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とある碧空の暴風族(ストームライダー)

作者:七の名
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常盤台中学襲撃事件
  Trick37_ア~イ キャ~ン  フッラーーーーーイ!!

これまでの

  とある碧空(へきくう)暴風族(ストームライダー)





 1つ!

  信乃 宗像 黒妻 位置外 佐天 による暴風族チーム

   ≪小烏丸(こがらすまる)≫が結成!





 2つ!!

  信乃が常盤台を離れている隙に常盤台中学が襲撃!!

   対 超電磁砲(レールガン)装備で御坂も苦戦!!





 3つ!!!

  ≪小烏丸≫全員に出動命令! 佐天も補助で参加だ!!

   メンバーが急いで救助に向かう!!!



     「いくぞ! 気合入れろ野郎共!!




       コッ!! ガ ラ ス マ ルゥ ーーーーーーーーーーッ」




      「『『『『ブッ殺!!!』』』』」







常盤台中学校、1年生の廊下。

時間稼ぎをしているのは白井黒子。

戦況は位置外の指示通り、均衡状態を保っていたが
時間とともに減っているものがあった。

「残りの鉄の矢は3本・・・・」

そう、白井が武器としている鉄の矢が減っていた。

空間移動(テレポート)を使い、敵の駆動鎧(パワードスーツ)の一部を破壊。
戦闘不能とまではいかなくても、相手が突撃をするのを躊躇させる戦いをしていた。

もちろん、相手が駆動鎧であれば接近戦は無意味。全身が鉄で覆われているのだから
殴る蹴るは効くはずがない。

よって自分自身が空間移動するメリットが無い。

ならば鉄の矢だけを相手の駆動鎧の一部に強制空間移動させて破壊、
自分は物陰に隠れて遠距離攻撃をするしか手段がなかった。

10分以上も戦いを続けてその鉄の矢も残り3本。白井からは焦りの汗が流れていた。

「どうしたらよろしいですの・・・・このままでは」

階段の陰から3人の駆動鎧が同時に出てきた。

「!? さすがに強硬手段に出ましたの!?」

今までは慎重に階段の陰から銃撃(ゴム弾)で攻撃していた駆動鎧達。

たまに1人突撃してきても、数歩歩くうちに白井の矢が足を破壊してと敵を防いでいた。

だが、学生相手に10分もの足止めをされては彼らのプライドが許されなかった。

3人、3機の駆動鎧が同時に突撃してきた。

白井の持っている矢は3本。1秒前に慎重に使うと決めた直後に
使わなければならない状況になってしまい、一瞬の躊躇ができてしまった。

「く!!」

仕方がなく矢を駆動鎧の足に空間移動させて走行不可能にする。

しかし、それで止まったのは2人だけだった。

残り1人に当てるはずの矢が、一瞬の躊躇のせいで演算ミスをしてしまい
空間移動させる位置を数センチ手前に間違えてしまった。

「しまった!!?」

手持ちの矢はない。白井は急いで教室の入り口から離れて、
代わりに空間移動できるものを捜した。

空間移動するものは、鉄の矢である必要はない。だが目を離せば襲ってくる敵が
いるために、教室の中にあるものを取りに行く暇がなかった。

急いで手にしたのは、誰かの筆箱、複数のペン。
形と大きさが鉄の矢と似ているので丁度いい。

振り向いて再び駆動鎧を破壊しようとしたが、残念なことに遅かった。

白井が目にしたのはすでに教室に一歩入り、銃を自分に向けている姿だった。

生徒を殺さないために、ゴム弾を使っているのは戦っている間に分かった。

だが、ゴム弾とはいえ当り所が悪かったら一撃で気絶する。
最低でも悶絶して動けなくなる。

白井に演算する時間はない。

諦めた彼女の目に写ったのは、入口で自分に銃口を合わせる駆動鎧。
その背景の窓の外から、跳び蹴りの姿勢の元スキルアウトの姿だった。

「ブッ殺!!!」

丁度、≪小烏丸≫の結成式のタイミングで入ってきたのは黒妻綿流。

