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宇宙を駆ける一角獣 無限航路二次小説

作者:hebi
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第一章 八話 熱圏突破 前編

 
前書き
ようやく夏休みの課題をタンホイザに叩き込んだ!
後は更新するのみ。まっててくれ〜 

 

ユニコーン ブリッジ

白野はギリアスを指導するために敷設されているブリーフィングルームから機材を失敬してブリッジにそれを設置して第一回艦隊戦講座の準備を完了させた。
講演会の会場のように、ブリッジの後ろにたくさん椅子を並べて正面のモニターに古風なプロジェクターを向けて画像の投影準備をしている。
そして、その後ろの椅子にはギリアスを始め将来立派な0Gドッグとなるためにユニコーンにクルーとして乗り込んだ若手が座って講座の開始の時を待っていた。

「ではこれより第一回艦隊戦講座を始める。講師は勿論この俺、白野秋人だ。よろしく。」

この時、白野は何故だか黒いサングラスをかけている。どういう意味があるのかは不明だが、とにかく老け顔と合間って迫力が凄い事になっている。

「「「「よろしくお願いします。」」」」

揃って挨拶する生徒たち。
白野は講演会にありがちな前置きという奴が大嫌いなのでそんなものはすっ飛ばして本題に入った。
プロジェクターのスイッチを入れて画像を投影する。

そこにはアステロイドベルトに浮かぶユニコーンが表示されていた。

「これは一年前のの航海記録から製作したホログラムデータだ。この時ユニコーンはアステロイドベルトを航海していた。その時に海賊の襲撃を受けたのだ。」

もう一度プロジェクターを操作すると、ユニコーンの前方から大マゼラン、ネージリッド製の駆逐艦【シェウェルク級】が四隻の艦隊を組んで急速接近して来た。

「さて、ここで質問だ。この時俺はどのような方法でこの艦隊を撃破した?」

白野の質問にギリアスが真っ先に答えた。

「正面突破だ!それ以外に考えられねえ!」

ギリアスの言っている事は一見単なる猪突猛進の考え方に思えるがこの場合は正しい。シェウェルク級は駆逐艦であるが、大マゼランの海賊が使用しているものは火力重視で改造が施されているため機動力を犠牲にしているので船速はそれほどでもない。
正面突破して最大船速で離脱すればまず追っては来られない。
そこがレーダーの効果が薄れるアステロイドベルトなら尚更である。

「正解だ。」

再びプロジェクターを操作すると、ユニコーンが先制攻撃のメテオプラズマで先頭のシェウェルク級を撃沈してその間隙を最大船速で抜けて行った。

「このように敵艦が反応できないうちに先手を打つ事が遭遇戦で最も重要なことだ。覚えておけ。」

白野の艦隊戦講座はこうして続いていった。

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カシュケント 宇宙港 ドック

宇宙港のドックにはボロボロになったバウンゼィが格納されて修繕作業を受けていた。
ちなみにバウンゼィの整備士は先の戦闘で受けた砲撃の際に落ちて来た工具に頭を強打され、現在は医務室でベットの人のなっている。
なので、代わりにユニコーンからバークが派遣された。

「フフフ………エンデミオン製の艦をいじるのは久しぶりだなぁ………」

しかしこの整備士、ノリノリである。
いつもの無口も吹っ飛んでその顔は喜色満面。子供のように無邪気な笑顔で工具をクルクルと手の中で回している。
一般クルーの間で密かに囁かれている彼の【本性】とも言える状態になっている。

「まずはルートンさんが吹っ飛ばした砲門の修理………うん、五分もあれば一つ分は終わるかな。」

早速バウンゼィに取り付いて手際よく工具を振るうバーク。立っている舞台こそ違えど、その姿は上位ランカーを思い起こさせるほど堂々としていた。

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ユニコーン ブリッジ

「よし、諸君のセンスはよくわかった。次は具体的な艦隊戦のコツだ。基本中の基本だから必ず覚えるように。」

白野の講演はそろそろ終盤である。

「では、ユニコーンと敵艦の相対距離をよく見てみろ。」

モニターにはユニコーンが射程ギリギリのところで敵艦との距離を保っている。いわゆるヒットアンドアウェイ戦法の典型的な距離関係である。この状態を常に保つことが好ましい。

