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とある碧空の暴風族(ストームライダー)

作者:七の名
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幻想御手
  Trick21_暴風族(ストームライダー) だ




「ギィィィィァァァァアァァアァ」

胎児が耳を突き刺す声で叫んだ。

御坂は思わず手で耳を押さえる。


そして胎児がこちらを見た。

向けられるのは殺気

「琴ちゃん攻撃が来るぞ!」

信乃は瞬時に反応して御坂へ臨戦態勢を取らせる。


胎児から衝撃波が飛んで来た。木山が使っていた攻撃と同じ能力。

「私の後ろに!」

「わかった!!」

御坂は電気で発生させた磁力を使い、周りの瓦礫を集めて即席の盾を作った。
即席とはいえレベル5が作った盾、丈夫で大きさも問題ない。


しかし胎児の攻撃はその盾の半分を破壊した。

「「な!?」」

2人は急いで後ろへと下がり次の攻撃を避ける。

「木山さんが使っていたよりも威力が強いみたいだな」

「くらえ!!」

御坂は電撃を胎児の化物へ飛ばした。

攻撃は胎児に当たり、怪我をしたような赤い部分がむき出しにある。

「よし!!  いいぃ!?」

だが、攻撃された箇所がすぐに修復した。
さらには体が一回り大きくなった。まるで御坂の攻撃を受けて更に大きくなったように。


「なにあれ? 信乃にーちゃんどうする?」

「とりあえず攻撃はすべて避けた方がいいな。こちらからは下手に攻撃しないで
 様子を見よう。下手に大きくなっても困るし」

二人が話している間も攻撃が来る。

避け続けるうちに胎児からは距離が離れてしまった。


「御坂さん! 信乃さん! 大丈夫ですか!?」

いきなり後ろから声がかけられた。

振り向いて見ると高架橋から階段で降りて来た初春がいた。

「どうしてここに!?」

御坂が質問した直後に胎児の攻撃がきた。

今度は衝撃波ではなく、人間以上に大きい氷の塊を飛ばしてきた。

「!?」

御坂は初春を見ていたために、反応が一瞬遅れた。

「しまっ!」

「今度は俺が防御する」

信乃は御坂の前に出て、足を思い切り振りぬいた。

目で見えない速度で



信乃が装着しているA・T(エア・トレック)は、今までのものよりも奇妙な形を
していた。

足とローラーの間に円筒状の、ジェットエンジンのような機構があり、
それが空気を通すように中心に穴があいている。


轟の玉璽(レガリア)
 玉璽(レガリア)は、数あるA・Tの中でもこの世に数少なく、
 しかも同じ玉璽は一つとして存在しない特殊なパーツだ。

 信乃が今装着している轟の玉璽もその一つ。
 中心の機構は“ラム・ジェット理論”を応用させたもので向かい風を圧縮して
 打ち出すことができる。つまり高速で足を振るい、その空気抵抗の空気を
 向かい風として打ち出す。

 打ち出された空気は圧縮され、ラムジェット機構で空気を高温かつ高圧にして
 作った“超臨界流体”により、目に見えない“壁”を作り出す。

そして、作り出した“壁”で立ちはだかる者全てを叩き伏せて
轢き潰して“道”を作る。

それが轢藍(れきらん)の道   “轢藍の道”(オーバーロード)




轢藍の道(オーヴァ・ロード)