廊下側の窓ガラスを蹴りで割りながら、そのまま駆動鎧にも蹴りを入れる。

「ガハァ! 何だお「白井、今だ! 早く!!」」

「は、はいですの!!」

駆動鎧の男を床に這いつくばらせ、黒妻に聞き返す前に白井がペンを空間移動させて
両手両足の駆動装置を破壊。動かせなければ駆動鎧は装着者を縛る重りになる。

「あとは、大人しく寝てろ!」

黒妻が力いっぱい蹴りおろす。例え駆動鎧でも、A・Tで強化された蹴りの衝撃までは
完全に受け止められずに男は意識を失った。

敵の状態を確認した後、白井は急いで自分の机からノートを取り出した。

それを鉄の矢の代わりに使うために紙を破きとる。

紙を持って再び入り口から廊下を見ると、倒された2人を他の敵が回収して引きずって
いくところだった。

引いて行くなら下手に追撃はせずに白井は様子をうかがった。

「黒妻さん、助かりましたの」

敵がいつ教室に入っても撃退できるように、
黒妻は白井のそばで同じように屈んで準備した。

「礼はいい。俺らはここの警護を任されたんだからな。
 むしろ侵入を許したことに詫びを入れなきゃいけねぇぐらいだ。

 位置外の指示で1年生教室が危ないって聞いたんでな、飛び込んできたぜ」

「わたくし、位置外さんに救援は言ってない筈ですが・・・・」

もちろん白井の上に、位置外のA・Tドラグーンが浮いているのは誰一人として
気付いていない。

「それに、謝る必要なんてありませんわ。例え信乃さんや皆さんがいたとしても、
 スキルアウトならともかく相手は訓練を受けた兵隊レベルの実力。

 恐らく勝てないですの。早く警備員(アンチスキル)が来るのを待ちましょう」

「それなんだが、俺もここに来る途中に位置外に聞いたんだ。『警備員はいつ来るか』って。

 そしたら、なんだか上からの命令でゴタゴタしてるせいで
 しばらくは到着できないらしい」

「な!? それではわたくし達だけで!?」

「位置外いわく、信乃が解決してくれる、らしい。到着までもう少しかかるがな」

「では、わたくし達は今までと同じように時間稼ぎを?」

「そうだ。だがそれほど問題にすることはない。2年は御坂一人で問題ないらしいし、
 3年は完全制圧されてるが、今は乱暴に扱われていることもない。

 しかも宗像があと数分で到着するから、あいつが巻き返すだろう。

 唯一危なかった1年も、俺が来たから少しは大丈夫だって位置外が言ってた」

「わたくしだけ危なかったんですの。わたくしもまだ訓練が足りないみたいですわね」

「ま、いいじゃねぇか。嬢ちゃんはまだ中学生だろ。そんな歳で完全な人間がいたら
 逆に嫌だぜ。俺だって嬢ちゃんと比べたら数年長生きだってのに
 不完全の塊だ。なんせレベル0なんだからな」

「ですが今は力不足を痛感してますの」

「ま、しかたがない。真打ちが来るまでは頑張るしかないよ」

「はい、ですの」

こうして白井と黒妻の、白黒コンビが結成された。



・・・・・・

・・・・・

・・・・

・・・

・・




「それでつーちゃん、私はどこに向かえばいいの!?」

『その道路を東に全力で走れ、今すぐに』

「り、了解!」

A・T(エア・トレック)をつけた佐天は、位置外の指示を受けて全力で走り出した。

初めて公道でA・Tを使ったが、緊張よりも広々とした空間で走れる喜びが強かった。

一応はA・Tは極秘事項。サングラスとニット帽を使って人相を隠している。

「私の仕事はいち早く信乃さんの家に行って、パーツを取って、常盤台に届ける!

 それでいいんですよね!!」

『愚かな頭脳の割に理解できたことを褒めてやる。喜ぶがいい』

「は、はぁ・・」

電話口で声を聞いたときに、位置外のキャラの違いに気付いたが場合が場合だったので
無視していた。

結成式が終わって少し気持ち的に落ち着いた今だと、やはり可愛い容姿で可愛い声の
位置外水が、こんなセリフを言うのは変だ。

だけど佐天の考えていることは少し違った。

(この声で偉ぶってしゃべってる・・・・ギャップが可愛い!!

