| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

とある碧空の暴風族(ストームライダー)

作者:七の名
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

武装無能力者集団
  Trick30_仲良しさ


「俺が相手をしてやる」

黒妻が御坂よりも先に前に出た。

信乃の仇討ち、泣いている女の子に戦わせられない、様々な感情が
宗像の殺気に縛られていた黒妻を動かした。

「いや、俺が遊びたいのは超電磁砲(レールガン)だ。
 君は引っこんでいてもらえないかい?」

「はい、そうですかって言うと思うのかよ?」

黒妻の低い声が響く。怒りを通り越して冷たく怒っている。

「もちろん、そう言ってもらうよ。じゃなきゃ彼に死んでもらうことになるからね」

宗像は信乃が入っていった奥の部屋を一瞥し、自分の首に付いている装置を軽く撫でた。

「爆発させるってわけか・・・」

「その通り。言うとおりにしてもらえれば爆発はさせないと約束する。

 さて、どうする超電磁砲?」

「・・・・わかったわ」

涙を拭いて御坂は立ち上がった。

「御坂さん何を考えてるの!?」

「お姉様、危険です! あの男は人を殺すことをなんとも思っていませんわ!
 ここは作戦を練って「黒子、ごめん」  お姉様・・」

固法と白井の制止、それを遮って御坂は前へと出る。

「私をご指名って言うなら相手になる。信乃にーちゃんは簡単に死んだりしない。
 だったら私があいつをぶっとばして助け出す」

静かに御坂は言った。




宗像は再び刀を出した。もちろん信乃との戦闘で使ったものではなく別の刀を。

2本をそれぞれの肩に担ぐようにした独特の構えをして御坂を見る。

御坂は刀に対抗して工場の中の砂鉄を集めて剣を作りだした。

電撃で倒すのも吝かではないが、なぜか相手の土俵(武器)で戦い倒したかった。

御坂の剣が完成したと同時に宗像が切りかかる。

しかし信乃との激しい戦闘を見た後では遅すぎて素直すぎる攻撃だった。

御坂はそれを砂鉄の剣で受け止める。

超振動で切れ味が格段に上がっているはずの砂鉄の剣で受け止めた。
だが鉄であるはずの刀は切れない。

御坂は一瞬驚いたが、これほどの異常者であれば武器も特殊なものを
使っていてもおかしくないと考えて目の前の戦いに集中した。

宗像の刀と御坂の砂鉄の剣。2つが鍔競り合いになった。

自然と2人の顔も近くなる。

「僕の話を聞け。もちろんは反応はするな」

「!?」

御坂の砂鉄は微振動をしている。
鍔競り合いをしている今は金属のこすれる音が響いていた。
そのせいで周りに宗像の声は聞こえずに誰も気づいていない。

そう言った後に宗像は一度距離を取って、下段からの切りあげの攻撃をする。

御坂はそれを砂鉄の鞭に変えて止める。

「僕は時間稼ぎがしたい」

「あんたなにを「反応するな」 !?」

「あんたは僕に致命傷を与えられずに中途半端な攻撃をする。
 僕はレベル5を相手にに苦戦していて攻撃が当らない。
 そんな均衡状態をしばらく続ける。
 信乃は簡単には死なない。妹のお前なら良く知っているだろ。
 おまえがやるかどうかの答えは聞かない。勝手に始めるぞ」

小声で連続で話した宗像は連続で御坂を切りつける。

だが御坂の砂鉄の盾を作って全ての攻撃を防ぐ。

今度は御坂が砂鉄を伸ばしてを攻撃。
その攻撃も宗像は後ろに下がって難なく砂鉄のリーチから外れる。

「なにをやっている宗像! こんな小娘に手こずるとは!!」

「しょうがないですよ。相手は超能力者(レベル5)、一撃の威力が違う。
 まさに一撃必殺ですから、攻撃が当らないようにしないとこっちが負けますよ」

「そんなの関係ない!! 早く潰せ!!」

「・・・・・わかりました。ボスの要望だ、君を殺す」

弾かれるように突進して剣を振る。

だが御坂には明らかに手加減して攻撃しているに見えた。
先程も感じたが、信乃と戦っているときに比べると鋭さと速さがない。

なにより最初に放った殺気が、信乃以外の動きを封じた殺気が今は全くない。

(こいつの時間稼ぎって本当なの? 何が目的で・・・)

攻撃を防ぎながら考えていた御坂は、倒れた時の信乃の顔を思い浮かんだ。

片目を閉じた顔を。

(あ、もしかして!? だったら、この時間稼ぎに賭けるわ!)

