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とある碧空の暴風族(ストームライダー)

作者:七の名
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武装無能力者集団
  Trick28_だから殺す



ピリリリリ

「ヒッ!? な、なんだよ、電話か、脅かしやがって」

ピッ

「もしもし、おぉ俺だ。あ? キャパシティダウン?
 おう、ちゃんと使ってるぜ。
 ・・・うっせえな! こっちもごたごたしてんだよ!!
 今は能力者狩りどころじゃ・・・なんだと?
 ・・・・わかった、ハラザキ」

ビックスパイダーのボスは誰もいないアジトで電話を切った。










黒妻 綿流 と 固法 美偉

2人の出会いは2年前に遡る。

当時の固法は能力が上がらずに壁にぶつかっていた。
壁を中々乗り越えられず、追い詰められた彼女は自分の居場所を探していた。

そんな固法に輝いて見える人が現れた。
いや、最初からいたが今まで視覚には入っていなかったのに気付いた。

固法が輝いて見えたのはどこにでもいる無法者の集団であるスキルアウト。

そのスキルアウト、ビックスパイダーは普通のスキルアウトと違って
ただ仲間たちと馬鹿やって楽しんでいた。
決して今のような乱暴者ではなった。

馬鹿やっている姿が固法には輝いて見え、そして魅かれるように彼らに加わった。

自分が能力者であることを隠してまで彼らと付き合い、一人の男性に普通以上の
感情を抱いた。

黒妻 綿流。ビックスパイダーのリーダー。
居場所がない自分を受け入れた彼に固法は恋をした。


ある日、スキルアウト同士の争いが起こった。
争いは日常茶飯事だが、今回は少し違った。

仲間の蛇谷が人質に取られ、黒妻は一人で来るように呼び出された。

固法は止めた。だが、黒妻は聞かず助けに行った。

固法は急いで追いかけて黒妻が呼び出された場所に到着、そこで見たものは

 爆発したかのように壊れた建物

  黒妻の名前を呟きながら泣く蛇谷

   焼け焦げた黒妻の皮ジャン

助からなかった状況、固法が見たのはそれだった。


その後、固法は風紀委員(ジャッジメント)になった。
なぜ風紀委員になったのかは言わなかったが、その出来事がきっかけになったらしい。



一方、黒妻は爆発の時に近くの川に偶然落ちて流されていた。

その川は学園都市の外に繋がっており、黒妻は目が覚めた時には学園都市外の
病院のベットの上だった。

見つけたのは自分よりも年の小さな少年。
彼が救急車を呼び、適切な応急処置をしたために助かったらしい。

その後、黒妻はリハビリ施設に送られて、施設から出たもの今から半年前の最近だった。

黒妻が学園都市に戻ってきたのは自分が作った組織がどうなったか気になったから。
そして知ったのは無法者の集団にして能力者狩りをしている組織となっていること。

だから黒妻は決めた。

自分がいない間に変わった、自分の作った組織。それを自分の手で潰すことを。



固法は迷っていた。死んでいたと思っていた黒妻が生きていた。

自分は風紀委員、ビックスパイダーを捕まえる立場の人間。
もちろん、人助けのためとはいえ暴力をふるっている黒妻も。

月日がたっても、立場が変わっても変わらない想いがある。
黒妻への想いは固法の中では変わらずにいた。





当時の固法を知る、固法の寮の同室の人
そして当事者である固法と黒妻に聞いた内容

御坂はここ数日でわかったことを白井、信乃に話した。
静まり返った風紀委員支部の部屋。3人の他にはだれもいない。

「だから2人には協力して欲しいの」

神妙な顔で御坂は2人に本題を切りだした。

「協力と言いましてもお姉様、明日は・・・」

「はい。ストレンジが一斉摘発をすると連絡がありました。
 一体何をするつもりですか?」

昨日、全ての風紀委員に連絡があった。

  警備員(アンチスキル)本部はスキルアウトの能力者狩りに対抗し、
  第10学区、通称ストレンジの一斉摘発を行う。

明日になれば全て解決する。自分たちが事件に関わらなくても。
そういう意味で信乃は何をするのかと聞いた。

「もちろん固法先輩を助けに行くのよ。一斉摘発のことは固法先輩も知っている。
 今日話した時も気にしていたわ。だから」

「明日、固法先輩は動くと言うことですか。
 でも質問があります。何に協力するんですか?

