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後宮からの逃走

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第三幕その三


第三幕その三

「ロスタドス家の名にかけて」
「ロスタドス家だと」
 セリムはその名を聞いて眉を動かしてきた。
「今ロスタドス家と言ったな」
「はい」
「ではオラン総督ロスタドス侯爵だな」
「父ですが」
 ベルモンテは少し妙なものを感じながらもセリムの問いに答えた。
「それが何か」
「うむ。私はあの男と戦場で会い見えた」
「何っ!?」
「何と」
「私は敗れ多くの領土を失った」
 このことを彼に言うのであった。
「言うならば私にとって怨敵なのだ」
「そんな・・・・・・」 
 コンスタンツェは思いも寄らぬこのことを聞いて顔を絶望に彩らせた。
「それでは。ベルモンテは」
「さて、この場合どうなるか」
 セリムが言うとオスミンが後ろで何処からか持って来た縛り首の形にした縄を自分の首にかけて引っ張る動作をしてみせていた。
「言うまでもないと思うが」
「そういうことですか・・・・・・」
「さて。それではだ」
 セリムはこのことを告げ終えるとオスミンに顔を向けて声をかけた。
「そなたは私と一緒に来てくれ」
「はい」
「他の者はここに残るように」
 周りの者達にも告げる。
「私が受けた苦しみをそなたに見せよう」
 こうベルモンテに告げてからオスミンを従えて一先何処かへと消えた。あとに残ったベルモンテ達はいよいよ絶望に囚われた。ブロンデが真っ青な顔でペドリロに問う。
「どうすればいいの?この場合は」
「いや、もうこうなったら」
 ペドリロもこう言うだけだった。
「もう。手が」
「そんな。それじゃあ・・・・・・」
「何ということだ」
 ベルモンテは天を仰ぐばかりだった。
「コンスタンツェ、僕のせいで君まで」
「いえ、心配することはないわ」
 だがコンスタンツェはここでこうベルモンテに対して言うのだった。
「死が何だというの?」
「死が!?」
「そう。それもまた安息の道」
 既に覚悟を決めていたので言葉は澄み切ったものだった。
「特に貴方と一緒なら死は降伏の第一歩よ」
「コンスタンツェ」
 ベルモンテは彼女のそこまでの決意を聞いてそこに真実を見た。
「君は痛む心に安らぎを与えてくれる。けれど僕が君を」
「死なせるというのね」
「そうだ。僕のせいで」
 それが悔やまれてならないベルモンテだった。ここに来たことを軽率で愚かな行動であったとさえ思い激しく後悔していた。
「もう君の目を見ることができない。僕が君を」
「貴方を死なせるのは私」 
 コンスタンツェもこう言うのだった。
「私が囚われたばかりに」
「しかしそれは」
「いえ、その通りだから」
 あくまでこう言うのであった。
「私のせいで。貴方が」
「コンスタンツェ・・・・・・」
「貴方がいなくては生きている意味がないわ」
 また誠を語るコンスタンツェだった。
「だから。もう」
「それは僕もだ」
 ベルモンテもまた己の誠をコンスタンツェに語る。
 
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