宗像の策に乗ることを決めた。

御坂は大量の電撃を手に集め、一度構える。

「くらいなさい!!」

テレホンパンチのごとく攻撃の種類を見せて、大声で叫びタイミングを教える。

そして宗像にわずかに逸れるように電撃を放出した。

攻撃が分かれば避けるのはたやすい。

宗像は一歩だけ横に動き紙一重で避けた事を演出する。
周りから見れば宗像が何とか避けたように見えるよう演出して。

「・・・・ほんと、攻めずらいよ。さすがレベル5だ」

宗像の口元はかすかに笑って言った。




御坂と宗像の戦闘が始まってから数分後。

辺りは戦場と化していた。

戦っているから戦場と言っているのではない。戦場と同じように地面や壁が焼き焦げて
辺りには刀が散らばって大きな惨劇の跡も幾つもあるからだ。

御坂の電撃が焦がし、宗像は刀を弾かれても次々に新しい刀を出して、
砂鉄の鞭が地面をえぐった結果がこうなった。

御坂と宗像には関係ないが、ビックスパイダーが周りで倒れているせいで
より戦場を彷彿させる状態となっていた。

「さて、そろそろ時間だな」

宗像は急に武器を収めて立ち止まった。その声が全員に聞こえるように。

「時間?」

宗像の言ったいた時間稼ぎに協力したが、それでも信乃を後ろから刺した相手を
完全に信じているわけではなく、警戒したまま御坂は聞き返した。

「ああ、今言った通りだ。いや、さっき言った通りというべきかな。
 時間が来たから、もう時間稼ぎの必要がないんだ」

「時間稼ぎ・・結局あんたは何がしたかったの?」

宗像は感情のないままで答える。

「調べる時間が欲しかったんだ。うちのボスも取引しているみたいだったけど
 尻尾を掴めなかった。だから同じようにビックスパイダーでも取引をしていると
 情報があったから、ボスの用事のついでに調べたんだよ」

何を言っているのかさっぱり分からない。

そんな顔を宗像以外の全員がしていた。

「待て宗像! 一体何の事だ!?」

一人だけが宗像の発言に喰いかかっていった。

そう。宗像のボスでさえも宗像の発言を理解していなかったのだ。

「僕たちはある事を調べたかったんだよ。ボスに近付いたのもそのため。
 おかしいと思わなかったのか? ただずる賢く銃を売りさばいているだけの
 あんたに『雇ってほしい』なんて急に言ってくる正体不明の僕をさ」

「きさま、まさか」

「そのまさか。僕は奴とあんたが取引をしているという情報を手に入れたから
 あんたの懐に入って調べていた。残念ながら手掛かりがなかったんで
 今日まであんたの周りにいて調べ続けていたんだよ」