  Trick - Approacher Smashing Wall -


信乃が出した見えない“壁”が御坂と初春を守り、巨大な氷を破壊した。

“壁”はそのまま進み、連続で出される氷を次々と破壊しながら胎児へと近づく。

邪魔ものをすべてねじ伏せて道ができていった。


しかし“壁”徐々に威力を落とし、胎児に届く前に消滅した。


「くそ、今の足だとうまく作れないな・・」

「信乃にーちゃん!?」

信乃は片膝をついて倒れかけた。
攻撃は一度も受けていないのに、右足の太ももから少し血が染み出している。

「大丈夫だ。(トリック)を無理に使って、少し足にきただけだ」

御坂に笑顔を見せたが、顔には冷や汗が伝っている。

「それよりもあいつからの攻撃に備えて・・・・?」

話を無理に変えて胎児の化物を見てみると、

「追ってこない・・?」

御坂が呟いた通り、胎児の化物は3人を見ておらず浮いている高さを上げて
どこかへ向かう。

「闇雲に暴れているだけなの?」

「確かにそうかもしれない。あの化物からの殺気は俺たちだけじゃなく
 全てに向けられているって感じだし」

「まるで、何かに苦しんでいるみたい・・・」

初春が言った。そう、胎児の叫び声は苦しんでいるようにも聞こえた。





「撃て!!」

高架橋から胎児にマシンガンが撃たれた。

目を覚ました警備員(アンチスキル)が胎児に発砲している。


しかし、胎児はダメージを受けておらず体から出された触手で警備員を倒していく。

いや、ダメージどころか体がどんどん大きくなっているようにしか見えない。
もはや胎児とは呼べない、ただの化物の姿となっていた。


「やばいな・・・下手に攻撃しない方がいいってのは間違ってなかったみたいだ。
 琴ちゃん、俺は警備員を助けてくる。初春さんを頼んだ」

「信乃に―ちゃん、ちょっと!?」

御坂が言い終わる前に信乃はA・Tで高架橋を直接昇り始めた。


「すごいな、まさかあんな化物が生まれるとは・・・」

「「え?」」

御坂と初春に聞こえたのは倒れていたはずの木山の声だった。

立ち上がったばかりのようで、近くの高架橋の柱に手をつきながら歩いてくる。

「もはや、ネットワークは私の手を離れ、あの子たちを回復させることも
 取り戻すこともかなわなくなった

 お終いだな」

「諦めないでください!!」

初春が強いまなざしで木山を見ていた。




「なんか・・大きくなっている!?」

警備員の生き残り(誰も死んではいない)の7人がマシンガンで化物へ攻撃する。

マシンガンを発砲しながら化物の様子を見るが、全く効いていない。

それどころか大きくなっていく。

化物から触手が鞭のように伸びて1人、そして2人目と殴られて倒されていく。

そして残り2人となり、再び触手が迫ってきた。

「い、いや・・・」

「下がって」

触手との間に少年が割り込み、少年の右足が消えた。

すると、触手が壁にぶつかったように止まる。

だが、触手は徐々にこちらへと近づき、最後には見えない壁を通り抜けて伸びてきた。


「ちっ!」

警備員の2人は少年に襟首を掴まれて攻撃の届かない場所へと運ばれた。

化物は興味を失くしたようで3人を追撃してはこない。

「けほっ、・・きみは? 一般人がこんな所で何をしてるの!?」

「今はそれどころじゃないでしょ? それに風紀委員ですので一般人では
 ありませんよ」

信乃はいつもの敬語キャラで話す。

「信乃? 西折信乃か!?」

「お久し振りです、黄泉川さん」

もう一人の警備員、黄泉川が信乃に気付いた。

「隊長、知り合いですか?」

「この子が風紀委員になるときに私が審査に立ち会った。だから顔見知りなのは
 当たり前じゃん。でも何でこんな所に?」

「その説明は後でします。

 あの化物はこっちが攻撃しなかったら寄ってこないみたいです。
 一度引いて態勢を整えた方がいいですよ」

「例えそうでも撤退するわけにはいかないじゃん」

黄泉川は化物を指でさした。

いや、化物の後ろにある建物に指は向いている。

「あれがなんだかわかるか? ・・・原子力実験炉じゃん」

「な!?」

確かに建物の壁には『核』のマークが記されている。

「マジっすか・・」

「マジじゃん。とにかく、あんたは逃げんだ。あとは私達が」

「そう言われると余計に引けないよ。黄泉川さんなら俺の実力を知ってるから
 心配ないですよね?」

黄泉川の忠告を遮って信乃は言う。

確かに信乃の風紀委員のテストを見ていた。
戦闘訓練を受けた大人を複数相手に問題なく倒していた。

だが

「いくらお前が強くても相手が化物なら関係ないじゃん!
