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銀色の魔法少女

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第三十五話 海鳴スパラクーア

said 遼

「ちょっと話があるのだけど」

 フェイトが転校してきて二、三日たった日の夕方。

 学校から帰ってきた私をフィリーネが呼び止める。

「どうしたの?」

「少し、妙なものを見つけたわ」

 妙なもの?

 不思議に思い、彼女からもらったデータに目を通す。

「サーチャーかな、これ」

 八神家を中心に、ハヤテが行きそうな所に監視用のサーチャーが設置されている。

「ええ、幸い私たちの周囲には設置されてはいないようだけど、念のため知らせたほうがいいと思って」

「うん、ありがと、……でも誰だろ? 管理局がこんなに早く特定できるはずないし……」

 私が知ることができたのも、本当に偶然だし。

「後は一つ回収してからじゃないと断定はできないけれど、どうもずいぶん前から設置されているようなのよ」

「どれくらい?」

「恐く、一年以上前から」

 ? どういうことだろう。

 私が会った時には守護騎士はいなかったから、事件が起こり始めたのは早く見積もっても今年の六月以降。

 どう考えても矛盾している。

 けど、わかったこともある。

「私たち以外に闇の書の主を知る部外者………、転生者じゃないといいけど」

 もし、はやてが原作でもこの事件を起こしたとすると、彼らはこれから何が起こるかも知っている。

 原作では助かったとしても、彼らの介入でぶち壊されるかもしれない。

「だから、八神家にいる間は魔法の使用を控えて頂戴」

「了解、十分に気をつけ………ん?」

 フィリーネにそう返事をすると、私はそのままお風呂場の方に行く。

「なに、これ?」

 扉の前からでも十分に分かる、妙な気配。

「ああ、遼、そこは――」

 フィリーネが何か言っているが、その前に私が扉を開ける。





  私の視界に入ったのは床も天井も、黒焦げのスライムがへばりついているお風呂場だった。





「うわぁ……」

 あまりの光景に何も言えなくなる。

「そこは朝、新エネルギーの研究をしていて失敗してしまったのよ、だから今日は近所の銭湯で我慢してちょうだい、今自動除去をしているから帰くる頃には綺麗になっているはずよ」

 ………………取り敢えず一言。

 何をしているのですか、元プレシアさん。




side ALL

「……………………」

「残念だったわね、ずすか」

 銭湯の前で悲しくうつむくすずか。

「遼ちゃんと連絡つかなかったし、仕方ないよ」

 ここにいるのはなのは、フェイト、すずか、アリサ、保護者としてエイミィと美由希の六人。

 本来ならここに遼も加わるはずであったが、何度携帯にかけても応答しなかったためいない。

「ほらほら、そんな顔してないでさっさとレッツゴー!」

「えっ、ちょっと!」「私も!」

 エイミィはすずかと何故かフェイトも一緒に背中を押す。

「あはは……、じゃあ私たちも行こか」

「はい」「うん」




「遼ちゃん?」

「……はやて」

 なのはたちが到着した時刻、はやてたちと遼は銭湯内で出会う。

「やっぱ遼ちゃんかぁ、髪まとめてへんかったから少しわからんかったけど、その髪は珍しいからな~、けどすごい偶然やな」

「うん、ちょっとお風呂が使えなくなって、……はやてはどうして?」

「うちらは、なんとなくやな」

 それを聞いてシャマルがうつむく。

「たまには気分転換も、いい」
(ああ、シャマルさんが失敗したのね)

 遼は気を使ってわからないふりをする。

「そやろ、……ところで遼ちゃんは一人なん? うちらはヴィータがどっか行ってもうたけ八神家の女性陣全員で来とるよ」

「あと家族が二人来てる、けどはぐれた」

「あはは、遼ちゃんらしいな」

「そう?」
(まあ、いつでも合流できるから、今は一人でいたかっただけなんだけど)

 念話とは便利なものである。

「……シグナムさんとシャマルさんも元気そうで」

「そちらこそ、お元気そうで」

 返事をしたのはシグナムのみで、シャマルは考え事をしていた。

(たしか、彼女もこんなくらいの背だったわよね、それにあと二人、人数的にもそれっぽいし、はやてちゃんを前から知っているし、彼女なのかしら?)

「シャマル? どないしたん?」

「え!? なんでもないです、はやてちゃん!」

 慌てて返事をするシャマル。 

「もう、しっかりせんとあかんよ、シャマル」

「すいません~」



 
side フィリーネ(プレシア)

「こんなところに来るのも何年ぶりかしら……」

 アリシアを失ってから今まで長い時が経った。

 その間私は一切の娯楽をやめ、アリシアが生き返る方法を探していた。

 だから、今は少し落ち着かない。

 まあ、それはさて置き、私は重大な問題を抱えていた。

 今朝の失敗も、それが関係している。

 起動したのはいいものの、外装がゲル化して飛び散る有様。

 後で原因を調べると、術の一部に間違った式を与えていたことがわかった。

(こんな初歩的なミス、少し前の私なら絶対にしないわね)

 私は静かに湯舟に体を沈める。

 少し落ち着く必要がある。

 考え直そう。

 私のこれからについて思い直そう。

 最初はただの家族ごっこをしていればいいと思っていた。

 秋が訪れる頃には本当の家族と思っていた。

 そして今、私は迷っている。

 遼が抱えている病気。

 アレは身体に現れるものでもリンカーコアに悪影響を及ぼすものでないから、私も今まで気がつかなかった。

 きっかけは少し前に見たドキュメンタリー。

 その番組で『それ』が紹介された。

(今それを伝えたら、間違いなく遼は…………)

 最悪、正気を失いかねない。

 けれど、そのまま放置していていいものではない。

 このままにしておけば、確実にいつか死ぬ。

 けれど、治す手段がないのも事実。

 私が頭を抱えていると、後ろから聞き覚えのある声で話しかけられる。

「あの、隣いいですか?」

 私は静かに後ろを見る。

 私がかつて造った人造魔道士が、そこにいた。


 
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