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DQ4TS 導く光の物語(旧題:混沌に導かれし者たち) 五章

作者:あさつき
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五章 導く光の物語
  5-33人間と魔物と

 ライアンが壁のスイッチを押し、キングレオ城の隠し部屋、玉座の間への扉が開く。
 中に突入する五人の姿に、中の兵士が驚き、声を上げる。

「く、曲者だー!出合え、出合えー!!」
「しまった!」

 すぐさまライアンとアリーナが、声を上げた者と他に控えていた兵士に当て身を入れて意識を奪うが、外から多数の兵士が駆け付ける足音がする。

 ライアンが、隠し部屋の入り口に立ち塞がる。

「ここは、私が!親玉を、頼みます!」
「任せた!」
「ひとりで、大丈夫かよ?」
「問題無い!」

 即座に返すアリーナ、疑問を投げかけるマーニャ。
 マーニャに短く返し、早くも駆け付けてきた兵士を、次々に吹き飛ばしていくライアン。
 大人数で来た兵士も、入り口の狭さに複数でかかることが出来ず、攻めあぐねている。

「……余計な心配だったな」
「長くは()たないかもしれない。急ごう!」
「それはなさそうだが、たらたらしてる意味はねえな。行くか」
「ライアンさん、気をつけて!」
「はい!」

 兵士たちを食い止めるライアンに背を向け、四人は玉座に向かう。

 玉座に座る獅子の魔物の姿に、ミネアが驚きの声を上げる。

「バルザックじゃ、ない……!?」
「コイツのほうかよ!」
(かたき)じゃ、ないのね?」
「恨みがあるには、違いねえがな!」
「倒して、いいんだな!」

 獅子の魔物が、緩慢な動作で四人を睥睨(へいげい)し、口を開く。

「私は、キングレオ。この国を、支配する者。バルザック……?とはまた、古い名を聞いたものだ」

 マーニャが、獅子の魔物、キングレオに向かい叫ぶ。

「おい、化け物!バルザックは、どこだ!?」
「ん?奴ごときに、妙にこだわると思えば。お前たちは確か、バルザックを仇とやって来た者たち。……はは、これは傑作だ。バルザックが居なくて、残念だったな?」
「……喋る気がねえってのは、よくわかった。ならもう用はねえ、てめえにも、死んでもらうぜ」
「あれほど手酷くやられた者が、大きく出たものだ。まあ、退屈しのぎには、丁度良い。人間が、どれだけ(もろ)いものか。思い知らせて、いや、思い出させてやろう。お前たちをそのように作った、神を恨むが良い!」

 玉座から立ち上がり、四本の前肢を広げるキングレオ。

 少女とアリーナが兄弟の前に出て、構える。

 ミネアが叫ぶ。

「物理攻撃も強いですが、魔法も使いますし、他にも手を隠し持っているかもしれません!気を付けて!」
「わかった!」
「うん!」

 キングレオが振り下ろそうとした腕を掻い潜り、アリーナが懐に潜り込んで先制攻撃を加える。

「ぐっ……小癪な!」

 改めて殴り付けようとするのもまた避けて、一旦距離を取るアリーナ。
 マーニャがルカニを唱え、キングレオの守備力を下げる。

「早えよ!ちっとは待て!」
「悪い。だが待つのも違うだろう」
「そうだけどよ!」
「じゃれ合ってる場合じゃないよ、ふたりとも!」

 ミネアも含め三人が声を掛け合う間に、今度は少女が、ドラゴンキラーで斬りかかる。
 迎え撃つキングレオの攻撃はドラゴンシールドで()なし、ルカニで弱体化した身体に、深く斬り付ける。

 続けて攻撃を受けたキングレオは怒り狂い、腕を引いて大きく息を吸い込む。

(なにか、してくる?なにを?……息!)

 村で学んだ記憶を辿り、瞬時に正解を導く少女。

「みんな!下がって!」

 仲間に呼び掛け、自身は少し下がって仲間の前に立ち、ドラゴンシールドを構える。

 少女が態勢を整えた瞬間、キングレオが大きく口を開き、凍える吹雪を吐き出す。
 少女は仲間を庇い、盾で受け止める。

「くっ……」

 ドラゴンシールドの効果で軽減はされているものの、吹雪から受ける少なくないダメージを、歯を食い縛って耐える少女。
 吹雪が止まった瞬間、アリーナが背後から飛び出し、再び攻撃を加える。
 マーニャもルカニの詠唱を始めており、今度はアリーナの攻撃前に、重ねがけに成功する。

