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【パズドラ】殴って、青龍カリンちゃん!

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【パズドラ】殴って、青龍カリンちゃん! 三話 ~極夜の二匹~

「お兄さん。我、もっと強くなりたいアル」
 自室で本を読んでいると、カリンが突然そう言い出した。
「ん? っていうと……つまり?」
「進化したいネ!」
「おお、そうかそうか。もうカリンもそんな時期か。いやぁ待ってたんだぞー。そう言うと思って、ちゃんと進化素材を用意しておいたんだ」
「キャー! お兄さん、うぉーあいにー!」
「ほら、たくさん食べて栄養つけるんだぞ」
 そういって、俺はカリンために取っておいた進化素材をボックスから呼び寄せた。
 水の番人、神化の蒼面、ダブサファリット、ダブサファリット、ダブミスリット。
「…………」
「フォフォフォフォ」
「どうした? 遠慮はいらん。食え」
「この青い仮面……どうやって食べるアルか……」
「フォフォフォフォ」
「あぁ、俺も最初は戸惑った。たしかに外見は硬そうだけど、中身は柔らかいんだ。甲殻類みたいでさ」
「いや……」
「なんだ? 信じられないのか? たしかに俺も最初は――」
「そうじゃないネ! 単純に気持ち悪いアル!」
「フォフォフォフォ」
「えぇ……好き嫌い言ってると大きくなれないぞ?」
「それに何アルか! この青いオッサンは! さっきから『フォフォフォフォ』ってうるさいし!」
「そんなこと言われてもなぁ……。神化の蒼面も、なんか言ってやれよ」
「ボクノカオヲオタベ」
「うっわ、キモッ! もっと食べる気なくなったネ! てか顔以外ないのに何言ってるアルか!」
「もう、さっきから文句ばっかりだなぁ。食べたくないならいいよ。進化できないのはお前だし」
「ううっ……でも、嫌なものは嫌アル……」
 それから似たようなやりとりを繰り返し、二時間くらいが経過した後、ようやくカリンは進化素材を食べる決心がついた。
 気持ち悪そうに完食したカリンは、突如まばゆい光に包まれて、卵になり――。
 命護の青龍・カリンへと進化した。
「おおー、……ふふ、えへへへ。力がみなぎってくるアル」
「俺からすると服が変わっただけのように見えるんだけど」
 進化前のカリンは黒タイツを穿いていたが、今ではそれがオーバーニーソックスになっていた。どういう進化だ。
 しかし、まとめていた髪が解かれていて、さらに艶やかになったロングヘアーが目に痛いくらい輝いていたのにはちょっと心を奪われそうになる。
「失礼ネ! このツノや尻尾をよく見るアル。前よりも一段と立派になったネ」
「あー、言われてみればたしかに」
「ふふん。さて、お兄さん。ダンジョン行くネ!」
「腕試しか?」
「そゆことー」
「なら今は土曜日だし、極夜の塔に行くか」
「……お兄さん、腕試しって言葉知ってるアルか? いくらなんでも弱すぎじゃ――」
「極夜の塔は今、モンスターが仲間になる確率が上がっているんだ。進化して低くなったカリンのレベルを上げるための素材が必要だからな」
「うーん……それじゃ仕方ないネ。腕試しじゃなくて肩慣らしに変更アル」

