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好き勝手に生きる!

作者:月下美人
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第三十一話「黒の教壇! ――凶弾! …………あれ?」



 緊迫した空気が流れる。


 俺たちの総攻撃を正面から受けてもまったく応えた様子を見せないコカビエル。わかってはいたが、かなり厳しい戦局になりそうだった。


 ――勝てない。


 この一言が脳裏にチラつくが認めない、意地でも認める訳にはいかない。


 俺たちが負ければこの街は吹き飛ぶんだ。俺の育った街が――家族が、友達が、仲間が一瞬にして失うことになるんだ!


 だけど、木場の聖魔剣とやらでもまったくその身に傷をつけることが出来なかったんだ。堕天使の幹部という肩書は伊達ではない。


 小猫ちゃんの元に駆け寄る。幸い怪我は軽いようだった。


 アーシアの癒しの光が小猫ちゃんを治癒していく。


「――だ……まだだ、コカビエル!」


 木場……。


 新たに聖魔剣を作り出した木場は再びコカビエルに立ち向かっていた。


 そうだよな……こんなところで挫けてられねぇよな。
 

 俺は最強の『兵士』になるんだ。コカビエル如きに後れを取っていたら、到底叶えられないぜ!


「やってやる……やってやるよ! まだ終わってないんだからっ」


 俺も神器を発動させて奴に立ち向かっていく。振動の攻撃で少なくともダメージを与えられたんだ。まったく無意味というわけじゃない!


「ハハハハハ! まだ来るか! いいぞ小僧ども! そうでなくてはなっ!」


「聖魔剣よ!」


「いくぜぇ! ブーステッド・ギアァァァァァ!」


『Dragon install!!』


 コカビエルの周囲に聖と魔のオーラを漂わせた剣軍が咲き誇る。この範囲攻撃なら逃げられないだろう!


 回転数を上げる歯車。これが振動を増幅させる要だ。


 キィィィィ――――ンッ! という甲高い金属音を響かせながら跳躍。奴の頭上を取る!


 今こそ、レイ直伝の技と俺の新技をコラボさせる時だぜ!


「くらえコカビエル! レイ直伝――拳撃三歩、振動バージョン……振撃三歩だぁぁぁぁっ!!」


 コカビエルは不敵に笑いながら俺を見上げていた。


「ふん、これで囲ったつもりか? と、言いたいところだが、赤龍帝の小僧の一撃には興味がある。よかろう、貴様の拳と俺の拳、どちらが上か勝負といこうか!」


 大きく腕を引いた奴の拳に光が集まる。収束した光の拳と俺の魔力と振動を込めた拳が衝突した。


「はあああああああァァァァァ!」


「ぬぅぅぅぅううううううんっ!」


 互いの拳は拮抗し合い、そして弾かれる。


 大きく弾かれたのは――俺だった。


「つまらん、こんなものか……」


 くぅ……っ! あれでもダメか!


 奴の拳からは少量の血が流れていた。あれだけの攻撃を受けてあの程度のダメージ……。


 ――これが、堕天使コカビエル……。


 この場にいる全員が肩で息をして絶望的な表情を浮かべていた。


「しかし、貴様ら神の信者と悪魔はよく戦う。使えるべき主はもういないというのにな」


 ……? 神はもういない?


 突然、意味の解らんことを喋り出すコカビエル。なにを語るつもりだ?


「……どういう、ことだ?」


 気絶から目が覚めたゼノヴィアが腹部を押さえながら立ち上がった。


 それを見て奴の口角が持ち上がる。まるで、無知な物を嘲笑うかのように。


「クハ――クハハハハハハハハハっ! そういえばそうだったな! 貴様らは知らんのだったな! ならついでだ、教えてやろう。貴様らが崇め奉る神とやらは、既に――オロローン――たのだよ!」


 何かを口にしようとしたコカビエルだが、突如聞こえた珍妙な鳴き声に言葉を遮られた。っていうか、さっきから所々聞こえたぞこの鳴き声! なんなの一体!?