  そこにシビれる! キュンとくるぅ!!)

勝手に萌え悶えていた。

『高貴なる私の計算では、信号一つかからずに到着することが可能だ。

 だが、平民(おまえ)が少しでも遅れれば計算が外れる。

 私を怒らせたくなければ全力で走れ』

「は、はい!」

ただ偉ぶっているわけではなく、求めている内容はかなりシビアだ。

位置外の指示に従い、時には路地裏に入ったり、階段の手すりを滑り降りたり、
壁昇り(ウォールライド)で3階建ての建物に上った後は屋上と屋上を渡ったり。

その全てが佐天の今の実力の、限界ぎりぎりだった。
唯一の救いは、佐天が『絶対にできない!!!』と感じるルートは走らなかったこと。

せいぜい『本当に大丈夫!?』と位置外の考えと、自分の実力でできるかどうかに
疑問を持った程度。

危なげながら位置外の“支配”で順調に走り進んでいく佐天だった。




『ここで3分20秒の休息を許す。待機していろ』

「はぁ、はぁ、はぁ、い、いいの? はぁ、はぁ、そんな暇は、ないと思うよ」

『高貴なる私からのありがたい報酬だ。大人しくしていろ』

「うん・・・はぁ、はぁ、はぁ」

位置外の指示で止まった場所は、とある学園都市の公園。

佐天は、公園をつきぬけてショートカットでもするのかと思ったが、位置外に言われて
今はベンチに座っている。サングラスもニット帽も外して一息ついている。

ふと、ベンチから高台からの見える景色で気が付いた。

この公園は、急で長い1本坂の途中にある公園だ。

あまりに長い道で、休憩が取れるように作られた公園。

ある程度の広さはあれど、遊ぶ場所はない。

ただ一番の問題は、この公園の入り口は1か所しかないことだ。

言い換えれば、峠の崖の一部を公園にした孤立した作られ方。
通り抜けを考えていた佐天だが、公園の入り口以外はまともに通り抜けできない。

できたとしても、今自分が見ている高台ぐらいしかない。

もちろん、そこから落ちれば30メートルはあるだろう下の道路に落下(・・)ができる。
子供が落ちないように、2メートルのフェンスで落下防止されているほどだ。

「あれ、もしかしてここから≪ I can Fly! ≫じゃないわよね?」

冗談の独り言のつもりで言ったのだが

『その通りだ』

携帯電話から肯定が返ってきた。
余談だが信乃と同じようにイヤホンマイクで通話している。

「ちょっと待って! 絶対無理だよ! 信乃さんや宗像さんならともかく
 私まだ壁降り(ダウン)は3メートルが限界だよ!」

『降りるわけじゃない。向こう側に飛ぶんだ』

「え?」

言われて目を向けると、公園よりも少し低い高さに高層ビルがあった。

しかもご都合主義のごとく、高層ビルの隣はそれより少しビル。
さらに隣にはそれよりも少し低いビル。

10建のビルが、一直線で下り階段のように並んでいた。

「つまり・・・あのビルに跳び移れば直接下に降りるよりも時間短縮ができるってこと?」

『その通り』

「むむむむ無理だよ! ビルまでの距離知ってるの!?
 絶対に20メートル以上あるって!!」

公園とビルの間には片道4車線の、学園都市を横断する大型道路がある。

横幅にして20メートル以上。失敗すれば30メートルの高さからの落下、死である。

A・Tを始めて2週間程度の佐天の実力では絶対に不可能な飛距離の上、
リスクに対する恐怖でいつもよりも飛距離が落ちるだろう。

確率でいえば100%不可能だ。

『20メートルの距離? 高貴な私が銀河系で知らないことはない。
 もちろん道路の横幅の距離も知っている。
 正確にいえば25メートル782ミリメートル42マイクロメートル、さらには』

「分かりました! もういいです私より知ってるのは分かりました!