 極夜の塔、下から数えて四番目のダンジョン。
 そこには誘惑の宴が聴こえるという。
 最深部にいる二匹のモンスターが奏でる甘美な歌声と妖艶の空気に為す術もなく倒された冒険者は数知れず。
 それに負けた者はもちろん、勝った者ですら、二匹の魅力に取り付かれて極夜の塔に足しげく通うのだとか。
 俺もその一人だった。極夜の塔を選んだのは、もちろんカリンのレベル上げが一番だが、それよりも二匹のモンスターが魅力的だから……って言うとカリンは怒るんだろうなぁ。
「本当アル、モンスターの卵がたくさん落ちるネ」
 肩慣らし、と本人は言っていたが、やはりカリンにとってはつまらないのだろう。自分の実力よりも、他のことを気にしている始末だ。
 溜まった卵の量に感心しつつ、最深部へと進んでいく。
 段々と青い闇が深まる中――。
 そこに、二つの影を見つけ出す。
「久しぶりの人が来たよ。セイレーンちゃん」
「そうみたいだね、リリスちゃん」
「どうも、ご無沙汰。最近は休日に金稼ぎをしていたから、なかなか来れなかったよ」
「ふーん。このリリスちゃんを差し置いて金稼ぎ、ねぇ。一時期は私が欲しくて躍起になってたくせに」
「あぁ、毒吐けるモンスターをゲットしたからな」
「毒?」
「うん。メタドラ狩る時に欲しくてさ」
「どういうこと?」
「いや、だから、前はメタドラのためにリリスが欲しかったけど、今は他のモンスターがいるから、あんまり来る気なかったんだよ」
「なにそれ、私自体が目当てじゃなかったの……?」
「えっ」
「……ぐ、ぐぬぬぬっ!」
「リリスちゃん、落ち着いて!」
「あ、でもセイレーンちゃんは欲しかったから、オケアーノ大瀑布には行ってたよ」
「……む、むかつく! こいつ、むかつく! セイレーンちゃん、こいつ殺そう!」
「えっ、な、なんでそんなに怒ってるの?」
「ちょ、ちょっとリリスちゃぁん! こっちまだ準備が……」
「えーい、知るかー! そんなに毒が好きなら、望みどおり出したるわい! こなくそ! 喰らいやがれぇ!」
「リリスちゃん、キャラが崩壊してるよぅ!」
「お、おい、カリン。なんか怖いし、さっさと終わらせてくれよ……」
「ハオラー。いきなり全力全開、フルパワーでいくネ!」
 そういってカリンは、片手を前に、片手を後ろにやって――なんか中国拳法っぽい構え――気を高め始めた。
 カリンの周囲に、青と緑と紫のオーラが現れる。
「心配ない。恐怖を感じる前に倒してあげるネ。――東方七星陣!」
 三つのオーラが一つに混じり、カリンの拳に一点集中。そして、洪水のように吐き出された。
 有言実行。リリスとセイレーンはまさに何をする隙も与えられずに、壁に叩きつけられた。カリンのスキル、東方七星陣のおかげで姿こそ見えないが、間違いなく一発KOだろう。
 水と木と闇でできた洪水は徐々に勢いを落とし、周囲の荒れ模様が確認できるようになる。
 リリスとセイレーンは元いた場所には当然おらず……そのはるか前方、壁を何枚か突き抜けて、瓦礫の山の中、そこにセイレーンを発見した。
 リリスの姿は発見できなかったが、セイレーンの隣には卵があった。
「うおー、リリスの卵じゃないか? あれは」
「ぐっ……い、痛い……。え? きゃっ、リリスちゃん! どうして卵に!」
「……ここまでコケにされて、ここまであっさり倒されて、黙ってられるわけないじゃないの。私がいらないですって? なにそれ、絶対に認めない! だから、仲間になったげるのよ」
「ちょっとリリスちゃん、ヤケになってない?」
「いいのよ。それに、いつかここを旅立つつもりだったし」
「でも、それはリリスちゃんに見合う、イケメンで高身長の金持ちさんが来たらじゃ……」
「ふん、そんなの、私ならいつでも手に入れられるわよ。それに飽きたら私からこいつを捨てればいいでしょ? その時になったら、さっき言われたことよりも、もっと、もぉ~っと嫌なこと言って別れるんだからね!」
「でも、リリスちゃん、私は? 一人でダンジョンのボスなんて、無理だよぅ……」
「そんなことないわよ。セイレーンちゃん、しっかりしてるもん。私がいなくたってへーきよ、へーき」
「ううっ……リリスちゃん……」
「あーあー、泣かないでよ。こういう湿っぽいの、マジで嫌い。さ、お兄さん。さっさと帰ろうよ」
「でも、いいのか? 親友なんだろ? もう少し別れの時間があったっていいだろうに」
「いいのいいの。そんな別れ方したら、もう二度と会えないみたいで嫌じゃない? ……それに、私まで泣きそうになるんだもん」
「そうか。それじゃ、行くか」
「バイバイ、セイレーンちゃん。ごめんね」

 帰宅。一回ダンジョンに潜っただけなのに、色々とあったので疲れた。今日はもう寝たい気分だ。
 だが、そういうわけにはいかない。今日はゴッドフェスがあるのだった。
 選ばれし冒険者に神は降りてくる。そのチャンスを手に入れられるのが、定期的に訪れるゴッドフェスだ。
 ダンジョン等で手に入った魔法石を使い、自分が神の目に止まるのかどうかを確かめる期間。
 しかし、その手段はなぜかガチャポン。魔法石を金色のドラゴンをかたどったガチャポンに投入して、レバーを引く。出てきた卵が金色なら、大体が神モンスター。
 なんとも馬鹿馬鹿しく見えるが、冒険者なら神モンスターを逃す者は誰もいない。
 極夜の塔から帰宅する前に、俺はレアガチャを呼び出し、(冒険者はガチャポンを召喚できるのだ!)回し始めた。
 レバーを引き、出てきた卵は……白色。残念、ハズレ。少なくとも神ではない。
 ガチャポンから出た卵が割れて、現れたのは――。
「マ、マーメイド?」
「リリスちゃん! 私も一緒に行くよ!」
「え、もしかして、セイレーンちゃんなの?」
「うん! 卵になるために退化しちゃったけどね」
「そんな、うそ……セイレーンちゃん、私、嬉しい!」
 リリス(リリスも卵になるために退化して、今ではサキュバスなのだが)は感激のあまり、マーメイドとなった元セイレーンの親友を抱きしめた。
 今度は元リリスが泣いている。元セイレーンのほうは、元リリスのように突き放さずに、よしよしと、元リリスの頭を撫でる。
「うんうん、二人共一緒になれて良かったな」
「ありがとう、お兄さん」
「ありがとう、お兄さん」
 お礼を言う元リリスと元セイレーン。
 いやぁ、いいことをしたみたいで、実に気分がいいな。
 とでも思うと思ったか。魔法石返せや!
 ……なんて、言える空気じゃないよなぁ……。 
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