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英雄伝説 零の軌跡 壁に挑む者たち

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18話

東方人街。東方からカルバート共和国に移民してきた人々が故郷を再現して作られた街。
このクロスベル市東通り地区でも共和国移民が多く住むため、その影響を受けた異国情緒溢れる特徴的な色彩と建築様式に初めて訪れた者は誰もが目を奪われる。
立ち並ぶ建築物の多くが木造であり、その赤と白のコントラストがコンクリートの灰色が目立つこのクロスベル市でも一際異彩を放っている。
そしてこの東通りもまた露天街という活気に溢れる一面を持っていた。
巨大都市であるクロスベル市では各地区で観光客やビジネスマン向けに食品を車両で売り歩くことは珍しくなく、屋台も非常に多い。
だが、この東通りの露天街は住宅街も隣接していることから食料品から日用品まで多種多様な商品が並び、中央広場のデパートなどに比べると物価も安く、商品を求めて殺到するお客の争奪戦を繰り広げる露天商たちは非常に活気付いている。
そのため常に雑踏の片隅では小さなイザコザが絶えず、そのトラブルに対処するため遊撃士協会クロスベル支部は東通りに存在する。
支える篭手の紋章と掲げられた看板に大きく遊撃士協会と書かれた建物を支援課の4人が窺っている。

「いざ目の前まで来ると、なんだか緊張するわね」

「はい」

遊撃士協会クロスベル支部は決して大き過ぎる建物ではないが東通りの一等地である住宅街と露天街の間に建っていることがその重要さを表しているようにとにかく人の出入りが多いのだ。
まだ午前中だというのに訪問者が尽きないという事が非常に頼られている、当てにされているとわからされて気圧されるのだ。警察本部の受付ががらんとしているのとは対照的である。
それは挨拶でもと軽い気持ちでやってきたものの忙しいからと相手にされないのではないかという危惧は足を竦ませるのに十分なものだった。
とりあえず人が少なくなったので協会に入って待つことにするとこちらを見た受付からすぐに声を掛けられた。

「あら、いらっしゃい。あなたたち・・・ひょっとして特務支援課の坊やかしら?」

なんでわかったんだと驚いた4人は受付に近付き自己紹介を行った。

「初めまして。クロスベル警察特務支援課のロイド・バニングスです」

「私は遊撃士協会クロスベル支部の受付を担当しているミシェルよ」

このミシェルは一目で特徴がわかる男性だった。30代の男性でドレッドヘアーに立派な体躯にピンク色の服装、そして物腰柔らかな態度と女性口調。
つまりオネエっぽいのである。
ロイドたちも面と向かうとその姿になんとも言えない気まずい感覚になっていた。
しかし会話すればそのような印象は吹き飛んでしまう。

「どうして私たちのことが」

「アリオスからも聞いてたし、胸のエンブレムと顔ぶれを見れば一目瞭然よ。どうやらわたしたちと同じような活動してるみたいだけど?」

「え!?」

ロイドたちは驚きのあまり絶句した。
特務支援課が発足してまだ二日。クロスベルタイムズを読んでいたとしても掲載されたのは小さな記事と写真が一枚だけである。
アリオスの話を聞いていたとはいえミシェルはしっかり特務支援課の存在と活動と人員を把握していたのだ。
人の出入りが激しい遊撃士協会に顔を出した途端に支援課の4人組を見抜いた観察力も合わさせて極めて優秀な人物であると僅かな会話で察せられた。

「否定はできませんけど、ギルドとしては良い気分はしないんでしょうか?」

「いーえ、とんでもないわ。ウチとしては大歓迎なくらいよ。何せ依頼の数が多過ぎて今いるメンバーだけじゃ回しきれないのよ。あななたちが分担してくれるなら大助かりだから歓迎よ」

これは予想以上に良い反応だと一同は安心の息を吐いたのだが、ミシェルは一言付け足した。

「ただし、使い物になるんだったらよ」

4人はやっぱり来たと身構えた。

「こう言ったらなんだけどウチの遊撃士たちは優秀よ。アリオスを筆頭にほかのメンバーも粒揃いのエース級の実力を持っているわ。警察が市民の人気取りのためにでっち上げた新人ばかりの部署、そんな所に代わりが勤まるかしらねぇ?」

支援課の4人はミシェルの言葉に全く反論出来なかった。セルゲイ課長からの話ではクロスベル支部の遊撃士は最低でもB級というベテランばかりが集っているという。
優秀な遊撃士はアリオスだけじゃないのだ。
それに比べると自分たちは新人ばかりで何もかもが見劣りする。
黙っているとミシェルが少し笑って助け舟を出してくれた。