 固法先輩がやることに? それとも固法先輩を止めることに?
 はたまた固法先輩がビックスパイダーに手を出す前に私達だけで潰すことに
 協力するんですか?」

「大丈夫。固法先輩は迷っていたけど、絶対に間違わない。
 私が手伝ってほしいのは、固法先輩がこの事件を解決する事よ!」

「信じてますのね、お姉様は固法先輩のことを」

「うん!!」

御坂の力強い頷きに信乃と白井は呆れたような笑みを浮かべた。

「わかりました。その依頼、西折信乃が請け負いましょう」

「わたくしも微力ながらお手伝いさせていただきますわ」

2人の返事を聞いて御坂はガッツポーズを取った。

「決戦は明日! 装備を万全にしていかなくっちゃ!」

「装備といっても、御坂さんはコイン、白井さんは鉄矢の数を確認するぐらい
 じゃないですか。おおげさですよ」

「信乃にーちゃんはA・T(エア・トレック)をちゃんと持ってきてよ」

「信乃にーちゃん言うな。

 それにあれはダメです。使いすぎると足に負担がかかると言うことで
 あと1カ月は許可はでませんよ」

本当は力が強すぎるため、特定の相手の時だけしか使わないように氏神から言われた。
御坂達に話すと面倒なことになりそうだから適当に嘘を言った。

「そっか・・・・」

「信乃さん大丈夫ですの?」

「木刀を持つから問題ありません。素手でも新人風紀委員の武力指導が
 出来る程度には自信がありますよ

 それに、この前の常盤台はA・Tなしで解決したのを忘れたんですか?
 誰かさんが気絶している間に」

「う”!!」

白井は短く呻いた後に目線を横へと逃がした。

「あ、そうだ! 信乃に―、信乃さん糸持っている?」

「裁縫セットに糸が入ってるはずですが?」

支部に常備されている裁縫セットを信乃は棚から取ってテーブルの上に置いた。

「はい、どうぞ」

「いや、信乃さんが持ち歩いているかどうかを聞いてるの」

「? いえ、持ってませんが」

「それじゃ、これ」

御坂から渡されたのは裁縫セットに入っている白糸。
ミシン用のもので30メートル程の糸がプラスチックの筒に巻かれている。

「確か拘束術だっけ? 糸さえあれば出来るでしょ。便利な技よね」

「!?」

信乃は表情には出さなかったが、このことにかなり驚いていた。

もちろん御坂と白井は気付いていない。

「なんですの、その技って?」

「昔、銀行強盗を倒した時に使っていたの。持ち歩いていた携帯裁縫セットの
 糸で倒した犯人の腕を縛ってさ。本当だったら腕力で千切れるはずなのに。

 なんだっけ、きょうげん・・とか言った名前だっけ?」

「・・・・ごめん琴ちゃん。あの技、出来るだけ使いたくないんだ」

「え?」

信乃が一瞬見せた顔、そこには恐怖で怯えるのを我慢しているような、そんな顔だった。

「だからいらない」

信乃は糸を裁縫セットの中へと入れて棚へと戻す。

「さ、一斉摘発は朝早くから行われるみたいですし、固法先輩を待ち伏せするから
 今日は早く帰って寝ましょう」

「あ、待ってよ!!」

誤魔化すように、逃げるように信乃は早々と支部から出て行った。





「ふぁ~。眠みぃ」

翌日の早朝。

ビックスパイダーのアジトの入り口で一人の男があくびをした。

アジトの見張り役として立っていた男だが、近づいてくる赤髪の男に気付かない。
見張り役を怠ったために、眠気と一緒に自分自身が吹き飛ぶことになった。
いや、眠気ではなく自分の意識が吹っ飛ぶことになった。