 押し黙ったコカビエルは勢いよく振り返った。つられて俺たちもそちらに視線を向ける。


 そこには一人の男が立っていた。


 コカビエルは男を――倒れ伏したはずのフードの男を見つめる。


「生きていたかイングリット。しかし、貴様はすでに用済みだ。この場から消え失せ――」


「――零時三十一分、時間……オベローン」


 オロローン。


 ――っ! またあの声だ。一体どこから……。


 その時、フードの男の影が大きく蠢いた。


 突如、面積を拡大した影。その影の中からナニかが現れる……!


「あれは……イタチ?」


 部長の言葉に俺も思わず目が点になる。陰から現れるというわけのわからん登場をしたのは、可愛らしい一匹のイタチだった。


 全長五十センチほどの小さな小動物。白い毛並みを持つイタチはつぶらな瞳でキョロキョロと周囲を見渡し、フードの男の肩に飛び乗った。


 フードの男の雰囲気が柔らかくなる。余程可愛がってんだろうな……。


「オベローン……ぺっ」


「はっ?」


 その光景に思わず目が点になった。男の言葉にイタチが吐き出したのだ。


 ――自身の身体の何倍の大きさを持つ成人男性を。


 わけのわからない展開に皆が凍りつく。あのコカビエルもどうすればいいのか分からない様子だった。


 小さな体から大柄な男を吐き出すというイリュージョンを見せたイタチは「僕関係ないもん」とでもいうようにフードの男の肩の上で丸くなっている。


 吐き出された大柄な男はよれよれの白衣を着ている。全身をイタチの唾液でベトベトにしながらうんうんと唸っていた。


「博士……起きる」


「うぅーん……まったく、オベローンの中はあまりよろしくない環境ですねぇ」


 バリトンを利かせた声。頭を振って立ち上がった男の身長は一メートル八十は近くあるようだった。


 瓶底のような丸メガネを掛けたボサボサの黒髪をした博士と呼ばれた男。確かに一見すると博士っぽく見えるな。


 っていうか、なんなんだコイツら……?


「ふぅ……まあいいでしょう。それでぇ、イングリット。状況は?」


「博士の予想通り」


「ふむ、予想通りの結果ですかぁ……」


 丸メガネを押し上げた男――博士は俺たちに向き直った。な、なんだ?


 スタスタと早歩きでこちらに歩み寄ってくる博士は部長の数歩手前で立ち留まると、ペコッとお辞儀した。


「ああ、どぉも。初めまして……わたくしぃ、フォフマン・N・ガネーシャといいまぁす。うちのイングリットがお世話になりましたぁ。これ、つまらないものですがどぉぞ」


「えっ、は、はぁ……ありがとうございます?」


 懐から取り出た小包みを部長に渡す。キョトンとした目で思わず受け取ってしまった。


 なんとも言えない弛緩した空気が流れる。あの緊迫した雰囲気はどこへやらだ。


「あの、あなたたちは一体……?」


 部長の言葉に博士は苦笑いする。


「あぁ……これは重ね重ね、申し訳ありません。私たち、こぉいう者です」


 懐から取り出したのは何やら手帳のようなもの。黒を基調とした手帳の表には十字架に似たマークが描かれている。


「――っ! それは……!」


 部長の顔が強張る。なんだなんだ!?


 皆もなにがなんだか分からないのか首を傾げていた。ただ一人朱乃さんを除いて。


「……黒の教団」


「おやぁ、さすがにそこの御令嬢方はご存知でしたかぁ。では、改めてご挨拶しましょうかぁ」


 朱乃さんの零した言葉に感心したような顔で頷く博士。黒の教団ってなんだ? なんか聞き覚えがあるんだけど……。


 博士とイングリットと呼ばれたフードの男が並ぶ。


「わたくしぃ、黒の教団の第三部隊開発部に所属しています、フォフマン・N・ガネーシャでぇっすぅぅぅ。以後お見知りおきを。あ、ちなみに【ノウェム】の名を拝命しておりますぅ。ほら、イングリット。あなたも挨拶なさぁい」


「……同じく黒の教団、第二部隊捜索部所属……イングリット・O・パズラー。【オクトー】を拝命……。よろし、く……?」


「あなたは相変わらずのコミュ障ですねぇ。わたくしぃ、あなたの将来が心配で心配で、最近は夜も眠れませぇん。と、いうことで……安眠妨害として今夜のおかず一品下さいな☆」


 くねくねと身体を動かす博士。な、なんか個性的な人だな……。


 イングリットはポケットから飴玉を取り出すとポイッと口に放り込んだ。


「……あむ」


「ああッ! 辛いぃぃぃぃぃぃぃぃ!! 刺激がッ! 突き刺さるような刺激が私の前頭葉を刺激するぅぅぅぅッ! 刺激が刺激だなんて、なんて意味不なわたくしなんでしょうかッ! アヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャッ!!」


「……今日のご飯はハンバーグ。好物、ダメ」


 奇声を上げて悶絶する博士。飴玉食べたのはイングリットなのになんで博士が悶えるんだ……? もうカオスすぎるよこの人たち!


