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スーパーヒーロー戦記

作者:sibugaki
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第81話 罠

 最早御馴染みの光景と言えた。八神はやての目の前にて、盾の守護獣ザフィーラと湖の騎士シャマル。
 この二人が今、平身低頭、即ち土下座をしていたのであった。あまりにも御馴染みと言える光景にフェイトはツッコミを入れる事すら怠ける程だったとか。
 だが、それを始めて見る者達はそれが物珍しい光景にも見えた為に見るだけは見ているようだ。
「申し訳有りませんでした! 我が主よ」
 頭を深く下げながらザフィーラは叫んだ。主に仕える騎士の身でありながら事もあろうにその主に拳を向けてしまった事。それは騎士として恥ずべき行為であり絶対に行ってはいけない行為なのである。
 また、それはシャマルも同じであり、その為に二人揃って深く頭を下げていたのだ。
「あ~、もうえぇわ。今は甲児兄ちゃんおらへんから罰やってもおもろないし」
 さすがにはやて自身も面倒臭くなったのだろう。頭を下げる二人に対しあれこれ言う事事態疲れてしまっていた。いや、それ以前に先の激闘の疲れがまだ残っているようだ。
「主、この上は我等に何なりと罰をお与え下さい! 我等守護騎士、主が下す罰が何であろうと喜んで受ける所存に御座います」
「そならおやっさんの店の手伝い二人でやってな。私等疲れたから休むわ」
「任せて、はやてちゃん!」
 さすがに甲児が居ないと張り合いがないのだろう。シグナムの時に比べて結構ぞんざいな罰だったりした。そんな訳ではやての罰としてザフィーラとシャマルの二人は立花の指導の元アミーゴの店の準備に取り掛かった。
 おやっさんとしては従業員が増えるのはとても有り難い事だ。一同も此処を拠点代わりに利用させて貰っているのでこの程度のお手伝いはするべきと思っているようだし、何よりおやっさんの指導は的確だ。
「それにしても久しぶりですね。本郷さんに一文字さん」
 店の準備を黙々と進める二人を尻目に、一同の視線はダブルライダーこと、本郷猛と一文字隼人へと向けられた。
 二人は半年前にカメバズーカに内臓された小型水素爆弾の爆発から日本を守る為に消息不明になった筈だったのだ。その二人がこうして無事に帰って来てくれたのは何よりの事だったと言える。
「あの後、俺達は秘密裏に世界中を回ったんだ」
「そんで、世界に根を張ってるデストロンの支部を片っ端から叩き潰していたって奴さ」
 相変わらずの軽口っぽい言い方で一文字が答える。二人が世界中に点在しているデストロンの支部を叩き潰してくれたお陰で、デストロンは事実上壊滅したと言っても良いのだろう。
 これで侵略同盟の一角を崩す事は出来たと言える。だが、まだまだ敵の戦力は侮れない。
「先輩達も戦いに加わってくれるんですか?」
「勿論だ風見。共に世界の平和の為に戦おう!」
「俺も居る事を忘れるなよ」
 本郷、一文字、風見の三名が互いに手を堅く握り締めあう。三人のライダーが勢揃いした瞬間であった。
 そして、その手に更に光太郎の手がかぶさる。
「俺も居ますよ。先輩達」
「そうだったな。共に戦おう、光太郎」
 心強いメンバーが勢揃いした。徐々に戦力が集まりだしていく。これならばあの侵略同盟に挑む事も夢じゃない筈だ。
 そう思っていた正に矢先の事であった。
【次のニュースです。人里離れた荒野に、何とウルトラマン達の銅像が建てられているのです】
「銅像だってぇ?」
 突然のニュースの報道に皆の視線が集まる。其処に映されていたのは、どれも苦悶の表情を浮かべてブロンズ漬けにされていたウルトラマン達、そしてバイカンフーとブルージェットであった。
「こ、これって!」
「まさか、先手を打たれたのか!?」
 一難さってまた一難であった。もし、あれがかつてのウルトラマン達の成れの果てだとしたら、それは最悪の事態を連想させる事となる。
「とにかく、現場へ行くしかないな」
「せやなぁ、こんな趣味悪い銅像建てる輩の顔を拝みに行ったろうやないか!」
 報道の場所は此処からそれほど遠くない場所だ。今から行けば日中には辿りつけるだろう。
 急ぎ現場へ向う一同。当然店の事を放っておきながら。
「おい、店……まぁ、しょうがねぇか」
 事件なのだからしょうがないとばかりに一人項垂れながら店の支度をする立花であった。