「ぐぁ!!」

ビックスパイダーのアジトのドアが見張りの男と一緒に吹き飛んだ。

朝の光を背に立っている男が一人。

早朝にも関わらずビックスパイダーのメンバー全員がそこにいた。

「朝っぱらから忙しそうだな・・・・終わらせにきたぞ」

赤髪の男、本物の黒妻が睨む。

「てめぇはこの前の! よくも仲間を!!」

黒妻を見るなり殴りかかってきた男たち。

だが黒妻は難なく拳を避けて腹をひざ蹴りする。
他の数人も同じようにあっさりと倒れ伏した。

「・・・たしかにあんたは強ぇ」

偽の黒妻にして現ビックスパイダーのボス、蛇谷は部下を倒した男へと言い放つ。

「だがな!! そんなのは能力者と一緒だ!!!」

蛇谷の叫びと同時に残りの部下たちが一斉に銃を取り出した。

「数と武器にはかないっこねぇんだ!!!」

複数の銃口が黒妻に向いた。

「待ちなさい!」

不意にアジトの入り口から女の声が聞こえた。

全員がそちらを見ると

「美偉・・・」

黒妻がその女の名前を呼んだ。

固法はビックスパイダーに入っていた当時の赤い皮ジャンを着ていた。
そして右腕には風紀委員の腕章の緑が目立つ。

「かっこいいじゃねぇか」

「ふふ・・」

腕章を見ながら“今”の固法美偉を褒めた。そして固法は照れ臭そうに微笑する。

「こ、個法さん!?」

そしてビックスパイダーの中で唯一固法に面識がある蛇谷が驚いた。

「蛇谷くん、あなたずいぶん下種な男になり下がったわね。
 数に物をいわせて、その上武器?」

「う、うるせぇ! 俺たちを裏切って風紀委員になった奴に何がわかる!!
 おら! こいつらに俺たちの力を見せてやれ!!」

蛇谷の命令で、固法を含めて2人に銃口が向き直った時

 カシャン カキン カン  キン  カン

全ての銃に鉄の矢が刺さった。

白井のテレポートで鉄の矢が飛ばされ、全ての銃が使い物にならなくなった。

「今度は直接体内にお見舞いしましょうか?」

自身もテレポートで現れ、同じ鉄の矢を持って相手に脅しをかける。

「くっ! だ、だが俺たちにはアレが「あれって」  え?」


  ュドオオオオォォォン!!!!


「うぉおおおお!?」

超電磁砲(レールガン)がキャパシティダウンの車を、アジトの壁ごと破壊した。

「あれって、これのこと? まさか同じ罠に二度引っかかるなんて思ってないわよね?」

「な!? ででも、一台だけだと思うな!
 このアジトには予備にもう一台「これのことですか?」 え?」

蛇谷の虚勢の叫びが再び遮られる。

声はアジトの片隅。能力者狩りのために持ち歩けるように一台は車に積んでいた。

そして臆病な蛇谷はもう一台のキャパシティダウンを所持、自衛のために
アジトの中に備えていた。奥の手として持っていたのだ。

その重要な場所から知らぬ声。その自慢の装置は一人の人物の足元に分解されていた。

「いや~、面白い装置だね。ついつい分解して調べちゃいました」

信乃の両手には分解に使った工具を各指の間に挟んでたたずんでいる。
分解された部品はネジ一本に至るまできれいに並べられていた。

「て、てめぇ!!」

「怒るなよ。それもと何か?

 あんたも(バラ)して並べて揃えて晒して欲しいのか?」

「ひっ!?」

不敵そうに笑う信乃。

「おまえ、信乃か?」

「「「え?」」」

黒妻から信乃の名前が呼ばれ、御坂と白井、個法が思わず疑問の声が漏れた。

「お久しぶりです黒妻さん。でも、今は再会のあいさつをしている場合じゃ
 ないですよ?」

「そうだな、積もる話もまた後でだ」

ニヒルに笑った信乃に、黒妻もまたニヒルに笑い返した。

そして黒妻が見るのは自分が作った組織で、自分が知らないばかりのメンバーの前へと
進み歩く。

信乃、御坂、白井も加勢しようとしたが

「あなた達は手を出さないで」

固法に止められた。

「たまには先輩をたてなさい」

「そうですね」「わかりましたわ」「うん」

3人が異音同義で答えた。

「おまえら! いっけよ!!」

けんかの強い男、風紀委員が3人、常盤台の超電磁砲にビビっていた部下の背中を
蹴り飛ばして無理矢理戦いに行かせる。

「は!」

黒妻も笑いながら向かい集団の中へと走り出した。

殴りかかってきた奴を避けて空いた背中に肘を突き落とし
横薙ぎに振られた鉄パイプをかがんで避け
向かってきた相手2人に顔面を右ストレートと腹を蹴飛ばして連続でカウンター
逆に3人が密集している場所に自ら飛び込んで顔面を蹴って他の2人も殴る

