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DQ4TS 導く光の物語(旧題:混沌に導かれし者たち) 五章

作者:あさつき
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五章 導く光の物語
  5-32女戦士

 どうやら兄弟の手配書は回っていないらしいことから、道案内も兼ねてマーニャとミネアがトルネコとクリフトと交代し、コーミズ西の洞窟に到着する。

「ほんとに、馬車が入れるのね」
「外の魔物も、オレらがいた頃より強くなってやがったからな。この分だと、中もだな」
「ああ!それなりに、強そうな魔物の気配がするな!」
「広いとは言っても、洞窟には違いありませんから。馬車を狙われないように、気をつけましょう」


 洞窟に踏み込み、馬車を守りながら奥に向かう。

「親父の、秘密の研究所、ねえ。そんなもん、あったか?」
「それらしいものは、なかったように思うけど。そんなものがあるなら、オーリンさんも、そこに隠れていたのかもしれない。ひとまず、オーリンさんに会ったあたりに、行ってみよう」


 装備も充実した一行は、狭い洞窟の中でも危なげ無く魔物を撃退し、無事に当面の目的の場所にたどり着く。

「なんもねえな。次、行こうぜ」
「結論が早いよ。ちゃんと、探してみよう」
「探し物か。そういうのは、得意では無いんだが」
「それなら、辺りを警戒していてくれますか?アリーナがそうしてくれれば、安心して探せますから」
「わかった。それなら、任せてくれ」
「その手があったか。オレも、そっちにするわ」
「兄さん……」
「探し物なら、私もお手伝いしますわ」
「……兄さんを当てにするより、よほど頼りになりますね。お願いします、クリフトさん」
「壁や床の仕掛けを、探し回ることになるのかの?腰に、きそうじゃの。物を探すのであれば、魔法でなんとか出来るのじゃが。済まぬが、任せる」
「得意というわけではないけれど、苦手というほどでも、ないから。あたしも、お手伝いしますわね。」
「なにか、わからないけど。探せば、いいのね」
「ぼくも、探したほうがいい?」
「警戒しているとは言っても、危ないですから。馬車に隠れていてください」
「うん、わかった!」


 アリーナ、マーニャ、ブライを警戒要員に残し、辺りを探し回る一行。

 空の宝箱の中を探っていたトルネコが、妙な出っぱりに気付く。

「あら、なにかしら。」

 なんの気無しに手をやる、トルネコ。

 出っぱりが押されて沈み込み、カチッと機械的な音がする。

「あらやだ、押しちゃったわ。大丈夫かしら。」

 トルネコが暢気に呟いている間に、大きな音がして仕掛けが動き、隠し階段が姿を現す。

「あらあら、まあまあ。これが、そうなのかしら。うっかり押しちゃってどうなるかと思ったけれど、よかったわ。」
「さすが、トルネコさんですね。こういった運は、おありです」

 素直に賞賛するミネアに、音を聞き付けてやってきたマーニャがぼやく。

「オレがやったら、説教くらうとこだな。罠がどうだの、警戒が足りねえだの言ってよ。差別だな」
「人徳の差だよ。当然の区別だろ。そんなことより、早く鍵を探してこよう」
「親父の秘密とか、オレも気になるからな。今度は、オレも行くわ」
「わしも入って良ければ、魔法で探せるでな。差し支え無ければ、わしも行こうぞ」
「では、お願いします」
「馬車を、守らないといけないから。わたしは、残ってるね」
「魔法で探せるなら、ぞろぞろ行くこともないですわね。おふたりのお父様のゆかりの場所でもありますし、おふたりとブライさんに、おまかせするのが、いいですわね。」


 隠し階段を下りていく三人を見送り、戻るのを待つ間、クリフトが言う。

「魔法の仕掛けがしてある場所は、古代の遺跡でも新しいものでも、珍しくはありませんが。このような、機械仕掛けのものは、初めてみますわ。魔法が無くとも、このようなことが出来るものなのですね」
「そうねえ。魔法のことも、機械のことも、あたしにはよくわからなくて、あるものを使わせてもらうだけだけれど。魔法は、魔力のある方でないと、使えないものね。機械なら、理屈さえわかれば、誰にでも作れるのよね?普及したら、便利になりそうねえ。」
「その理屈が、例えば俺に、わかるようになるとも思えないが。可能性の話なら、その通りだな。魔法よりも潰しが利く分、下手をすると魔法が追いやられることにも、なりかねないが。この仕掛けは、マーニャとミネアのお父上が、作られたんだろうか」
「ここを研究所にしておられたくらいですから、例え違っても、仕組みについてある程度のことは、ご存知だったかもしれませんね。ご存命であれば、お話を伺ってみたかったです」
「錬金術なんていうけれど、どうも、ほんとに金を作るということでは、なさそうねえ。詳しいお話を、聞いてみたかったわねえ。」

