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真剣で覇王に恋しなさい!

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第13話




「さぁ誰からだ? 三人同時でも俺は一向に構わんぞ?」

 マープルが話をしている間に風間が持って来ていた武器を手にする三人を前に、俺は寛大な心でそう告げた。
 最も、例え束になったところでその刃は決して俺には届きはしない。
 俺が王である以上、その結果は絶対に覆らん!

「まずはアタシよ! 川神院・川神一子!」

 進み出たのは百代の妹、しかし感じる気配はあまりに脆弱。
 俺の覇気に耐える程の力はあったとしても、その身に宿る武はあまりに矮小に感じる。

「いくわよっ! 川神流……っ!」

 言うなり、一子はその手に構えた薙刀を頭上に振り上げる。
 そのまま真っ直ぐに俺の頭を狙うと、そんな気配を漂わせるそれだが、しかし。

「山崩し!」

 狙いは頭ではなく脚、薙刀は最初からそれを狙っていたとばかりに下段に向かって奔っていく。
 俺はそれを一歩動くだけで回避した。

「こっのぉ!」

「上に下にと面白い動きをする武器だな! 中々に飽きぬ芸当、褒めてつかわす」

 しかし、所詮は弱者の浅知恵に過ぎん。
 そもそも肝心の速度と力がお粗末にも程があるな!

「そーら次だ!」

「うわぁーーっ!」

 肩口に向けて振られた薙刀を掴み、武器ごと一子を投げ飛ばしてそう告げる。
 それを聞き、次の相手は仲間が傷つけられたことに憤怒して俺の方へと向かってきた。

「クリスティアーネ・フリードリヒ、参る!」

「ほう、剣に感情を乗せてているな」

 本来の力以上のものを発揮してのレイピアによる刺突。
 気合の入ったいい声と共に放たれたそれは十分な威力と速度があった。

「いい声をしているな! お前には将としての才がある! 剣の腕前もなかなかであったぞ!」

「うぐっ……」

 感情的で真っ直ぐになりすぎた突きを掴み取る事は容易だった。
 そうして捉えたクリスに蹴りを見舞って次を促す。

「さぁ次……狙撃など無駄だっ!」

 校舎の屋上から俺を狙う狙撃手にそう告げた途端、その狙撃手・椎名京は即座に俺に向け矢を放った。
 蝿が止まるような速度の矢の先には、小癪な事に爆薬が仕掛けられている。
 当然その程度はダメージにはならないが、かといってわざわざ攻撃を受けてやる程に俺は甘くない。

「ふぅっ!」

「っなんて出鱈目!?」

 強く息を吹いて、飛んできた爆矢をそのまま相手へと跳ね返したが……咄嗟に踵を返して逃げ出したな。
 逃げ脚ばかり速いというのも考え物だな。

「よし次だっ! この覇王様が遊んでやるぞ」

「黛流、黛由紀江! いざ!」

 今度の相手は黛由紀江、構えた刀から振るわれる斬撃はなかなかのものだった。
 当然俺には届かぬが、凡夫には無い輝きがある。

「なかなかの腕前だな! 俺に仕える事を許すぞ!」

「お断りします!」

「なんだと!? 王の誘いを断るとは、貴様! 断罪してやる!」

 愚者への裁きを下すべく、俺は己が相棒へと向けて呼びかける。

「スイ! 俺の所に今すぐ来い! やれんとは言わせんぞ!」

「え?」

 天に向けて放った俺の声に応え、スイスイ号は猛烈なスピードで遠くの九鬼極東本部から疾走してきた。
 そして咄嗟に避けた黛由紀江のいた場所を横切り、スイは俺の前で
急停止する。

「これが俺の相棒であるスイスイ号の真の姿だ!」

「皆様、このような場ではありますが、改めてよろしくお願いします」

 ただの電動自転車だったスイの姿は、無骨で巨大なバイクの姿へと変貌している。
 俺に合わせた姿に変えてきたようだ。

「俺の覚醒に合わせてお前も目覚めたようだな」

「はい。武器をご所望ですか?」

「うむ、呂布の武器で行く。方天画戟を出せ」

 俺の言葉を聴くや、スイはそのボディから方天画戟を突出させ、俺はその柄を掴み取った。
 うむ、俺自身の武器では無かった筈だが手に良く馴染む。使い方もよくわかるぞ。

「目覚めたばかりなのに使いこなしている……?」

「んはっ! 俺の頭脳の冴えと言えるだろうな!」

「いえ、睡眠学習の賜物かと」

 な、なんだと? むむ……それは格好悪いな。

「とりあえず今は前の敵に集中してください」

「おぉ、そうだったな」

「……っ!」

 軽く方天画戟を振ってから黛に突きつける。
 臆したか?
 せいぜい保たせてみるがいい。

「くらえぃっ!」

「……速い!」

 試し運転とばかりに方天画戟を軽く振り回してみれば、黛は機敏な動きでそれを避ける。
 まだ俺も本気ではないがやはりいい動きだ。だというのに俺に仕えるを良しとしないとは愚か者め。