圧倒的。たった一人にも関わらず圧倒的な強さで黒妻は君臨していた。


「おー“けんか”で強い人、初めて見ましたよ」

信乃が御坂、白井の所に歩いてきて呟いた。気分は完全に観戦モード。

世界を回ってきた信乃は、格闘戦で強い人を何人も見ている。
だが全ての人が流派や軍格闘技などの“型”を持っていた。

黒妻の動きにはそのような洗礼された動きはない。
だからこそ強さが感じられた。

「黒妻さんと知り合いでしたの?」

黒妻と信乃との会話は明らかに知人同士。そのことを白井は質問した。

「ええ、学園都市外に川で流されたって話していたじゃないですか。
 その時に見つけた少年ってのが私なんです」

「「ええぇーーーーー!!」」

「入院中も何度かお見舞いに行きました。ビックスパイダーについてや自分を
 慕ってくれた仲間達、そして自分を好いてくれた少女、“みい”さんについても」

「それって」「もしかして」

「個法先輩に会う前から黒妻さんから色々聞いていたんですけどね。
 一昨日まで全く気付きませんでした、“みい”さんが固法先輩だとは。
 いや~、運命とは面白いものですね」

あはは、と笑いながら信乃は戦い続ける黒妻を見て、その目線につられて
御坂達も戦いを見守った。


「おいおい、もうちっと気合入れてかからねぇと張り合いがねぇぞこら!!」

黒妻の強さと声に全員が怯んでいたが、一人だけが微笑を浮かべてポケットに手を入れた。

「!」

固法はその男の不審な動作を見逃さず、能力を使って男を見た。

透視能力(クレアボイアンス)
名前の通り、物体を通して向こう側を見る能力。固法の能力であり、レベル3と
能力も高い。

固法は即座に男のポケットにあるものを見透かした。

そして一気に近づき、ポケットから出される前に相手の手首を捻り上げる。

「ぐあ!」

男の手から銃が落ちた。

「これは募集ね。このスタンガンもね!」

同じく男が胸のポケットに隠し持っていた武器も抜き取り、持ち主へと当てる。

「なんで っが!?」

疑問の叫び声はスタンガンの電撃で言い終えることなく黙らせた。

「それがお前の能力か。すげぇじゃねぇか」

「・・でしょ?」

固法は照れながら黒妻に笑い返す。

「うぉら!」

「おっと。俺も、負けてらんねぇな!!」

隙をついて殴りかかってきた男を交わし、拳を腹にぶち込む。

 ごぁ! ドス  ぎゃ!  バン  げほ!

黒妻と固法。2人だけで戦っているのに、スキルアウト達を圧倒していった。




「・・・・・・」

「さて、あとはおまえだけだ、蛇谷」

ビックスパイダーのメンバーは蛇谷を除いて全員が気絶している。
黒妻と固法の2人によって。

「は、はは、これで勝ったつもりかよ。これを、見ろー!」

自分が付けてる皮ジャンの下を見せるように広げる。

そこには

「ダイナマイト!?」「うわ、いつの時代の方ですの」「しかも紐に着火する旧式」

御坂が単純に驚き、白井が呆れかつドン引きし、信乃が呆れの補足説明。

蛇谷の腹には数本のダイナマイトが巻かれていた。信乃の言った通り紐に着火して
爆発する昔のタイプがガムテープで蛇谷の腹に固定されている。
手にはライターを持っていつでも着火できることを脅して見せた。

