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ファイアーエムブレム~ユグドラル動乱時代に転生~【外伝】

作者:脳貧
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とある騎士の昔語り---その1---

 
前書き
冒頭は時系列的には本編終章~エンディングの間もしくはそのあと、このシリーズの本編はミュアハがちびっこな頃の物語になると思います。 

 
 トラキア半島のほぼ中央部に位置するカパドキア城。
 長らくトラキア王国の北方最前線であったそこは、今やあるじを変え、南と北のトラキア諸国の緩衝地域としての役割を担っている。
 際立った善政を敷いているという訳でも苛政で民を喘がせる訳でも無い女王は、統治者として凡庸という評価に

「やり手だのキレ者なんて思われたら変に警戒されちまうしね。 それくらいでいいのさ」

 飄々とこう答えるようなひととなりである。
 そんな人物であるだけに伴も連れずふらっと城下に微行することもしばしばであり、仕えてから日の浅い者達には心労の種となっている。 だが、この日は常の倣いとは異なり、幾人かと連れ立って城下の歓楽街へと繰り出していた。




「では再会を祝って!」
「先におっ()んじまったバカどもがあの世でうらやむように!」
「乾杯!」

 同席する他の者達もめいめい好き放題なことを口にしながらそれぞれの飲み物に口をつける。
 満足の息を上げる者、しんみりとした表情を浮かべる者、盃に残った中身を黙って見続ける者と、その有様は一様では無い。

「それにしてもウィラーラフ坊やがこんな立派になるなんてねぇ」
「陛下と我があるじのおかげを持ちまして図体だけはこんなにも」

 ウィラーラフと呼ばれた若者は、赤い単衣(チュニック)に薄手の革鎧を纏った背の高い年嵩の女性に恐縮したようにそう答え、低頭することで態度にも顕した。 陛下と呼ばれた女性にとってその部下とも盟友とも仲間とも言えたこの場にいない騎士、ベオウルフにこの若者は仕えている。 馬丁から従卒、従兵となり、やがて騎士として取り立てられはしたものの、陛下と呼ばれた女性にとっては彼が幼い馬牽きだった頃の面識しか無かったものでつい坊やなどという呼び方をしてしまったのだろう。

「おっと。 坊やだなんてすまなかったね。 アタシの悪いクセさ」
「とんでもない! 幼い頃のオレを覚えていただけてたなんてそっちのほうが嬉しいくらいです!」
「忘れる訳なんかあるもんかい。 あの頃のことは……って、そういや親書だけじゃあ全くわからんあの種馬野郎(ベオウルフ)の様子でも教えておくれよ。 まぁ、そっちの女王陛下じゃないや、太后さまに気を揉ませてなきゃいいんだけどね!」

 若者は同席しているかつての仲間……と言うよりかつての保護者達とも言うべき、憧れの騎士や剣士たちに己の主君の日常の話を多少の脚色を加えて語りはじめた。 その内容に笑いや少しの呆れ、そして懐かしさを表した彼らに " あくまで自分から見た姿ですけれどね " という注釈を忘れてはいなかった。

「あんまり気にしたことは無かったけど、ベオの奴ってお前の手下んなる前って何やってたんだい?」
「ん? 俺にお尋ねですかい? 姐さん?」
「あー、そうだよ。 騎・士・団・長・ど・の・!」
「……参ったなぁ。 改めてそう言われると俺もよく知らんなぁ」
「なんだいそりゃぁ、じゃぁ……そうだ、お前自身の昔話をしておくれよ、ウィラーラフも知りたくはないかい? 我が国が誇る騎士団長ヴォルツ卿の立身出世物語ってやつを……ね!」











 



 ……ユグドラル大陸の西方、アグストリア諸国連合で彼は生まれ落ちた。
 とりたてて裕福でも無ければ貧しくも無く、質実剛健な家風の騎士家の三男としての立場が彼を鍛えることとなった。 
 この時代のアグストリアに限らず多くの封建領主は長子相続を是とし、長子以外の男子には受け継げる所領などは望むべくもなく、自身の力で立ち位置を勝ち取るか、郎党や家人のような立場となって長兄に仕えるより無かったからだ。 もっとも、不慮の出来事で兄が亡くなることがあったり、男子の生まれぬ他家の婿養子となるなどの事態で一族の長となりおおせることもあるのだが。
 とはいえ、ヴォルツにとってそんな天佑には恵まれず、長兄の家人の如き立場に甘んじることを耐えられない彼の誇りが仕官を目指させた。所領もちの騎士と異なり、国王をはじめとした有力者に俸給のもと一身限り雇用される直臣、例えば近衛騎士という存在は彼のような相続順位劣位の騎士の子弟にとっては数少ない希望であった。
 彼の父や兄達はその意を汲み、幼き頃より武芸の稽古の他、算術や読み書きを習わせた。
 時が満ち、彼が王都を目指す際には紹介状や武具に馬具、駿馬とまでは言えぬが従順で利口な栗毛の牡馬を用意してくれさえもした。
 実のところ彼は兄二人よりも武芸の才に恵まれ、彼の父はアグスティ王家の近衛兵団に彼が採用されることに疑いを持ってはいなかった。 むしろ王家との繋がりを彼を通じて設けようとの計算も働かせていたのだ。
 二君に仕えぬなどという言葉は美しくもあるが、目端の効く土豪や小規模領主などは複数のあるじに仕えることで、より上位の封建領主の気まぐれから己の一族の安全を担保することもままあった。 時として、そのあるじ同士での諍いに下位の封建領主は巻き込まれ悲劇を呼ぶこともあるのだが……




 王都アグスティへと登ったヴォルツは父の旧知の者に紹介状と口効きの為の砂金袋を委ね、あとは運を天に任せた。 仮に十分な実力を持っていても、それを評価してもらえる舞台に上がることが出来ない者はそれこそ掃いて捨てるほど居るという現実を父や兄から幾度か語られていたからである。 やがて推薦状を得られた彼だったが、賢王と呼ばれていたイムカ王の治世に於いてそれは余り意味の大きな物では無かったと知り、体よくカネを巻き上げられたのだと知ったのはずっと後の事であった。
 そうとは知らず受けた技量検分の結果、仕官を果たした彼はこの時ばかりは柄にも無く神に感謝したと言う。
 その後、当たり前だが数年を苦労して勤めあげていたのだが………今となっても苦手としている宮廷儀礼などに手を焼いていたこと、しかしながら同僚たちに比して卓越した剣腕であることも相まったものか、辺境の開拓村を統括する管区の一つへ赴任せよと命令が下された。 扱いとしてはその管区の治安維持の責任者として多くの兵士を指揮下に置くということで、同僚達には大抜擢であると妬まれ、彼自身も悪い気はしなかった。
 しかし、この出来事が彼の運命に大きな変転をもたらすとは誰一人として知る由もなかった……
 


 
 
 

 
後書き
ベオウルフの部下なのでほんとうは新キャラの名前はウィラーラフでは無くウィーグラフにすべきかもですが、どうしてもウィーグラフという名はFFTのイメージが強いのでこの呼称を選択しました。

本編ではあまり触れる機会の無かった世界ひろし、なぜ彼に注目して書きはじめたのか、書いてる人もさっぱりわかりません! 不定期に書いて行こうと思いまするー 
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