 私達は子供を守るために戦っている! だから戦うのは私だ!!」

木山との戦闘ですでに立つことも難しい状態のはずだが、それでも黄泉川は立ち上がった。

黄泉川の怒声は嬉しかった。自分の心配をしてくれている。
信乃は黄泉川に近づいた。

「ありがとうございます。こんな私でも心配してくれて。

 でも引けないのは“俺”も同じ。風紀委員とか関係なく学園都市にいる一人として」

高架橋の端に立ち、化物を見る。

「いくぜ、攻撃をした方に寄ってくるドM。

 そんなに攻撃を受けーんなら俺が轢き潰してやるよ。

 世界の果てまで!!」





「AIM拡散力場の?」

「おそらく、、集合体だろう」

高架橋の下

初春の説得で、この状況をなんとかできる手段を木山は自信の頭を働かせながら
説明していた。

「そうだな、仮に『AIMバースト』とでも呼んでおこうか。
 幻想御手によって束ねられた、10,000人のAIM拡散力場。

 それらが触媒となって生まれた、潜在意識の怪物。
 言いかえれば、あれは10,000人の子供たちの思念の塊だ」

能力のレベルが上がらなくて苦しんでいる子どたちの思念の塊。

あの苦しそうな叫び声の理由はそれだった。


御坂は化物を一瞥した後、木山に尋ねた。

「どうすればアレを止めることができるの?」

「・・・・。

 AIMバーストは幻想御手のネットワークが生み出した怪物だ。
 ネットワークを破壊すれば止められるかもしれない」

「! 幻想御手の治療プログラム」

初春はポケットから小さなメモリーチップのようなものを出した。

元々、木山はネットワークを利用した演算が終われば子供たちを助けるつもりでいた。

この場所に連れてこられる前に、初春はこれを渡られていた。

これを聞かせれば幻想御手の被害者たちは目覚める。


治療プログラムを見た木山はうなずき

「試してみる価値はあるはずだ」

「初春さん、それお願いね。私はあいつを何とかするから」

「わかりました!」

初春は警備員の車からプログラムを流すために階段を登る。

御坂は戦闘を始めたばかりの信乃と化物の元へと走った。


「本当に・・・根拠もなく人を信用する人間が多くて困る」

あの化物を生み出す原因になった自分の策を実行する2人。

残された木山は、初春と御坂を見て思い出していた。

同じように自分を信用した教え子たちを。




信乃の足には甚大なダメージが蓄積されていた。

昨日の高千穂との戦いで使った“牙”の(トリック)の疲労。

今日の轟の玉璽(レガリア)を使った攻撃。

轟の玉璽には発動条件がある。
それは『轟の玉璽自身が高速運動をしなければならない』ということ。

つまり、足が目で追えないほどの速度で振り抜かなければ発動しない。

当然のように足に負担がかかり、昨日ですでに破裂していた筋肉繊維は
さらに千切れて悪化している。

それでも信乃は足を酷使して戦い続けた。

別に道具を使って戦う事も考えたが、今の信乃はA・Tを使っている。

ライダーとしてのプライドから、他の道具を使う戦いをやめた。

信乃にできるのは相手の体を蹴りを入れる事。

怪我をしているとは思えない常識外れの蹴りがAIMバーストを傷つけていく。
だがそれを意に介さず、すぐさま回復。

イタチゴッコの戦いがしばらく続いた。



攻撃をくらわせては回復され、反撃されれば避ける。

それを十何回か繰り返したとき、横から電撃が飛んできて化物に当たった。

「信乃にーちゃん! お待たせ!!」

御坂美琴が信乃のすぐ横に走ってきた。

化物は電撃の傷跡すらすぐに回復して2人を睨む。

「琴ちゃん、下がってても構わないよ。俺一人でも何とかするからさ」

「その足で何言ってるの?」

信乃の両方の太ももからは血が染み出ていた。

まだ大量出血ではないが、内側から血が出る怪我をしている時点で無茶といえる。

「まだまだやれるよ。引けない理由もあるしね」

「大丈夫! 勝機はあるわ! 初春さんがなんとかしてくれる!!
 すぐにこいつを動けなくするから!」

「初春さんが? まあ、よくわからないけどわかった」


信乃はAIMバーストを中心とした円を描くように走り始め、
御坂は特大の電撃を放った。

電撃で体の一部を消し飛したが、それもすぐに回復する。

信乃はその隙に反対側から頭の部分に飛び、蹴りで一撃を入れて目をつぶす。

目がえぐられて視界を失ったのか、複数の触手を全て振り回すように
暴れ始めた。

「やば!」

信乃は空中にいた為に回避できず、振り回した触手が迫りくる。

「この!」

御坂は砂鉄を操り、信乃に攻撃してきた触手の根元を切断した。

