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銀河転生伝説 ~新たなる星々~

作者:使徒
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第8話 ロアキア動乱4


アーミア、エルテピア、ダレダン、テルジントの4星系の独立を認めるというロアキアの声明は、銀河各国に驚きをもって受け止められた。

しかし、それは同時にロアキアがそこまで追い詰められているという証であり、ロアキアの危機的状況を物語っていた。
もはや手段を選んでられないほどに……。

このロアキアの譲歩によって、各国は改めてロアキアの状態を再認識し、この事態にどう上手く立ち回れば自国にとって益かを考えて暗躍を始めた。
それは辺境を挟んだ向こう側にあるもう一つの超大国ルフェールも同様であり、早々に共和制国家として独立する4星系への支援を明らかにした。

無論、その当事者たるロアキアにとってはそれらのことは先刻承知である。
この内乱に勝っても負けてもロアキアの国力は大きく減少するだろう。

いや、負けた場合はロアキアという国家が銀河帝国に吸収されて無くなってしまう。
それに比べれば、一宙域の独立など些事たる問題だ。
それに、元々あの4星系(特にエルテピア星系)は共和主義者の勢力が根強い。
こんな時期に腹に爆弾を抱え込むよりは、切り離した方がマシというものだろう。

そこには、そう考えて決断したオリアス皇子の並々ならぬ決意があった。

「敵は5部隊に分かれて進軍中である。数は各10000~15000隻程度で、これは我々にとって各個撃破の好機だ。だが、何も此方の全軍で敵艦隊を1個1個潰して回っていては敵の集結を促す結果になるだろう。こちらも部隊を2手に分け、敵に倍する戦力で以って早期に敵を撃滅する。片方は私自らが指揮を執るが、もう片方はロズボーン大将、卿に任せた」

「はっ、承知しました」

「編成は、私の方にオルメ、ゴズハット。ロズボーンの方にボムド、エルッケン、ワイルター、アルダムス。メルボドにはロアキアの防衛を任せる。以上だ」

現在のロアキア軍の手持ちの戦力は60000隻弱。
それも星間警備隊などの艦艇も掻き集めてのことである。

これらの艦隊を30000隻ずつに二分して辺境軍を各個撃破していくのが作戦の骨子であり、もはやそこに活路を求めるしかなかった。


* * *


「前方に敵影、数12000」

「戦艦バウストリクスを確認。クラフスト艦隊の模様です」

「よし、射程内に入り次第攻撃を開始せよ」

オリアス率いるロアキア軍の見つけた最初の獲物はクラフスト艦隊であった。
しかし……、

「敵、逃走していきます」

「何だと、一発も交えずにか!?」

クラフスト艦隊はロアキア軍を確認するや否や撤退に移った。

「これは……不味いな」

5つに分かれて進撃してくる辺境軍の各個撃破を意図していたロアキア軍であったが、その目論みは外されたと言っても過言ではない。

ロアキア軍30000隻と遭遇したクラフスト艦隊が逃げに入るのは予想していたものの、一発も砲火を交えること無く撤退というのは想像の範囲外であった。

それをロアキア軍は追撃するが、辺境軍の不可解な行動に疑念を感じずにはいられない。

「どういうつもりだ……、我らを引きつけておいて別動隊が帝都ロアキアを落とすというのであれば有効な方法であるが、今の帝都にそれだけの価値があるとも思えん」

「罠……でしょうか?」

「そう見るのが妥当だろうな。もっとも、何を目的としているのかも分からんが」

そんな中、オペレーターの声が上がる。

「十時の方向に敵影。数……30000隻以上!!」

「バカな、集結したにしては早過ぎるぞ! 余剰戦力があったとでも言うのか!?」

艦橋が驚愕する中、スクリーンが映像を映し出す。

「あれは……銀河帝国軍か」

それは、銀河帝国軍のファーレンハイト、スプレイン、グエン・バン・ヒューの3個艦隊32000隻であった。

「撃て!」

「ファイエル!」

両軍の戦端が開かれる。

「(数においてはほぼ互角だが、じきにクラフスト艦隊12000隻が敵戦力に加わるだろう。別の艦隊も駆けつけてくるかもしれない……)」

この窮地をどう脱するかオリアスは思案するが、そんな簡単に名案が出てくるわけでもない。
こうしている間にもクラフスト艦隊以下、辺境軍の軍勢が近づいてきているだろう。
そうなれば数において著しく劣勢にたたされる。