「そして、その苦労も終わりだ」

奥の部屋から声が聞こえた。ゆっくりとした足音と共に現れたのは


  西折 信乃


背中を刺されて連れて行かれたはずだが、今は何事もなかったように歩いてくる。

「お前、背中に刺さって致命傷のはずじゃあ」

金髪の男が目を見開いて驚く。

「し の  にーちゃん」

御坂は信乃を見た瞬間、その場で泣いた。
信乃が死んだと思った時よりも、大量の止まらない涙で。

「きみは嬉しかったら人目もはばからず泣くのかい。
 それはとても羨まし感性だね。

 いいことだよ」

さっきと同じことを言っているが内容が全く違う宗像。
その顔には優しい頬笑みが浮かんでいた。

「ごめん琴ちゃん。変な芝居してさ」

信乃も謝ってはいるが笑顔で御坂へと微笑んだ。

御坂は駆けだして信乃に抱きついた。そしてそのまま泣き続ける。

「うっ  ヒック  ん」

「よしよし」

涙が服にしみこんでいったが、信乃は気にせずに御坂の頭を撫でた。

「信乃!」「大丈夫なの!?」「芝居ってなんですの!!」

黒妻、固法、白井が信乃へと駆け寄ってきた。

「私は大丈夫ですからご心配なく。怪我をしましたけど、打ち合わせの内ですから」

「打ち合わせって、お前あいつと知り合いなのか!?
 俺らの戦いは茶番だったのか!?」

黒妻が驚愕した顔で聞いてきた。

「ええ、ちょっとした知り合いで味方です。でも彼に会ったのは偶然ですよ。
 それに黒妻さんとビックスパイダーとの決着は茶番なんかじゃありません。
 むしろ私達の戦いが茶番以外の何ものでもない、本気で殺しあっていないんですから。

 彼とは戦っている間に情報交換をして色々と作戦を立てたんですよ。

 探し物が見つかったらそれで良しですけど、
 見つからなかったら金髪の男の周りを引き続き調べる必要がある。
 そのために怪しまれないよう勝負に勝つ必要があった。
 こちらも風紀委員として退けない。
 だから俺が死ぬふりをする必要があったんですよ」

「情報交換って戦いの間にやったのか? 俺には全く分からなかったが」

「刀の打ち合いでモールス信号をしてました」

「・・・・あの戦いの中でそんな暇があったのかよ」

黒妻は呆れた顔をした。

首に繋がれた爆弾も作戦であり、嘘である。
背中の傷には、すでに処置がされており、ナイフが刺さっていた証拠となる服の穴から
傷口に包帯を巻いているのが見える。
もちろん、信乃を奥の部屋に連れて行った男は本日2度目の睡眠をさせられている。

「まあいいじゃないですか。それといい加減に離れてよ、琴ちゃん。
 女の子が鼻水を出して泣くのはどうかと思うよ」

信乃は御坂の頭を痛くない程度に軽く叩いた。
ようやく離れた御坂の顔を信乃はハンカチで拭く。

「よかった。信乃にーちゃん、やっぱり死んだふりだったんだね。
 もし違ってたらどうしようかと思ったよ」

「お姉様、信乃さんの死んだふりを気付いてらっしゃいましたの!?」

「勘、に近かったけどね。小さい時に教えてもらったんだけど、嘘をつく合図に
 片目を閉じるのよ。倒れた時も片目を閉じていた。
 それに『本気を出して相手してやる』とか言ってたのに、目が黒のままだったし」

「よく気付いたわね。西折くんが倒れた時の御坂さん反応、芝居とは思えなかったわよ」

固法が呆れたように御坂を見た。
御坂は本当に泣いていた。それは間違いない。

「芝居じゃないですよ。あの時は本当に刺されたと思ったんですから。
 今だって本当に生きていてよかったって思ってるんですよ。

 それに信乃にーちゃんの嘘に気が付いたのは戦っている最中です。
 あいつが時間稼ぎに付き合ってくれって言ったから」

「時間稼ぎですか。わたくしは本気で戦っているように見えましたが・・・

 あれ? お姉様、『目が黒』って言ってませんでしたか?」

「え、あ、今のは忘れて。はははは!」

「「「?」」」

御坂が誤魔化すように言って白井たちが不思議そうな顔をしていた。

一方、御坂達が場違いなほどのんびりとした話しを終えるのを待ち、
一歩前に出て信乃は宗像を見た。

信乃を見て宗像は話しかけてきた。

「やれやれ、君と僕が会う時、2回に1回は死にかけているな。
 そう何度も死にかけるのなら、いっそう僕が引導を渡してあげようか、偽善者?」

「何言ってやがんだ。その死にかけた理由のほとんどはお前が原因だろうが。
 今回だって死にかけてはいないにしても、お前に背中を刺されたんだっての。
 この場合、刺したら刃が中に入る手品用のギミックナイフを使うんじゃね?
 本物のナイフ投げてんじゃねぇよ、殺人者」

「人殺し以外の道具を僕が持っていると思っているのかい?
 それに本物のナイフを刺されて平気な人間は君しかいないと思うよ。
 重要な筋肉、臓器を傷つけずにナイフの刃を体の隙間を通すなんてね。
 しかも刺す方ではなく刺される方。僕の投げたナイフの軌道に体を動かさないと
 不可能だよ。そんな事も情報はあったのか?」