 二回のルカニで更に弱ったキングレオの身体に、アリーナの強烈な一撃が入る。
 苦悶の声を上げるキングレオは、闇雲に腕を振り回すが、狙いも定まらず、速度も劣る攻撃は、アリーナには当たらない。
 アリーナがキングレオを引き付けているうちに、ミネアが少女を回復し、少女が前衛に復帰する。

 アリーナと少女に代わる代わる攻撃を加えられ、反撃はアリーナには当たらず、少女には往なされ、苛立つキングレオ。
 再び息を吸い込み、吐き出そうとした瞬間、マーニャが叫ぶ。

「アリーナ、嬢ちゃん!下がれ!」

 前衛のふたりが下がり、キングレオが吐き出す吹雪にぶつけるように、マーニャがベギラゴンを唱える。
 マーニャの手元から放たれた激しい火炎が吹雪を相殺し、押し返し、火炎がキングレオにまで到達する。
 火炎の後を追うように、ミネアがバギマを唱え、炎と真空の刃がキングレオを襲う。

 キングレオが悲鳴を上げ、叫ぶ。

「何故だ、何故だ!?進化した身体を手に入れた、この私が!何故、ただの人間などに、いいようにやられる!?」

 攻撃の手を休めず、アリーナが答える。

「鍛練が足りないな。力だけあっても、使いこなせないなら意味が無い」
「オレらはそれに負けたわけだがな」
地力(じりき)の差が大き過ぎただけだろう」

 マーニャの軽口にも、やはり攻撃の合間に答えるアリーナ。

「くそっ、くそっ!舐めるなあああッッ!!」

 逆上し、手近にいた少女に、捨て身で掴みかかるキングレオ。
 離れている後衛の兄弟、キングレオを挟んで反対側にいるアリーナの援護は、間に合わない。

「ユウ!」
「嬢ちゃん!」

 回避は間に合わないと判断し、吹き飛ばされる覚悟で、盾を構える少女。

 衝撃に備えて身構える少女の前に、桃色の影が割って入る。

「ライアン、さん」
「任されよ!」

 鉄の盾で、吹き飛ばされることも無くしっかりと、キングレオの攻撃を受け止める。

 力でも押せないことに驚愕するキングレオの背後からアリーナが攻撃を加え、少女もライアンの背後から飛び出し、キングレオから加わる力が緩んだところでライアンも剣を構える。

 少女、ライアン、アリーナの前衛三人から、同時に攻撃を加えられ、堪らずキングレオが、四つの膝を突く。

 マーニャが叫ぶ。

「三人とも、下がれ!」

 三人がキングレオから距離を取ると同時に、放たれるマーニャのベギラゴン、ミネアのバギマ。

 吹雪で威力を落とすことも無い火炎に直接曝され、真空の刃に切り刻まれ、キングレオが断末魔の叫びを上げる。

「ぐ、ぐわあああ……!!こんな、こんな、はず、で、は……!!」

 炎に焼き尽くされたキングレオが、崩れ落ちる。

「……お前たちは……一体……まさか、地獄の帝王を、滅ぼすと言われる、勇者……?……まさか……その者なら、デスピサロ様が、既に……殺したと……、ぐ、ぐふっ」

 倒れたキングレオが、動かなくなる。

「……()ったか?」
「……そのようだね」
「まだ、生きてる」
「そうだな」
「では、(とど)めを」

 少女が動こうとするのを手で制し、警戒しながら歩み寄るライアンの前で、キングレオの身体が淡い光を放つ。

「……む?」

 更に警戒を強めるライアン。
 すぐにも止めを刺そうと一気に近寄るが、その目の前で、獅子の魔物だったキングレオの姿が、人間のそれに変わる。

「……なんと」
「戻りやがった!」
「戻れる、ものなのだな」
「ほんとに、人間、だったの」
「……生きているなら、話を聞く必要がありますね。こうなっては、抵抗もできないでしょう」
「また、化け物になったりしねえだろうな」
「そうしたら、また倒せばいいだろう」
「それでは、起こしましょう。……おい。起きろ。目を覚ませ」

 ライアンがキングレオだった男の頬を叩き、呼び掛ける。

「う……」
「起きたか。ならば答えてもらおう。貴様は、何者だ?何故、こんなことをした?」
「う……?……ここは、何処だ……?私は、一体……?」
(とぼ)けるな」
「いや、本当に……なにも……」
「これ程のことを仕出かして、それが通ると思うのか?」
「いや……!いや、本当に……!」

