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英雄伝説 零の軌跡 壁に挑む者たち

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17話

手配魔獣退治といえば遊撃士の活躍としてよく知られている。
遊撃士は戦闘経験を独自の戦闘手帳で蓄積しており、情報は共有され何度も遭遇した敵はそれゆえに分析され対応が練られていく。
政府機関に比べて圧倒的に人員の少ない遊撃士が大陸規模の活動で交戦経験のある魔獣の情報が蓄積されている。
その多くが巨大魔獣である。
今回、支援課が退治することを要請された手配魔獣はコウモリが突然変異で、または十分に成長して巨大化したものであり、過去に遊撃士が交戦した記録がありその情報から事前対策がしやすい状況にある。
巨大化した魔獣というのは危険度が高い。
同じジオフロントで遭遇した軟体魔獣もそうだが体の大きさが生命力、攻撃力、耐久力の高さを表し、体当たりされるだけでも通常の魔獣より遥かに危険だからこそ大型魔獣は手配され討伐の対象となる。
情報通りなら機敏にこそ動けないもののボス的な位置付けで同種の小型魔獣を従えている可能性が高い。

「まずは距離を取りつつ護衛の雑魚を引き剥がして叩く。あとは本命を半包囲しつつ削っていくのがこの手のセオリーなんだが、一番の問題はどこで戦うかってことだ」

支援課ビルのリビングでホワイトボードを4人が囲んでいる。
戦闘が専門であるランディが立てた作戦の説明をロイドが書き出して、図入りでわかりやすい作戦図として描かれている。
それぞれの役割や陣形が書き込まれて、前衛の二人、ランディは攻撃担当、ロイドは防御担当兼指揮官、前後左右に気を配る後衛に武器の特性もあり中衛にティオ、エリィは最後衛で全体を見渡してもらうことに。
これらの役割をはっきりさせることはチームとしての役割を認識させて総合力を向上させる。
ランディは基本は斬り込み役になるがロイドはそれをカバーしたり後衛を守ったりと複雑な役柄をこなさなければならない。後衛も前衛の援護のみならずアイテムやアーツの使用判断などこれまた複雑な役割である。
一昨日のジオフロント突入時では初対面のままのなし崩しの戦闘に皆の息も合わず自然と体は動いて戦った。たが、それは個人的な力量に頼ったもので戦闘経験も連携練度もまだまだ乏しいチームプレイとは言えない代物だ。
これからチームとして動くのならば作戦をしっかりと立てて、不測の事態に対処し混乱することもないようにしなくてはならない。戦闘に不安のあるエリィやティオがいるのでより入念にである。
今回の問題は狭いジオフロントでどう戦うかである。
魔獣が単独ならば少し広い、足が使える場所なら動きの遅い相手なのでこの戦法で十分なのだが、数で押されたりすれば狭い通路での戦闘は面倒なことになる。

「私の魔導杖には小型の導力砲がついてます。この前は導力が溜まっていなくて使えませんでしたが、小型魔獣相手ならこれで掃討出来るはずです」

考え込むランディにティオが杖を掲げて提案した。
杖の先端の機械を動かしてみせると小さな発射口が姿を現した。

「そいつはどれぐらいの範囲で狙えるんだ?射程は?連射はどうなんだ?できるだけ詳しく頼む」

「調節にもよりますが上下左右で大体1アージュ前後の導力波を撃ち込めます。最大出力では50アージュは届きますけど、有効射程としては15アージュが限度かと。連射は、試作品ですので利きません」

性能を聞き少し考えたランディは、「なら最初にティオすけ砲をぶち込んで機先を制するというのもありだな」と奇襲作戦に変更した。
ティオの持つ魔導杖の放つ導力波攻撃の最大の利点は点や線ではなく面で攻撃出来ることで命中率がとても高いことだ。それを大火力、大射程で撃てれば護衛の小型魔獣を引き剥がすのも楽になり包囲に持ち込める。
このあとも細かな戦術が話し合われたが、包囲出来るような場所まで誘い出すなんてことは出来たばかりのチームでは難しいと頭で考え過ぎるのは良くないと今までの作戦は頭の隅に置いておいてくれと言って、単純に見つけて仕掛けるという作戦に決定した。