「人を刺しといてそんな事扱いするのかよ・・・

 偽の黒妻、もとい蛇谷の携帯電話が奥に置いてあった。
 こいつに奴と思わしき着信履歴が入っていたよ。
 それを元にたどれば何か手掛かりになるはずだ」

「御苦労。君もたまには役に立つじゃないか。僕は全ての人を殺したいと
 思っているけど、君をあの時殺さなくてよかったと思うよ。
 生きている価値は少しだけあったみたいだね」

「やめてくれ。お前に生きてていいなんて言われると気持ち悪すぎる。
 思わず自殺したくなるだろうが」

「やるっていうなら無償で手伝うよ。
 丁度僕も、君に死んで欲しいと思っていたところだ、奇遇だ」

「ほう、気が合うな。俺もお前に死んでくれたら、どれほど幸福だろうと
 以前から常々考えていたんだ」

「ま、楽しみは後にとっとかないと」

「その通り」

信乃は笑う。

宗像は笑わなかった。

「な、なんなんだお前らは!?」

金髪の男が怒鳴る。

「「仲良しさ」」

信乃と宗像が声をそろえて言う。

「く! 宗像、てめぇ裏切ったな!?」

「裏切ったんじゃない、表立ったんだよ。僕は元々こちら側の人間だ」

「何が目的だったんだ!?」

「さっきも言っただろ、人の話を聞きなよ。
 あんたとそこで寝ている蛇谷、共通の取引相手がいて僕と信乃は捜していた。
 だからあんたにはもう用はない。でもあいつのことを白状してくれるなら
 刑務所に入る期間を短くするように僕たちの上の人間が交渉してくれる
 かもしれない。どうする?」

「い、いやだ、あの人を裏切ったら刑務所の中だろうと殺される・・・」

金髪は震えながら後ずさる。

「なら捕まってなよ、ボス」

宗像が無情に言い、

「風紀委員としてあなたを拘束しますの」

白井が逃げてもすぐに攻撃できるように鉄矢を構え、

「抵抗したって無駄よ、こっちにはレベル5とその同じぐらい強い人が
 いるんだから!!」

御坂が涙をぬぐいながら好戦的に笑い

「蛇谷も悪いかもしれないが、俺の仲間の人生を狂わせた罪は償ってもらうぜ」

黒妻が怒りを込めて睨み

「その懐のナイフを捨てて観念しなさい」

固法が油断せずに透視能力で見抜き

「年貢の納め時ってやつですか。もう終わりですよ」

信乃が笑った。



「く、くははははははは!捕まえる? 別にかまわないぜ!」

男は急に異常なテンションで笑いだした。
開き直ったのか、追い詰められて壊れたのか全員が考えた。

「だがよ、てめぇらの顔と名前は覚えた!!
 何年後だろうと何十年後だろうと、ムショから出た時は覚悟しな!
 お前らじゃねぇ、お前らの家族、友人、恋人、子供、全員殺してやる!!
 そのあと、恐怖しているてめぇらの顔を拝みながらてめぇらを殺してやる!!!
 ギャハハハハハハ!!!!」