「サンキュ、琴ちゃん!」

「油断しないで!!」

すでにAIMバーストの目は元に戻っており、2人に10以上の氷の塊が
降りそそいだ。

信乃はA・Tで楽に回避し、御坂は電撃ですべて破壊。

だが同時に触手が一本、御坂の足元に伸ばしていた。

氷を破壊して目線が上にいっていたので御坂は気付かずに足首を掴まれる。

「な!?」

「琴ちゃん!!」

御坂はそのまま振り回してそのまま投げ飛ばされた。

地面にぶつかる前に、信乃は先回りして御坂を受け止める。

「ぐぁ!」

「イッタァ! ごめん、ありがと!」

「まだ来るぞ!」

AIMバーストが直接体当たりしてきた。

御坂を抱きかかえたまま横に飛んで回避する。


だが、信乃たちの後ろには建物があった。

「しまった!! 建物が!!!」

「あれがどうかしたの?」

「核実験施設だよ、あれ」

「な!? 核施設って、怪獣映画じゃないでしょ!?」

「俺に言うな! とにかくこっちに目を向けさせるぞ!」

「まかせて!!」

幸い、施設の外壁が壊されただけで施設自体はまだ無傷だ。

信乃の腕から降りた御坂は御坂は特大の電撃をくらわせる。

ダメージはすぐに回復されたが、化物はこちらを向いた。

「あと2、3発撃って逃げるぞ」

「了解! くぅらえー!!」

さらに電撃を飛ばす。

化物もこちらに向かってゆっくりと進んでくる。

大量に電撃を浴びたにも拘らず、すぐに再生する体が迫ってくる。

「きりがない!!」

御坂が叫びながら2人は走ってAIMバーストから距離を取った。

次の瞬間



不思議な音楽が流れた。


ここだけではない、学園都市中に。

「何この曲?」「なんだこの音?」

気を取られた隙に御坂に触手が伸びてくる。

「やば!」

御坂の体を締め付けるように触手に力が入る。

「琴ちゃん! 電撃で焼き切れ!!」

「わか・・ってる!!」

御坂は電撃で触手を破壊、地面に落されてすぐに距離を取った。

「でも、すぐに再生するんじゃ意味がな・・・え?」

意味がない。そう言いかけた御坂が見たのは、焼きただれたままの触手。

「回復、してない?」

信乃が信じられないように言う。

だが、御坂はすぐに気付いた。

「初春さん、やったんだ!!」

今、流れている音楽、それは幻想御手の治療プログラムであるワクチンソフト。

ワクチンソフトを学園都市中に流すことで幻想御手のネットワークを破壊する。
それによって無限の回復力は今はもうない。

「そういうことか」

信乃はワクチンプログラムのことを知らなかったが、初春の活躍の成果を目の前で
見てすぐに納得した。

「この音楽で回復出来なくなっているなら、今がチャンスだ!!」


「悪いわね、これでゲームオーバーよ!!」

御坂は、今日出した電撃で一番大きな一撃をAIMバーストに放った。


「ぎぇげyげyぎぇyいぇげいぇlgieas!!!!!」

AIMバーストは叫び声、断末魔の後に体から煙を上げて動かなくなった。


「はぁ、間一髪って奴?」

御坂はAIMバーストを見た後に建物を、原子力実験炉を見る。

しかし、信乃は警戒したまま御坂に近づきながら言った。

「油断しない方がいいぞ、こういうときは大抵・・」

「気を抜くな! まだ終わっていない」

信乃の声を遮った大声は木山だった。

「やっぱりそうなのか・・」

「ちょ! なんでこんなところに!?」

御坂は近くまで来た木山に驚いたが、信乃の反応は薄く自分の考えが合っていて
嫌そうな顔をした。

そして木山と信乃の考えの通り、AIMバーストは立ち上がり始めた。


「え、そんな?」

「幻想御手のネットワークの破壊に成功しても、あれは10,000人の思念の塊!

 普通の生物の常識は通用しない!!」

「な!? 話が違うじゃない!!」

「木山さん、何か手はないんですか?」

「核が、力場を固定させている核のようなものがどこかにあるはずだ。
 それを破壊すれば・・」

信乃と御坂は敵を見た。

あの巨体のどこかにある核。おそらく中心にあるだろうが、そこまでにかなりの
攻撃を加え続けなければならない。


信乃は覚悟をして構えた。あいつが倒れるまで攻撃し続ける。

「木山先生、下がって。信乃にーちゃんも。巻き込まれるわよ」

「「え?」」

そんな信乃を止めたのは御坂だった。

「構うものか。私にはアレを生み出した責任がある!」

「俺も手伝う。妹分一人に任せられない」

2人は引かない。

「ありがと、信乃にーちゃん。

 木山先生も教え子が待っているんだから、『構わない』なんて言わないで。
 回復した時、あの子たちが見たいのはあんたの顔じゃないの?

