つのか?

 笑えるな』

「なんとでも言え、“最端の蒼”(エンドブルー)。僕は昔と変わらず殺したいだけだ」

宗像は屈み、元々履いていた軍用ブーツことボゥローラーA・Tの踵に
大型の刃、剣の玉璽(レガリア)を装着する。

「さて、殺すか」

『分かっていると思うが、時間稼ぎであることを忘れるな』

後ろにいる女生徒には一切の殺気を送らないように注意しながら煙の中に
進んでいった。



*****************************************



「つーちゃん! このまま真っ直ぐで大丈夫!?」

『正確にいえば、真っ直ぐなのはビルの屋上を5建までだ』

「つまり今は真っ直ぐで良いってことだね!」

『話を聞いていたのか? ビルの屋上を、今1建渡ったから4建までを「わかった!」』

「もう! つーちゃん細かすぎる!」

『高貴なる私の言葉を遮るとはいい度胸だな、佐天』

佐天はA・Tを使い、屋上伝いに駆け抜けていた。

普段の佐天であれば、5階の高さの建物を飛び越えることに恐怖を感じていたはずだが、
先程の信乃とのタッグ技に自信をつけたのと技成功に興奮したことで、全く躊躇のない
ジャンプを繰り出していた。

空中で体勢を崩さないための体重移動回転も完璧に、練習以上に成功させる。

「よし!」

『計算より30秒早い。このペースでいけば到着に2分15秒は短縮できる』

位置外は練習中の佐天の動きから到着時間を測定していたが、その測定結果を
上回る動きをしていた。

「あと2建! あれ? 美雪さん?」

2建隣り、信乃が住んでいる学生寮の屋上には信乃の幼馴染である
西折美雪が立っていた。

美雪も佐天に気付き、こちらに手を振って合図をしている。

『ニシオリが連絡していた。

 ニシオリの家の“近く”に平民(みゆき)が“偶然”いたそうだ。

 合鍵も“気まぐれ”で渡していたから、A・Tのホイールも部屋から
 取り出してもらい屋上で待機させていた』

「なるほど! あれ? なんだか言葉の所々に強調されている部分が?」

『気にするな。気にしたら負けだ』

「う~ん、ま、いっか。 よっと!」

建物の間は5メートル。それを軽々と飛び越えて美雪の前に
ブレーキスピンをしながら止まった。

「佐天さん、お疲れ♪ はい、これ♪ あと、少しだけでも水分補給して♪」

「ありがとうございます!」

A・Tホイールが入っている鞄と、スポーツドリンクを佐天に手渡した。

渡されたのは背中に背負うタイプの鞄。

女性が出掛けるときに使う、皮で作られた小さな鞄で、
A・Tで走るのにも邪魔のない大きさだった。

おそらく信乃ではなく、美雪の個人用のものだろう。

“偶然”信乃の家の近くに学校帰りでいたのに、なぜプライベートで使う用の鞄を
持っていたのかは、緊急事態のため佐天は気付かなかった。

『速過ぎても信号のタイミングがズレる。1分間は、ここで休憩しろ』

「わかった、つーちゃんもありがとう」

今度もタイミング合わせが理由だが、休憩を貰えて一息ついた。

美雪からのスポーツドリンクを口に入れると、知らず知らずのうちにノドが
乾いていたようで、ゴクゴクと止まることなく一気に飲み干してしまった。

「プハッ! おいし! 美雪さん、ありがとうございます!」

「いいよ、私にはこれぐらいしかできないし♪

 ・・・・佐天さん、信乃からは緊急事態ってだけしか聞いてないの。
 もしかして信乃は戦ってるの? 佐天さんにお願いするぐらい切羽詰まってるの?」

「あの、私もよくわからないんですよね。アハハハハ・・・・」

本当のことを言って美雪を不安にさせない方が良いと考えて
佐天は嘘をついて誤魔化すように笑った。

「そっか、戦っていたらまた病院に来るかも知れないかな・・・・
 佐天さん、伝言お願いできる?