「あんた、腐ってるわね」

御坂が怒り、電撃を腕から出し始めたが、宗像が御坂の前に手を出して
止めさせた。

そして一歩前に出て

「ボス、あなたは心の底から悪人だね。

  だ か ら コ ロ ス  」

今までとは比にならない程の殺気を出した。

「ひ!?」

金髪の男は腰を抜かして短い悲鳴を上げた。

背中を向けられている御坂達にまでも恐怖を感じさせるほどの殺気を宗像は出す。

さっきまでの往生際の悪い極悪人が一瞬にして蛇に睨まれた蛙となった。

「やだ・・・殺さないでくれ・・・・死にたくない。死にたくない!!」

蛙は立ち上がり逃げだした。偶然にも建物唯一の出入り口には信乃達の方が近い。
御坂が空けた大穴も同じだ。

それを理解しているのか、ただ宗像から逃げたかったのか、入口から逆の
方向に走って逃げ始めた。

「逃がさないわよ!!」

「待ってくれ、僕が決着をつける。
 新しく“調律”してから一度も使ってなかったんだ。試運転させてもらう」

御坂を制止して宗像はその場でしゃがみ込んだ。

1秒とせずにすぐさま立ち上がると足には靴から軍用ブーツに変わっていた。

いや、ただのブーツではない。
(かかと)から後ろ上の方へと飛び出た刃物。
曲線を描いた大きな刃物は宗像の腰と同じ高さまで伸びている。

刃物の大きさだけで、戦闘用ではなく殺人用だと分かった。

「待ちなさい!! あんな奴でも殺させるわけには「大丈夫ですよ」 信乃くん?」

「彼を信じてください。手を出さないで見てましょうよ」

飛びだそうとしていた固法を信乃が止める。同じように今にもテレポートしそうな
白井と電撃を出しかけていた御坂も目配せをして止めた。

黒妻にも同じようにみて渋々ながら全員が宗像に任せることになった。


宗像が地面を蹴って駆け出した。

いや、滑るようにして進んだ。まるでスケートのように。
滑るような動き。地面が氷であるかのように、“靴底に車輪があるかのように”。

逃げだした男との距離を一気に詰めていく。

「くっそ! 殺されてたまるか!!」

逃げた先にあった2階への階段を駆け上り逃げた。

このアジトは工場跡。1階から見ても2階には扉はなく窓しか逃げ道がない。

「この状況で上へ逃げるなんて何を考えているんだ。
 あ、それともこの靴を警戒して上に行ったのかな? 確かに滑る靴であれば
 階段は登り辛いだろう。判断は面白い。

 間違ってはいないだろうが、この“靴”に限っては大失敗だ」

金髪の男の行動を評価しながら、なおも進む宗像。
更に加速し、階段のそばの壁へと向かう。階段ではなく壁へ。

「何考えてんだあいつ!? ぶつかるぞ!!」

「危ない!」

黒妻と固法が叫びをあげる。このままの速度でいけば間違いなく壁に激突する。

本当は御坂と白井も叫びそうになったが、宗像の動きに見覚えがあった。
その違和感は何かと考えていたが、すぐに答えがわかった。

宗像は勢いをそのままに壁を走りあがっていった。


  Trick - Back Spin Wallride 360°-


体を回転させながら華麗に壁を走る。
宗像の動きの違和感。その答えは信乃がA・Tを着けているときと同じ動きだったからだ。

「な、なんで!? 信乃にーちゃんと同じ!?」

「A・T(エア・トレック)ですの!?
 初春が調べたら使っている人はいないはずでしたのに!」

「しかも、信乃にーちゃんとは靴の形が違う!
 見た目はブーツだし、回転する車輪だって見当たらないわよ!!」

御坂、白井は驚きが隠せずに叫んだ。

御坂の言う通り、信乃が使っていたA・Tとは別物。

「あれは≪ボゥローラーA・T≫という車輪が球体式になっているA・Tです。
 車輪は普通に見えなくても靴底に仕込まれています。あのA・Tには車輪が片足で
 8個、球体式なので扱いが難しく上級者向けのA・Tですよ」

「信乃にーちゃん! 何か知ってるの!?」

「さぁ、どうでしょうね?」

笑ってはぐらかされた。

「それよりも、決着がつくみたいですよ」

宗像は壁を登り、金髪の男のはるか上から前へ回り込んできた。

「まずは逃げ道を塞ぐとしよう。

 今、その力が全開する」

踵の刃が分裂した。

だが分裂した刃は関節部ですべてつながっており、2本の鞭のようになった。
宗像は自らも錐揉み回転しながら足を振り回して刃を周りに刻む。


  Trick - Spinning Dance -


二階の通路が一瞬にして切り刻まれた。
通路は鉄とコンクリートで作られていたはずだが、紙きれのように切り裂かれて
下へと落ちていく。

「これで逃げ道がない。例え逃げ道があっても、僕がその道を殺す。


 この  剣の道(ロード・グラディス)  でね」


「ひッ!! て、てめぇ! なななめてんじゃねぞ!」

「そんな震えた声で言われても恐くもなんともないけどね」

男は懐から折り畳み式のナイフを出して宗像へと向けた。

「そんなおもちゃみたいなナイフで人を殺すにはかなりの技術が必要だ。
 鉄が薄くて刃が折れやすい。刃渡りも短くて細い。急所を狙わないと殺せない。
 ボスにはできる技術があるのか? 肋骨の隙間を通すように刺すなんて。
 そのナイフで人は殺せないと思うけど、刺されたら痛いだろうな。だから殺す」

