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【パズドラ】殴って、青龍カリンちゃん!

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【パズドラ】殴って、青龍カリンちゃん! 四話 ~激しいスキンシップ~

「ぐおォン!」
 オロチがボックスから飛び出してきた。
 最近相手をしてやれていないからかな? この前は極夜の二匹も手に入れて、セイレーンとリリスに進化させるために忙しかった。他にも育てるモンスターが増えてきて、愛情を平等に分け与えてあげられない毎日が続いている。
 そのことに気づいてはいたが、どうやら俺が思っていた以上にオロチは寂しがっていたらしい。
 八つもある頭は、一つは嬉しそうに、一つは怒っていて、一つは泣きそうで、中には無表情を装っている。それぞれ別の顔を作っているのがとても奇妙で面白い。
 オロチは顔は多いが魂は一つなのだという。それじゃあ、なんでそれぞれが別様に動いているのかというと、その八つの顔を別々に動かして自分の気持ちを表すのがオロチなりのコミュニケーションらしい。言いたいことは顔で示すので、口数は少ない。というか、俺に理解できる言語で話せるのか未だに分からないのだけど。
「今日はどうしたんだ? かまってほしいのかー?」
 そういうとオロチは山のような体で地面を鳴らしながらこちらへ近づいてくる。
 そして頭を一つ、こちらに擦り寄せてきた。
「なんだ? なででほしいのか? よしよし、この甘えん坊め」
 俺はオロチの頭を撫でた。すると、オロチは目を閉じて気持ちよさそうに震えだした。
 そのままずっと撫でていると、他の頭をもう一つ、擦り寄せてくる。俺は空いている片手で、その頭を撫でた。
 その頭も、さっきの頭と同じような動作を始めた。
「はははは、この贅沢者め。気持ちよさ二倍ってか?」
 正直なところ、オロチの頭を撫でるのには骨が折れる。オロチの顔は当然、俺なんか比較にならないほどに大きい。顔だけでも俺の体重より何倍も重く、口の大きさは俺を文字通り丸呑みできるほどだ。オロチがその気になれば、人間なんかまるでポテトチップスをつまむように食べてしまえるのだろう。
 そんな化け物の頭を、俺は雑巾で窓を磨くように、円を描く感じで撫でるのだ。恐怖なんかこれっぽっちもない。
 しかし、そんな俺でも、オロチと出会った頃は冒険者の欠片もなかったので、初々しく全てに敏感だった。当時は、いつか食べられてしまうのではないか? と恐縮しながら共に戦っていたものだ。
 しかし、旅をしていく内に色々とあるもので……今では互いに信頼出来る関係を築けている。オロチだけじゃない。テレビで見た動物大好きお爺さんみたいに、どんな怖いモンスターでも「よーしよしよしよし」とスキンシップすることができる。
 これが、冒険者にとっての日常だ。一般人には到底無理なんだろう。昔の俺みたいに。
 そう考えると、やっぱり俺はかなりの進歩をしたんだな、と感慨にふけってしまう。
 ふと、三つ目の頭が俺のところに伸びてきた。なんだ、俺の手は二つだけだぞ。八つは当然、三つ目の手なんか持ち合わせていない。
 しょうがないから、三つ目の頭には頬ずりで応えることにした。
 ……なんか、嫌な予感がする。
 そう思った瞬間、四つ目の頭が差し出されてくる。うん、薄々気づいてた。
 どうしようか考える暇もなく、五つ目の頭が飛び出てきて、ビックリする間もなく六つ目、七つ目、八つ目の頭が出てくる。
 最後の頭に至っては、俺から一番遠い位置にあるのにもかかわらず、首をぷるぷるさせながら撫でてもらうのを待っている。やばい、これ、やばい。
 感じたころには遅かったようで、俺は八つの頭に押し倒され、潰されそうになっていた。
 鼻先が腹部にめり込み、片腕は可動域を無視しそうなのだが、赤信号みんなで渡れば怖くないということなのか、もう片腕と両足も関節の限界を無視しはじめる。三途の川まで渡らせるつもりか! こいつは!
