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イドメネオ

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第一幕その五


第一幕その五

「正義の神々よ」
「海の神々よ」
 海の世界なのでポセイドンに対して願っていた。
「どうかお慈悲を。我等の王を」
「だがこの荒れた海が。嵐が」
「我等を恐怖で押し潰す」
「どうか陛下を」
 彼等は自分達の王の無事を心から願っていた。この時海辺に壮麗な黒い鎧にマントを身に着けた男が息も絶え絶えだが何とか陸に上がっていた。白いものが混じりながらも黒い立派な髪に引き締まり威厳のある端整な顔を見せている。彼がこのクレタのおうイドメネオだった。
「陛下、よくぞ御無事で」
「その方達もな」
「皆何とか陸に辿り着くことができたようです」
「それは何よりだ」
 王は立ち上がりつつ周りの者達に述べた。
「あれだけの巨獣に襲われながらも」
「海に飛び込んだのが正解だったようです」
「そうだ。何はともあれクレタに辿り着いた」
「はい」
 これは確かだった。
「荒れ狂う波から逃れここまで帰って来た。ポセイドンよ、ですがどうしてこの様な仕打ちを。例え貴方の尊い牛を失ってしまったとしても」
「王よ、それ以上は」
「ポセイドンの冒涜になります」
「わかった」
 従者たちの言葉に従いまずは言葉を止めた。しかしすぐに口を開いてまた言った。
「私は今に見るだろう。私の周りに私自身を責める亡霊達を。彼等は昼も夜も私を責め刺し貫かれた胸と血の気の失せた身体を見せて私の犯した罪を見せるだとう。それが恐ろしいのだ。私の為に死んだ者達の悲しみが」
「王よ・・・・・・」
「それは・・・・・・」
「だが私はいいのだ」
 しかし彼はこうも言った。
「イダマンテさえ無事ならば。我が子さえ。・・・・・・むっ!?」
「あれは」
「人が来ます」
「あのマントは」
 紅のマントの者が前から来るのが見えた。そしてそれは。だがここで波が彼等を襲った。イドメネオはそれを受けて神に対して祈った。
「ここにおられればいいが」
「はい」
「全くです」
 イダマンテの周りにいるアルバーチェと兵士達は強張った顔で彼の言葉に頷く。
「御無事だと思いますが」
「船は壊れましたが皆泳いで難を逃れたそうですし」
「父上もだな」
「そうです」
「だといいが。さて」
 この時イドメネオはポセイドンに対して祈っていた。
「どうかお救いを。我等に」
「救いだと」
 すると何処からか声が聞こえてきた。
「我に救いを求めるか」
「貴方はまさか」
「そうだ」
 重々しく厳かな声だった。その中には猛々しさがある。
「ポセイドンだ」
「では貴方こそが」
「汝が今祈った相手だ」
 今このことをイドメネオに対して告げるのだった。
「今しがたな」
「そうですか貴方が」
「クレタの王よ」
 ポセイドンはイドメネオを呼んできた。
「救いが欲しいか」
「私は構いませんがこの者達を」
 周りの従者達を手で指し示す。見ればどの者も酷く打ちひしがれている。
 
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