「くらえ!」

ナイフを向けて突っ込んできた。

2階の通路は狭く、幅は人間2人分しかない。

だが宗像にとっては、それだけの幅があれば十分であった。

そのナイフの突撃を無視するかのように素早く横を通り抜け、そして攻撃が終了していた。



剣の道(ロード・グラディス)
  Trick - Straight Flush -


それは技名どおり、一直線に、閃光のごとく放たれる。
通り抜けたと同時に、ナイフを持っていた腕からは血が噴き出した。
ナイフは刃の部分から切断され、突き出した右腕も切断はされていないが
無数の裂傷がある。

「ぎゃあああああ!!!! 痛い痛い痛い!!!??!!」

「そう、それが痛いって気持ちだ。あんたの売った武器で傷ついた人の気持ちだ。
 少しは分かったか」

今度は刃を使わずにつま先で腹をけり飛ばした。

勢いで2階の通路から落ちたが、下には蛇谷が使っていたソファーがあり、
そこに大きな音をたてて突っ込んだ。

小さな声で「いやだ、たすけて、うらぎらないから、たすけて」と錯乱状態で
呟き続けているのが聞こえたから生きているみたいだ。

「ああ、殺しそびれた。残念」

さして感情がこもってない言葉を言って宗像は2階から直接跳び下りた。

2階と言っても工場の2階。
普通の建物よりも高さがあり、大けがをする可能性が十分にある。

宗像は着地の瞬間に滑るようにして勢いを殺しながら信乃達の近くで止まった。

その動きは間違いなく信乃が使っていたA・Tと同じ。

「お疲れ様」

「僕は疲れるほどのことはしてないけど」

「でもレベル5と戦かったし、少しは疲れただろ?」

「お互いに殺意がない戦いなんて疲れるはずがないだろ」

「ま、否定できないな」

信乃と宗像は軽口を言いあった。

「一体あなたは誰なんですの? あんな激しい戦いをして、
 金髪の男の調査をして、そして何より信乃さんと同じA・Tを使ってます。
 どういうことなのか説明してくださいませんこと?」

白井が宗像へと問いかけた。

「あぁ、自己紹介がまだだったね。

 神理楽(かみりらく)高校 2年13組  "宗像 形"(むなかた けい)だ」

「神理楽高校って西折くんと同じ?」

固法が驚いたように言う。

「ああ。信乃の口利きで1年前から入学している。このA・Tもこいつに
 作ってもらった」

「やっぱり」

「A・Tを持っている人間なんて信乃にーちゃんの関係者じゃないとありえないわ」

「さっきから言っているA・Tってなんなの?」

納得した御坂と白井にA・Tを見るのも聞くのも初めての固法が聞く。

しかし、その疑問を信乃が遮った。

「後で説明しますし、雑談は後にしてスキルアウトの拘束を先にしましょう。
 今度は邪魔する前に」

「そうだな、僕は理事長に連絡する。あいつについての重要な手掛かりがあったし」

「ねえ、さっきから2人で言っている“あいつ”って誰なの?
 それだけでも教えてよ」

「それも後で」

御坂の質問もやんわりと断って歩き出したその時に


「やめてくれ! 殺さないでくれ“ハラザキ”!!」

錯乱状態がひどくなり、大声で誰かの名前を呼んだ。

「ハラザキ? ハラザキ!? ハラハラハラハラハザハラザキハラアアアアアアア!?」

奇妙な声を出しながら金髪の男は立ち上がった。

それと同時に顔から鼻血が出ている蛇谷も立ち上がる。

「まだ動けたのかよ、蛇谷」

黒妻が前に出て再び倒そうとした。

それを信乃が手を出して制した。

「黒妻さん、下がってください。彼はもう蛇谷さんじゃないですよ」

「なんだと?」

「ついでに言うとボスの方も意識が完全にない」

「な、何を言ってますの?」

意識がない、それなのに歩いてくる。

信乃と宗像以外は意味が分からなかった。

だが歩いてくる瀕死のはずの2人を見てみると理解できた。

蛇谷は顔面を殴られて気絶した。
鼻が見るからに変形しているから骨が折れているのは間違いない。

金髪の男も右腕に激しい裂傷がある。
歩いてくる今もそこから血が流れ落ちていた。

2人とも怪我の痛みで身動きをとることもできないはず。
意識を失ってもおかしくない程の大怪我。

それなのに歩いてくる。2人は表情を見れば白目をむいたままだった。

ゾンビ? 死人? 目の前にあるのはホラー映画のワンシーン?