 話を聞いていた少女が、呟く。

「……マーニャとミネアの、お父さんの。思い出がある、場所なのよね。……大丈夫、かな」

 トルネコが微笑み、答える。

「大丈夫よ。簡単に受け入れられることでは、なかったでしょうけれど。どれだけ時間が経っても、許せることではないから、仇討ちも、したいのでしょうけれど。時間が、解決してくれることも、あるから。」
「時間、が。……解決、してくれるの?」
「全部では、ないけれどね。そういうことも、あるわね。」
「……そう」


 魔法の鍵を見付けて、三人が戻ってくる。

「秘密とかいうから、どんなもんかと思ったが。真面目な親父らしい、面白味のねえ場所だっな」
「整理されてはいたけど、すごい資料の数だったね。ブライさんの魔法があって、助かりました」
「ふむ。興味深い資料であったの。またの機会に、是非ともじっくり、拝見したいものじゃ」
「……それは、サントハイム王室顧問として、ですか?」
「いや。年寄りの、道楽じゃよ」
「そうですか。それなら、是非」
「うむ。余生の楽しみが、ひとつ増えたの」

 変わり無い様子で話しながら歩いてくる兄弟の姿に、少女がほっとして声をかける。

「マーニャ、ミネア。……大丈夫だった?」
「おう。鍵なら、あったぜ」
「それもだけど。……ううん、大丈夫なら、いいの。」

 なにかを言いかけてやめた少女の様子に、兄弟が顔を見合わせ、苦笑する。

「ああ、そういう心配か。昨日今日の話じゃねえし、オレらもいい歳だからな。大丈夫だ」
「もうずっと前に、済んだことですから。心配してもらうようなことは、なにも無いんですよ。でも、ありがとうございます」

 代わる代わる頭を撫でられ、少女が微笑む。

「うん。見たら、わかった。ふたりが、悲しそうじゃなくて、よかった」

 三人のやり取りを微笑ましく見守っていたトルネコが、声をかける。

「さあ、さあ。目的のものが見つかったなら、次に行きましょう。早く戦士さまを、見つけないとね。ホイミンちゃんも、首を長くしてることだし。」
「うん。次は、ハバリアね?」
「そうだな。探すのはともかく、移動するくらいの時間なら、あるか」
「そうだね。今日はハバリアで宿を取って、明日の朝からまた、探すことにしようか」
「脱出するのであれば、ユウちゃんのリレミトが、試せるの」
「え。……大丈夫、かな?」

 ブライの提案に、馬車とパトリシア、ホイミンに目をやり、不安そうになる少女。

「なに。失敗すれば、発動しないだけのことじゃ。ルーラと違い、イメージが必要ということも、無いしの。発動すれば洞窟の外に飛ばされ、しなければここに留まる。ふたつにひとつじゃ。安心して、試してみれば良い」
「そうなのね。わかった。ちょっと怖いけど、やってみる」


 仲間たちが準備を整えるのを待って少女がリレミトを唱え、無事に発動して洞窟を脱出する。

 再び移動を開始し、魔物を退けながら、コーミズの村とキングレオの城を通り過ぎ、港町ハバリアに到着する。


 もはや港町とは名ばかりの、船の入ってくる当てもない夕闇のハバリアは、それでも最後の船の名残で、それなりに賑わっていた。

 宿を取り、夕食を済ませてやるべきことも済ませ、気丈に頑張ってはいたが漂流で消耗していたホイミンはもちろんのこと、いつ魔物の襲撃があるかわからない船旅の緊張から解放された一行も、明日の捜索に備えて、早々に休むことにする。

 疲れてはいるものの、諦め切れないマーニャが、愚痴る。

「折角の港町だってのによ。酒場にも行けねえとは」
「悪いけど、今日は連れ戻しに行く元気がないから。こんなときくらい、我慢してくれよ」
「戦士さまを見つけたら、歓迎も兼ねて、いろいろと奮発しますから。申し訳ないけれど、もう少しだけ、待ってくれないかしら。」
「姐御にそう言われちゃ、仕方ねえな。そんときゃ、頼むぜ」
「もちろんよ。運命のお仲間が集合する、記念の日になるわけですからね。まかせてちょうだいな!」