「まずはデカコウモリを見つけ出して、ティオすけが狙えるなら撃つ。それで致命傷を与えられたり護衛の雑魚を蹴散らせたらならそのまま仕掛けて、外したりあんまり喰らってなかったら撤退する。そこんところよろしく」

退路の確保が重要であることは前回の戦いで皆が身に沁みているのでロイドが無理し過ぎない、負けないことが大事だと発言した時も皆が同意した。
最初から逃げ腰で格好がつかない指示だったが初の大型魔獣相手に慎重に行きたいロイドの思いが感じられからだ。

「じゃあ作戦も決まったところで武器とオーブメントの調整に行こう」



駅前のジオフロントAに行く前に済まさなくてはならない準備が二つあった。
武器の整備とオーブメントの調整である。
戦闘ではどちらが欠けても準備万端とは言えない。
まず支援課ビル近くにある寂れた武器屋にそれぞれの武器が消耗しておりその簡単な修理、整備を行うために向かった。
ジロンド武器商会は個人経営店であり、狭い店内の壁には新製品の情報を知らせる薄汚れたポスターがいくつも貼られ、あるいは破れており、商品は猥雑に陳列されており、武器特有のオイルや鉄臭い臭いが充満しており、あまり掃除も行き届いてはいないようだった。
入店するとレジカウンターに座る中年の店主ジロンドが本を読んでいた。
ジロンドは4人を一瞬だけ見て面倒臭そうに対応した。

「坊主らな、クロスベルじゃ許可証がなきゃ武器は売れねえんだ。さっさと帰れ」

しっしと追い払うように手で払った。

「いえ俺たちはクロスベル警察の者ですけど」

名乗った4人にお前らが警察?と疑わしい目で見てきたが胸のバッジと身分証になる捜査手帳を取り出すと納得してくれた。

「好きに見ていけ。買うときは手帳が許可証になる」

武器屋は買い換える以外にもやることは多い。簡単な補修パーツが売られておりそれ用のメンテナンス器具が借りられるからだ。
愛用の武器は個人で修理、整備が出来なければ業者に頼んで修理してもらうか買い換えるしかないが、個人用の武器は手触りに慣れ親しむためにも、また経済的にも安上がりなので出来るだけ個人整備を行うのだ。
そして多くの武器は導力化しているため、導力弾や導力波を放つ銃や杖は元よりトンファーやハルバートなど、搭載されたオーブメントが機能しなければ威力が大きく減退してしまう。

「なあ、お前らがセルゲイの言っていた支援課だろう?遊撃士とはどうなってるんだ?商売敵になるんだろ?お前らが出入りするようになって入り辛くなるのは困るんだよ」

突然の店主からの質問に整備中の支援課の皆は驚いた。
だが、店主の読んでいた本がクロスベルタイムズだったことで言葉の意味がわかった。
遊撃士との関係を聞きたいのだろう。

「警察と遊撃士協会は協力関係にありますので問題はありません」

エリィがにこやかに答えたのだが仏頂面の店主は、そうならいいんだがと一応納得したようだが、お互い微妙な関係の組織がかち合って問題が起きないかという心配は消えていないようだった。
この店主ジロンドは見た通りの物臭で、あまり仕事熱心ではないが、固定客が減ることや問題が起きることは遠慮したかったようだ。



武器の整備を終えた支援課はオーバルストア、ゲンテンに向かった。
中央広場に位置するそれは表にデカデカとネオンで装飾された看板が象徴するように内部は非常に近未来的なデザインで洗練されていた。
掃除は行き届き、観葉植物まで配置しており、見やすいように製品は各々のコーナーに集められ性能表まで表示されている。
ショーケースには老舗導力メーカーの製品がロゴ付きで並んでいる。
支援課の一同は製品の多さに感嘆の声を洩らした。
特にロイドは呆気に取られて、3年前までは普通の工房店だったのにと感慨深げに驚いていた。
しかしティオは別の意味で感慨深かった。
(随分、エプスタインらしくなってますね)
3年前、ここでみっしぃに出会わなければ、財団に参加しなかっただろうし、でなければ自分は今ここにこうしていないだろう。
ある意味では出発点となった場所だが、店全体が改装されたようで内装は見覚えのない間取りや講習をやったテーブルや担当者と話した部屋などがなくなっていた。
それが少しだけ寂しかった。