状況を理解すればするほど4人は気味が悪くなっていった。

しかし信乃は冷静に言う。

「痛みでまともに動けない筈なのに、何事もないように歩いてくる。
 ・・それに魔力も感じない(ボソ)

 間違いなく操想術(そうそうじゅつ)だな」

「ということは時宮(ときのみや)か」

信乃の呟きに宗像が返す。信乃以外で唯一冷静、全く動じていない宗像と会話と
会話を始めた。

「キャパシティダウンって知っている?」

信乃は先程調べた装置について宗像に聞く。

「いや、知らないな」

「能力を無効化する装置。ビックスパイダーがあいつと独自に取引して
 手に入れたと思われるものだ。
 さっき(バラ)してみたら罪口(つみぐち)特有の作り方をしていたよ」

「時宮に罪口・・・これだけで確定だな。まあ、それよりも今はこいつらを、
 操り人形をどうするかだ」

動じなかった2人だけが冷静に話していく。

「宗像、潜入中にそれらしい人はいたか?」

「残念ながら。やつらの雰囲気は独特だからすぐにわかるはずだ。
 ボスを調べてからほぼ24時間、行動を一緒にしていた。
 その間には会っていない筈だ。
 そう考えるとスイッチ式の操想術みたいだ。そのスイッチは」

「“ハラザキ”。この名前を聞いたから、で間違いない。
 理由は拷問されても情報を漏らさないため、だろうな。相変わらずエグい。
 こいつらを早く開放してあげようぜ」

「殺す? 操想術は簡単には解けないはずだけど、この方法なら簡単だ」

「物騒なこと言うな。俺が動きを止めるからその間に拘束して
 布を口の中に入れてくれ。舌をかまれて自殺されたら厄介だ。
 神理楽(ルール)の技術なら何とか解けるかもしれないからな」

2人で勝手に結論付けて行動に出た。

宗像はA・Tを使って数メートルまでジャンプする。

信乃はみんなから一歩前に出て意識を研ぎ澄まし、眼を(あお)へと変える。

自分の胸の前で両手を合わせるようにして叩く。


翼の(ウイングロード)
 Trick - Flapping Wings of Little Bird -


発生した突風が蛇谷たちに叩きつけられてそのまま壁にぶつけた。

壁に跳ね返って地面に倒れ込む前に、タイミングを合わせて落ちてきた宗像が
一瞬にして口に布を巻き、両手を手錠で体の後ろで拘束した。

「あとは氏神理事長に報告して終わりだ」

操想術で作られた空操人形。
人間の脳に掛かっているリミッターをはずされて常人離れした身体能力。
更に痛覚をマヒさせて怯むこともない。

相手にすれば間違いなく手こずる。格闘能力が高い黒妻でも、電撃で攻撃する御坂でもだ。

だが、例え時宮の空操人形と言えど、神理楽(ルール)の精鋭にして
王クラスの暴風族(ストームライダー)が2人いれば、ただの雑魚にすぎなかった。





数十分後、宗像が呼んだ黒服の男たちが蛇谷と金髪の男を連れて行った。
風紀委員として止めるべきだが、前と同じように神理楽高校が関わっているために
余計な口出しはできずに固法と白井は見送ることになった。