 あとね・・」

AIMバーストから触手が伸びてきた。

「琴ちゃん!!」「危ない!!」

信乃と木山が同時に叫んだ。


だが、攻撃は御坂には届かなかった。

全て、焼き払った。今までよりも大きな電撃で。

「あとね、あいつに巻き込まれるんじゃなくて

 私が巻き込んじゃうって言ってんのよ!!」

御坂は再び電撃を放つ。大量の電撃を。

電撃が逸らされた。木山が使った能力と同じものでAIMバーストは防御している。

「まだ能力が使えたのかよ!」

信乃が悪態をつけた。

ネットワークの破壊により、AIMバーストの回復力はなくなった。
それでも残っている思念だけで強力な能力を複数使ってくる。

御坂の攻撃はとどかない。信乃も木山もそう思ったが


御坂の電撃が更に大きくなった


今までとは比べ物にならない、本気の電撃。

電撃は逸らされ続けて直撃していない。

だが、発生する電気抵抗の熱でAIMバーストの体は焼けていく。

「すげぇ・・」

「私と戦った時は全力じゃなかったのか・・・?」


AIMバーストは耐えきれず、触手を伸ばして御坂を攻撃した。

それを避けるでもなく、砂鉄を操り切断する。

砂鉄も今までよりも大量に集まっている。

今までと威力が、格が、核が違うかのような猛攻。



「これがレベル5の実力か・・・正直甘く見ていたな・・・」

信乃は認識を改めた。レベル5をバカにしていたわけじゃない。

ただ、御坂が"超能力"(レベル5)を持っていると聞いて違和感があった。

あの小さかった琴ちゃんがそんなに強くなっているはずがない。
心のどこかで、そう思っていたのだろう。

だが、この光景はなんだ? 自分が本気で覚悟をする必要がある相手を一人で
圧倒している。

(ほんとに、努力してここまで辿り着いたんだなんだな)

妹が一人立ちして嬉しいような寂しいような、そんな顔をしていたが

「って、感心している場合じゃなかったな。微力なりとも加勢しますか」

すぐに意識を切り替えて信乃は一歩前に踏み出した。



触手を砂鉄で切断された後、AIMバーストは自らの頭上に風を集め始めた。

風の能力を使って攻撃しようとしている。

AIMバーストに知恵があるか分からないが、風であれば電撃で防ぐことは難しい。

御坂は攻撃が来る前に電撃を当てて中止させようとしたが

「琴ちゃん、待った! これは俺が受け持つ!」

「え?」

信乃が御坂の前に出た。

いきなりのことで驚いたが、そんなことはお構いなしにAIMバーストは風の塊を
投げ飛ばした。

「信乃にーちゃん!!」

御坂は叫ぶ、だが

「まかせろって」

信乃は笑っていた。



そして、風の塊に直接足をつま先から当てた。


轟の玉璽にある特性、それは『風が強ければ強いほど自らの力も増す』こと。

押し寄せる風が強ければ強いほど、更に加速していく。それが己への風が強ければ
強いほど、その風を自らの力に変えて猛り狂う。まるで風車のように。


怪我で足が動けない分を、相手の風で補う。
つま先から吸収された風の塊は、A・Tのエネルギーへと変換された。

「轢藍の道(オーヴァ・ロード)

     "無限の空"(インフィニティアトモスフィア)