 はぁ・・・でもそれなら初心者の私が飛べってのは無理があるんじゃ・・・・」

『策はある。残り時間は2分42秒だ。しっかり休息しろ』ブツッ

「ってつーちゃん!? 切れちゃったよ、どうしよう・・・」

策があると言っていたが、詳しくは教えられずに一方的に切られた。

「私にできるのかな・・・・いや、無理だよ絶対!」

位置外に何ていえば納得して貰えるのか考えていた佐天は、意外な人物の声が聞こえた。

「あれ? ルイコ、なにやってんの?」

「むーちゃん? それにアケミとマコチンも。どうしたの3人で?」

クラスメイトで佐天と仲の良い3人が公園の入り口から歩いてきた。

「どうしたの3人とも? ここ辺りって帰り道でもないよね?」

「私達はただの散歩。午前中で学校終わったから遊びに行こうとしたんだけどね、
 行こうって決めてたお店が改装工事で閉まってたのよ。

 それでブラブラ散歩。ルイコは・・・ってインラインスケートそれ?」

「あ、うん、そうだよ」

A・Tは一応は秘密事項になっている。もし見られたとしても彼女たちが言ってるように
おもちゃ(インラインスケート)であると言いきって誤魔化すように厳命されていた。

「わーなつかしー!」

「昔は私もやったよ!」

「私はローラースケート、車みたいに4輪のやつで遊んだな~。
 でも転んで怪我して以来乗ってないや」

「涙子はどうしたの? それで遊んでたの?」

「遊んでたわけじゃないんだけど・・・・、まぁ、色々あってね」

誤魔化すことはできたが、佐天の表情は曇ったままだった。

「どうしたの? なんか黙ちゃって」

「うん、詳しくは言えないんだけど・・・」

「あ、もしかして今朝言っていた特殊なスポーツってこれの事?」

「う、うん。でも、私が使ってたこと内緒にしておいてね。

 信乃さん達に迷惑がかかるから」

「別にいいけど・・・本当にどうしたの?」

心配そうに佐天を見る3人。

どうしようもない不安から、心の内を3人に相談してしまった。

「あのさ、もし、もしもだよ。

 絶対にできそうにないことをやれって言われたら、みんなはどうする?」

「どうするって、無理ならやらないよ。もしくは玉砕覚悟でやってみる」

「右に同じく」「左に同じく」

「そっか、やっぱりそれぐらいしかないよね・・・・」

「何に悩んでるかわかんないけど、無理なことをやれって言われたんだ。

 なら、ルイコなら大丈夫だよ」

「マコチン、なに? いきなり大丈夫だって」

「だって涙子は毎朝学校で居眠りするぐらい頑張ってんじゃん」

「むーちゃん・・・それ励ましてるの?」

「それにほら、宝石の加護があるんじゃないの?」

「あ」

アケミの言葉で、佐天は自分の手首にあるブレスレッドに目を向ける。

「初春から聞いたよ。『これのおかげで辛いことがあっても乗り越えられる』んだって?

 しかも信乃さんからのプレゼントでしょ。あーあー、いいな~。私もいい人いないかな」

「な、何言ってんのよアケミ!?」

「ま、つまり私達が言いたいのは、あんたは『無理』にも勝てるかもしれない努力を
 したんだから、胸張って生きなさいってことよ」

「うん。努力は叶うもんよ」「そうそう、ルイコなら大丈夫だって」

「アケミ・・・・むーちゃん・・・・マコチン・・・・」

「ここで一つ、私の好きなアニメのセリフを言いましょう!