支援課は戦術オーブメントの調整を行うべくサポートカウンターの店員に各種調整を頼んだのだが、店員とお互いに目が合った瞬間、ロイドは驚いて声を上げた。それは相手もそうだったようで全く同じ反応を同時にしてしまった。

「わわっ、ロイドじゃない!」

「ウェンディ!何してんだよこんなところで」

「失礼ねー。この格好見て分からない?私はここの技師になったのよ。ロイドは警察官になったんでしょう?オスカーから聞いてるわよ」

作業着姿の幼馴染、ウェンディの姿を見れば、隣の店員とも服装が違うためにここの店員ではなく技師であることは分かりそうなものなのだが予想していなかったためについ質問してしまった。
あまりに明白な答えに照れ笑いで誤魔化すロイドにランディは元気一杯に挨拶をするウェンディがなかなか可愛く溌剌としていたために挨拶代わりにナンパし始めた。

「幼馴染か?結構可愛いじゃないか、俺、ロイドの同僚のランディってもんです。今度デートでもどう?」

こういうことには慣れているのかウェンディは笑顔で忙しくてごめんなさいと明るく断ったので、ランディも挨拶代わりだったのでちょっと大袈裟に残念がっておどけてみせた。
何をどさくさにとエリィは呆れてランディを無視して挨拶した。

「こんにちは、随分綺麗なお店ですね」

「あはは、これは店長の趣味なんですよ。私は前の工房が好きだったんだけど私のお師匠が喧嘩別れしちゃって、それで流行なんだって言う意見が通ってこうなっちゃって」

「じゃあ早速だけどオーブメントの調整をお願いしたいんだけど、ウェンディがやってくれるのか?」

「うん、このカウンターはカスタマーサービス用なの。オーブメントのお手入れはここでね」

「あ、でも俺たちのオーブメントは新型のエニグマってやつなんだけど大丈夫かな?」

「任せといて。新型用のクオーツ調整器もあるしね。そうか、警察も新型をねえ。実は最近遊撃士の人もちょくちょく利用していくのよ」

この話に少し驚いたロイドだったが、ティオが遊撃士協会とエプスタイン財団は協力関係にあることを教えてくれて、そういえば習ったことがあることを思い出し、エニグマの配備は徐々に進んでいるみたいだ。

「戦術オーブメントの性能で動きやアーツの使用量とかも変わってくるからな。さすが遊撃士。転換が素早いねえ」

ランディが感心して話を終わらせるととりあえず手持ちのセピスをアーツに合成してもらいエニグマを自分用に調整する必要がある。
戦術オーブメントは個人個人で調整が異なりアーツをセット出来るスロットの属性が限定されラインも異なっている。
これは個人の属性や得意不得意が関係しており、例えばティオの戦術オーブメントはラインが全て直列しており、一方ランディは複数のラインが並列している。
直列の場合はクオーツのエネルギー量が増えるので属性の力が累積され一本化されて複雑で強大なアーツが使用可能であり、並列式はそれが出来ない。
単純に見れば直列式のほうが断然強力であるように思えるが、スロットが長い分、エネルギーは膨大であり複雑で扱いは難しく駆動してからクオーツの性質を反映させるまで、アーツの詠唱なども含めて長くなりがちで扱いを間違えれば失敗の危険性も大きくなっている。
並列式はその分アーツの使用には向かないが身体能力強化という側面では駆動から反映されるまでが早く非常に安定している。
そのため肉体戦闘向きかで戦術オーブメントの調整は変わってくる。
ウェンディは本人の意見を聞きつつ戦術オーブメントの調整を行い、その間にちょっとした世間話になった。