別動隊を指揮するロズボーン提督から連絡が入ってきたのは、そんな時だった。

「ロズボーンか、現在こちらは銀河帝国軍による攻撃を受けている。そちらはどうだ?」

『こちらも、30000隻を超える銀河帝国軍の猛攻に晒されております。現状ではどうにか互角に戦っておりますが、辺境軍の増援が到着すれば我々の敗北は免れません』

「そうか……」

別動隊も銀河帝国の襲撃を受けているとなると増援は期待できない。
現状の兵力のみで目の前の艦隊と遠からず駆けつけてくる辺境軍を相手にするのは至難である。

『殿下、もはや帝都ロアキアの陥落は避けられないでしょう。ここはロムウェに遷都なさって捲土重来をお図り下さい』

「っ!! 私に生き恥を晒せというのか!」

『殿下が生きている限りロアキア再興の目はあります。そして、それが我々の悲願でもあるのです。どうか……』

「…………」

オリアスの旗艦デスペリアスの艦内に沈黙が流れる。
やがて、オリアスが搾り出すように一言発した。

「……全軍、撤退せよ」

この命令によって、ロアキア軍は撤退を開始する。

「む、敵は逃げる気か。逃がすな、敵の最後尾に喰らいつけ!」

無論、この機を逃すファーレンハイトではない。
執拗な追撃によって、ロアキア軍の速度を鈍らせていた。

そして、遂にレーダーにクラフスト艦隊の艦影が映る。

ロアキア軍全体に絶望感が漂い始めたとき、オルメ艦隊の旗艦ターロス以下10000隻近くが回頭して銀河帝国軍に多量のビームとミサイルを叩きつけながら突撃を敢行し出した。

だが、この残弾を無視した猛攻はいつまでも続くわけではない。
遠からず限界が来るだろう。
そうなればオルメ艦隊はただの的《まと》と成り果てる。

「オルメ、どういうつもりだ!」

『オリアスさま、ここは俺の艦隊が全力で食い止めますんでさっさと撤退してください』

スクリーン越しにそう言ったオルメの顔は、潰れた左目に白い刀傷の痕といつもと何の変わりも無い。
ただ、その表情は妙に晴れ晴れとしていた。

オリアスは悟る、オルメはここで死ぬ気だと。
オルメの犠牲無しにこの窮地を逃れる術は無い……と。

もはや言葉は不要であった。
オリアスは敬礼し、オルメも答礼で応える。

スクリーンが切れるまで、それは続いた。


* * *


「野郎ども、ここで盛大に花火をやろうじゃないか! 目の前のあいつらを俺達の死出の道連れにしてやろうぜ!」

オリアスとの別れを済ませたオルメは先程を凌ぐ勢いで突撃を続行し、銀河帝国軍の艦列を一時的に突き崩した。
が……そこまでであった。

無理な突撃で陣形を乱しバラバラになった各部隊は反撃を開始した銀河帝国軍によって各個撃破され、旗艦ターロスも多数の艦に包囲されて最後の花火を盛大に打ち上げた。


一方、ロズボーン大将率いるロアキア軍30000隻も敵の追撃を振り切れずにいた。
敵は銀河帝国軍32000隻にブルーナ、ウィンデイルム両艦隊25000隻が加わり、計57000隻。
足が止まれば包囲殲滅されるのは確定である。

「ボムド、エルッケン、ワイルター、アルダムス。卿らは全速で撤退せよ」

『!! ロズボーン閣下は……』

「私はここで敵軍を抑える。せめて卿らだけでもオリアス殿下に合流するのだ」

そう言って、ロズボーン艦隊はボムド、エルッケン、ワイルター、アルダムスたち4個艦隊の盾になる。

彼らに出来ることは、爆沈していくロズボーン艦隊に敬礼を送ることだけであった。


* * *


戦場から離脱したオリアスと各艦隊はレンヴァレル星系第五惑星ロムウェに集結。
帝都ロアキアの陥落は時間の問題であるため、オリアスはロムウェを遷都先とすることを発表した。

艦艇は37000隻と動乱開始時の半分以下ではあったが、それでも小国では保有することすら出来ない数であり、彼らは銀河帝国軍によって帝都ロアキアが占領された後もロアキアが健在であることを示し続けた。

辺境軍を傘下に入れ、帝都ロアキアを占領した銀河帝国もこれ以上占領範囲と戦線が広がることは望まず、ロムウェに侵攻することは無かった。


宇宙暦807年/帝国暦498年 1月7日。
ここに、ロアキア動乱はひとまずの終息を見せた。
未だ多数の火種を残したまま……。




その頃のアドルフは……

あれ?
執務中……

えっ?
バカな!
この男が仕事をしている……だと!?

これは天災の前触か!!?
 
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