     ***




 現場に行けばその銅像がより一層それが本物と判断出来る代物だと思えた。
 大きさ、外観、それらが本物と大差なかったのだ。そして、それは紛れもなくウルトラマン達やバイカンフーなどであると判断出来た。それを目の当たりにした一同の脳裏に暗雲が立ち込めたのだ。
「こんな事が出来るのは、とても地球人じゃ無理だ」
「となると、異星人の仕業……」
 安易に想像出来た。光の巨人であるウルトラマンやバイカンフー達をブロンズ漬けに出来る輩と言えば異星人でしかない。
 しかし、今までそんな事が出来た敵が居ただろうか? それも、あのウルトラマン達やバイカンフーをこうまで簡単に仕留められる敵だ。相当な実力者でもあると推測出来る。一切油断は出来ない。
「主、此処は一旦戻って体制を立て直した方が懸命かと……」
 シグナムが進言してきた。本来戦士である彼女が敵に背を向ける事などありえる筈がない。
 例え不利な戦いだとしても、敵に後ろを見せずに勇敢に戦い抜く。それが騎士であり、同時に戦士でもある彼女の心情なのだ。
 その彼女が撤退を促してきた。それは彼女の騎士としての勘が告げているのだ。
(これをやり遂げたのは、明らかに想像以上の科学力と戦闘力を持ち、尚且つ残虐で冷酷な存在だ)と告げていたのだ。
 しかし、その進言に対し主と呼ばれたはやては異議を立てた。
「シグナム、私の大切な仲間達をこないに酷い目に会わせた奴を放っておく事なんてでけへんよ! 今、私の胸の内は煮えくり返る思いで一杯なんや!」
「しかし……」
 渋るシグナム。そんな彼女の肩に手を乗せる者が居た。ザフィーラだった。
「シグナム、お前がそんな弱気になるとは珍しいな。だが、我等は騎士だ。例え強大な敵だったとしても見もせずに引き下がる事など出来ない筈だ」
「それは、そうだな……」
 彼の言う事も会っている。幾ら強大な敵と言えどもそれを見もせずに引き下がる事など負け犬以下。弱虫のする事だ。そして、自分は弱虫か?
 己に問い、そして否定した。自分は騎士だ。負け犬でもなければ弱虫でもない。
「とにかく、近辺に何かないか散策しよう。良いか、くれぐれも単独行動は避けるんだ。敵はどんな罠を仕掛けているか分からない。慎重に行動するんだ! 良いね」
 本郷の指示の元、一同は周囲の確認を行った。周囲の探索をしながらも、誰もが頭上にある不気味なブロンズ像に目をやり、そして地上に目を移した。
 誰もが不安と怒り、同時に恐怖を胸に抱きつつも、これらを作り出した張本人を探し出す為に尽力をした。
 だが、誰もが探しつつも思っていた。もし、こんな事をしでかした輩と出会った際、果たしてどう対処すれば良いか。
 誰もがその答えを求めつつ、声を出さずに行動に移した。
 不安を払い除けるには動くしかない。恐怖を払拭する為には行動に出るしかない。要は誤魔化しであった。
「ん?」
 ふと、足元に転がる何かを見つけた。地面に広がるのは一面黄土色の土だけだ。そんな土だけの大地の中で一筋に輝く存在が見えた。
 赤く輝く球体の宝玉。それはかつての戦いを生き抜いた者ならば誰もが知り得ている物だった。知っていて当然だった。知らない筈がない。
 何故なら、それは……
「レイジング……ハート?」
 フェイトは口にした。その宝玉の名前を。其処にある筈がない物の名前を。何故だ、何故お前は其処に有る?
 お前は今まで何所に落ちて、今まで何所を流れ、どうやって此処に辿り付いたのか?
 その経緯は全く分からない。だが、それが本来の主の下を離れて此処に落ちていたと言うのは揺ぎ無い事実でもあった。
「どうした? 何か見つけたのか」
「皆さん、こっちに集まって下さい」
 周囲に散っていた仲間達が揃ってフェイトの元へと集まっていく。
 何かを見つけたのだと推測し、そしてそれがこの悪夢を切り開く鍵となる事を願いつつも。
「何かあったのか?」
「これを……」
 地面に落ちていたそれを手に取り、皆の見える位置にそれを伸ばす。幼いその手に平に赤い宝玉は置かれていた。日の光を受け、赤い球体が更に輝きを見せる。
 まるで、自分の存在を主張するかの様に。
「本郷先輩、これは……」
「あぁ、間違いない。だが、何故これがこんな所に?」