      "無限の轍"(インフィニティフェイラー)!!!!」


完璧に出された“壁”。今度は消えることなく地面をえぐって道を作りながら
AIMバーストに襲いかかる。

そのまま潰すように5メートルほど押しのけた。


「まあ、全力出したら地の果てまで行きそうだし。
 でも一撃必殺の威力は今の状態ではできなからな」

轢き潰す力はあっても、今は倒すほどの力がないことは信乃が一番わかっていた。
自分の今の足では無理だと。

だから完全に轢き潰すためではなく、少し押しのけて留まる“壁”を出した。

AIMバーストの正面は、ガラスに引っ付いた時のように平面になり、その状態のままでいる。


「信乃にーちゃん!? 足!!」

「わかってるよ」

信乃の足からはさらに血が出ていた。さっきからあった血の染みは大きくなる。
今の状態は赤色のジーンズをはいていると言った方が良いぐらいに。

だが信乃は意に介さずに御坂に言った。

碧色の眼で。

「大丈夫だよ。これくらいな」

御坂は信乃の目を見て足のことをこれ以上言えなくなった。

「琴ちゃん、俺があいつを動けないように足止めする。アレでとどめを刺せ」

「え・・アレって?」

「自分が学園都市で何て呼ばれてるか忘れたの?」

そう言って信乃はAIMバーストへと向く。

「さて、苦しみから解放してやる。だがその前にお前の全力を出せ。

 能力がないと散々言っておいて、レベル5を苦戦させた、てめぇらの実力をな!!」

信乃は右へ回り込むようにして走る。

AIMバーストは信乃を追って右を向き、先ほどと同じ風の塊を出した。

「なんだ、手伝ってくれるのか? ありがとよ!!」

その風をA・Tのつま先に当てて同じように“壁”を作る。

だが、相手を押しのけたのは1メートルだけだった。

その後も信乃は横に移動して“壁”を出して移動、そしてまた“壁”を出した。


だが、4回目の壁を出した時、AIMバーストは後ろに下がらなかった。

いや、下がれなかった。


四方を“壁”で囲まれて


「包囲完了っと」

信乃は最初からこれを狙っていた。相手が動けなくなるこの状況を作るために
あえて攻撃性の“壁”ではなく、相手の逃げ道を防ぐ“壁”を作ったのだ。

AIMバーストは動けずに体を少し動かすことしかできない。


「琴ちゃん」

「わかっている!!」

御坂は全身から電気を放出していた。

御坂美琴 学園都市第3位の超能力者

  その異名は超電磁砲(レールガン)

右手に持っているゲームセンターのコインを親指で上へとはじく。
そしてさらに体中の電撃量が上がっていく。

放たれるのは音速の3倍以上の速度の弾丸



「げかねおdkぁいえぁんっづふぇk!!l

AIMバーストは本能で感じたのだろう。御坂の攻撃で自分が消滅することを。

御坂の構えを見て急に暴れ出し、信乃の“壁”を抜けようとする。

そして逃げるための答えを見つけた。



  上


下は地面で逃げられないが、上には“壁”がない。

AIMバーストは上へと体を伸ばした。


「逃がすわけねーだろ。今度こそ、轢き潰してやんよ!」

信乃は飛んだ。

人間の脚力では2メートルでさえ垂直に飛ぶことはできない。

だが、そこには“壁”がある。

壁を使って飛ぶことこそがA・T使い(ライダー)の本領。


  Trick - Spining Wallride Overbank 1800°-


完全な垂直な壁を登る。

体を回転させながら登り、腕の回転力を軸にして安定させながら壁を駆けあがった。

そして20メートル以上の高さまで到達した。

AIMバーストの上に。


「これじゃあ“壁”じゃなくて箱だな」


轢藍の道(オーヴァ・ロード)
  Trick - Iron Hammer -


信乃は上空から風の補助をなしに“壁”を放ち、AIMバーストを下へと轢き潰す。


そして正面からは

「これで! 終わりよ!!」

落ちてくるコインを再び親指ではじき、超電磁砲(レールガン)