  ≪俺を信じろ!お前を信じる俺を信じろ!!≫」

「えっと、そのセリフをここで当てはめるの?」

「そう! このセリフを信乃さんが言っていると思って!
 佐天が無理だって思ったこと、信乃さんがやれって言ったんでしょ!?」

「(ボソ)ちょっと違うかも」

佐天に指示を出しているのは信乃ではない。位置外水だ。

A・Tの練習中に彼女と話はするが、普段の弱気で根暗な彼女に信頼や信用を持つことが
できないのが正直な考えだ。

だが、信乃は位置外を信頼しているように思える。

練習メニューも信乃が考えた内容だけでなく位置外が発案したものもあり、
信乃はそれをほとんど疑うことなく取り入れていた。

いつだったか、信乃に位置外をどう思っているか聞いたことがある。

  「つーちゃんは・・・婚約とかそういったことを抜かしたらいい友達ですよ。
   精密コンピュータ並みの頭脳ですし、人間の心も分かってくれますから。
   “樹形図の設計者”(ツリーダイアグラム)の結果と、つーちゃんの意見なら
   間違いなくつーちゃん、いえ、位置外水の言うことを信じます」

その時は、自分のことよりも位置外が信頼されていることに少しだけ嫉妬を感じた。

でも、今考えるべきはそんなことではない。

(私はつーちゃんを信頼できていない。

 でも、信乃さんが深く信頼してる位置外水に全てを賭けてもいいかもしれない!!)

無理矢理だが、それでも位置外を信じる、信じきれるきっかけを掴めた。

「ありがとマコチン! 私やってみる!!」

「お、おう。頑張って」

いきなり元気なった佐天に一瞬驚いたが、それでも親友に笑顔が戻ったことが良かった。

『そろそろ時間だ。準備をしろ』

「つーちゃん!? 分かった!!

 ごめん3人とも、私行かなくっちゃいけない。これから見ることは絶対に
 内緒にしてね」

イヤホンマイクからの連絡に佐天を含めて4人が驚いたが、すぐに佐天が動き出した。

「また説明なしか。ま、しょうがないから聞いてあげましょう」

「諦めるな! 全て玉砕だ!」

「玉砕したらダメじゃん。ルイコ、ほらルビーの宝石だよ。頑張って」

「うん! それと、これはルビーじゃなくスピネルっていう別の宝石!
 向上心や努力を促進してくれるすっごい石なんだから!!」

ブレスレットを握りしめて公園の端、飛び越えるフェンスから離れて助走距離を取る。

平民(さてん)、私の合図で全力で跳べ。一切の躊躇も遠慮も後悔も混ぜるな』

「はい!」

リラックスをして、自分が向こうの建物に着地するイメージを繰り返す。

『準備はできてるな。返事は聞いてない。

 行くぞ。   3  2  1   GO』

「GO!!!」

全力で佐天は地面を蹴る。

蹴った力に比例してA・Tの小型モーターがうねりを上げて、佐天を風の中に入れる。

自己最高速度が出たと佐天は思った。



そしてフェンス前のベンチにホップ。

「ア~イ」

 隣の自動販売機の上でステップ。

 「キャ~ン」

  フェンスの上で足を乗せてジャンプ。


   「 フッラーーーーーイ!! 」


   佐天涙子は跳んだ



「お願い! 届いて!!」

残念ながら佐天の願いは、叶わないと自分で悟ってしまった。

半分を跳んだ辺りで失速、4分の3にはビルの屋上よりも低い位置に落ちていった。

着地の事は一切考えていない。このままでは落ちながら壁に激突するが、
失敗したことで絶望したために佐天はそれどころではなかった。

「そんな・・・・」



『佐天、ニシオリに合わせろ』


「へ?」

絶望に打ちひしがれていた佐天だが、位置外に言われて下の方を見る。

そこには

「佐天さん! 足合わせて!!」

壁昇り(ウォールライド)で駆け上がってくる信乃がいた。

「な、なんd「早く!!」 はい!」

信乃はビルの壁から跳び、佐天の方に向かう。

そして足を上にする体勢をし、落ちてくる佐天と、昇ってくる信乃の、
互いのA・Tのホイールが合わさった。

 カュッ!

「信乃さん!!」

「頼んだ!!」

 ヒュ!

合わせた後、自分の脚力と信乃の脚力で再び佐天涙子は跳んだ。



  跳ぶ前は本当に怖かった

  いくら信じて跳んだつもりでも 今考えると信じられなかった部分が残ってた

  でもさ 今日の私は 明日の私を絶対に後悔させたくなかったんだ

  だから ほら 少し頑張ったら私 “飛べた”んだよ?

  挑戦できたんだよ?