 有り得ない。そう言いたかったのだ。誰もがそう言いたげな顔をしていた。そう、これはフェイトが使っているバルディッシュとほぼ同じタイプのデバイスだったのだ。
 そして、そのデバイスは【第二次日本攻略作戦】の折に大海原にて消息を絶った筈。それが何故此処に。
【マスター、レイジングハートの機能は正常です。尋問が可能です】
「レイジングハート、聞こえる?」
 フェイトが問い掛けた。彼女のもそうだが、この手のデバイスは簡単だが意思を持っている。多少の会話や意思の疎通は可能だ。
【はい、聞こえます】
「一体どうして此処に落ちてたの? どうやって此処まで来たの?」
【その質問には答えかねます。私も長い間機能を停止していましたので】
 答えは余りにも簡単に返された。長い間機能を停止しており、再起動した際には此処に流れ着いていた。と言いたいのだろう。
 しかし、それにしても妙に思えた。意思を持つデバイス。それは敵にとって見れば貴重な情報源だ。それをみすみすこんな場所に置き去りにするだろうか?
 これだけ残虐な行為をする敵にとって、敵の情報は喉から手が出る程欲しい筈。それをみすみす放り捨てる筈がない。
 まさか……
「フェイト、それを捨てろ! これは罠だ!」
「え?」
 気付いた時には既に手遅れだった。フェイトの丁度真上に透明で楕円上のカプセルが姿を現す。
 そのカプセルが真っ直ぐに真下へと下がって来た。
「ちっ!」
 舌打ちと共にV3が動いた。真下に居たフェイトを突き飛ばして退かす。その直後に、その真下に居たV3にカプセルは覆いかぶさるように降下し、その中にすっぽりと納まってしまった。
「か、風見さん!」
「風見!」
 皆の視線がカプセルに捕えられたV3を見る。V3を捕えていたのは薄いかべで作られた透明なカプセルに閉じ込められてしまっていた。
「風見先輩! 出られないんですか?」
「駄目だ、こいつ外見より遥かに硬い! 打撃じゃ到底破れない代物だ! それに、この中は……俺の……エネルギーが……」
 徐々にカプセル内にてV3が弱っていくのが見える。どうやらあのカプセル内ではエネルギーを吸収し、完全に息絶えた後にブロンズ化させるのだろう。悪趣味にも程があった。
「一文字! 手を貸してくれ、ダブルライダーキックで破壊するぞ!」
「任せろ! 待ってろよ風見」
 1号と2号がそれぞれ合図を送り、飛翔する。ジャンプの際に得た風力エネルギーを身に纏い、それを使ってカプセルを破壊しようと試みたのだろう。
 だが、上空に飛んだ二人を出迎えたのは、V3を捕えたのと同じ透明のカプセルであった。
「何!?」
「しまった!」
 完全に無防備状態だった二人もまたカプセルに囚われてしまった。
 カプセル内では風力エネルギーが得られない上に徐々に体内のエネルギーが吸収されて行く。
 地面へと降り立った更に二つのカプセル内にて1号と2号もまた徐々に弱まっていくのが見て取れた。
「皆散れ! 固まっていたらこれの餌食になるだけだ!」
 誰かが叫んだ。それが誰なのか確認する暇などなかった。皆が周囲に散らばる。
 固まっていれば自分もまた同じ目に遭うと悟ったからだ。カプセルに閉じ込められ、エネルギーを吸い尽くされた後に、銅の塊へと返られてしまう。
 その後も、続々と上空から、そして地上からカプセルが姿を現す。それらは貪欲に、そして邪悪に無情に残酷に、ヒーロー達を追い詰めていく。
【ハッハッハッハッ、いかがかな? 私の用意したもてなしは? ご堪能頂けたかなぁ?】
 下卑た笑い声が響く。見上げれば其処には見慣れない存在が立っていた。全長は約50メートルはあると思われる。残忍なこの代物を作ったであろう張本人のヒッポリト星人が其処に居た。
「お前か、こんな酷い事をしたのは?」
【酷い? これはアート。言うなれば芸術なのですよ。貴方達ヒーローの断末魔と死ぬ寸前の表情をこうして永遠に飾っておく為のねぇ。既にタイトルは決まっているのですよ。【人類文明の終焉】と言う素晴らしいタイトルがねぇ】
 誰もが背筋に悪寒を感じた。この宇宙人は来るっている。明らかに人の命を何とも思っていない。命を奪う事に一切の躊躇いを感じていないのだ。
「フェイトちゃん!」
 即座に声が響いた。はやてが叫んだのだ。咄嗟にフェイトは上空から迫り来るカプセルを回避した。後少し声が届くのが遅ければ間に合わなかった筈だ。