「なるほど、俺はすぐに離脱しなかったからやられたのか。」

一人納得するギリアスであった。他のクルーも納得した表情で頷いたりメモをとったりしている。

「………よし、それでは第一回艦隊戦講座はこれで終わりだ。各自持ち場に戻って別命あるまで待機せよ。」

「了解!」

「了解です、艦長!」

ギリアスを除く一般クルーは白野の指示に従い持ち場に戻って行った。その際にちゃんと椅子を片付けていったのは白野の艦のクルーの人間的な練度の高さ故である。

白野は最後まで残っていたギリアスを促す。

「ギリアス、お前の艦の修理が終わり次第出港する。艦に戻って準備をしておけ。」

「ああ。わかったぜ。」

ギリアスもクルーにならって椅子を片付けてからブリッジを出て行った。
一人になった白野はプロジェクターを片付けてから一通りの出港準備を整え始めた。

「さて、いよいよだな。ヴァナージめ………」

白野の意識はマゼラニックストリームの航路上にあるクソ暑いと評判の超白色矮星ヴァナージに向いていた。
白野はこのヴァナージの熱に対抗するためにわざわざユニコーンの装甲に大金を積んで耐熱処理を施させたのである。
どうにかしてマネーを毟り取ろうとする商魂逞しいカシュケントの業者相手に舌戦を繰り広げ、そろそろ舌が干からびそうになったところでようやくクー・クー顔負けのがめつい業者に白旗をあげさせる事に成功したのだ。
それでも出費はバカにならない。白野としては何食わぬ顔で航路上に居座っているヴァナージに今すぐエクサレーザーを叩き込んでスターバーストの一つや二つ起こしてやりたい気分だ。
何しろ耐熱処理の代金が5000Gもしたのだ。クルーの給料を減らすのは主義に反するので自腹を切っての耐熱処理である。
おかげで数ヶ月先まで彼の財布にはブリザードが吹き荒れることだろう。

「………よし、準備完了。後はバークの報告を待つだけだ。」

バークの腕ならこの時間で既に修理を終わらせているはずだ。これは確信を持って言える事である。

噂をすれば影、ブリッジにバークからの通信が入った。

『バークか。バウンゼィの調子はどうだ?』

『修理完了。これより帰還します。』

『ああ。ご苦労だったな。』

このメカオタクの整備士との通信は本当に短い。実力は確かだしメカの事になると無口ではなく饒舌となるのだからいい話し相手でもいればいいのだが………

その時、今度はギリアスから通信が入った。

『こっちはOKだ。いつでもいけるぜ。』

『よし、ではユニコーンが先導を務めよう。後ろについて来いよ。』

『おうよ!』

ギリアスも準備ができたようだ。後は出港するのみ。
その時、ブリッジのドアが開いてオペレーターのゲイケットが入ってきた。

「おーい、艦長………うお!なんだ、そのサングラスは?」

流石にゲイケットでも白野のサングラスの迫力には驚いたようだ。

「どうだ?俺のサングラスもなかなかイカすだろう?」

実際白野がわざわざサングラスをかけた理由はこのセリフが言いたかったからなのだ。ネタには努力を惜しまない彼の性格が表れている。

「イカす、いうか迫力が半端じゃないな。」

「そうか?」

しかし、白野自身はサングラスを気に入ったようで外すつもりはなさそうだった。

「さて、ゲイケットそろそろ仕事をしてくれ。出港だ。」

「お、いよいよだな。マゼラニックストリーム、いやまずはヴァナージからか。」

「あのクソ暑いガスの塊には5000も出した。これ以上は1Gも奴に搾り取られるわけにはいかん。熱圏に入ったら最大船速で奴の魔の手から逃げる。いいな?」

「機関室の連中に準備させておこう。」

「そうしてくれ。」

こうして、ユニコーンの出港準備は確実に進んで言った。

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ユニコーン 医務室

ユニコーンの医務室では紅一点のエーヴァが来るべきヴァナージの熱圏に備えて熱中症患者の受け入れ準備と冷水の用意を進めていた。

「エーヴァさん、頼まれてた氷枕です。」

「ご苦労様。ほら、これは礼だ。」

「おお!?おお………ハハハ………」

エーヴァに頼まれて氷枕を持ってきたクルーに冷湿布を渡すエーヴァ。彼女の愛用品である。ヴァナージの熱圏に入った時には重宝するだろう。
いやはや、このクルーはいい物をもらったものだ。

