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フィガロの結婚

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19部分:第二幕その十一


第二幕その十一

「それでフィガロよ」
「はい」
「この手紙を書いたのは誰だ?」
「さて」
 首を横に振って肩をすくませてとぼけてみせる。
「誰のことでしょうか」
「知らないというのか」
「そうです」
 尚もとぼけ続ける。
「私は何も」
「ドン=バジーリオに渡したのではなくて?」
 スザンナも事情が理解できなくなってフィガロに問うた。
「その手紙は」
「そうではないの?」
 夫人もそう思っていたので首を傾げている。
「私もそうとばかり」
「何が何なのか」
 スザンナに対しても夫人に対してもとぼけるばかりだった。
「わかりません」
「浮気男のことを知らないの?」
「庭で今夜何が」
「起こるのか知らないのか」
「全くです」
 スザンナにも夫人にも伯爵にもとぼけるのだった。
「知りません」
「言い訳をしても無駄だぞ」
 伯爵はフィガロに対して警告してきた。
「そなたの顔に書いてある。私にはそなたが誤魔化そうとしているのがわかっているのだぞ」
「顔がそう思っているだけです」
 相変わらずのフィガロである。
「私は嘘をついてはいません」
「ちょっとフィガロ」
「何を考えているの?」
 スザンナと夫人も完全に訳がわからなくなりフィガロの側で囁いて問うてきた。
「いつもの機転はどうしたのよ」
「私達はもう秘密を言ってしまったのよ」
 怪訝な顔でフィガロに問う。
「もう何を言っても」
「もう」
「さあ。何と答えるのだ?」
 伯爵はいよいよフィガロを問い詰めてきた。
「そなたは」
「一向に何も」
「ならば認めるのか?」
「いいえ」
 あくまでこう言うのだった。
「何のことやら」
「だからお芝居は終わったのよ」
「これ以上何をしても」
「芝居を愉快に終える為に劇場の慣例に倣うのさ」
 しかしフィガロは不敵にスザンナに言葉を返すのだった。
「だから」
「だから?」
「伯爵様」
 フィガロはここで伯爵に顔を向けて一礼してから述べるのだった。
「私達の婚礼はこれに続いてと決めております」
「その劇場の慣例とやらか?」
「その通りです」  
 あくまで飄々とした態度のフィガロであった。
「ですからもうこの話は終わりにして」
「どうせよというのだ?」
「私達の御願いをどうぞ」
「むう」
 はぐらかされ通しの伯爵はここで扉を見て苛立ちを見せだした。
「マルチェリーナもまだ来ない。遅いな」
「さて、これで誤魔化したかな」
 フィガロは内心笑っていた。これで潜り抜けたと思った。しかしここで。またしても思わぬ展開になるのだった。
 作業服の男が部屋に飛び込んで来たのだ。彼は肩で息をしながら伯爵に対して言うのだった。
「伯爵様、大変です」
「どうしたのだ?」
「とんでもないことが起こりました」
「どうしたのだ、アントーニオ」
 伯爵はここで彼の名を出して問うのだった。
 
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