黒服達と入れ替わるようにして警備員(アンチスキル)が到着し、
ビックスパイダーを連れて行った。


「終わった終わった。と言っても最後の方は何が何だか分からなかったけどな。
 信乃には文句を言うのか蛇谷を助けて感謝するべきかよくわかんないぜ」

警備員に連れていかれるビックスパイダーを見ながら黒妻は呟いた。
その表情は自身の責任が取る事が出来て晴れ晴れとしている。

逆に固法は俯いていた。
黒妻が言うとおり、最後の方にゴタゴタしたことがあったが、
自分が今からやらなければならないことは変わらない。

それは

「ほら」

黒妻が固法の前に両手を出した。

固法がやらなければならないこと。
それは風紀委員として黒妻の逮捕だ。

「・・・」

「ほら、美偉」

促す黒妻を見て固法は決心をした。

「黒妻 綿流。あなたを暴行傷害の容疑で拘束します」

手錠を黒妻に賭けようとした時

「ちょっと待ってもらえませんか」

信乃が固法を止めた。

「西折くんどうしたの?」

「すみません固法先輩。ですが黒妻さんに聞きたいことがあるんです」

「ん、俺にか?」

「はい。黒妻さんが学園都市の外の病院で入院中に話したことを覚えていますか?

 『黒妻さん、あなたは自分が捕まる事が償いになると思いますか?』」

「そういえばそんなこと話したっけな。ビックスパイダーがもしも自分の知っている
 組織でなくなったら、自分でけりをつけるか言ったときの話の流れで」

「そのとき黒妻さんは
 『ただ捕まる事だけが償いじゃない。自分にできることをすることが本当の償いだと
  俺は思うぜ』って言いました。
 その言葉に偽りはありませんか?」

「どうしたんだ急に? 今はこんなことを話している状況じゃないだろ」

「今聞くべきだから聞いているんです。真剣に応えてください」

「そうだな、あの時と考えは変わらない。捕まるだけじゃなく自分にできることが
 あればそれをやることが償いになると思う。でも今はないから大人しく捕まるよ」

「わかりました」

信乃はポケットから1札の手帳のような物を出した。
黒い表紙には何も書かれていない。見た目からそれが何かを判別することができない。

「それは?」

「あなたに償いのチャンスを与えるチケット、のようなものです。
 『昔からやんちゃばかりやっていた俺だけど腕っ節には
  自信がある。こんな取柄で言いなら誰かのために使いたい。
  それが俺を活かしてくれた世界へのお礼にもなると思うから』

 これもあなたが言ったことです。
 この手帳を受け取れば、そのお礼の、償いのチャンスを手に入れることができます」

「!?」

「ただし、途中で逃げることもできません。一種の世界からの呪縛と言ってもいいです。
 本当はこんなことはしたくありませんが、あの時のあなたの表情があまりにも
 真剣だったのを鮮明に覚えています。だからこれを用意しました」

 受け取りますか? 償いと呪縛のチケットを」

「もちろんだ」

以外にも黒妻は即答した。

「ありがとよ信乃。これがなんかわからないけど、この決意を持って刑務所でも
 頑張ってくるよ」

再び固法に両手を出す黒妻。

「は~、捕まる事だけが償いじゃないって言ったでしょうが・・・。

 これは言い換えればあなたの社会上の罪を無効にするものです。
 中身を見てください」

促されて手帳を開く。それは予定を書き込む手帳ではなかった。


生徒手帳
 神理楽高校 3年
  生徒名 黒妻 綿流


「ようこそ、神理楽(かみりらく)高校へ」




つづく 
 

 
後書き
文才が無いので、ここで補足説明をさせてもらいます。

・宗像は氏神クロムの依頼で“ハラザキ”の調査を開始。
 “ハラザキ”と取引をしていると思われる金髪の男に雇われて潜入捜査。

・調査の途中、取引相手の蛇谷に会いに行くためにアジトに来る。
 そこで信乃と偶然に会い、周りに殺気を送って信乃と1対1で戦う状況を作る。

・蛇谷が“ハラザキ”の情報を持っていれば、金髪の男とまとめて神理楽(ルール)に引き渡す。

・蛇谷が“ハラザキ”の情報を持っていなければ、引き続き金髪の男の部下で
 潜入捜査を続行しなければならない。
 そのために風紀委員が負ける状況を作る布石として信乃の退場。

・“ハラザキ”の情報が見つかったからフルボッコ

補足は以上です。


はい! 読者の皆様も予想はしていたと思いますが、信乃は生きててました。
それどころか宗像は味方でした! しかもしかもA・Tを使っています!

作中で不明、疑問などありましたらご連絡ください。
後書き、または補足話の投稿などでお答えします。

皆様の生温かい感想をお待ちしています。
誤字脱字がありましたら教えて頂くと嬉しいです。
 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