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変人だらけの武偵高

作者:プー介
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5話

二年A組の教室のドアが、勢いよく開かれる。
まさにホームルームが始まろうとしたその瞬間だった。担任教師の高天原ゆとりを含め、A組全員の視線が、突如現れたその男、遠山キンジに集まる。
やけに制服は汚れており、目が細められたその表情には疲労が見て取れる。何かトラブルに巻き込まれたのであろうことは、見る者全てが察することが出来た。
がーー彼らの誰一人として気付いていなかった。彼が目を細めていたのは疲労からではなく、獲物を探しているが故ということなど。
「おっ、キンジ! 遅えじゃねえか何があっだぶぉッ⁉」
間抜けな声を晒したのはスピード狂こと武藤剛気。彼は今、彼が声を発した瞬間に懐まで距離を詰めたキンジによって、顔面にアイアンクローを食らっている。
「てめえ武藤……あんなことがあっておめおめと俺の前に姿を現すとは、余程死にたいらしいなぁ?」
表情はにっこりと笑っているが、それが本心でないことは武藤含め、周囲の全員が理解する。
「よし、屋上に行こうか。ばあちゃんに教えて貰った秋水見せてやるよ」
「ちょちょちょちょっと待てキンジ! そんなとこでお前の技食らったら十中八九屋上からダイブするハメになっちまうぞぉ⁉」
「安心しろ、気絶させてやるから多分痛みはない」
「そういう問題じゃあねぇーよ⁉ あ、でも屋上から飛び降りればかつてない風を感じることが出来るかもーー」
「はいはい、ストップ二人とも」
変な方向に進み始めた馬鹿二人を仲裁したのは、武偵高トップクラスのイケメンと名高い不知火亮だった。
強襲科Aランク。射撃に近接格闘、その他様々な戦闘スキルをそつ無くこなす器用さから、教師陣からの信用も厚い優秀な強襲武偵だ。
キンジは強襲科時代、大抵この武藤と不知火か、狙撃科のレキと組んでいた。特にレキとのSランクコンビは評価が高く、二人が二年次にタッグを組むだろうことは確実視されていた。そして、彼らは将来的に非常に優秀なタッグになるだろうことも。
(ま、その結末が俺の探偵科移籍だからな。あん時は色んな先生に止められたっけ)
有望な生徒の芽を潰すことは、教師としても一人の武偵としても避けたかったのだろう。が、キンジはどうしても強襲科に留まる気はなかったため。また、一部の話が分かる教師陣(蘭豹もそうだった。意外ではあったが、放任主義と考えればあながち考えられなくはない)のありがたい、本当にありがたい助力もあって、一時期武偵高中を騒がせた「気狂いキンジ転科事件」はあっさりとその幕を閉じた。
ーーとまあ、色々あって探偵科に転科はしたものの、未だ彼らとの交流は続いている。この二人は気のおけない親友ともいえる友人だった。
「遠山クン。何があったか知らないけど、取り敢えず後にして、今は遅刻について謝った方がいいと思うよ」
不知火に言われ、ようやく自分の状況を振り返るキンジ。慌てて教壇の方に振り返り、担任の高天原ゆとりに頭を下げる。
「す、すいません高天原先生。ちょっと色々ありまして……」
「いいですよー。見たところ、事情が事情みたいですしね?」
「ありがとうございます」
キンジは心底ホッとする。高天原ゆとりは担任としては比較的アタリな教師だ。性格は温厚で美人、誰にでも優しい。これが強襲科担当、蘭豹なんかだった日にはあの世行きだ。
とはいえ、謝らないままだったならいかに高天原教諭でも少しも腹が立たないなんてことはなかっただろう。キンジは瞬き信号で不知火に感謝の意を述べる。
不知火もそれに気付き、返してくる。
(何々……気にしなくていいよ。好きでやってることだから、か。こいつ本当良い奴だな)
そういえば、不知火にはいつも助けられてばかりだなぁ、としみじみと思い返す。誰とでも仲は良いし、よく気の合う親友だ。
ただ。
(懸念があるとすれば……白雪とだけはあまり仲が良くないんだよな)
それを知った時は、心底驚いたことを未だ鮮明に覚えている。この聖人君子のような男に嫌われる者がいるとすれば、それは随分性根が腐ったヤツなんだろうなあと思えば、なんとソイツが幼馴染だった時の驚きったらない。
が、納得出来ない部分は、無くもない。白雪はキンジに対する悪質なストーカー行為を重ねており、一部の関係者にはそれが露呈している。不知火もその一人で、仲違いはそれが原因とキンジは当たりを付けていた。
(白雪も、あれが無ければ悪いヤツじゃないんだがなぁ。不知火のヤツは真面目だから、リアルな犯罪行為を許容出来なかったのかもな)
まあ、この武偵高では四六時中銃弾が飛び交っているのだが。それには慣れたんだろうな、と勝手に結論付ける。
と。そんなことを考えていると。
「すみません、遅れてしまって……ってあれ?」
謝りながら扉を開けたのは、俺と同じく武偵殺し事件に巻き込まれたアリアだった。