  いつか信乃さんに つーちゃんにそう言ってイバりたいな

  あの時はすごい頑張って すごい楽しかったんだって イバりたいんだ

  それでね 一番に言いたかったのはね お礼なんだ



「ありがとう」

「catch you later(また後で)」

佐天の呟きに信乃は英語で返した。

一瞬だけ見えた空中にいる信乃の後ろ姿は、右手の親指を上げてサムズアップしていた。


佐天は屋上にホイールを滑らせるように着地し、勢いをそのままに隣のビルへと移動。
さらに隣のビルへと階段を降りるように順調に移動していった。

「つーちゃんが公園で休ませたのって、休憩目的じゃなくて信乃さんとタイミングを
 合わせるためだったんだ!」

『丁度ニシオリもこの道を通るからな。

 佐天が坂道を降りるよりも、こちらの方が速い。時間にして5分25秒の短縮に
 成功した』

「さすがつーちゃん!」

公園脇の下り坂。本当であれば下り坂を通って、佐天が走っているビルの
下にある道を通るつもりだった。

だが、恐ろしい計算能力を持つ位置外は、別行動をとっている信乃さえも計算に
入れていた。

そして両者がより早く、速く到着できるルートを導き出した。

それが信乃とのタッグ技での道路超え。

初心者の佐天が20メートルジャンプという不可能を可能にさせた瞬間だった。

「つーちゃん、信乃さんが私の通った道と交差したってことは、信乃さんが
 パーツを取りに行った方が早かったんじゃないの?」

ほぼ同じタイミングに同じ場所を通るのなら、少しくらい寄り道してでも
パーツを取る方が確かに良い。

しかし、答えは違った。

『ニシオリが取りに行けば、常盤台に到着するのに3分の遅れが生じる。
 その3分の間にどれだけの人が被害にあうか、救えるかは考えたか?』

「そ、そんなに緊迫した状況なの?」

『そう考えてもらっても構わない。

 ニシオリが必要としているパーツは、特定の愚民(てき)と特定の兵器を相手に
 する時に必要なだけだ。常盤台の救出には必要と言うわけではない。

 優先すべきはパーツよりも愚民(ゴミ)掃除だ』

「そうだったんだ。ごめんね、つーちゃん。こんなこと聞いて」

『分かればいい。走るのに集中しろ』

「はい!!!」

さらに足に力を込めて、加速していった。







「なにあれ?」

「すごい、ビルまで飛んだよ・・・すごいすごい!!」

「涙子かっこ良かったよ! なにあれ、あのインラインスケートすごすぎ!!」

公園で佐天の無茶(ジャンプ)を、最初から最後まで見ていた3人は、
驚きすぎて沈黙した後、興奮が爆発したように叫んでいた。

「あれなんだ! ルイコが言ってた特殊なスポーツって!!」

「特殊ってか、かっこよ過ぎだよ! 涙子あんな特訓してたの!?」

「私としては涙子よりも・・・」

「うん」「そうだね」

「「「信乃さんがかっこよかった!」」」

親友の信じられない行動と結果よりも、途中で手助けした信乃の方が
3人には印象に残っていた。

落ちそうになった親友を、急に表れて、急に助けて、すぐに去っていく。

英雄、ヒーローの必須条件を完璧に見せつけたから当然と言えば当然だ。

「あ~どうしよう。涙子に信乃さんは譲る、応援するって言ったのが只今後悔中」

「私も狙っちゃおうかな」

「だめだよ2人とも。ルイコを応援しなくちゃ。それに、顔赤くなってるわよ」

「マコチンだって真っ赤だよ」

知らないうちに3人にフラグを立てた信乃だった。



つづく
 
 

 
後書き
佐天&信乃のタッグトリック!!
今回の佐あれは原作エア・ギアの無機ネット戦の最後、
イッキと安達のタッグジャンプを元にしてます。

あれ、感動した。


作中で不明、疑問などありましたらご連絡ください。
後書き、または補足話の投稿などでお答えします。

皆様の生温かい感想をお待ちしています。
誤字脱字がありましたら教えて頂くと嬉しいです。
 
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