「あ、危なかった」
 安堵し、地面に降り立った直後、地面から同じ様にカプセルがせり上がって来た。それには対応する事など出来ず、遭えなく捕えられてしまった。
「くっ、こんな物!」
 内側から破ろうとバルディッシュを振るう。しかし、カプセル内は狭く、とてもそれを振り回せる程はない。それに魔力刃を展開させたところでカプセルにエネルギーを吸われてしまい忽ち形態を維持出来ず消失してしまう。
 更に言えば、徐々に体中の力が奪われていく感覚を覚えだす。そうする事でじわじわと苦しめて行き、苦悶の表情の内に銅化させる魂胆なのだろう。
「テスタロッサ、待ってろ! 今それを破る!」
「俺も続くぞ!」
 カプセルを破ろうとシグナムとザフィーラが攻勢に出る。しかし、そんな二人を待ってましたかの如くカプセルが迫る。
「何?」
「かわせ!」
 今度のも頭上から迫るタイプであった。馬鹿正直に何度も同じ手で来たようだが、そんな手に一々引っ掛かる二人じゃない。
 横跳びに回避してそれをやり過ごそうとする。だが、その直後、上空から迫ってきたカプセルが突如真っ二つに分かれてしまった。
 分かれたカプセルは回避した直後の二人の真横に舞い降りる。
「!!!」
 気付いた時には既に二人もまたカプセルに囚われる事となってしまった。これで残りはシャマル、はやて、そして仮面ライダーBLACKRXだけとなってしまった。
「シャマルさん、このままじゃ全滅だ! はやてちゃんを連れて此処から逃げてくれ!」
「そんな、光太郎兄ちゃんはどうするんや!?」
「俺が此処で戦って少しでも時間を稼ぐ。今の内に早く!」
「そんなの嫌や! 光太郎兄ちゃんを残して私達だけ逃げるなんて絶対に嫌や!」
「頼む、今は逃げてくれ! 此処で皆捕まってしまったら、それこそ全てが終わってしまうんだ!」
 光太郎の悲痛な叫びが木霊した。これ以上犠牲者を増やしたくない。今此処で全滅してしまえば、それこそ全ての終わりを意味しているのだから。
 だが、それを分かっていてもはやては逃げる気になれなかった。大切な仲間、大事な家族が次々と殺されたのだ。それなのに自分一人だけ逃げるなんて出来ない。そう言いたかったのだ。
 そんなはやての頭上にカプセルが迫る。
「危ない、はやてちゃん!」
 咄嗟にシャマルがはやてを押し退かせる。その直後、シャマルもまたカプセルに囚われてしまった。
「シャマル!」
 光太郎とはやての目の前でシャマルまでもが捕えられてしまった。
「こうなったら……ライドロン!」
 光太郎は声を張り上げ、ライドロンを呼ぶ。真紅の車両ライドロンが風を切るかの様な速度で姿を現した。
「光太郎兄ちゃん? ライドロンなんか呼んでどないするんや?」
「はやてちゃん、御免!」
 光太郎は咄嗟に、はやての腹部に拳を当てた。手加減はしたがその一撃によりはやての意識を断ち切る事は容易かった。
 意識を失い、ぐったりとなったはやてをライドロンに乗せる。
「ライドロン、彼女をなのはちゃんや甲児君達の元へ連れてってくれ!」
 指示を受け、ライドロンは自動で移動を始めた。こうして、残ったのは光太郎只一人となった。
「後は、俺が此処で踏ん張るだけだ!」
 決意を胸に、リボルケインを抜き放ちヒッポリト星人と向かい合った。
【やれやれ、一人逃がしてしまいましたか。まぁいいでしょう。楽しみは長く続いた方が楽しいですからね】
「お前の思い通りに行くと思うな!」
 声を張り上げて、RXは走る。たった一人残した希望を守る為に。




 数刻後、黄土色の荒野の中に更に多くの銅の像が出来上がっていた。
 その像は人々の希望をへし折る象徴となるには充分な代物であったと言える。
 果たして、それは人類の滅びを現しているのだろうか?
 それを知る術は、誰も持ち合わせていない。




     つづく 
 

 
後書き
次回予告

 ヒッポリト星人の策略とレイジングハートの裏切りにより多くの仲間達が倒されてしまった。残された僅かな仲間達も次々にその毒牙に掛かっていく。

次回【絶望】お楽しみに 
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