フィガロの結婚
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24部分:第三幕その一
第三幕その一
第三幕 婚礼の式でも
フィガロ達との話を終えた伯爵だがそれでも自室であれこれと考えていた。白く左右に鎧や剣といったもの、それに壁には先祖や自分の妻の肖像がかけられている部屋の中を歩き回りながらそのうえで考えているのだった。
「こんな厄介なことは久し振りだな」
歩くのを止めて言う。
「匿名の手紙に化粧部屋に小間使い。これは慌てているし」
ここで壁にかけられてある妻の肖像を見る。実物そのものと言ってもいい程美しい。伯爵はその肖像を見てさらに考えるのだった。
「バルコニーから庭に飛び降りた男がいたかと思うと他の奴が自分だと言い出す」
フィガロのことである。
「少し疑えばこれは騒ぎ出す」
まだ妻の肖像を見ている。見ているその目は決して嫌悪を見せているものではない。
「自尊心が傷付けられたと言って。しかし私の名誉はどうなるのだ」
自分のことも思うのだった。考えれば考える程わからなくなった。ここで夫人とスザンナがこっそりと部屋に入って来た。そうして夫人はそっとスザンナに囁くのだった。
「それじゃあ御願いね」
「はい、庭でお待ちしますとですね」
「そう。言ってね」
「わかりました」
こんな話を交えさせた後で伯爵に声をかけようとする。しかしまだ二人に気付いていない伯爵はまだ浮かない顔をして呟いていた。
「あの小僧、ケルビーノの処罰もどうしたものか。士官にするのは止めたが」
「まだ言っておられるのね」
夫人は夫のそんな言葉を聞いてまた呟いた。
「こちらもどうなるのかしら」
「とりあえずは私が」
「そうね。まずは御願いね」
「わかっています」
そんな話をした後でまず夫人はそっと部屋の隅の鎧の裏に隠れる。スザンナはそのうえでそっと伯爵に近付こうとする。だがここで伯爵はまた囁くのだった。
「それにしてもあのことの裁決だな」
「マルチェリーナとの婚約の話ね」
スザンナはすぐにその裁決が何かを察した。
「それなのね」
「それもだが」
「どうされるおつもりかしら」
「あ奴を懲らしめる為だ。ここはやってやるか」
「本当にまずいわね。これは」
意を決したスザンナは一旦入り口まで戻った。そうして入る動作をしてからそのうえで伯爵に対して一礼してから声をかけたのだった。
「伯爵様」
「スザンナか」
「はい」
わざとにこりと笑って一礼してみせてきた。
「御機嫌が宜しくないようで」
「一体何の用だ?」
「奥方様のことですが」
「むっ!?」
また妻の肖像を一瞬だが見ることになった。そのうえでスザンナに顔を戻す。
「あれのことか」
「そうです。お薬を頂きたいと」
「気が弱っているのか」
「はい。ですから」
「わかった。それではだ」
伯爵はまずはスザンナの言葉に頷いてからまた述べた。
「持って行くといい。テーブルの側に置いてある」
「わかりました。それではすぐにお返しに」
「それには及ばぬ」
伯爵はそれはいいとしたのだった。
「後はそなたが持っていればいい」
「私がですか?」
「そうだ」
こうスザンナに述べてきた。
「そなたが持っているといい」
「私には必要ないと思いますが」
「それを手に入れたうえに愛しい花婿を失うことになるかも知れないのだぞ」
真顔であるが明らかに脅しをかけての言葉であった。
「そうなった場合必要だと思うが」
「その場合はマルチェリーナさんにお返しします」
スザンナはまずは平然と言葉を返した。
「伯爵様が私に下さると約束されたお金で」
「待て」
伯爵は今のスザンナの言葉にぎょっとした声で問い返した。
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