「師匠は旧市街で修理屋をやってるから機会があれば利用してやってよね。そうそう、そういえば帰って来たのならもうオスカーには会ったの?」

「忙しくてまだなんだ。落ち着いたら行こうと思ってるんだけど、モルジュだっけ?働いてるパン屋の名前」

「あいつ、結構凄いことになってるわよ。この前、雑誌で紹介されてたわ」

「昔からハンサムでモテてたもんな。あいつ」

共通の友人が若手ハンサムパン職人だと騒がれていると盛り上がってしまったが、ウェンディがやっていた戦術オーブメントの調整とクオーツの加工が済んだので、それぞれに提出すると全員の希望通りになんの不備もなく仕上げており、ティオも良い腕ですと賞賛した。
オーバルストアでの戦術オーブメントの調整やクオーツの加工の料金は警察が契約を結んでおり基本的には無料である。これは遊撃士協会も同じ契約を結んでいる。職務上絶対に使う必要があり、戦術オーブメントの流通自体が限られているので取り締まる意味もあった。

「これからもちょくちょく利用すると思うから、よろしく頼むよ」

「ゲンテンはいつでもお客様をお待ちしているわ。今度オスカーも一緒に集まって、そうね、食事でも」

「ああ。それじゃあ」

ウェンディに別れを告げ、ロイドたちがゲンテンから出るとこれで準備が整ったといよいよ手配魔獣退治に向かおうとするのだが、ロイドが待ったを掛けた。

「先に遊撃士協会に行っておかないか?」

3人はロイドの言葉の意味が分からなかった。商売敵になる相手だ。あまり良い感情はない。好んで近付く理由はないはずだ。

「武器屋やオーバルストアでも感じていたんだけど、俺たちが遊撃士協会の真似をしている、だから活動範囲が重なってしまうんだ」

ロイドの指摘に3人は真似をするのだからそうなるだろうと真意を図りかねて曖昧に頷いた。

「クロスベルタイムズの記事にも遊撃士協会を真似していると載っていてそれはみんなが知っていることだと思う。“遊撃士協会も”」

ロイドの説明にエリィが、ああ、と納得の声を出した。ロイドは言葉を続ける。

「なら真似された遊撃士協会に警察がどういう風に説明したのか分からないけど、一度出向いておくべきなんじゃないかと思うんだ。現場でかち合ってからにするよりもそうしたほうが今後を思うとずっと良いからさ」

ランディもなるほどと頷くと一人よくわからなかったティオが質問した。

「皆さん分かっているようですけど、行ってどうするんですか?」

「向こうが私たちのことをどう思っているのかを調べに行くのよ」

エリィが説明するとランディも敵情視察ってことだと補足した。
特務支援課が遊撃士協会と同じ活動をする以上、現場で遭遇することも多くなるだろう。その場合にどう対応するのかが今のままでは決められないのだ。
前回アリオスに窮地を助けられたこともあり、また真似していることもあるので、現場で遭遇した際に強く出られると押し切られてしまう可能性が高い。
だから先に向こうの対応を知っておくことで現場で慌てなくても済む。

「警察と遊撃士協会は内情はともかく建前上協力関係にあるわ。だから助けられたお礼を言いに行くとか同じような部署だからと挨拶に向かえば、向こうも悪い気はしないんじゃないかしら」

「そういうものですか」

こういう挨拶回りには疎いティオはクロスベルに来た時も着任の挨拶を支部長にしかしなかったことを思い出して、あれは失礼だったかなと思い納得した。

「どういう連中か知っておくのは賛成だ。だが、商売敵の所だぜ?敵地みたいなもんだぞ」

「それでも筋は通しておくべきだと思うんだ。向こうがこちらを嫌っていてもそうすれば礼は失することはないだろうから向こうだってそれなりの対応をしてくれるはずさ」

ロイドの案に全員が賛成すると中央広場からジオフロントAのある駅前通りには向かわず遊撃士協会のある東通りに足を向けた。
 
 

 
後書き
遅くなりました。
閃の軌跡が同時間軸なのでいろいろ考えたりして、情報が出てくると魔導杖とかエニグマとアークスってどこまで繋がってるのかで悩む。どっちが先行して作られたのか、オーブメントにも個人用、集団用と特色があるのか。あのラインの長さはどうやって決めているのか。

特務支援課の最大の功績は支援課を通すことで絶縁状態だった警察と遊撃士協会を仲介してみせたことではないかと。
ゲームじゃ気軽に入っているけど、分署なので本部の空気に染まってないこともあるけど、行き辛いよ、普通は。
一つ一つのイベントが実はとんでもないことで、繋がっていくのが軌跡シリーズですからね。 
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