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三年坂の女

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第三章

 髪は黒く絹の様なツヤがある、その髪を綺麗に上でまとめている。その髪に珊瑚の様な装飾がある簪を飾っている。
 切れ長の睫毛の長い目で左目の目元には泣き黒子がある。鼻は高く形がいい。紅の横に大きな唇がまた妖しい。
 その女がストーンリバーの前にいた、そして。
 女は何も言わず彼を一瞥してから去った、その女を見て。
 二人の周りにいる生徒達、特に男子生徒達がこんなことを話した。
「綺麗な人だよな」
「ああ、着物でな」
「流石京都だよな、あんな美人がいるんだな」
「俺あんな綺麗な人はじめて見たよ」
「私も」
「ただ」
 その美貌は認められた、だが。
 彼等はここでだ、首を傾げさせてこうも話した。
「けれどあの人何時いたんだ?」
「さあ」
「何か急に出て来て急に消えたけれど」
「さっきからこの坂にいた?」
「どうだったかな」
 彼等はこのこともいぶかしんだ、そして。
 赤城もだ、女を見てからこう呟いた。
「いや、あんな綺麗な人がいるなんて」
「凄い美人でしたね」
 立ち上がったストーンリバーも言う。
「本当に」
「そうですね、あれだけの美人がいるなんて」
「それも日本ですね」
「いえ、あれだけの美人は流石に」
 先程まで言おうとしていたことは忘れてしまっていた、それでこうストーンリバーに話したのである。
「いないですよ」
「そうですか」
「確かに日本は美人の多い国ですが」
 客観的に見てそうであろう、日本は美人や美少女には恵まれている。
「それでもです」
「あそこまでの人はですか」
「いないですね、しかもいい着物でしたね」
 赤城は美女が着ていた着物のことにも言及した。
「かなり高価ですよ、あれは」
「黒と赤の」
「色もよかったですね」
「西陣織でしょうか」
 京都の有名な絹織物だ、高級なものになるとそれこそ聞いたその耳を疑うまでの値である。
「あれも京都のものでしたね」
「そうですね。ですが西陣織でも」
「あそこまではですか」
「ないですね」
 赤城は女の着物を思いだしながら話した。
「あっても相当高価です」
「日本の価値でどれ位でしょうか」
「さて、あれは絹自体も凄かったですから」
 絹と一口に言ってもその質はピンからキリまである、最高級のものになるとそれこそ一反で何百万となる。
「何千万でしょうか」
「何千万ですか」
「ポンドでいくとさて」
 考えながら言う。
「どれ位でしょうか」
「すぐには出ない程ですか」
「はい、ちょっと」
 赤城は考える顔でストーンリバーに答えた。
「そこまでですね」
「そうですか、凄い着物なのですね」
「京都の富裕層の奥方かも知れませんね」
 京都には今もいるそうした立場の人ではないかというのだ。 
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