 尋問を始めるライアンに、涙目になる元キングレオの男。

「ちょ、ちょっと、ライアンさん」

 見かねて、ミネアが止めに入る。

「嘘を言っているようには見えません。順を追って、話を聞いてみましょう」
「ふむ。そうかも知れません。が、嘘かも知れません。……誤魔化せると思うな」
「は、はい!」

 男に釘を刺すライアン、また涙目になる男。
 ライアンが男から離れ、ミネアに場所を譲り、背後から睨みを利かせる。

 まだびくびくとしながらも、穏やかそうなミネアが近くに来たことに、ほっとした様子の男。

 ミネアが穏やかに尋ねるのに、ライアンからの圧力に怯えながら、聞かれたことも聞かれないことも、わかる限り話してしまおうという勢いで、話し始める男。

 少し離れて見ていたマーニャが呟く。

「飴と鞭ってヤツか」
「効率がいいな」
「王子様らしい感想だな」
「それは伏せてくれないか。今はただの武術家で、頼む」
「あ?……ああ、そうだな。一応国の話だからな、不味いか」
「そういうことだ」


 男はこの城の王子で、年齢に不足も無いのになかなか王位を譲られずに腐っていたところ、バルザックが取り入ってきた。
 能力を高める秘法があると聞き、それを使って有能になれば、父に認められて王位も譲ってもらえると思った。
 早速その秘法を試した辺りから、記憶がはっきりしない。
 しないが、魔物と関わっていたらしいこと、結局王位は譲られないどころか逆に叱責され、逆上して父を幽閉し、王位を簒奪(さんだつ)したことは、覚えている。


「私は……なんということを……!」

 打ち(ひし)がれる、キングレオ王子。

「気の毒だとは思うが、自業自得だな。悪いが、この先はオレらにゃ関係ねえ」
「そうだね。進化の秘法と、魔物の支配からは解放したのですから、この先は私たちが口を出すようなことではないでしょう。これで、失礼します」
「兵士は全て倒してしまったが、峰打ちだ。そのうち、目を覚ますだろう」

 呆然とするキングレオ王子を置いて、隠し部屋を出る一行。


「結局、バルザックの野郎の行方は、わからねえままだな」
「城の中に、知っている者がいるかもしれない。少し、話を聞いてみよう」
「俺は、先に馬車に戻っていてもいいか?身分を伏せても、あまり顔を見せて回るのは不味い」
「馬車のみんなも、心配しているでしょうからね。そうしてください」
「わたしも、戻っていい?ライアンさんを、早く、会わせてあげたい」
「そうですね。城の構造もわかっているし、かえって私と兄さんだけのほうが、話を聞くにもいいかもしれません」



 兄弟を置いて、ライアンを連れ、少女とアリーナは馬車に戻る。

「他にも、お仲間が居られるのですか?」
「うん。私たちの仲間が、あと三人と。ライアンさんの、仲間の。ホイミンが、待ってるの」
「ホイミンが!?……そうですか、ユウ殿たちが、保護していてくださったのですね。良かった……!ありがとうございます……!」
「その、ホイミンだが。……ライアン殿、驚くなよ」
「どこか、酷い怪我でも!?」
「いや、それは無いし、あったとしたらもう治している」
「……はて。では、記憶でも?」
「それも無い。当人の様子を見るに、恐らく、悪いことでは無いんだろう。見ればわかる」
「そうですか。よく解りませんが、分かりました」

 話しながら馬車に近付くと、馬車の中から、騒ぐ声がする。

「ホイミンちゃん!ダメよ!危ないわ!」
「ご、ごめんなさい、トルネコおばちゃん!でも、はなして!」
「ホイミンさん、どうされたのですか?もうすぐ、ライアンさんに会えるのですよ?」
「会えないの!会っちゃ、ダメなの!」
「一体、どうしたと言うのじゃ、ホイミンちゃん」
「ブライおばあちゃん、ごめんなさい!聞かないで!」