 トルネコに宥められたマーニャも大人しく休み、翌朝、少女とアリーナはいつも通り鍛練を済ませ、一行はハバリアの町で捜索を開始する。

 手分けして捜索しては、情報が得られたときにかえって合流に手間取るということで、まとまって行動していた一行は、牢屋の囚人から有力な情報を入手する。

 キングレオのバルザック王の後ろには影の支配者がおり、人間では無いという噂がある。
 そのことを聞いたライアンという戦士が、急いでどこかに向かって行った。


「結局、キングレオか」
「以前と同じなら、正面からは城に入れないだろうから。魔法の鍵が、役に立つのかもしれないね」
「それが役に立つってのは、つまり、アレだ。ライアンってのが」
「おい、兄さん」

 ホイミンに目をやり、ミネアがマーニャを止める。

「おっと、そうだな。つまりアレだ、お前の占いを考えれば、その鍵を使って城に入り込んで、バルザックの野郎と、獅子の化け物をぶっ飛ばせばいいと。そういうこったな?」
「そういうことだろうね。ハバリアからなら城はすぐだし、急ぎましょう」
「馬車と、ホイミンがいるから。みんなでは、行けないね?お城に行く人と、外に残る人と、分けないと」
「そうじゃの。いざという時を考えれば、ホイミンちゃんと馬車だけを町に置いていくようなことも、出来まいの。それなりの戦力を馬車に残した上で、精鋭で向かわねば」
「オレとミネアは、行くぜ」
「ミネアさんの回復魔法の腕は私よりも上ですから、ミネアさんが行かれるのは、戦力として見ても妥当ですね。それなら私が回復役として、馬車に残ります」
「ふむ。ならば、わしも残るとするかの。体力等も総合して見れば、戦力としてはマーニャ殿のほうが、上であろうしの」
「前衛なら、あたしよりもアリーナさんのほうが、圧倒的に上ですわね。あたしも、残りますわ。」
「じゃあ、マーニャとミネアとアリーナと、わたしがお城に入るのね」
「ユウは、前衛としても力があるし、いざという時は回復も出来るからな。外せないだろうな」

 置いていかれることがわかり、ついて行きたい気持ちと、迷惑をかけたくない気持ちで葛藤し、言うべきことも定まらないまま焦燥感に駆られて、ホイミンが口を開く。

「ぼ、……ぼく……!」

 少女が、ホイミンに向き直る。

「ホイミン。ぜったいに、ライアンさんを、つれて帰るから。待ってて」
「ユウちゃん……」

 今にも泣き出しそうな顔で、少女を見るホイミン。

「大丈夫。ライアンさんは、強いのよね?わたしも、少しは、強くなったし。みんなも、強い。わたしたちと、ライアンさんを、信じて。」
「……」
「約束する。ぜったいに、あなたとライアンさんを、また、会わせる。」
「ユウちゃん……。……気を、つけてね」
「うん」

 わかったとは口に出来ないまでも、なんとか承諾の意を示したホイミンに、少女が微笑む。



 準備を整えてあった馬車を連れ、一行は、女戦士と、兄弟の仇が待つはずの、キングレオの城を目指して急ぐ。


 城の近くの、目立たない場所に馬車を停め、城に向かう四人に、馬車に残る仲間が声をかける。

「馬車は、いつでも出せるように、しておくから。危なくなったら、すぐに逃げてくるのよ。」
「逃げ帰るようなことにゃ、ならねえと思うがな。魔物に乗っ取られた城なんだ、親玉さえ倒しゃ、無罪放免だろ」
「そう、上手く行けば良いがの。呉々も、油断するで無いぞ」
「もちろんです。ライアンさんのこともそうですが、私たちの宿願でもありますから。気合いは入っても、気を抜くことなどありません」
「アリーナ様、皆さん。気を付けてくださいね」
「ああ。俺もユウもいないから、お前たちも、敵の気配には気を付けろ」
「ユウちゃん……」
「大丈夫。行ってくるね」


 キングレオの城は、以前に兄弟が侵入したときと同様、固く扉を閉ざし、衛兵が正面玄関前に立ちはだかって、周囲を威圧していた。

 威圧の割に警備が甘いのも同様で、兄弟が以前に侵入した裏口には相変わらず人気(ひとけ)が無く、咎められることも無く、魔法の鍵で扉を開けて、侵入に成功する。

「これを、……引きちぎってたんだよなあ、オーリンの奴は」
「蹴破るのはともかく、引きちぎるのは、俺にも難しそうだな。世界は、広いな」
「どちらも、しなくていいですから」