 ここまでくると、苦しい、ということしか感じられなくなってしまう。
 ぎゅうぎゅうと笑顔で俺を殺しにかかるオロチ。
 最早何をされてどのように苦しいだとか、そんなのは問題ではなくなってきた。痛い、苦しい。ただ、それだけだった。
 愛が、重い……。
 だんだんと薄れていく意識の中、かすかに音が聞こえた。
 なんだ、耳鳴りか? と思うやいなや、オロチは突風に吹かれたゴミのように横へ吹き飛んだ。
「アイヤー! お兄さん、大丈夫アルか? おーい!」
 カリンの顔が視界に入る。五感の全てが極限にまで鈍っているせいで、何が起こったのか分からない……というよりも、分かろうとは思わなかった。
「なんか変な音すると思ったら……生きてるアルか? 返事するよろしー?」
「ぁ……ぅ……」
「よかった、死んではないみたいネ」
「カ、カリン……? お……はよう」
「おはようじゃないネ! なんで潰されてたアルか!?」
「あぁっ……オロチと……じゃれ、あってて……」
「私にツッコミをさせないでほしいアル! 絶対にツッコまないネ! ツッコむくらいならボケたいアルヨ!」
「ほら……じ、時代は……ダブルボケツッコミだし……?」
「嫌アルヨ! 私コントや漫才するために生まれてきた違うネ! ガンホー学校では主人公兼ヒロイン役のコースをとってたアル! これでも成績よかったアルヨ!」
「おい……泣く、なよ。ツッコミ担当の……主人公やヒロインなんて、腐るほど……」
「そんなんで泣いてるんじゃないネ! お兄さん、心配してるの分からないアルか!?」
「あぁ……あり、がとう。だんだん、覚めてきたし、セイレーン呼んでくれね?」
「セイレーン?」
「あいつ、回復、できるから……」
「あぁー、ちょっと待っててネ」
 カリンは、セイレーンを連れてきた。
「わー、お兄さん。この怪我どうしたんですか?」
「いいから、とにかく、癒しの唄、お願い……」
「あ、そうですね。わかりました」
 セイレーンの歌声が響き渡る。それにカリンは聴き惚れていたが、喋るだけでも精一杯な俺は、彼女の歌声の美しさをあまり耳で感じ取ることができなかった。
 しかし、良い声なのだということは、なんとなく分かる。
 そして、感じられなくとも、肉体の傷はどんどん癒されていった。
 ようやくまともに歌を聴けると思った時、完治したのを確認したセイレーンは、歌うのをやめた。残念。
「……こんなに綺麗な声があるって……今まで想像もできなかったアル……」
「私はあんまり披露したくないのですけどね。その、自信がないから……」
「なぁーに言ってるアルか!? こんな歌声、今まで聴いたことないアルヨ!」
「でも、私、昔……海で船を見かけるたびに、船員の方々に歌を聴かせていたんですけど……その、歌い終わるとみんな、どこかへ行っちゃうんです」
「んー? もしかしてそれってギリシャ神話にある、難破の」
「な、なななななな、ナンパなんてしてません! ただ、歌を聴いてもらいたかっただけなんです! ……でも、気づいたら船ごとなくなるくらいだから、よほど聴くのが嫌だったんだって……」
「あ、そ、そうアルか……」
 あぁ、セイレーンって、自分がたくさん人殺してるって、気づいてないのか。なんか可哀想な奴だな……と思いながら、二人の会話を聞いていた。
 しかし、そんな歌声を聴いていて、大丈夫なのだろうか? 体は回復したけど、なんか少し不安だ。
 カリンに殴り飛ばされたのであろうオロチも、セイレーンの癒しの唄で回復していた。ずんずんとこちらへ向かってくるが、今度のターゲットは俺ではないらしく、カリンの目の前で止まった。
「ぐおォン!」
 オロチは鳴いて、カリンに頭を突き出し、そのまま迫り出した。
 カリンは両手でそれを抑えつつも、体自体は後ろへ下がっていく。
「ちょ、ちょっと! なんアルか?」
「あはは、きっと、オロチなりのスキンシップだよ。俺もさっきされてた。よかったな、仲良くなれそうで」
「冗談じゃないネ! 私まで殺されるアルヨ!」
「大丈夫大丈夫、カリンは俺と違って強いから」
「お兄さん、死にかけといてよくそんな呑気なこと言え――」
 カリンの頭が、オロチの口の中に消えた。
 んー! んー! というカリンの叫び声。四肢をめちゃくちゃに振り回すも、すでに肩まで咥えられているので、殴る力はない。足にも力が上手く入らないのか、蹴っても大したダメージになっていないようだ。
 そういえば、オロチは女好きだったな。性的な意味ではなく、捕食対象として。
「カ、カリンさん! どうしよう、お兄さん……」
「とりあえず、お前もモンスターなんだから助けてやれ!」
「はい! やれるだけやってみ……ギヒャアッ!」
 オロチの威圧がセイレーンを縛りつけた。ちなみにオロチの威圧はモンスターにしか効かないらしく、冒険者の俺には何が怖いのか分からない。が、そんなことはどうでもいい。セイレーンが動けなくなった。他に戦えそうなモンスターは周囲にいない。
 こうなったらボックスの中から適当なモンスターを召喚するしかないのだが、果たして、カリンがオロチの胃袋に収まる前に間に合うかどうか……。
 なにか、他に手はないのか?
 しかし、すぐに動けるのは俺だけだ。
 ……それなら、俺がオロチを止めるしか、ないじゃないか。
 迷っている暇はない。もうすでに、カリンの上半身はオロチの中へと飲み込まれてしまっている。
 ついさっき、オロチのせいで死にかけた。また死にかけるかもしれない。
 しかし、俺は踏み出さなければならない。俺が、こいつらの親だからだ。
 意を決して右足を上げ、前進――。
 左足を上げ、前進――しようとしたら、突然、オロチがカリンを吐き出した。
 ガハッガハッとむせるオロチと、危機一髪を乗り越え興奮が冷めぬ様子のカリン。
 一体、何があったんだ?
「おい、カリン。大丈夫か?」
「……なんとか、大丈夫ネ」
「よく抜け出せたな」
「……どんどん飲み込まれてって、もう死ぬ思ったら、なんか手が動かせるようになって、それで、思いっきり喉を殴ったアル」
「あぁ、上半身全部が口に入ったから、逆に動かせるようになったってことか。でも、よくあの状況で殴れたな」
「き、気合い!」
 なんでもそれで解決していいのだろうか……。しかし、助かったのだから別にいいか。
 これ以上何かしでかさないように、オロチはボックスの中に押しこみ、俺はしばらくカリンの具合をみることにした。
 夜には落ち着いたカリンとセイレーンをボックスの中に入れて、俺は疲れを癒すために早めに床についた。
 ちなみにセイレーンは一週間ほどボックスから出ようとしなかった。 
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