「……お姫様。俺はお前を……さらいに来た」
それは少女にとって、夜だと思っていたところへ朝の光が差し込んでくるような出来事だった。突然起こった現実を前に言葉が出てくることはない。言葉という概念すら脳裏から消え失せていた。
驚かない方が難しい。突然目の前に男が現れ、さらいに来たなどと突然言われるのだ。しかもここは、分厚く固い石壁で囲まれた牢獄の中。その壁を爆破して男は現れた。
爆破音に驚いたというか、何が起こったのか見当もつかない。少女を支配したのは、何の底も知れない恐怖だった。立ち込める煙の中でその赤い瞳は開かれたまま、閉じることはなかった。少女は震えたまま成す術なくただ恐ろしさに腰を抜かしていた。
そこへ少女に向かい、男はその手を差し伸べる。
「俺たちの信条は、個人の自由を優先する事だ。俺たちは、決してお前を拘束しない。この手を取るかどうかは、お前が決めていい」
少女に向かって問う。
「自由を受け入れるか? それとも――」
少女の答えは、次の言葉を聞くまでもなく決まっていた。
-第一幕へ-