「これ以上近づいてみろ。みんなドカ~ンだ!」

「ドカ~ンとは、また子供みたいな表現を」

「信乃さん、今はシリアスな場面ですの。少しお静かに」

信乃の空気を読まない突っ込みに白井が注意した。

「どうだ! どうした! びびったか!」

「あ~めんどくせぇ」

黒妻は着ていた皮ジャンを抜いた。

皮ジャンの下には服を着ておらず、鍛えられた素肌が現れる。
そして背中には蜘蛛の刺青。黒妻とビックスパイダーの象徴ともいえるものがあった。

見るからに丸腰。そのままの格好で蛇谷へとゆっくり近づいて行く。

周りは黒妻に任せることを決めたようで、何も言わずに2人を静観した。

「蛇谷、昔は楽しかったよな」

「く、来るな! 来るなって言ってんだろ!!」

「みんなでつるんで、バカやって、それがどうしちまった?」

 ドスン!

固まって動かない蛇谷の腹に、渾身の拳が突き刺さった。

「ぐは・・・」

膝をつき、巻いていたダイナマイトは散らばって落ちた。

「どうしちまったよ・・・蛇谷」

表情は見えない。だが悲しい声で聞いた。

「・・・しょうがなかったんだよ。俺たちの居場所はここしかねぇ。
 ビックスパイダーをまとめるには俺が黒妻じゃなきゃだめなんだ」

殴られた腹を抱え込みながら泣く蛇谷。
だが急に立ち上がった。

「だから今更てめぇなんていらねぇんだ!!」

そして隠し持っていたナイフで切りかかった。

 ドゴン!!!

ナイフを皮一枚で避けてカウンターで蛇谷の顔を殴る。躊躇なく、遠慮なく、未練なく。

拳は顔にめり込み、倒れた蛇谷は鼻が折れて鼻血が大量に出た。
間違いなく悶絶する怪我だったが、あまりの攻撃でそのまま蛇谷は気絶した。

「蛇谷・・・居場所ってのは自分が自分でいられる所を言うんだよ・・・」

頬の蛇谷に切られた傷から血が流れ落ちた。



「一件落着みたいですね」

蛇谷を殴り倒した後の沈黙から一番に声を出したのは信乃だった。

「さて、警備員(アンチスキル)が来てるらしいですけど、ここは
 ストレンジの一番奥ですし一応は彼らを拘束しておきますか?」

信乃の問に御坂、白井、個法が静かにうなづいた。

「ちょっと待った」

急に呼びとめられて全員が振り向いた。

そこは御坂が超電磁砲で空けた壁の大穴。2人の人物が立っている。

信乃は急いで御坂達の前に立つように移動して構えた。

「勝手に捕まえてもらっては困る。その男との取引はまだ終わっていないからな」

2人組が穴から建物に入ってきた。

一人は金髪を逆立てた髪型、背が高いが針金細工のように細くて手足が長い。
歳は20歳前後だろう。

もう一人は一見すると普通の男。日本人の黒髪黒眼。歳は高校生程度。
少しだけ長い後ろ髪を一つに束ねている。
ただ、さっきから威圧感を静かに放っていた。

「まだ料金を払い終えていないんだ。勝手に捕まえてもらったらダメだよ」

先程と同じくしゃべったのは金髪の男。
大人数のビックスパイダーを倒した黒妻と風紀委員たちを目の前にしても
怯えと言うものを全く感じさせず淡々としゃべる。

その男の言葉に返したのはこの場にいる風紀委員で一番の先輩である固法だった。

「そういう訳にはいかないわよ。あなたが誰かは知らないけど勝手は許さないわよ。
 それにビックスパイダーと関わりがあるみたいだけど話を聞かせてもらえる?」

穏やかに話しているように見えるが、有無言わせない雰囲気をしている。

「きれいな女の子に誘われるとは嬉しいね。お礼に質問に答えよう。

 ビックスパイダーと関わりがあるかについてだけど、うん、そうだよ。
 深い関わりがある。俺が商人で彼らがお客さん、商売関係にある。
 君達は戦っていただろ? だったら銃を見たはずだ。

