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後宮からの逃走

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第三幕その四


第三幕その四

「それなら。高貴な心を共に抱いて」
「ええ、二人で」
 最後に抱き合い言葉を交える。
「最期まで二人で」
「共にいましょう」
 こう言い合うのだった。二人の心は完全に一つになった。そしてここでそのセリムがオスミンを連れて戻って来た。彼は二人の前に来て問うてきた。
「今の気持ちはどうだ」
「慎んで何でもお受けしましょう」
「私もです」
 二人は互いに寄り添い合ったままセリムに告げる。ペドリロとブロンデも同じようになっている。
「ですからどうか」
「私達に報いを」
「そなたの父だが」
 セリムはここでベルモンテに彼の父のことを告げてきた。
「確かに手強い男だ」
「はい」
「だが。立派な男でもある」
 こう言うのであった。意外なことに。
「私の相手として相応しい」
「左様ですか」
「そしてだ」
 彼はさらに言葉を続ける。
「武器を持つ者以外には剣を振るうことがない。私もまた同じだ」
「!?」
 ここでオスミンが妙なものを感じた。するとセリムはまた言うのであった。
「そなたは祖国に戻るがいい」
「えっ!?」
「四人共だ」
 コンスタンツェはおろかペドリロとブロンデもであった。
「そなた達に自由を贈ろう。そしてそなた達が私の手中にあったにも関わらず自由にしてもらったと世に告げるのだ」
「またどうして」
「眼には眼をではない」
 セリムはベルモンテに対して告げる。
「悪に対しても徳だ。そしてそなたの父にも倣おう」
「父上にも」
「そなたの父も虜は無事返した」
 セリムはまた言う。
「我が子もまたな」
「そうだったのですか」
「これによりそなたがその父以上の人物になればさらにいい」
 セリムはさらに徳のある言葉を述べた。
「私のこの行いも報われよう」
「ですが太守様」
 オスミンが今にも爆発せんばかりの顔で主に言ってきた。
「この者達はそれこそ百回殺してもいい位ですが」
「では祖国に帰ってそうなればいい」
 少なくとも彼にそのつもりはないのであった。
「私はそれはしない」
「うう・・・・・・」
「そもそもあのブロンデという娘」
 セリムはブロンデを見つつ呟く。
「そなたではかなり荷が重いぞ。今の妻で満足しておて」
「何という喜び」
 ベルモンテは思わぬ幸福に今にも天に昇らんばかりであった。
「太守様、貴方は」
「素晴らしい方なのはわかっているつもりでしたが」
 コンスタンツェもまた同じであった。
「この様な徳を頂けるとは」
「まさかこの様な状況で帰られるなんて」
「何と偉大で高貴な方」
 ペドリロとブロンデも恍惚とさえしていた。
「この感謝の気持ちを忘れたら」
「ええ。それこそ人として終わりだわ」
「そう、まさにその通りだ」
「キリストやイスラムは関係なく」
「若しもです」
 ペドリロは感激した顔でセリムを見て言う。
 
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