「まあ現状認識が出来てるならイジめるのはこれぐらいにしてあげるわ。あなたたちはあなたたちで勝手に頑張りなさい。しくじったらこっちがフォローするから」

「それって」

「手が足りないって言ったでしょう?そういう部署があるだけでもこっちは助かるの。それが使えるようになるかどうかはあなたたち次第よ」

「あっ、精進させてもらいます」

ロイドは来た甲斐があったと内心喜び、安堵していた。
面と向かって力量不足を指摘されたものの形式化している協力関係を改めて確認出来たことは大きい。相手の反応はむしろ敵意もなく忙しさの軽減のために支援課の活動を望んでいる。
これならば現場で遭遇しても大した問題にならない。むしろこちらの力量が認められれば連携して動ける可能性もある。

用事も済んだので協会から出ようとすると男が二人、2階から降りてきた。
良い体格でアリオスほど威圧感を感じさせないが同じように隙のない足運びをしていた。
支部にいることもあり胸のバッジを見なくても遊撃士だとわかる。

「なんだ、警官か?いや、君たちが噂の特務支援課かな?」

茶髪の導力ライフルを腰に下げている感じの良い男がこちらを見て言った。

「やっぱ分かっちまいますか?」

「それはそうだろう。新人臭い気配がするからな。見るからに練度が足りてないようだが。このクロスベルで本当にやっていけるのか?」

ランディの言葉にもう一人の金髪の男、ガッシリした体格と腰に大剣、帝国の騎士剣を下げている無愛想な男が4人を一目で力量を見抜く。

「とにかくやれるだけのことはやるつもりです」

虚勢でもなんでもなく支援課の真摯な気持ちを言ったつもりだったが、返答は手厳しかった。

「甘い。やれる以上のことをやらねばいつまで経っても成長しないぞ」

遊撃士の言葉は実績があるだけに重い。少し落ち込んでいるように見えたのか茶髪の男がフォローしてくれた。

「まあ頑張れってことだよ。個人的には応援してるよ。警察が頑張ってくれればこの忙しさも軽減するからね。そういえば自己紹介がまだだったね。スコットだ。こいつは相棒のヴェンツェル。今後現場で会うだろうからね。よろしく頼むよ」

「はい。支援課のロイド・バニングスです」

お互いの自己紹介が済むと支援課が外に出て遊撃士の二人は受付でミシェルと話し始めた。

「リンとエオリアがそろそろ戻ってくる頃だが、アリオスさんも出張中だ。俺たちがアルモリカに出ても大丈夫なのか?」

「旧市街の事はいつものことだけど、今回は連中の動きもあるからアリオスが介入したがっていたけど、まあなにかあればさっきの子たちも動くでしょうし、それで様子見かしら。この忙しさも来月にはあの子たちも来るから少しはマシになるでしょう」



遊撃士協会から出た支援課の4人は雑踏の中、人が少ない通りの隅でやっと一息ついた。

「ふう、緊張したな」

「ええ、でも思ったよりはなんとかなったわね」

「そうか?結構きつかったぞ。練度が足りてないとか新人臭い気配とか、俺は結構やれると思ってたから胸にグサグサ来たぜ」

「そうです。なんだか偉そうでした」

ロイドがリーダーということでほとんど対応をしてしまい、ティオは何も言う機会がなかったので言われ放題に不機嫌になっていた。
ティオの不機嫌を笑って受け流すと遊撃士協会の対応について感想を言い合った。

「これは良いんじゃないかしら。向こうも私たちに期待してるみたいで目的は同じなのだから競合意識はないようだし」

「でも眼中にないって感じでもあったぞ。こっちの力量なんか一発で見破られたからな」

「期待度は、警察だからどこまで使えるかわからないけど忙しいからいないよりマシだからちょっと期待してる、ぐらいかと」

「忙しいってのは言われなくてもわかるからな。でもこれで俺たちがやれることを証明出来れば」

全員がロイドの言葉に頷いた。

「よし。行こう」 
 

 
後書き
あってもなくても良いような話なんだけど、普通のファルコムユーザーは街を巡って全住民の話を聞くので展開がスムーズに行かないのだ。だからマラソンがキツイと評価が低くなるんだけど。

クロスベルの遊撃士協会って5人でカバー出来るわけもないから警察に対してもっとちゃんとしてよという不満こそあれ支援課自体には手伝ってくれるなら歓迎で、前作主人公職業を悪くしない配慮は見事。

今回は繋ぎでありちょびっと伏線。

 
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