釈然としない顔で医務室から出て行ったクルーを横目に、エーヴァは氷枕に氷をしこたま詰め込んでいた。熱中症患者が少ない事を祈りたい。

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ユニコーン 整備庫

整備庫にはそこの主であるバークがバウンゼィの整備で入手したデータをまとめていた。
彼は一人の時、そしてメカが絡んだ時とても饒舌となる。

「ふむふむ………おお!なるほど!アレだけ性能が高いのはダメコンが徹底してたからか!でもこんなCICは見た事ないな。ギリアス君考案のオリジナル?だとしたらすごいや!これを参考にユニコーンのCICももっと性能が上がらないかな?」

完全に別人になってるのだが、これはあの無口な整備士のバークである。絶対スキルにメカオタクがあるに違い無いと白野は睨んでいる。
彼はヴァナージの熱などメカをいじってさえいればそよとも感じないだろう。

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ユニコーン ブリッジ

「艦長、準備完了だ。いつもの頼む。」

「任せておけ。………ユニコーン発進!」

艦長としての威厳の篭った号令を受けて、ユニコーンはブースターをふかせて再び漆黒の宇宙へと漕ぎ出して行った。

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マゼラニックストリーム 超白色矮星ヴァナージ

ユニコーンのモニターには彼方に浮かぶガスの塊が映されている。そろそろ外気温度が上昇し始める頃だ。

「……外気温度が上がっている。そろそろ放熱板を展開してくれ。」

「了解。放熱板、展開。」

「周辺のデプリに注意しろ。放熱板を傷付けられたらたまらん。」

装甲に耐熱処理を施してもこれである。この上放熱板がやられたらユニコーンは蒸し風呂もかくやの熱地獄となるであろう。
白野などは悠然と浮かんでいるヴァナージが「ほらほら、かかって来なさい」とでも言いたげにしているように感じるのである。憎たらしいことこの上ない。

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バウンゼィ ブリッジ

バウンゼィも似たり寄ったりの状況であった。ギリアスを含むバウンゼィのクルーは流れ落ちる汗を拭い素知らぬ顔で浮かんでいるヴァナージを憎しみのこもった目で睨みつけながらそれぞれの仕事に集中する事で暑さを少しでも忘れようとしていた。

が、それでも限界が来たのか一人目が遂に暑さに屈して

「あちい………」

等と言ったものだから辛うじて誤魔化していたクルーの体感温度が上がったのである。

「くっそ〜〜」

ギリアスもエンジンを全開にして一刻も早くこの悪夢のような宙域から脱するべく、努力していた。

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ユニコーン 医務室

いくら放熱板を展開し、装甲に耐熱処理を施しても限界というものはある。
遂にユニコーンでも熱中症患者が出た。
機関室のクルーである。

「しっかりしろ!医務室は目の前だぞ!」

同僚に肩を貸されてヨロヨロと歩いてくる機関室のクルー。
それを待ち受けるエーヴァ。

「来たな。患者をそこに寝かせろ。」

「あ、はい。」

ところで、彼女の本職は外科である。繰り返す。彼女の本職は外科である。
なので本職以外の医療行為はどうしても荒っぽくなる。

「ふむ。まずは冷却。」

迷わず冷水をぶっかけた。

「ぶわっ!?」

巻き添えをくらう同僚。

「次に水分補給。」

放水ホースを患者の口に押し込んだ。

「むぐぅ!?」

何故か再び巻き添えを同僚。

「最後に湿った布で包む。」

「かはっ………」

やはり巻き添えをくらう同僚。

………………………………合掌。

続く

 
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