「これは由々しき事態であります」
ゆるふわの金髪を上下させて言った峰理子の言葉に、HR中ということも忘れ円形に並んだクラスメートのほぼ全員が同意した。新学期早々、というかクラスが決まって早々のこの団結力である。野次馬精神、恐るべし。
「キーくんの服がボロボロ。で、後から来たアリアの服もボロボロ。これが指し示すものっていったらやっぱり……」
「その辺にしとけよ、理子」
パシッ、と軽快な音が響く。教科書で頭を叩かれた理子はあいたっ! と可愛らしい声を上げて頭を摩った。
「もー、話してる途中に叩かないでよねー、キーくん。ぷんぷんがおーだぞ?」
「お前こそ、下手なことを口にしない方がいい。じゃないと後でーー」
ボソボソ、とキンジが理子の耳元で囁くと、理子の頬にほんのりと赤味がさした。
クラス全員の心の声が、重なる。
(何を言ったんだキンジ……!)
ごほん、とキンジが一つ咳払いして。
「で? 俺とアリアが何だって?」
「ずばり、二人は恋愛ハリケーンの真っ只中なんだよ!」
「……それで?」
「それでそれで、二人の服がボロボロなのはそうなるようななんらかの行為をしたからなのではないのかと推理したの! どうどうキーくん、この推理にどっか穴があるかにゃー?」
背中のランドセルから猫耳を取り出して、そんな猫撫で声で問う理子。可愛らしいといえば可愛らしいのだが。キンジはデコピンを食らわせてやる。
額を抑える理子を余所目に、キンジは小さいながらよく通る声で(ちなみにこれは武偵には必須スキルだ。基本用途はパニック時の一般人への指示等)、クラスメートたちに告げる。
「言っておくが、俺とアリアはそんな関係じゃない。今朝俺が襲撃を受け、彼女は助けてくれただけだ。他には何もない」
「それは違うわ」
いい感じの締めをしようとしたところで、またも別方面から邪魔が入る。声で分かったが一応確認すると、ピンクブロンドの髪を二つに結わえたアリアが、頬杖をつきながらにやりと笑った。
尖った犬歯がちらりと見えた。
「キンジは私のパートナーにする。彼は未だ受け入れていないけど、これは決定事項よ。彼はもう、私のターゲットなの」
どこかから、ふぅー! という野次が聞こえた。
キンジは取り敢えず理子にもう一度デコピンした。
「キンジ、緋弾に手を出したのか⁉」「なんて命知らずなヤツ……!」「……へえ、流石手が早いね」「気狂いの異名は伊達じゃないってことね」「フケツよフケツ!」
などと口々に謂れのない事を散々に口にするクラスメートたち。
「だから違う! お前も勘違いされるような事を言うな!」
(またアリアって呼んでくれない……他の人と話す時は私の名前言うのに……)
しょぼんとツインテールを萎ませるアリアを他所に、キンジは学友たちに呆れの溜め息を見せる。
「……はあ。もう良いだろ? なんか質問があれば昼休みにでも聞きに来い。まあ、受け付けるかは分からんがな」
取り合う気もないが、今はこう言っておくのが無難だろう。ちぇーなんて声を上げながら、クラスメートたちは散り散りになっていく。
「……で、なんでお前が隣なんだ」
「あら、不満?」
キンジの吐いた毒をさらりと受け流すアリア。話を聞くと、どうやら武藤が代わってやったらしい。キンジのことを思ってのことなのだろうが、余計なことをと内心思う。
「不満ではないさ。だが面倒なことになりそうだと思ってな」
「心外ね。英語の授業なら、分からないところを教えられると思うけど。一般教科の成績は振るわないって聞くわよ、キンジ」
「誰情報だよ……間違っちゃいないけどな」
新学期そうそう、面倒なことに巻き込まれた。この時のキンジは、アリアに出会ったことをその程度にしか認識していなかった。
が、後に彼は知ることとなる。この出会いはある意味必然でーー陳腐な言い回しをすれば、運命の出会いに他ならなかったことを。 
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