 その銃を売ったのは俺だよ  」

「!?」

教えられた事実に驚く一同。

「といっても最近は料金が滞納しているし、俺とは別の奴と取引を始めた
 みたいだから様子を見に来たらこの様だ。まったくどうしてくれるんだい?」

「おい、そこの金髪野郎。こいつらに武器を売ったのはお前で間違いないんだな?」

怒りを噛み殺したようにしゃべる黒妻。
この男が銃を売ったのであれば、今のビックスパイダーになってしまった一因が
こいつにはある。

自分の大好きな居場所だったここを変えた理由がこの男にある。

「そうだよ、聞こえなかったかな? 今言った通りに売ったのは俺だ。
 何か問題でも?」

笑って言い返された。

「て、てめぇ・・・」

「お~怖い怖い。俺は戦闘ができないんだ。宗像(むなかた)、相手してやれ」

側にいた黒髪の男が一歩前に出た。


その瞬間、本物の殺気がこの場を支配した。

「「「「!?」」」」

その男から放たれたのは、スキルアウトからは感じられなかった殺気。

もちろんスキルアウトに殺すつもりがないと言うわけではない。
ただ単純に実力差があり過ぎるのだ。

「ボスには手を出させるわけにはいかない。挑んでくるなら殺すよ?」

静かに宗像はしゃべった。

「クロムさんがスキルアウトに気をつけろって言ってたな。
 こういうことも含めて気をつけろって言ったんだな」

2人が現れた時から構えていた信乃だけが大した驚きも出さすに呟いた。

「なによこの威圧感・・・・」

御坂は体を震わせながら弱々しく言った。
自分の腕で自分の体を抱くようにして必死に震えを止めようとしている。

いくら学園都市で3位の実力を持っていても素顔は中学生の女の子。
本物の殺気を向けられたことはないはずだ。

白井も御坂と同じような状態で弱々しい。離れたところにいる固法も同じだ。
だが彼女達は風紀委員。そのプライドが何とか冷静さを支えていた。

黒妻は先程までは金髪を殴りかかろうと怒りに満ちていたが、殺気を浴びて
体が固まり冷や汗を出している。
それでも殺気を浴びた直後には即座に戦えるように構えていた。
スキルアウトながら長年の戦いの経験からとった行動だ。

「こんな殺気を出して『殺す』なんて言ってるとまるで殺人鬼のようですの」

虚勢を張るように無理矢理、白井は言った。

「殺人鬼? 失礼だな、人を無差別殺人をするような鬼と一緒にしないでくれ。
 僕は理由なき殺人鬼じゃない。“理由ありきの殺人者”だ。

 リーダーに手を出させるわけにはいかない。だから殺す。
 ビックスパイダーを倒せる奴を弱い僕が倒せるはずがない。だから殺す。
 僕一人で5人も相手ができない。だから殺す。
 お金の取り立てのために早くこの戦いを終わらせないといけない。だから殺す。

 今日の朝日はとても気持ちがいい。だから殺す。
 朝ごはんの味噌汁がうまく作れた。だから殺す。
 昨日はいい夢が見れた。だから殺す。
 警備員がすぐそこまで来ている。だから殺す。
 朝は急いでいたから携帯電話の電池が切れそうだ。だから殺す。
 特に何もない。だから殺す。

 全ての道がローマに通じるように、僕にとっては全ての現象が殺人に
 繋がるだけなんだよ」


   異常

その場にいた者のほとんどが宗像に感じたことだ。

戦うどころか関わりたくもない。

殴ろうと活き込んでいた黒妻も、殺気のことは関係なしにそう思っていた。

「みなさん、下がっていてください」

信乃が安心させるために笑顔で言った。

「この異常者の相手は私がします。一切手出しはしないでください」

「君は友達をかばって前に出るなんて、君はきっと優しい子なんだね。
 とても仲良くなれそうな気がするよ。

 だから殺す」

いきなり2本の刀を宗像は握っていた。

「やってみろ殺人者。俺は殺されたくらいじゃ死なねぇよ。
 本気を出して相手してやる!」

持ってきた木刀を構えて宗像を見据える信乃。
その黒色の瞳には強い決意が宿っていた。



つづく
 
 

 
後書き
アニメオリジナルを自分オリジナルに大量改良してみました。

作中で不明、疑問などありましたらご連絡ください。
後書き、または補足話の投稿などでお答えします。

皆様の生温かい感想をお待ちしています。
誤字脱字がありましたら教えて頂くと嬉しいです。
 
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