 ゴロゴロと地面を転がって悶えていた博士はスクッと立ち上がると、何事もなかったようにメガネを押し上げた。


「――さて、頼んでいたでぇたは取れましたかぁ?」


「ん。感度良好……」


「そぉれはとぉぉぉぉぜんですよぉぉ! なにせプァァァアアアフェクトなこのわたくしが作ったのですからぁ!」


 イングリットから渡された小さなリングを手に取りクルクル回り出す博士。あかん、この人のテンションについていけへん……。


 レイと気が合いそうだなと、思いはするけど口に出してはいけない!


 っていうか、結局黒の教団ってなんなんだ?


「メンバー全員が上級悪魔に匹敵する力を持ってると言われてるエクソシスト集団だよ。人間であることに誇りを持ち、人外の存在を決して許さない」


 難しい顔で語る木場。補足するようにゼノヴィアが口を開く。


「我々協会も彼らとは相容れない存在ゆえに距離を置いている。情けない話だが、まともに相手をすれば組織の維持すら困難になるほどの被害を食らうのが目に見えているからだ。彼らはそれほどまでの存在と認識していい」


 ――っ! 一人ひとりが上級悪魔並みの力を持っているだって!?


 この変人たちが? とてもそうは見えないけど……。


「さてさて、ご挨拶も住んだことですしぃ、さっさともう一つの仕事を終えてかぁえりましょうか」


「……任務開始」


 博士とイングリットは頷き合うと、ふと動きを止めた。どちらからともなく顔を見合わせる。


「どぉちらがいきますかぁ? さすがに二人だと過剰戦力になりますからねぇ」


 過剰戦力って……俺たち全員が掛かっても相手にされなかったんだぞ? それを過剰戦力呼ばわりって……。


 いや、でも本当に上級悪魔並みの力を持ってるならそうなのか? いあやいや、そもそも上級悪魔見たことないからわかんないし!


 ああっ、こんがらがってきたぁ!


「……恒例の、ジャンケン」


「ですかねぇ……では」


「……ジャンケン」


「「ポン!」」


 博士が出したのはグー。対して、イングリットが出したのは――。


「……残念」


「いやいや、とぉぜんの結果ですよぉ。ちょぉっと計算すればわかることなんですからぁ」


「博士のそれ、チート……」


「ひどいですねぇ」


 残念そうに下がるイングリット。


 腕を組んで大人しく事態を眺めていたコカビエルに対峙する博士。本当に大丈夫なのか?


「もういいのか? これから死に行くのだから遺言くらいは聞いてもいいぞ」


「こぉれはこれは、随分とおもしろいじょぉくをいいますねぇ。たぁだのカラスに後れを取る程、わたくし耄碌してませんよぉ?」


「ふっ、この俺をカラス呼ばわりか。面白い! 最強のエクソシストとやらの力を見せて見ろ!」


「かぁってに見たければ見ればいいんじゃないでしょぉか。まぁ、見せるにはちょぉぉぉっと弱すぎますがねぇ。と、いうことでぇ、ハニーを使うまでもありませぇん」


 イングリットの肩に乗ったイタチが口をもごもごさせる。


 ペッと吐き出したのは……ネギ?


「この、長ネギぶれぃどでミィィィィィィンチにしてあげましょぉぉぉぉぉかぁ」


 一本の立派な長ネギを手に悠々と構える博士。


 ――って、なんじゃそりゃぁぁぁ!?

 
 

 
後書き
 ようやく黒の教団を登場させることができました! この子たちはレイに次いでお気に入りのキャラたちです。

 個性的なメンバーで構成されていますので皆さんも気に入ってくれればと思います!
 
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