フィガロの結婚
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25部分:第三幕その二
第三幕その二
「私がそなたに約束をしたというのか?」
「そうではないのですか?」
「そういえばそうだったか。いや」
ここで頭が動いた。好機だと気付いたのだった。
「そうだな。それならばだ」
「何でしょうか」
「約束はしたな」
自分で自分に言い聞かせて自分で納得してほくそ笑むのだった。
「確かにな」
「覚えておられたのですね」
「しかし。それならばだ」
「何でしょうか」
「私とても条件があるが」
「はい。わかっております」
わざとにこりと笑ってみせたスザンナであった。
「伯爵様のお屋敷にお仕えしている以上伯爵様のお望みは私のお望みであります」
「そうか。それならばだ」
ここまで聞いてどうしても引っ掛かるものがあった伯爵だった。
「何故今まで長いこと私を焦らしていたのだ?」
「伯爵様、女は複雑な生き物です」
「それはわかっているが」
伯爵とてそれは認識していた。伊達に今まで生きているわけではない。
「何故今までなのだ?」
「すぐにお答えするには時間がかかります」
「ではよいのだな」
「はい。それでお時間と場所は」
「夜に庭だ」
(やったわ)
スザンナは伯爵の今の言葉を聞いて心の中で会心の笑みを浮かべたのだった。
(向こうから言ってくれたわ。これで)
「はぐらかしたりはしないな」
伯爵はそんなスザンナの内心に気付くことなく問うてきたのだった。
「それはないな」
「勿論です」
スザンナはここでもにこりと笑みを作っていた。
「それはもう」
「よし。それならばいい」
伯爵はスザンナの今までの言葉を聞いて満足した顔で笑うのだった。
「これでな」
「有り難き御言葉」
「しかしそれにしても」
伯爵はここであらためて考える顔になった。そしてそのうえでまたスザンナに対して問うてきたのだった。
「何故今朝はあれだけ手厳しかったのだ?」
「ケルビーノがいましたので」
「それでか。まあこれで話は終わった」
彼にとってはであった。しかも満足のいく形だったので最高であった。
「これでな。それでは夜に庭でな」
「わかりました」
ここで伯爵は部屋を後にした。暫くはスザンナと隠れている夫人だけが残っていた。だがここでフィガロが入って来たのだった。
「あれ、伯爵様がおられないな」
「あら、フィガロ」
「それでどうして御前がいるんだい?」
伯爵のかわりにスザンナがいるので首を傾げてしまった。
「またどうして」
「これで話は終わったわ」
「話は!?」
「ええ。貴方と私には幸せな結末が待っているのよ」
こうもフィガロに言うのだった。
「よかったわね」
「よかった!?」
「そうよ。私にとってもね」
こう言い終えてから部屋を後にするのだった。それから夫人もこっそりと部屋から消える。フィガロは夫人には気付かなかったがそれでもスザンナが何かを考えていることには気付いた。しかし何を考えているのかまでは気付いていなかったのだった。
「何かあったな」
それだけはわかったがあくまでそれだけだった。だがとりあえず誰もいなくなったので彼も姿を消すのだった。こうして部屋には誰もいなくなってしまった。
伯爵は一人廊下を歩いていた。そのうえで呟いていた。
「しかしあのスザンナの顔」
先程の彼女の表情からあることを察したのだった。
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