信乃の壁で一か所に、強制的に轢き潰されたAIMバーストの体を貫く。


そして、核となっていた物体が破壊された。




「これが・・レベル5。それに・・少年、君は何者だ?」

前半は御坂に驚いた言葉だったが、後半は隣に歩いてきた信乃に聞いた言葉。

「空気を圧縮させたり、瞬間移動をしたり、何の能力者だ?」

信乃は座り込んでいた木山に手を差し伸べて立たせる。

「俺か? 能力はなし。レベル0。

 でも、何者だと言う質問には、こう答える」

正面で、信乃は笑いながら言った。

「  暴風族(ストームライダー) だ」


その瞳も、今の空も、晴れ渡った碧色(あおいろ)だった。




「さて、あんたも大人しく捕まってもらうぜ」

遠くからサイレンの音が近づいてくる。

警備員の増援だろう。

信乃は横にいる木山が逃げないように忠告した。

「ネットワークを失った今、逃れる術は私にはない。

 あと、ネットワークがある状態でも勝てるとは思わないからな」

信乃を見るその顔はなぜか清々しいように感じた。

「でも、子供たちのことは諦めるつもりはないよ。もう一度やり直すさ。
 刑務所だろうと世界の果てだろうと、

 私の頭脳はここにあるのだから 」

「すごい自信だな」

「ただし、今後も手段を選ぶつもりはない。
 気に入らなければその時はまた、邪魔しに来たまえ」

AIMバーストが無くなったのは良かったと思っているみたいだが、反省の色は
ないみたいだ。

「はははは。でも、大丈夫だよ」

「何がだ?」

「木山さん、"樹形図の設計者"(ツリーダイアグラム)があれば、子供たちは
 助けられるって言ってたよな?」

「? ああ、そうだが」

「だったら使わせてやるよ」

「なっ! できるのか?」

「信乃にーちゃん、できるの!?」

御坂も近くに歩いてきて話が聞こえたようで、走ってこちらに来る。

「知り合いがそれの製作者なんだよ。頼めば使わせてもらえると思う」

信乃は、右目だけが蒼色(あおいろ)の女性を思い浮かんだ。

趣味で世界一のコンピュータを作る規格外の人物を。
彼女が気紛れでサイバーテロを起こし、対策のために日本がコンピュータ先進国に成長したという黒歴史を作った人物を。

「それが本当なら・・・子供たちは・・」

「まあ、その人に許可貰ったらあんたが刑務所だろうと世界の果てだろうと
 連絡するよ」

「よかったね、木山先生!」

「・・すまないな」

「俺は謝られたいんじゃない、お礼を言われたいんだけど」

「・・・・ありがとう」

「どういたしまして」

信乃はおどけて返した。


「でもその前に、あんたに一発お見舞いする理由があるんだよね」

穏やかな会話から一転、信乃がいきなり殺気を木山に向けた。

「ちょっと! 何言ってるの信乃にーちゃん!?」

御坂が驚いて止めようとするが、無視して信乃は木山へと近づく。

「友達があんたの幻想御手でぶっ倒れた。そいつに頼まれたからな。
 だから痛い目に見てもらうぜ」

「・・・分かった。恨まれるのは覚悟の上だし、償えるなら何度でも殴られるよ」

「十全だ。歯を食い縛れ」

信乃が右腕を構え、木山は目をつぶって痛みに耐える態勢に入る。


ビシッ!