 城内に入ったところで、アリーナが問う。

「どこに向かえばいいんだ?玉座なら、あっちか?」
「玉座は隠し部屋にあって、普通の城とは構造が違うんです。こちらですね」

 ミネアが指し示した方向から、人の騒ぐ声が聞こえる。

「こら!大人しくしないか!」
「神妙に縛に就き、王の沙汰を待て!」
「何が、王か!人を(あやつ)(しいた)げる悪しき心の魔物を、貴様らは王と呼ぶのか!」

 男たちの怒声に続く、女性としてはやや低めの、凛とした声。

 四人が、素早く顔を見合わせる。

「ライアン殿だ!」
「行きましょう!」
「いいタイミングだったな!」
「あっちね!」

 声がしたほうに向かい、一斉に走り出す四人。

 桃色の鎧の女戦士と兵士が揉み合う場に駆け寄ろうとしたところで、女戦士が声を張り上げる。

「貴様らごときに、このライアンを、抑えられると思うな!」

 言葉と共に、戦士を取り押さえようとしていたふたりの兵士が、吹き飛ぶ。
 吹き飛んだ勢いで壁に叩き付けられた兵士たちは、意識を失う。

 有り得ない勢いで吹っ飛んだ兵士と、それを為した女戦士を前に、意表を突かれて呆然としたマーニャが、呟く。

「……ライアンてのは、……女か?なんつう、馬鹿力だよ……。女で、かよ……」
「あれ?言ってなかったっけ?女戦士だって」
「聞いてねえ」
「どちらでもいいだろう。ライアン殿!」

 面識のあるアリーナが、女戦士に声をかける。
 女戦士が、顔を向ける。

貴方(あなた)は、確か……」
「サントハイムのアリーナだ。久しいな」
「サントハイムの、王子殿下、ですね。何故、このようなところに」
「俺の話は、後だ。ユウ」

 声と共に顔を向けるアリーナにつられ、少女に視線を向けた女戦士の顔が、驚愕と歓喜に彩られる。

貴女(あなた)は……!その姿、出で立ち!(まさ)しく、お告げ所のお告げ通り!貴女を、ずっと、探していました……!」

 少女が、答える。

「ライアン、さん。無事で、よかった。でも、今は。のんびり、してられないのよね?」

 女戦士が、ライアンが、はっとする。

「そうです。貴女を探してこの大陸に参りましたが、この城に巣食う邪悪の手の者のことを聞き。貴女が()られれば、来られるかも知れず、居られねば、代わって打ち倒すのが、貴女を守ろうとする者の務めであろうと。そう思い、この城までやって来たのです。ここに居られるということは、貴女方も」
「うん。ライアンさんに、会いに。それと、ここの魔物を倒しに。そのために、きたの。」
「そうですか。貴女は見たところ、まだ幼いですが。……戦われるのですか?」

 少女の瞳をじっと見つめ、ライアンが問いかける。

「うん。わたしも、戦う、理由があるの。」

 少女が答える間も、少女から目を離さなかったライアンが、頷く。

「わかりました。ならば、貴女の背中は、私が守ります。降りかかる火の粉は払い、往く道を遮るものは、斬り捨てましょう。貴女を害する何者からも、私が貴女を、守ります」

 静かな熱意を込めて語るライアンに、戸惑う少女。

「……それ、は……」

 ライアンが少女から視線を逸らし、目の前の壁に向ける。

「……失礼。まずは、目の前の敵です。この先に、奴等はいるはずです。共に、打ち倒しましょう」
「……うん。悪い魔物は、倒さないとね」


 吹き飛ばす前に兵士たちが探っていた辺りの壁を探り、仕掛けを探すライアンを見やり、マーニャが呟く。

「……なんつー、()()だよ。女だよな?アレ」
「そうだね。真面目なだけに見えるけど」
「真面目っちゃあ、真面目なんだろうがな……なんだかな……。ある意味、アリーナの同類だな」
「いろんな意味で、そうだね」
「俺が、どうかしたか?」
「なんでもねえよ。それよりいよいよだ、気合い入れてこうぜ」
「ああ!そうだな!」

 壁のスイッチを見付けたライアンが、振り返る。

各々方(おのおのがた)。準備は、宜しいですか?」
「ああ!いつでも、いいぞ!」
「おー。とっとと、行こうぜ」
「大丈夫です」
「うん。行こう」 
 

 
後書き
 導かれて運命は出逢い、共に邪悪に立ち向かう。
 光を見失った者と、光に包まれ、生まれ変わる者と。

 次回、『5-33人間と魔物と』。
 9/14(土)午前5:00更新。 
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