 もし怪我をしたら、カエルさんの病院に美雪がいるから、搬送先はソッチにして。
 あと、重症だったら私のCHI☆RYO☆Uが待ってるから楽しみに♪
 
 って」

「は、はい、わかりました・・・・」

美雪が信乃を重傷前提で考えているので、佐天は少し不安になった。

 なぜ怪我すると思うんですか? 信乃さんは強いから怪我しないと思いますよ

口にしかけた質問を聞く前に、位置外から連絡が来た。

『時間まで10秒前だ。準備しろ』

「わ!? 了解! それじゃ、美雪さん! ありがとうございます!」

「うん、頑張って♪」

佐天は勢いよく隣の学生寮に跳び移った。





佐天の調子は、休憩を挟んでも衰えは見えなかった。

『本当に速度が上がっている・・・・・高貴なる私の予想を上をいくとは
 面白いぞ、佐天涙子』

「あっりがとう! つーちゃん!」

自分でも調子が良いと感じてる上に、自分よりもA・Tの先輩に褒められたことで
佐天の調子はさらに上がった。

上がり過ぎるほどに。

順調に位置外の指示ルートを走り、ゴミが散乱しているのが理由で歩けない
ビルの間の細道も、壁走り(ウォールライド)で簡単に通り抜ける。

位置外の指示は近道だけでなく、通過ルートの信号のタイミングも完全に
把握していた。

まだ長距離のジャンプができない佐天では、道路を挟んだビル間のジャンプは不可能。

ならば下の横断歩道から渡るしかない。

横断歩道が青になるタイミングにしか、佐天は通過していなかった。
自分はペースを全く変えずに常に全力疾走をしているだけ。

あまりにも順調に進んだうえに、今までの上機嫌も含めて
≪自分を止める者はいない≫。佐天はそう感じるようになっていた。

『左の郵便ポストから、住宅の塀、その家の1階屋根、隣の2階の屋根に移れ』

「了解!」

最初は『本当に大丈夫!?』と思っていたが、『今の自分に不可能はない!』と
考えていた。

そのために、判断を誤った。

『建物の反対側に降りろ。塀に一度ホイールで滑らせれば着地も大丈夫だ』

「え!? でも隣の建物、3建連続で丁度良い高さだよ!
 飛び移ればショートカットになる!」

佐天が見る限り、今いるのは2階建てビル。屋上の手すりと貯水タンクを
踏み台にすれば隣の3階建てに跳び移れる。

そして、その隣、さらに隣も3階建て。

降りることも考えると、4建目のビルは2階建て。
3メートルしか壁降り(ダウン)ができない佐天でも、調子の良い今なら
2階建て(4メートル強)の高さから降りても大丈夫だと考えた。

