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フィガロの結婚

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18部分:第二幕その十


第二幕その十

「何故ケルビーノが中にいたのだ?」
「貴方を試す為です」
「私をか?」
「そうです」
 ここでは貫禄を見せるかのような夫人だった。
「そういうことです」
「しかしだ」
 だが伯爵もさるものだった。中々鋭い。
「先程そなたは震えておどおどしていたではないか」
「それは貴方をからかう為です」
 腹を括った夫人はかなり強くしたたかであった。
「御気になされぬよう」
「しかしこの手紙は?」
 今度は手紙を出す伯爵だった。
「かなり酷い内容だな」
「それはフィガロがしたことです」
「あの男がか」
「はい。バジーリオに持たせたものです」
 ここでも腹を括って言い切る。
「彼が」
「また隋分と意地が悪いではないか」
「他の人を許して差し上げないと御自分も許されませんわ」
「奥方様の仰る通りです」
 スザンナはすかさず夫人の言葉のフォローに回る。
「ですから」
「ああ、もうわかった」
 伯爵も遂に観念したのだった。
「仲直りをしよう。ロジーナ、だから」
「スザンナ、困ったわ」
 夫人は自分の名前を言われて遂に観念するのだった。彼女もまた。
「私は優しいのかしら」
「その優しさこそが素晴らしいのです」
 そっと夫人に微笑んで囁く。
「奥方様にとっては」
「それではやはり」
「それじゃあここは」
「私が悪かった」
 伯爵はなおも頭を垂れる。
「だからだ。ここは」
「わかりましたわ」
 ここで夫人も彼を許すのだった。
「それではこれで」
「はい」
 こうして二人は和解したのだった。夫人は静かに微笑んでスザンナの顔を見ている。彼女の顔を見ながら微笑んでいるのだった。
 その瞬間に今度はフィガロが入って来た。にこやかに笑って言うのだった。
「伯爵様」
「フィガロ」
「はい。外に楽隊が到着しました」
 伯爵に対して恭しく一礼してから述べるのだった。
「ラッパの音を御聞きください。笛の音も」
「フィガロか」
「はい。貴方の愛すべき民達が楽しく歌ったり踊ったりしているところへ参りましょう」
 こう伯爵に対して告げるのだった。
「婚礼の式へ」
 そのままスザンナを連れて部屋を出ようとする。しかしその彼を伯爵が呼び止めるのだった。
「まあ待て」
「何か?」
「そんなに急ぐことはないぞ」
「皆が私を待っていますので」
 だがフィガロはにこやかに笑って伯爵の言葉に切り返そうとする。しかし伯爵はそのフィガロの切り返しにさらに切り返してみせたのだった。
「疑いは出掛ける前に取り去るべきだ」
「まずいわ」
 スザンナはそれを聞いて顔を曇らせた。
「まさかとは思うけれど」
「この手紙のことをはっきりさせてやろう」
 伯爵は今自分が持っているそのフィガロの手紙を見て言うのだった。
 
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