乾いた音。信乃から出されてのは『デコピン』だった。

デコピンを受けて、木山はゆっくりと尻をついて倒れた。

「へ、なんで?」

意外な攻撃に拍子抜けした御坂。

「佐天さんからの依頼だよ。犯人にデコピン一発って」

「・・・はは、デコピンで済ませるなんて佐天さんらしいわね」

「でも、力いっぱいって言われたから、こんな状態になったけど」

信乃が目線を倒れている木山に向けた。

御坂も同じく見る。

「~~~~!!!」

そこには額を押さえて悶絶する木山。

痛みのあまり、足をバタつかせて唸っている。

「・・・一発殴られた方が良かったのかもしれないと思うのは、私の気のせい?」

「まあ、これで一件落着だ」

信乃は何事もなかったように笑って言った。





佐天が目覚めたと連絡を受けて、御坂と初春と信乃、後から合流した白井は
病院に向かった。

佐天は病室にいなかったので、初春が心配して病院の中を探し始めた。

すぐに戻ってくると考えていた他の3人だが、初春に急かされて一緒に
捜すことになった。


屋上に行ってみると、佐天が街を見ていた。

初春が走っていき、話し始めた。

「やはり、どこかに行ってたわけじゃないみたいですね」

信乃は敬語キャラにすでに戻っており、普段通りにしゃべっている。

「まったく、心配なのは分かりますがわたくしたちも巻き込まないでほしいですの」

「まあ、いいじゃない。あんな2人を見れたんだから」

佐天と初春は笑い合っていた。

「それじゃ、私は入院してきます」

「? 何を言ってますの?」

「足が限界です。骨に異常はなくても、筋肉がズタズタだと思いますし」

「そうだった! 早く見せないと!!」

御坂は思い出したように言う。

「どこか怪我をしましたの?」

「大したことはないのでご安心を」

信乃のジーンズはすでに全体が血で赤黒く変色している。

あまりに見事な染まり方に白井は赤いジーンズだと思って血だと気付いていない。

「あぁ、佐天さんには言わないでくださいね。自分のせいだって気にしそうですから」

「わかりましたの」「・・・わかった」

「では、お先に」

信乃は階段を下りて行った。





診察の結果はやはり入院が必要だった。

だが薬が効かない信乃が入院するのは、無理をしないための軟禁の意味がある。
後は食事の栄養管理をして、少し回復を早めることしかできないだろう。


さらに問題は、足のダメージが予想より深刻だったことだ。

痛みがなくなるまで回復するのは2週間ほどで済む。

しかしA・Tの使用はしばらくの間、禁止された。

使用を続けていたら足に負担がかかり続けて永遠に回復しない。

担当医のカエル顔の医者に忠告された。

この医者は信乃が4年前の“死亡”する以前からの学園都市での知り合いだ。
薬が効かない体質だけに特殊な医者が必要で捜していたら彼に出会った。

現在も信乃の状況を理解して、4年前以前のように接してくれている。

その医者は変なところでコネを持っていて、信乃の上司(?)である
統括理事の一人、氏神に連絡をしていた。

信乃はA・Tを使う時に氏神から許可を取っている。
カエル顔の医者は、氏神に話をして信乃に許可を出さないようにお願いしたのだ。

A・Tなしで風紀委員を続けることはできるが、また大きな敵に会う時は
A・Tが必要になる。

新しい戦い方を考えながら、同時にしばらくは空を飛べないことに寂しさを
感じながら数日が過ぎていった。




病室のドアが開かれたのは時間は午後3時ごろ。

信乃は薬が必要ないために、医者と看護士はあまり訪れない。
朝昼夜の食事の時に様子を確認するだけだ。

だから、この数日と同じように御坂達が見舞いに来たと信乃は思った。


予想が外れて入ってきたのは、カエル顔の自分の担当医だった。

「やあ、調子はどうだい?」

「いつも通り、痛みを我慢しているだけですよ」

「痛みを我慢しているだけ、か。医者として君に何もできないのは残念だよ?」

「気にしないでください。悪いのは私ですから」

「うむ、そうか。そんな君に嬉しい報告だ」

「? なんですか?」

「僕の知り合いに薬に詳しい人がいてね、なんと新薬開発の第一人者なんだよ?

 万能細胞に対して薬剤学で大きく貢献して食用家畜のクローンの成功率を
 急激に上げた天才。
 Zid-02、Riz-13等によりクローンによる食糧確保で、世界飢餓を20%減らす事に
 貢献した。

 去年に作られた新薬の半分は彼女が作ったというほど、実力にはお墨付きだよ?

 そんな彼女が今の研究テーマがね、『自然素材を活かした薬』らしんだよ」

「・・・はあ」

確かにすごいとは思ったが、話が見えないため曖昧な返事を返した信乃。

「つまり、君にも効く薬を作っているってことだ。

 さすがの君も、とうがらしを食べると体が熱くなるだろう?

 そういった素材の持つ特性を薬に利用する、漢方薬を進化させたような方法だ」

「まあ、実現できれば私にも効きますし嬉しいですね」

「そんな彼女を君の専属の医者になってもらうことになった。

 ついでに言うと、塗り薬らしいからマッサージも一緒にして効果を高めてくれる
 サービス付きだよ?

 さらにさらになんと! 君はもう退院して、君の世話を彼女がつきっきりで
 看病してくれることになったよ。羨ましいね~」

「は? ちょっと待って下さい、どういうことです?」

「会ってもらえばわかるよ。“西折”くん、入ってきてもいいよ」

「はい♪」

入ってきた女性。先程から『彼女』と言っていたので女性である事は予想していた。

だが、その女性は10代、明らかに子供の年齢だ。

中学生とも思える小さな体に白衣を着て、不釣り合いなメガネをかけている。

しかも、“西折”と言われいた彼女

「どうも♪ 長点上機(ながてんじょうき)学園の1年生、

 西折 美雪 です♪ 仲良くしてね♪」

西折信乃の家族がそこにいた。



「・・・・これはどういうことですか?」

怒りを必死に隠して自分の担当医を睨んだ。

「君たちが今、どんな関係にあるか話は聞いてるよ。

 でも、君の住所を教えたし逃げられないよ。これは主治医の命令だ。
 彼女にお世話されてくれたまえ。

 仲良くしてね、と言っておくよ」

楽しそうに言ってカエル顔の医者は病室から出て行った。


「・・・・・」

信乃沈黙。いや、絶句して何も言えなかった。



つづく

 
 

 
後書き
ヒロイン参加。
一応、美雪も能力者です。
レベルは高くないですが医者、薬剤師として相性がいいので学業は
かなり優秀です。

“樹形図の設計者”の製作者ですが、勝手な設定で
あの青い人にしてみました。戯言シリーズを呼んでいる人なら分かると思います。

これにて幻想御手編を終わらせていただきます。
話はまだまだ続きますので今後ともよろしくお願いします。
 
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