 戸惑い、立ち止まる少女とライアン、走り出すアリーナ。

「あ。アリーナ?」
「どうされました?」

 答えず、馬車を覗き込み、ホイミンに呼び掛けるアリーナ。

「ホイミン。大丈夫だ」
「アリーナ様!ご無事だったのですね!」
「王子!……どういう、ことですかな?」
「あら、あら?」

 突然現れたアリーナに気を取られ、拘束の緩んだトルネコの手から、ホイミンが逃れて馬車から出ようとするのを、アリーナが捕まえる。

「アリーナさん、お願い!はなして!」
「大丈夫だ、ホイミン」
「ダメなの、みんなには、わかんない!」
「俺は、わかった。だから、大丈夫だ」

 暴れていたホイミンの、動きが止まる。

「……アリーナ、さん?」
「俺でもわかったんだ。ライアン殿なら、必ず、わかる」
「……なんで」
「エンドールで、見た」

 目を見開き、アリーナを凝視して固まるホイミン。

 少女とライアンが、歩いて来る。

「……ホイミン?」

 ライアンの呼び掛けに、びくりと震えるホイミン。

「……そうか。人間に、なれたのだな」

 弾かれたように、ライアンを見るホイミン。
 微笑むライアン。

「良かったな、ホイミン。……無事で居てくれて、本当に、良かった」

 ホイミンの瞳が、潤む。

「……どうして、わかるの?」
「その気配も、声も、話し方も。どれを取っても、ホイミンだ。判らない訳が無い」
「……わかんないと、思ったの。わかんなかったら、すごく、いやだと思ったの」
「判るよ。姿がどう変わっても、判る」
「ライアンさん……」

 ホイミンの目から、涙が溢れる。
 ライアンが微笑み、腕を広げる。

「おいで。ホイミン」
「……うわーん、ライアンさーん!!」

 ライアンに駆け寄って飛び付き、声を上げて泣き出すホイミン。
 微動だにせず受け止め、抱き締めるライアン。
 見守る、仲間たち。

 クリフトが、アリーナに問いかける。

「……アリーナ様は、ご存知だったのですか?」
「ああ。エンドールの祠の宿で、見ていたからな。ライアン殿が連れていた、ホイミスライムを」
「ホイミスライム、だったのね、ホイミンは。だから、ホイミンなのね」
「人間が魔物になったり、魔物が人間になったり。案外、そう違わないのかも、しれないわねえ。」
「ホイミスライムから、あのような可愛らしい子供になるとは。……ふむ」
「適当なホイミスライムを捕まえて来ても、ああはならないと思うぞ」
「考えただけで、実行しようとは思っておりませぬが。王子に言い当てられるとは、耄碌(もうろく)したものです」
「あら、ダメですの。残念ねえ。」

 ひと(しき)り泣いてホイミンが泣き止み、泣き止んだホイミンに、ライアンが言う。

「しかし。女の子、だったのだな」
「……うん。そうみたい」
「大丈夫なのか?」
「……うん。びっくりしたけど、人間になれたから!女の子でも、いいや!」
「ん?男だと、思っていたのか?」

 アリーナが、口を挟む。

「殿下。どういう、ことでしょうか」
「俺は、女性だと思っていたが。エンドールで見た時から」
「……アリーナ様。ホイミスライム、だったのですよね?」

 今度は、クリフトが口を挟む。

「ああ」
「……ホイミスライムの性別が、おわかりになるのですか?」
「ホイミスライムに、性別があるかは知らないが。あるのなら、女性だろうと思っていた」
「……申し訳ありません。よく、わからないのですが」

 アリーナが少し考え、口を開く。

「人間であれば、骨格や肉付きで、性別は判るが。人間を見分けているうちに、人間以外でも、それなりの知性があるものなら、気配で大体判るようになった」
「……アリーナ様に、そのような特技が……」
「つまり、ホイミンは、間違い無く女性なのですね。……どうして、男だと思ったんだ?」

 ライアンの問いに、考えるホイミン。

「えーっと、うーんと……。……あっ!そうだ!ぼくだから!」
「ぼく、だから?」
「うん!ぼくはぼくのこと、ぼくって言ってたから!ぼくって言うのは、男の子なんだよね?」
「その場合が、多いな」
「うん!だから!」
「……男だと思うから、ぼくと言っていたのでは無いのか」
「うん!がんばって言葉を覚えて、気がついたら、もうぼくだったの!」
「それなら、順番が逆だな」
「えへへ、そうだよね!でも、そう思ってたの!」

 城から歩いてくる兄弟の姿を認め、トルネコが話をまとめる。

「さあ、さあ。積もる話も、あるでしょうけれど。マーニャさんとミネアさんも戻ってきたことだし、とにかく町に移動して。落ち着いてから、きちんとお話ししましょう。」
「そうじゃの。何もこんな所で、話し込むことも無い。人目を気にする必要も無くなったことじゃしの、ルーラで移動するとするかの」 
 

 
後書き
 闇に惹かれた魂は、掬い上げられて己が罪と向き合う。
 導かれし光は集い、己を示す言葉を伝え合う。

 次回、『5-34名を名乗る』。
 9/18(水)午前5:00更新。 
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