一方、位置外の指示通り建物から降りるルートは、近くに廃材置き場があるために
少し遠回りする必要がある。さすがに廃材置き場の上を走る近道は無理だ。

常盤台中学の方向で考えれば、建物ルートが近道になる。

『大人しく高貴なる私の言うことを聞いていればいいのだ』

「大丈夫! 今の私だったら出来るって!」

そう、調子に乗って位置外の判断を無視した。

『やめろ。そのルートはお前には無理だ』

「問題ないよ!」

位置外の停止命令を聞かずに、隣のビルに移る。

貯水タンクの踏み台も完璧だ、そう思う出来だ。

その後も2建連続で跳び、4建目の建物を目掛けて足に力を込めた。

だが、見えた屋上は一面緑色をしていた。

「・・・え?」

間の抜けた声を出す佐天。

風力発電でエネルギー供給や地球温暖化に直接心配がない学園都市であろうとも、
やはり緑化運動と言うものはあったらしい。

屋上に植物を植えて少しでも二酸化炭素を減らす。
その取り組みで4建目の、佐天が飛び移ろうとしていたビルは緑化運動をしていた。

一面緑。屋上の至る所に植物の植木鉢を置いている。

つまり、着地する足場が無い。

愚民(さてん)! 右方向の出入り口だ!』

「ッ!?」

驚きで真っ白になっていた佐天は言われるままに、とっさに踏み出しかけた左足に力を
入れて右方向に跳ぶ。

位置外の指示にあったのは屋上の出入りを行うドア。
ドアを開閉するため、その付近には植木鉢は置かれずコンクリートの色が見える。

とっさとはいえ、偶然にも方向と距離がわずかなスペースにぴったりと合った。

着地地点は成功。だが、着地そのものは失敗した。

「きゃ!!」

空いていたのはドアを開閉するためのわずかなスペース、2メートル四方だけ。
走ってきた勢いをそのままに、2メートルでブレーキをかけられるはずがなかった。

そのまま植木鉢のいくつかを蹴り飛ばし、踏みつけてバランスを崩す。

勢いはそれでも止まらず、屋上の手すりから体を放り出された。

 ゾクッ!!

浮遊感。A・Tを使っている上で必ず付き纏う恐怖が佐天を襲う。
その恐怖はA・Tで体勢を作っているからこそ克服できた恐怖であった。
だが、体勢は全く取れていない。だから、純粋な恐怖が佐天を襲った。


 ガサッ


偶然にも、建物の側に生えている街路樹に落ちた。

「ハァ・・・ハァ・・・わ、わたし・・・生きてる・・・」

2階建てとはいえ受け身を全く取れずに放り出されれば、死ぬと感じる恐怖があった。

それが自分の最高速度で突っ込み、勢いのまま落ちたのだからよけいに恐怖した。

『何を休んでいる! 早く木から降りろ! 時間が無いんだぞ!』

「は、はい・・・」

本人にとっては九死に一生の体験だっため、少し放心状態だった。

動きはしたが木から降りるのもゆっくりになってしまう。

幸いに木の葉と枝がクッションになって、体のどこにも痛い部分はない。

だが、結果的に1分のタイムロスが発生した。

「つーちゃんはこのこと、知ってたの?」

木から降りながら位置外に聞いた。

≪このこと≫とは、佐天が降りたビルに足場が無いことだ。

『愚問だな。愚民(おまえ)が聞くのだから当然か?

 ニシオリや宗像ならともかく、少ない足場で愚民(おまえ)が着地できるはずがない。

 愚民(おまえ)を止めたのは屋上から降りられないと考えたからではない』

短い距離で止まるのは、A・Tの摩擦技術と足筋を使ってのクッションが必要になる。
初心者の佐天ができるはずがない。

例え調子が良くても、毛が生えた実力では不可能な領域だ。

位置外は佐天が通るルートの監視カメラを全て、
それに加えて地上監視用の人工衛星もハッキングしてすでに見ていた。

もちろん、緑化された屋上も。
佐天の実力計算して、少しだけだが遠回りの下の道を走るように指示したのだ

『調子に乗っていたな。愚かだ、愚か過ぎる』

「・・・・・・・」

言い返せなかった。

『早く走れ。1分3秒のタイムロス、タイミングのずれで次の信号は赤で
 止まることは決定だな。

 こうなっては到着は予定よりも5分42秒も遅れる』

「そんな!」

5分。

それは仮に信乃が自分でホイールを取るためにロスする時間、3分よりも長い。

今から到着しても、信乃が最初から全て一人で行動した方が良かったことになる。

一気に、自分の存在意味の無さが襲ってきた。

「で、でも! 今から急げば少しぐらいは!」

『信号に掛からないタイミングで計算されていたのだ。
 1つの信号で1分の遅れ。その遅れで別の信号にも掛かる。それをまた繰り返す。

 急いでも無理だな。
 それが調子の良かった愚民(おまえ)程度の走りで計算しても覆すことはできない』

「そんな・・・・・そんな・・・」

心の中に残っていた、僅かな希望さえも否定された。



つづく
 
 

 
後書き
佐天さんには上げて落ちてもらいました。
物理的にも精神的にもね。

作中で不明、疑問などありましたらご連絡ください。
後書き、または補足話の投稿などでお答えします。

皆様の生温かい感想をお待ちしています。
誤字脱字がありましたら教えて頂くと嬉しいです。 
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