「んはっ! 避けるな避けるな、そらそらそらァ!」

 反撃に転じることなくただひたすらに避け続ける黛。

「どうした! 避けてばかりではつまらんぞ!」

 一向に攻撃してこない黛に苛立ち紛れの一撃を放つ。
 すると突如、目を光らせた黛が回避しながらの斬撃を放った。
 狙いは顔。

「なかなかいい一撃だったが……覇王と常人を同じ尺度で測るとは愚かだったな!」

「そんな……歯で!?」

 俺は高速で放たれた黛の剣を歯でがっちりと噛む事で受け止めた。
 真剣は不味いな。鉄の味がする。

「この味は嫌いだっ!」

「ぐ……はっ……」

 黛を蹴り飛ばし、俺は近くにいた小猿のようなカメラを携える程度に撮影を促す。
 俺の勇姿に憧れる民には多少の恩恵も与えてやらんとならないからな!

「ところで、さっきから隠れて俺を覗き見ている奴がいるなぁ……?」

 誰かは知らんがそちらに向けて覇気を飛ばす。
 すると即座にその気配は学園校舎の屋上から離れて行った。

「なかなかの気配だったが……敵前から逃げるような弱者など、俺が追ってまで仕留める価値は無い!」

 己の力不足を察しながらも向かってくる雑魚の方が、根性があるだけまだマシだ。
 そう……今まさに俺の前に展開しつつある川神学園の生徒どものようにな!

「んはっ! 面白い、面白いぞ! だが雑魚が何百人かかってきたところで、俺には傷一つ付けられぬ!」

 竜巻を発生させるかのような方天画戟の一撃で以って、全員まとめて吹き飛ばした。
 温い……温過ぎるぞ川神学園! 思わず欠伸が出てしまうほどにな!

「葉桜君、これは……」

「ん? おぉ、京極か。俺の正体は西楚の覇王だったぞ。どうだ感想……つっ!?」


「ん……私は大丈夫だよ、京極君」


「……む、今何か口走らなかったか?」

「いや……どうやら君は君のままのようだ。ノビノビ暴れているようで実に結構」

 京極の態度は俺が目覚めていなかった頃と変わらなかった。
 それでこそ京極だ。そう言うだろうと思っていた。

「時に、赤戸君はどこに?」

「あいつなら屋上だ。生意気にも説教をしてきたのでな。少し眠らせてきた」

 そう言って、屋上の方へ意識を向ける。
 気配はまだそこにあるが……アイツはやっと目を覚ましたようだ。
 先ほどよりも更に強い意志の力を感じ取れる。

「だが、あらかた片付けると流石に暇だな。俺はスイと共にドライブをしてくる事にする。準備は出来ているな、スイ!」

「もちろんでございます。いつでも出発は可能です」

「そういうわけだ。では行ってくるぞ!」

 俺は一先ず方天画戟をスイの中に収納し、軽く地面を蹴ってスイに飛び乗った。
 前の姿には無かった力強い鼓動を感じる、流石は俺の相棒だ。

「一般人に害を及ぼしてはいけないぞ」

「ははははは! わかっている!」

 京極の言葉に一言応え、俺は学園の外へと飛び出した。

「素晴らしいスピードだ。存分に走れる場所へと移動するぞ!」

「はい。清楚の仰せの通りに」

 言葉を返したスイは更にスピードを上げ、どんどん学園から離れていく。

 ――途中、俺とは逆に学園へと向かう朱色の車両とすれ違った。
 乗り手の姿は無し。その速度は今スイが出しているものと比べても遜色がない程のものだ。
 おそらくは柳司がずっと作っていた物。近頃休みの度に引きこもってばかりだったおかげか、既に完成していたらしいな。

「面白い。話は後だと言ったが、追ってこれるのなら追ってくるがいい」

 校舎屋上から感じる強い意志の力に向かって、俺の口は自然とそう零していた。


 
 

 
後書き
愛する者を、愛を信じて倒せるか
 
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